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幻想的オキサイド14

どうするも、こうするも何も無かったが、心の内には無かったけれど、手の内には謎を抱えている。2枚も。


「あちゃー、2枚になっちゃったか。2枚になるとはまずいね」


「あぁ、2枚とはまずいだろ。1枚から2枚」

オウム返し。

 事は刻一刻と、肉薄していると思われる。バラバラ死体の謎も抱えているのにも関わらず、現在進行形で進む事象も考え無ければならない。


「まぁ、でも手紙の事はさ。早急に、早急に考え無ければ、解決させなければ、いけない事情だろうけれど。ともすれば、ラブレターの攻撃に耐えかねた殺し屋が全員を殺しかねないからね」

 などと、怖い想像を膨らませるが、それも十分にあり得る話。推理以前にタイムリミットなんて無いとそういう言い方をしたけれど、無いはずはない。


 敢えて、タイムリミットを表現するならば、それは弱座切落の我慢の限界だ。気分の転換というか、それが起こって仕舞えば、血祭りが待ってる。1番のバッドエンド。


 それに一直線に繋がりかねない事件なのだ。このラブレターは。


「とあたしはラブレター時限爆弾論を唱えるけれど、まぁ、それはそれと思わなくも無いよ」


「悠長だな。同感だが、半分くらいは」

 同感と言っても、僕的には弱座の寛容さを信じているからだけれど、この大学生はどこにそれを見出だす?


「この短時間に手紙が2枚来ても大丈夫なら、音沙汰なしなら、かの伝説の懐の大きさを推しはかれるよ。爆発って言っても、すぐには無いでしょう」

「本当に同テンポで手紙を投げるつもりでも、あと数時間は持つでしょう」


「それでも、急ぐに越したことは無いけれどな。別の早急にが無ければ、取り掛かるべきだ」


「けれど、それがあるから。あたしは話を曲げようとしてるんだよ」

そう言って、パラっと、紙束を取り出す。A4用紙、5枚ほどの紙束である。


 何かはすぐに判断できた。


「それが『とっておき』の成果って事で良いのかい?」

小鳥が語る『とっておき』、3回だけ使える魔法(魔法では無い)の手段。外と情報を連絡する手段。


「もう大変だったんだから。左利きのあたしにこれ程までに、黒々と手を汚させた資料なんだから。ちゃんと読んでよねー」

 ぽいっと、膝下に投げられるそれを見やると。歴戦の跡が映る。


 手書きの乱立。黒鉛筆で書き殴られた情報一覧。左利きは、押し出すように書くし、書いた文字の上を通るように手が動くから大変だと聞く。

 それでも、手書きなのは、それが『とっておき』の形だから?


「何を考えてるのさ。考えている暇が有ったら、すぐにでも読み始めてよ。君が頼んだ一つ目『作家と作家の関係性』を」


 一つ目の依頼『作家と作家の関係性』。

題名までわざわざ打って、パソコンから出力して印刷した訳じゃ無いから、わさわざ書いてが正しいけれど。

 題名。そんなものまで必要かね。カッコつけて頼んだ僕がバカみたいじゃ無いか。


 まぁ、ドラマチックで安っぽくて好きだが。


『作家と作家の関係性』

以下、僕こと浮向京介、抜粋のち要約。


 初対面は8年前。僕でも知り得るような、大規模で有名なミステリ作家の集まりに来ていた銀色作家と、ゲスト出演として招かれた黒鬼。


 挨拶をしに行った銀色作家と話し込み、意気投合。それからは、幾たびかの芸術に関する会に招かれる両者はそれぞれ更に懇親を深める。


 年に数回ほどの出会いと話を繰り返し、この旅館にも招待される事もあり、多く泊まる。


 今年、今日という日の4ヶ月前ほどより、会う回数が増え、結果として、ここの旅館に黒鬼の次に長期的に滞在する人となっている。


 滞在期間は、3ヶ月前より。


 それ以上の関わりは、見られる事はなく。銀色作家の家族構成は不明。しかし、黒鬼との関係のある人物に、彼女の近親者が関わっている可能性はゼロに近い。


「関係性は、特に浅すぎず、深すぎず。大人なある種ビターな関係だな。作家業の、作家仲間としての関係性だけ」

 これでは、あまり得るところは無い。銀色作家だけでなく、その近縁さえ、それに関わらないのであれば、動機は生じにくい。


「ふーん…あたしだって、目を通したけれどさ。これじゃ、特に何もヒントにはならないね。物的と言うか、不十分だね」

 何かしらの過去があっての動機というのが、強い仮説だったのだが。

 8年来の付き合いということまでは分かったが、結局はその程度にしかならなかった訳だ。


 百白引ももしらびき名々夜(ななや)。一番。およそ一番被害者との繋がりが長い人物であったはずであるし、その雇われ付き人のボディーガードで埋まる時間的な余裕は脆い。仲間内のアリバイ工作なんて、いとも容易い。だから、疑ったのだけれど。スカしたか。


「状況としても遅いよね。8年前から会っているのに、殺すチャンスなんて幾らでも有ったと思うし、わざわざ人が多くなったタイミングでなくとも良いし」


「弱座切落に恨みがあったとか、そのためにここへ伝説を駆り立てる必要があったから、鉄黒錠鉄鍵の黒い招待状を使ったとか?」


「鉄黒錠鉄鍵はその生贄って訳?流石に、非道が過ぎるでしょう。酷過ぎるでしょう。そもそも、それが動機なら、本人を殺せよって話じゃん」


 ちゃんと返されてしまう。いきなり、弱座恨まれ説なんぞに移行したけれど、それも返される。


「まぁ、このタイミングでボディーガードなんて言う役職を雇うんだから。確かに、怪しさ満点だけれどね。しかし、それも守るだけなら呼ぶなよって思うしね」

「防御は攻撃あっての存在でしょう?」


 何でも守りますがモットーのボディーガードの存在。これも謎だけれど。

 ふん、結果として、情報としては弱かった。要らない質問に回数を消費したかもな。


「3回の1回。確かに無駄に終わったかもしれないけれど、裏っぽい、裏面の何かってのは確かに得られなかったけれど。要領は分かったでしょ、あたし達が保有する『とっておき』の使い方は」


「あぁ」と、返す。


「しかしまぁ、動機から探ろうっていうことは悪く無いと思うしね。交換殺人の話も然りね」


 動機からの探り。消去法的に、その結末に僕の中で落ち着いてるだけだけれど。ほとんどの人は時間的余裕がそもそも無い。

 実行は瞬間的と言っても、ものの数秒って意味ではなく、数分でも良い。それでもレンジで良いがその余裕さえ、無い者が多すぎる。


 実行可能は、伝説の弱座、伝説の人斬り河童、数分余裕のある料理人だけなのか。


 そもそも、切落の奴が犯人みたいな立ち位置で、ずぶ濡れになっているからいけないだ。何で、あいつは雨降りの中外なんて出向いてるんだ。

 僕がシャワーでも浴びろと言ったからか?そんな訳は無いだろうし、そんなバカな一休じゃない。

 聡い一休なら、口論に口論でも重ねて、時間を無駄にした挙句、ほら、水を掛けられましたと、そう言うはずだ。これは水掛け論だと。


 あいつは聡い奴なんだ、僕みたいな捻くれた一休でも、ずぶ濡れになりはしない。

では何故、あいつはずぶ濡れになっていた?


「お、京介君何か閃いたのかい?」


「いや、閃いたというか、思い出した」


「はてな。何を思い出したんだい?」


「……ふん、手紙についてだよ」

 僕は意味深に、言ってやった。


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