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対処的サイドバイサイド

37

・無線会話


 左利きの方が頭が良い。

 この話を耳にした右利きの人間はおよそ、全体総量の9割だろうし、耳にした左利きは総量の1割だろう。


 こうやって、今無駄に、確率の面白みというか、ランダムに物を取り出した時の偶然の起こらなさをありありと、言葉で持って話したのだけれど。


 けれど、さて戻ろう。

 左利きは頭が良い。これは『右脳が右利きの人間より発達しているから』とか、『右脳、左脳の繋がりが強く、情報を処理する能力に優れているから』とか言われているが、どうだろう。


 これはあるのかも知れない。僕みたいな、しがない男には縁もゆかりも無いほどの研究所の発表だけれど、他人の戯言だけれど、そうかも知れない。


 しかし、左利きの女子大学生は語る。

『左利きが頭が良いってのは、右利きの数的余裕だと思うね。本当のところは右利きの方が優れてるというより、正統であるって思ってるはずだよ』

 お前は僕かと、その捻くれた意見に言葉を返したくなるが、その意見も考慮するに値する。


 例えば、左利きは頭が良いとそう言う話をする者に限って、左利きの天才を羅列する。


 アリストテレス、エジソン、レオナルド・ダヴィンチ、ダーウィン、ゴッホ、モーツァルトと、そう言う。言ってしまう。


 では、プラトンは、ニコラ・テスラは、ボッティチェリは、ファーブルは、ゴーギャンは、ハイドンは?挙げればキリはないけれど、この中にも、僕の稚拙な知識の有名人にも左利きは居るかも知れないが、どうだろう。


 左だからと天才で挙げ連ねるのは意味のある行為か。ふん、およそ、無い。

 左利きの天才の羅列は、それ以外を90%の確率で右利きだと言っているだけだ。

 

 多分、およそ天才のラインが確かに存在して、決められた統計を取れるなら、9:1、およそこうなると僕は思う。

 平等に、どちらにも天才はいる。


 だけれども、それでも、そのような状況に陥っても、左利きか右利きどちらかに優劣を付けなければいけないと言うのなら。

 有名人の、天才の、その威光をご利用、ご活用出来ないと言うのなら、仕方あるまい。


 僕は、左利きの方が頭が良いと思う。天才には左利きが多かったと思うし、左利きにスーパースターは多かったと思う。なぜなら、僕が右利きだからだ。


……ジジジ……

「京介君、君は本当に捻くれているね。そう言う捻くれの頭の回転は左利きだね」


「僕を左利きの仲間に入れてくれるとは、左利きは寛容だね」


「入れてないし、そもそもあの理論だと、君と同じ利き手というだけで不利益を、とばっちりを被ってしまっている人が9割いる事になるよ。怖いよー、9割。君は左利きでも、右利きでも無い人になりたいのかい?」

 確かにそれは嫌だ。どこにも属さないほど、人間生活を送る上で怖いものはない。一人になるくらいなら、二人で死ぬね。


「君とのセットの二人なんていう激痛い目を誰が味わいたいというんだろうね」


「誰だろう……まぁ、小鳥では無い」


「ありがとう、あたしを選ばないでくれて、そこは素直に喜ばせてもらうよ。あたしは二人で死ぬくらいなら、自分だけでも生きたい女だからね」


 強い。アマゾネスか、お前は。


「アマゾネスって思った?」


「アマリリスって思ったんだぜ。ほら、あの赤くて綺麗な花。花言葉は『おしゃべり』。お前にピッタリだろう」


「ふーん、なら良いけどね。良いこと言ってくれるじゃんって受け取ってあげるよ。でも『おしゃべり』って、君だってそうじゃん、京介君」

「あたしはおしゃべりだけれど、その対話者だっておしゃべりでしょ。一応、キャッチボールは出来てるんだから」


「僕は、それほどおしゃべりキャラになりたい訳じゃ無いけれどね。可憐なお姫様に小動物が群がるように、言葉が僕を選んでくるんだよ」


「打って変わって何ともファンシーだね。とは言っても、左利きの話からも分かるけれど、捻くれだけれど。それだけじゃ要素が足りなそう。言葉足らずだね」

「ふむ、今回の君の立案は、ファンシーっていうより、クレイジーって感じすぎるよ。全く、ターザンめ」


 ターザンとアマゾネス。ベストコンビに見えなくも無いけれど、二人で死にたいターザンと、一人でも生きたいアマゾネスだから、最終的には相容れないのだろうが。


 確かに少しばかりクレイジーかも知れない。左利きだろうと、右利きだろうと、天才だろうと、凡人だろうと、この作戦だけは実行しなかったであろうと思う。


場所は二人、僕と小鳥。

僕の部屋の内に居る段階に遡る。


……

回想。

 小鳥の言葉から出発。

「お、京介君何か閃いたのかい?」


「いや、閃いたというか、思い出した」


「はてな。何を思い出したんだい?」


「……ふん、手紙についてだよ」


 手紙という言葉に、小鳥は重すぎるラブレター以上の何かを察する事は無かった。それはそうだ、誰だって知る訳なかろう。僕だけしか知らない、僕だけの情報だ。


「あいつが何故、あのタイミングで外に出ていたのかっていう事に対して、意識する事を見逃していた」


「確かに、みんなが弱座切落を犯人として、目しているから、黙しているから、何も言わないし意識しなかったのはあるね」

 

 僕としては、大きすぎる失態だった。大ヒントはまさに手紙でしかなかった。


 雨降りの始め。僕がお風呂に切落を誘った時だ。僕は確かにこの両の眼で確認した。


 切落が手紙らしき、何かを手に読んでいるのを。


「なるほど、手紙か。すると、犯人が他にいるとすれば、罪を被せるために、まさに濡れ衣を着せる為に、雨降りの中外に呼び出していたということだね?」


「ラブレターなんて、呼び出しの大本命みたいな物だからな。体育館の裏とは言わずとも、旅館で出会ったので、旅館の裏……は池だからあれだけれど、旅館の側でってことはあるだろ?」


うんうんと、同調の意を大学生は示す。


「動機は?犯人の動機はどうなるのさ。ラブレターを送って、愛を伝える程の人間がわざわざそんな事をするかね」


「例えばだが、弱座が一人ではなかったからとか……」


「京介君を恋人に見間違え?うげぇ、それは無いでしょ、発想の趣味悪い」

 言い過ぎだ。流石の僕だって、悪口のエキスパートだってもうちょっと丁寧に言葉を選ぶぜ。


「さっきのは冗談で、あり得ない話では無いとは思うけれどね。恋愛ほど、人を盲目にさせる物は珍しい」

「eyeが愛に成り替わるって事だね」

 上手い事を言うが、もうそれは使ったネタだ。一手遅い、言っても遅い。


「ラブレターの送り主=犯人説。助手の了承も得たって事で、この一石二鳥で取り付くそう」


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