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幻想的オキサイド5

窓に寄ると、河童ヶ池が一望できる。

この条件だけ取り上げれば、僕の部屋だってその綺麗な水面を観賞することは叶う。

が、しかし建物の中央部。直線から見える、その池の姿は、更に奥に見える湖の流麗と、山々の壮観を持って助長される。

自然の視覚的な相乗効果。


窓枠が、額縁になる一枚絵のような絶景がその窓には存在する。

一度、この部屋に来たことのある僕のするような発言ではないけれど、それくらいには、この部屋に入ることに緊張を覚えていたのだと、配慮願いたい。


「雨が降っていても、景勝地は、景勝地。良い部屋もらえるね、さすがパトロン」

「でもでも、ここから泳いで行ったんだとすると、中々距離あるね」


「距離があると言っても、泳げないほどではないだろ、それほどの遠泳じゃない。そもそも、遠泳で泳げるなら、人が泳げる距離だし」


「それはそうだけれど、そうなんだけれどね。大変であろうとは思うでしょ。殺しをするために泳いで向かって、殺しをしてから泳いで帰るなんて、ハードワークだと思ってね」


「何だ、お前も、割に弱座切落保守派か?」

窓から外を見やる背中に声をかけると、言葉の終わりにすっとこちらを振り返った。


「ふーん、いや、あたしはさっき表明した通り、どちらかと言えば、弱座切落犯人派閥だよ。そうじゃ無いと、ここに居られない」

「それよりも、京介君。君、結構な酔心ぶりだね。弱座切落を相当信じているみたいだね」


「何だよ、怪しく映るか?」


「怪しいというよりかは、意外だったね。話の流れるように君は探偵になったから、ヤル気にならないなんて普通だ。弁護士ならともかく、あたし達は裁判員だからね。けれど、ヤル気があるなら結構だね。バランスが取れて結構」

そう言うと、また窓の側を向いた。

僕はつられて、窓枠を見た。

小鳥がもたれかかる、濡れていない窓枠を。


「雨に濡れないように、帰る事ができる人間がいたら良いわけなら。陸地に軒下を探したように、軒があれば良いのだとすれば、窓には軒があって軒下があるじゃ無いか」


「つまり、そこを、窓枠と壁を器用につたって行けば良いとそう思う訳だね、良い考えだね。けれど、見てみると良いよ。顔を、素っ首を露出させて外を、左右を見てみなよ」

言われて、窓から顔をはみ出す。

左右に首を振る。


軒下はあった、確かに雨は降っていなかったし、そのまま、隣の部屋の窓から侵入が出来なさそうでもないが、不可能だった。


ガラガラガラガラと回転する大きな木製が行手を阻んでいる。


「水車が、部屋を仕切ってるんだよね。確かに軒下で濡れないけれど、通れないだろうね出っ張った水車をどうにか越えないことには」

容赦なく、猛スピードで回るそれを越える手段というのは、今の所思いつかない。

登場人物の誰かが、サーカス団に入っていた経歴があって、だから犯人なんだなどと言う無茶苦茶な推理をするつもりもない。

それは、伝説だから出来た殺人くらい、牽強付会、こじつけだ。


と、すると一番あり得ないルートは水泳帰りで、一番あり得る方法も、同じく水泳帰りってことになる。

つまり、一つしか方法がない。

X軸も、Y軸も、平面では厳しいか。

であれば、Z軸。


「屋根を越えたってのはどうだろう。この建築物の形状には詳しく無いが、どこかしらの出っ張りにロープでも引っ掛けて、ラペリングで降りたとか」


「出来るか、出来ないかで言えば、できる方法ではあると思うよ。出っ張りも探せばあると思うし、ロープだって、先に用意できたと思う」

「でもね、再現性は取れても、侵入は出来てもその証拠を消しきれないと思うよ」


「?何だよ、消しきれない証拠って。ロープとかなら、簡単に消すことは出来るだろ。今から荷物検査って言っても多分、間に合わないぜ」


「ロープくらいなら、良いのだけれどさ。燃やそうと、池の底に沈めようと、もしかすれば一欠片でも取れるかもしれない」

「けれど、証拠は消せても、証人は消せないでしょ。それこそ、連続殺人にならなくちゃ」


「証人?屋根をずっと観察していた暇人でも居てたってのかよ」


「屋根をずっと見ていた訳じゃないけれど、副作用的ではあれど、屋根の音をずっと聞いていた人間がいるでしょ。確かに暇人の」

「つまりは、あたしが」

ずっと、一晩中にかけて部屋の前に居た証人。

忘れていたが、表から入ることの出来ない条件としては、働き者と大学生。二人の意識の間隙を超えないことには始まらないのだ。

それは、どのルートを取ってもそう、音を消し切るくらいは必要不可欠。


「全く聞こえなかったよ。雨音で消えるってこともないと思うし。雨音があれだけ聞こえて、足音が、余分な建物のきしみが聞こえないとは思えないもん」

なるほど、確かにそうだ。一人ならともかく、二人に聞こえないとは、それ如何に。

この世の大泥棒・石川五右衛門とか、巷で話題の義賊さんなら出来るのかも知れないけれど、少なくとも、この話に泥棒は出て来ていない。

しかも、泥棒どころか、ハートを盗む恋泥棒どころか、心臓の動きを奪う殺人鬼だと言うのだから、種類が違う。


「これほどまでに、弱座犯人ルートが濃厚だと、あたし的には、疑いたくなるのが、マスコミ志望のさがだね。ヤラセを感じちゃう」


ヤラセ。

弱座切落は言ったか、『助けてくれ』と。

何かしらのトリックがあるとすれば、何だろうか。

瞬間殺人が、凡人にも出来る方法があるのか。


「うーん、分からないね。方法が分からないね。あたし的には、方法から探るのはよした方が良さそうだと宣言するよ。どう思うね、探偵君」


「僕も同意見だ。およそ、トリックが分かれば手取り早いのだろうけれど、それには情報が過疎って感じだ。少々埋めたい」


「次はじゃあ、あれかい、死因究明でもするかい?このバラバラ死体でも少しばかりいらって」

知識は多いに越したことはないからね、そう言うと、窓から振り返り、小鳥はバラバラ死体に向かう。

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