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対処的サイドバイサイド7

 凍らせる事で死後硬直を偽造する。この私見は持たなかった、さすれば簡単に死亡時刻を遅らせる事が可能になるか。


 簡単?


「考えのヒントにはなったようですね。ではもうそろそろ良いですか。あなただって、先ほどの作戦の後片付けにかからないといけないでしょう」

 


「そうですね。全員に最後に部屋に行くなんて嘘をついてしまいましたからね。話に行きますよ」


「そうです。みなさん、お待ちかねでしょうし、動くに越したことはありません。それに隠れた犯人は動く瞬間を待っていると思いますよ」

「もしや、証拠の処理にでも動くかも」


そう意味深な最後の言葉を僕に授けると、銀色作家は手を振って見送った。ドアの隙間の最後の最後まで彼女の顔はどこか薄っぺらく、表情も年齢も人柄も悟らせないようだった。


 最後の言葉、犯人が動くかもしれない。証拠がまだ残っている可能性か。

 廊下に出ると、その場で固まって考える。


 凍らせる。ふん。


「……あの、すみません」


うぉ!


「浮向さん。自分です、詩流です。そんな目をパチクリさせて誰だ?みたいな、そんな顔をしないでくださいよ」

 ボディーガード、長石詩流。途端、後ろから現れたようだから、変な声が出てしまった。もし、彼が犯人なのだとしたら、僕は後ろから突き刺されていたのか、ともすればありうる(無いけれど)、気をつければ。


「部屋が出ている事を咎めたいと考えているのでは無い事を願うのだけれど、自分としてはこれは些か問題なんだ。大問題なんだ、えとつまり死活問題なんだ」

 このボディーガードにしては大きく焦っているように伺える。なんだいなんだい?また事件かい?


「いえ、事件が新たに起きたなんてそんなことは無いけれど、第一の事件だけでの事なんだけれど」

「匂いがそろそろね」

 それはそうだ。部屋の扉、部屋の窓、玄関、これらを全て開け放っていると言っても、建物の中から完全に腐敗していくこの体の匂いが消えていく訳ではない。多少は散らばる前に、人の嗅細胞を刺激しているはずだ。

 部屋の配置問題。僕、小鳥、カエラちゃん、団子ちゃん、女将、それぞれは部屋から一部屋以上の空きがあるから意識しなかったけれど。このボディーガード、銀色作家は隣だ。匂って然るべき。


「ほら、放置していればこの気温でも流石に腐敗は進みますし、虫も寄ります。それに自分としてはこれ以上、自分の敬愛する作家の死体が晒され続けて欲しくないと言うのか…ね」


「それは、まぁ確かにそうですね。死体処理、その問題はどうにかさっさと片付けないといけませんね。もちろん、決して忘れていた訳では無いですよ」


「理解していますよ。あなただって、彼の作品の読者である事を考慮すれば、いとも簡単に分かりますとも」

子供のようにエッヘンと胸を高らかにあげるが、実に賢明な判断で恐縮だが、僕は忘れていたのだけれどね。


「死体処理をするにあたってどうしますか。もし、まだ確認したい事があるのなら言ってくださいよ。自分としても、事件を丸く収めたいので」

 死体について確認したい事。ふん、まぁ少しばかり死因の究明のためにも、表側を見る必要はあるが、それなら処理の段階でも出来るか。


「大丈夫です。その死体処理のタイミングにでもよく観察させていただくとします。ちゃんと真実を究明するために」


「良い心がけですね。探偵に相応しいそれです」


「いや、それほどでも」

 褒められたところで、僕は探偵の道を人生にしたくは無いけれど。


「それで、どうしますか。死体処理をするにしても、場所というか、方法というか。素人意見では流石に遺恨、どころか遺体がまずい形で残る事になるかもしれません」


「燃やすにしにも、湖に沈めるにしても、ダメそうですから。そうですね、埋葬が無難じゃ無いでしょうか?もし、何か死体をもう一度見つけたい段階に至っても掘り起こせますし、何も無ければ、土に還りますし」


 燃やして大事な証拠を無くすのは確かに惜しいし、湖には菌が繁殖しないとか言ったか、土に還す。言い方は非道だけれど、現実的か。


「であれば早速、人を呼びましょうか。土堀りは自分達で出来るとしても、場所選びは流石にここの女将に決めてもらいましょう」


「分かりました。僕も一応、助手のあいつに一声かけて来ますよ」


「血がダメだという女性も多いですから、役職といえど、ほどほどにで大丈夫ですよ」

 いや、あいつはおよそそのような可愛らしい反応を期待できるやつでは無いのだが、知らないなら説明不要。さっきあの残虐を余裕綽々で眺めていたのは言わないでおこう。

 小鳥のタイプは確か、ヒョロガリよりマッチョタイプだったはずだし。


「では、僕はこれで。次は、部屋の前ででも落ち合いましょう」

そう言って、僕らは別れる。


……

 死体の前を通る。確かに匂いがそろそろ出始めているのが分かった。慣れて脳みそが匂いを制限していたのか、その慢性的な我慢が突如として切れる。

 臭い。死臭がする。さっさと処理しなければ、これはまずいな、そう再認すると、足をバタバタと動かして、小鳥の部屋に向かう。


「小鳥、いるか?」

ドンドンと、扉を叩く。手に力が籠るが匂いのバフのせいだ。早くせんと頭が急いでいる。


「いるよ、いるいる。入って来ないでよ。入って来たら桂むきだからねー」

 怖いよ。提案が怖い。鶴の恩返しがグロ系になっちゃったよ、年齢制限付いちゃうよ。


「まだ、終わりそうに無いから。もし、何か様なのだとしたら、さっさとその要件だけを伝えて扉の前から去る事をオススメするよ!」

 キャピ!なんて効果音がつきそうな軽やかな発音だけれど言っていることはアメリカのギャング映画みたいだぜ。3秒数える間に出て行きなって言って、2秒で鉄砲を撃ち始めるやつかよ。


「今から、死体を埋めるんだが、つまり最終確認を殺害現場の最終確認をできるチャンスだが、もう良いか確認しに来たんだ」


「あぁ、もう良いよ。あたしとしては、もうね。君の方こそどうなのさ。確認は済んだのかい?」


「僕は、これで最後を終えるつもりだ。死体を目にするのはしがない僕には厳しいからね」


「言って、君は誰よりも、死体をちゃんと見ていたけれどね」


「茶化すなよ。初めは第二発見者だったから、次は探偵だからだ、役割が一般市民なら、どれだけブルーシートに覆われようと、テープに覆われようと、中には入らないぜ」


「ふーん、京介くん。意外に、冷静なんだね、役割なんて言っちゃって。まぁ、良いさ。あたしはこれ以上、あの現場を、死体ありきの現場を見るつもりは無いからね。任せるというより、任されて欲しいと言った方が良いかもしれない」

 任されて欲しい?なんだか、謙虚だな。良いやつみたいじゃ無いか、誰かに話でも聞かれているのか、話の盛り上がりにも欠ける。


「あぁ、そうか。それなら、僕という人間が、任されてやるさ。役割だけは全うするのが、僕だからね」


「ふん、まぁ期待せずに待ってるよ!」

小鳥は言った。





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