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志願者・浮向京介の紀行  作者: 芋蟲 言生
河童伝説事件

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対処的サイドバイサイド5

40

 雨の降る中呼び出した犯人、ラブレターをもといファンレターを送った犯人。この2件が同一人物の犯行であると推理していたが違った。嘘を吐いている可能性は考慮できるかもしれないが、これでも20年は人と接して生きてる。嘘を吐く時の印象などは多少なりとも分かるつもりだ。彼女は嘘を吐いていない。尋問するまでもなく、その答えに自分で見切りをつけてしまったが、はたして良いのか。


 ただ、流石に犯人未確定の人物に、暴力的に、脅迫的に、干渉して本当の犯人をみすみす逃す事だけは一番避けたかった。瞬間殺人の方法も、問い立てる事は出来ない。どうするか。


……

「話は大体理解したよ。あたしの頭脳でバッチリガッチリね」

「いやしかし、カエラちゃんが犯人では無いという君の意見もあたしとしては分かるよ。何と言っても、彼女の昨晩の行動においてあたし以上に知る人間は居ないだろうからね」


 その上で、僕としてはカエラちゃんが何かしらのトリックでも用いて、つまり数時間ほど犯行を遅らす事が出来るように見せかけたのでは無いかとそう思っていた訳だが。


「……あれほどまでに狂気的に愛情を向けるとは思わなかった」


「家族みたいに、父を鉄黒錠鉄鍵に見ると言っていたカエラちゃんがあまりにも普通だった、普通に振る舞っていたのは、伝説で心が満たされたからと言う所もあるのかね」

 そう言う風に、仲良しの小鳥はカエラちゃんを判断した。普通過ぎた、彼女の過去から今の彼女を紐解くには確かに不十分過ぎた、殺し屋をヒーローとして認識していた。


「しっかし、調べはまた戻っちゃったね。手紙から、つまりは犯行の準備を行なった人物から犯人を暴くつもりだったのだけれど、ダメだったね」

「どうするよ、ここまで来たらトリックの証拠でもとことん調べ尽くすかい?それとも、まだ動機の有無から探る感じでいくかい?」


「トリックなんて探し当てるのは、どこかの私立探偵とか、少年探偵とか、そんな有名な彼らに任せるとするよ。突然の閃きは平等でも、思考をこねくり回して答えが出るのは、やはり出来る探偵だけの特権だからね」


「あいも変わらず、ネガティバーだね、京介君。自分に自信を持たずとも良いけれどさ」


「動機、動機。行動には全て意味があるんだから。殺人にだって動機はもちろん必要で、ミステリー小説は殺したいから殺したではつまらないだろう?」


「まあ、そうだけれど、殺人衝動が動機なんて薄っ!と思ってしまう事はあるけれど。それで殺される身にもなれと思うけれど。つまらないとは言えないと思うけれどね」

「ふん、でも動機でまだいくなら、それを信じるよ。あたしだって発想が豊富な訳では無いし」

 動機。そうは言うものの動機から探るのも、なかなか手厳しいところがある。今の段階でわかる事をざっとまとめて動機でも探るか。


 女将、時間的猶予無し、最後に部屋を出た人物、扉の開く時に立ち会った人物、扉の施錠はカエラちゃんも同意しており、かかっていなかったと言う事は無し。動機は未だ無し、パトロンという関係性も考慮の内。


 銀色作家、時間的猶予無し、常に部屋に居る人物。少なくとも、この二日においては一度として自室から外へ出るところは確認していない。動機は未だ無し、ただ関係は長く、作家と言う同じ職業からも疑わしくある。


 ボディーガード、時間的猶予無し、殺人がおよそ行われたとされる時間(昨晩、扉の施錠後から)は共に誰かと行動をとっている。動機は未だ無し、最近旅館内で見られるようになった、雇われボディーガード。銀色作家が何かの為に備えている可能性有り。


