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対処的サイドバイサイド2

……

回想終了。


「説の発案までは良かったんだけれどね。クレイジーってよりも、クレバーだったんだけれど」

 

 説の発案。ラブレターの送り主=犯人説。これ自体に問題は無かったのだけれど、いざ断じるがその送り主が誰かという事が分からないという事になってしまう。詰んでしまう。


「あの手紙をここに届けた二人。名々夜さんと、女将。届けたから犯人では無いと決め付けるのも変だしねー」

 犯人は僕ら以外の誰でもあり得るって訳だ。取捨選択は出来ない、四捨五入も、切り上げも、切り捨ても。


「だからこそ、あたし達はこうして待ち伏せている訳だけれどね。君という人間は良くやるよ」


「良くやるとか言うな。聞こえるぞ」

 およそ、聞こえているだろうけれど、気にしていないようである。椅子に座りながら外を見る。久方ぶりに見た横顔。風になびく黒髪、白い横顔。


 随分の間、別れっぱなしだったような気もする、たったの数時間別の場所に居ただけであるのに。


「しかし、待ち伏せにこれ以上の場所は無いだろう?」


「そうだけれども……」


 場所、僕が隠れる場所。ラブレターの目的地。絶対禁足地。あのおしゃべり小鳥だって、恐れ慄く場所。

 弱座切落の所在地、あの空部屋。


 もちろん、この選択を、クレイジーすぎる選択を、伝説との、僕らに殺害宣言をした殺し屋との相部屋状態なんて出来るのは、僕くらいのものだろう。

 発狂してしまうよ普通なら、度胸とかそんな話では無い。ライオンと同じ檻に入れられるなんてレベルでは無い。


「……でもでもさ、君もトランシーバーなんて持っていたなんて驚きだよ。それが無くちゃ、話はやる前から頓挫だったからね。ファインプレー!」

 無線機から、そんな言葉が聞こえる。


 無線機による通信。僕以外が、この部屋には居られないのならば、小鳥は別の場所にいる訳で、別の場所に待ち伏せる訳で、連絡手段が必要だった。


 トランシーバー。これがあれば、連絡を密に行うことは出来るし、そもそもの待ち伏せを二人体制に出来る。単純に効率2倍だ。


「ファインプレー!なんて言っても自分の物の不備が無くなる訳じゃないぜ」


「仕方ないじゃん。ここに来るまではちゃんとあたしだって、トランシーバー持ってたんだから。それがいつの間にやら、一個無くなったんだから」

 今時、トランシーバーを持っている奴は珍しいけれど、それ以上に片方ってのは無いだろう。何のために使うんだよ。本当に自衛隊ごっこしか出来ないじゃないか。どうぞ。


「あたしを責めないで、トランシーバーにまで見捨てられた可哀想なあたしを、トランシーバー未亡人のあたしを、何故にそこまで責め立てれるの、オロオロ……」

 何だ、トランシーバー未亡人って。嘘泣きも止めてくれ。


 そんなこんなあって、一度は連絡機器の無いことを嘆いた所であるけれど(もちろん、僕は持っていなかった)、最終手段というか、本当に最後の頼みの綱というかに頼むのもあって、ここに、伝説の部屋に来る必要はあった。


 ちなみに、この無線機を切落に借りていることは小鳥には内緒だ。通話口の前で、震えられても困るから、僕の物ってことで通した。


「あんまりガサツに扱ってくれるなよ」


「分かってるって、ははは。京介君は心配性だな!」


 そりゃ、心配するよ。お前の生命を。

 『トランシーバーの扱いを誤り死亡』って死因に書かれている所を見たく無い。


 実際、貸してくれたのはそうだけれども、嫌々っていうニュアンスだった。

 個人で使用する物でも無いのだけれど、どうやら甚五郎じんごろうと、当人で使うみたいだ(よく分からない)。



弱座切落

 殺人予告をした張本人なのだけれど、捜査には協力的ではある。超不可解な状況の誕生だけれど、それも然る状況。


 けれど、変化が無い訳では無い。口を前日よりは聞かないようにしているようであるし、むっすりしているというか、気を引き締め続けているというか。何かに怯えているとも見れる。


 もちろん、ラブレターの送り主を聞きもしたが、知らないの一点張りだった。まさに投げ込みの投函のようで、顔は見えなかったらしい。


 一つ目、二つ目、三つ目。3枚の手紙のことを逐一聞こうとし始める時には、流石の僕にもイライラが爆発したのか、『手紙の内容を晒すなど出来るか、人としてどうかしておるじゃろ。忘れるなよ、いつでも、儂はお前達の首を狙っとるんじゃ。適当抜かすな』などと、脅しをかける始末。


 その時にも、嫌な怯えを感じた。


「動くなら今の状況だろうから、手紙の主は必ず来るはずだから、ドアが開けられた瞬間に連絡よろしくだよ」

そう、元気溌剌に大学生はいう。


 場作り。告白の場所を作ってやる同級生のチャチな手心、茶々の下心。


 獲物を捕える餌と網は用意した、残すは場作り。いくら、魚が居ようと、人が居れば去るのは必然。だから、作った。誰も来ない瞬間を。



……

『申し訳ないのですが、我々の推理の協力として、もう一度手伝って欲しいのですが。と言っても、あなた方に何かしらを頼むことはありません。全員にこちらから出向いてもう一度質問させてもらいます。順番としては先ほどと打って変わりますから、正しいことは言えませんが、あなたは一番最後です。並べて、これは時間が非常に厳守となり、一人に30分かけます。なので、絶対に我々は外へ出れませんし、他の人も出ないようにお願いいたします』

と、そんな事を全員に噛み砕いて言った。


 まぁ、長々と言ってはいるが、つまりは犯人様に時間の情報を筒抜けにしてやろうという事だ。


 嘘の情報で釣ろうと言う訳だ。


「来るかね。こんなあからさまな待ち伏せの条件で」


 来るか来ないか、この二択を聞かれれば、来ると言える。それ位の迫力が手紙にはあった。

 あれは間違いなくもう一度やる。また一度、性懲りも無く、再犯する。


「場は作った。だから、静かに僕らは待つしか無いんだ」

 じっとり静かな空気がトランシーバーから流れ出る。


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