 働き者、時間的猶予無し、昨晩から朝にかけて、小鳥と共に行動。弱座の熱烈なファン。動機としては弱座を犯人に仕立て上げる意味は無し、鉄黒錠への殺害動機も無し。


 料理人、時間的猶予有り、数分間は自由に行動が出来た、ただ瞬間的な殺人が出来たかは不明。動機は未だ無し。


 こう並べてみると、並べ立てるとほとんどの人物に、殺人は不可能であるかとがありありと分かるし、動機が無いことも分かる。

 弱座を犯人にする事だって、容易い状況だった訳か。


「ねぇ、京介君。考えに割り込むけれどさ。まだ、一人そこに出て来ていない人間がいるよ。あぁ、もちろん、あたし達じゃなくてね」


 ?誰のことだ。誰の話をしているのだろう。役者は全てのはずだけれど。


「まさか、『人斬り河童』と言うわけもあるまい?」


「そのまさかだけど?」


「冗談だろ?」


「冗談だよ!」


 おい。こんなシリアス一辺倒な推理の時間に、冗談を挟み込んでんじゃねぇ。雰囲気がぶち壊しだ。


「空気を読まないこともまた、そう言った場の空気を読んでいるのだ。これ、あたしの同級生の言葉」


 誰なんだ、知らない奴の名言なんて、聞いてもタメにならぇよ。名言は何を言うかじゃ無い、誰が言うかなんだから。


「誰かと問われれば、あだ名師だけどね」


「あぁ、そうなのか!それならタメになりそうだな」


「変わり身早すぎるでしょ。あだ名師にどれほどの感銘を受けてるのさ」

 どれほどと言われれば、マリアナ海溝より深く、太平洋より広くだ。その御方以外の言葉なんて興味ないね。


「ありがと、あたしの親友にそれほどまでの感銘を受けているとは思いもよらなかったよ。友人として鼻が高いよ」

 ん、友人?何かの聞き間違いだろうか。友人をユージーンとでも聞き間違えたか。

 あのあだ名師とこのポンコツ大学生が友人関係?


「嘘だろ?イジメの主犯格と被害者くらいの関係性だろ?」


「いや、友達だって。小中高大、ずっと一緒のクラス、同じ学部の仲良しこよしだって。そうでもしなくちゃ、大量のあだ名が付けられるわけ無いじゃん。時間的に」

 まぁ、そうだけれど。そうだけれども、クセが強いなんてレベルで無い、痛々しい強すぎるあだ名だったから、てっきり。


「彼女、コミュニケーションが攻撃的だからね。言葉の攻撃性が凄いから。チクチク言葉だけを抜粋して、辞書に付箋《ふせん》を貼るような子だから。でも良い子です」

 最後の一文は何のフォローにもならんが。今時、学校の先生だってそこまでの急カーブの評価を通知表に書いたりしないぜ。


「しかも、何なら同じ新聞部に入ってるからね。人生においてあたしと、彼女の違いを見出す方が難しいと思うね。それ位同じ」

 その新聞部に興味が出て来たな。謎の超強力ネットワークとか言う現実離れの設定に、あだ名師までいるなんて…


「小鳥、お前が居る必要あるのかよ!」


「へ、ひどい!今までの人生の中で一番酷い事を言われたかも知れないよ。驚きすぎて、それが褒め言葉かと一瞬思ったほどだよ」


「いや、だってそうだろ…。お前って奴は、そんな中でどうやって自分を保ってるって言うんだ。正気じゃねぇよ」


「やめて、やめて。もうまるであたしがその中ではちゃめちゃに浮いてるみたいじゃない。それが確定事項であるように話を進めないで」

「そもそも、我らが新聞部には役割っていうものがあるんだから、つまりは適材適所なんだって。コンピュータが強い人がコンピュータを、口が上手い人が対外交渉をってね」


「お前は何なんだよ」


「あたしは、ほら。外回りだけど、ネット上に出回らない程の情報の収集だけれど?アウトドア好きだからね」

 そう言えば、そうだった。まず第一に、この大学生、人斬り河童の伝説を調査しに来てたんだったか。


「さっきの人斬り河童は冗談だとしてもさ。やっぱり一人は忘れてるんだよ」


「ん、いや分からないな。誰だよ」


「被害者。鉄黒錠鉄鍵だよ」



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