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幻想的オキサイド3

自信なさげな僕に対して、小鳥はやけに満ち満ちているように見える。

そう言えば、マスコミってそう言う者だったっけ。

図太さで言えば、確かにそうかも。


「今、酷いこと考えたね、京介君」


「何故分かった?」


「少しは隠してよ、京介君!嘘をついてないことを褒められるのは、子供の時だけなの。大人になったら可愛い嘘なんてない、もちろん、本当の姿の方も可愛くないけどね」

鋭いツッコミありがとう、小鳥さん。

実際、可愛くないと言われただけだけれども、可愛いと思われたいタイプのボーイズでは無いので、気にならないよ。

気にしないよ。


「ふん、どうにかこうにか、君に探偵役として自信を持って、自意識を持って臨んでもらうために、種々雑多用意するつもりだったけれど、話すつもりだったけれど、大丈夫そうだね。元気そうだね」


「いや、そうでもないさ。安堵というよりかは、少しばかり物事の進みが早くて理解しきれていない節もあるだけ」


「あぁ、なるほど、テスト勉強をするほど、力を出しきれないみたいな感じかな」

ふむふむ、と理解を示すように語る小鳥は学生時代の懐かしい記憶を掘り下げる。

少し分かりにくいが、それの理解に割くリソースは勿体無い。切り捨て御免。


「それで、さっきお前が言った通り、探偵組の作戦会議なんだろ。そのために皆んな一時休戦的に別れてもらったんだし」


「もう、切羽詰まってるみたいな、焦らすみたいな話し方しないでよ。のんびり行こうよ、ゆるりと行こうよ。ほら、言ってたじゃん、あたし達はさ。どれだけ行っても逃げられないんだから」

「この言葉。これを君なら、悲観的にキャッチするのかも知れないけれど、あたし的には、良い状況とも言えなくないと思うんだよ」

ん、どう言うことか。

伝説の殺し屋に、殺害予告をされた僕らが良い状況とは、いかに。

およそ、僕ら以上にこの地球上で、命の危機がこれほどに切迫せずに、それでいて襲ってきている人は居ないだろう。

緩く、締め上げられていっている。


「良い状況とは、分からないって顔するね。顔に出てるね。分からないなら、説明するけれど、あたし達は確かに閉じ込められている訳だけれど、殺すと宣言された訳だけれど。正確な日時とか述べてた?いつまでに真犯人を出すとか聞いてないよね」


「聞いてないが、確かに何も言っていなかったが」


「じゃあさ、それまでは大丈夫ってことじゃない?逆説的に、それまでは殺されない、擁立は任せられていたし、行動の自由度も高い。全員が一堂に動いても、少女の動いた気配もない。伝説の余裕によって生まれる懐は暖かいね。あたし、安心だよ」

本気で、本意でそう述べているであろうこの大学生の図太さが凄まじいだけなのだろうが、言いたい事も分かる。


「それにしても、テンションが高いのはいただけないぜ。こう話している目の前の部屋の中には、どうしようもしていない死体が、事態が転がっているんだ」

冷徹であろうと、礼節は守って生きる、それくらいの緊張感は人生大切ですよ、お嬢さん。


「そりゃ、人が死んでいると言う状況で、普段然としているのは駄目かもしれないけどさ。だからって、あたしの気持ちが削がれちゃダメでしょ。あたしは自分が殺されたら、愛する人に死体の前で泣いて欲しくない。あたしを殺した犯人を、血眼で探して、血だらけで仕返して欲しい」

「それが、真実の愛って奴でしょ。自分のことを犠牲にしてでも、愛を守る。それが出来れば上々だよ!もちろん、鉄黒錠鉄鍵を愛しているとは言わないけどね。君がどう思っているかは知らないけれど」

僕だって、愛してはいないけれど、作品は好きだった。

ならば、大学生のトンデモ理論を踏襲するなら、テンションは高めていかないと無礼なのか、それこそが礼節か?


「あたしの学生時代あだ名シリーズ!」

「あたし、昔は『パインコーン』って呼ばれてたんだよね」


「何だいきなり?」


「え、気にならないの?」

気になるが!?

愚問を聞くなよ、お前のあだ名を気にならない僕じゃない。

テンションを高めるとは、そう言う意味でないのだろうけれど、英語のtensionが大事なんだろうが。

背に腹は変えられない、だって背も腹も大事だからね!


「何故、パインコーンと呼ばれてたかってのは、別に松ぼっくりの事を言いたかった訳じゃないんだよね。我がクラスの全員にあだ名をつけた、かのあだ名師はそんなに柔じゃないからね」

そう、彼女の同級生にいるであろう、謎の人物、あだ名師は粋な名前を当てるんだこれが、しかも毒っ気がある。

猛毒だ。


「『パインコーン』ていうのは、音が良かっただけで、本当はパイロンと三角コーンを合わせた言葉なんだよね。ほら、あたし昔っからマスコミ志望だからね、色んな町の珍事に首つっこんでたんだけれど。そこでバリケードみたいにいつも近くに居るからそう呼ばれてたんだよね」

あぁ、これはまぁ、普通だな。

あだ名師も流石に出涸らしか?

毒と言っても、毒薬より劇薬って感じだな、10倍くらいマシだな。


「でもでも、パインコーンちゃんって呼ばれてたのは一ヶ月くらいだけで、それじゃ長いの何のって言って、次は『パインコーン』を省略して、『パイク』って呼ばれたんだよね。ほら、魚のパイク」


「パイクって、川魚のノーザンパイクってことか?カワカマス目カワカマス科の、あの?」


「いや、カワカマス目カワカマス科なのかは知らないけれど、あたしの見識ではいっちょん分からんけれど。その、パイクだよ、ノーザンパイク」

やはり、ノーザンパイクか。

やっと頭角を表してきたな、あだ名師。

毒っ気出てきたな。

『ノーザンパイク』、つまりは『川の嫌われ者』ってことか。

そうすると、昨日に出た『川魚の女王』ってあだ名も、裏の意味を勘繰ってしまう。

何だろう、マリー・アントワネットか?


こいつだけ、給食パンの代わりに、ケーキでも出てたのか?

それならそれで、良い差別だけれど、甘い差別だけれど。


「パインコーン編はこれでまだ終わらないのだけれどね。『パイク』ってなってから、また一ヶ月で変わっちゃって、次は『パイケ』って呼ばれるようになったんだよね」

パイケ?

何だろう、僕としては分かりたいような、分かりたくないようなギリギリの痛々しいあだ名の連続だけれど。

これもまた毒っ気なのか。


「『パイケ』に関してはあたしも詳しく知る所では無いのだけれどね。一度書き取ってもらったことがあるんだけれど、『パイ家』って書くみたいなんだよね」


「…………小鳥、グリーンゲイブルズって知らないよな?」


「知らないね。何、京介君、分かったの?」


「いや、全然。何にも知らないよ。何にも気付いてないし、何にも無いんだよ。知らないんなら、結構なんだよ」

ついぞ、僕は人生において知らなくて良い事なんてものは無いと思って生きてきたけれど。そのような言葉は、己の知識不足を庇うだけの言葉とばかり思っていたけれど。

どうやら、それはあった。

知らなくて、良いよ。知らないなら、良い。


真っ直ぐ生きてくれ。


「何よ、京介君。そんな神妙な優しい顔でこっちを見ないで、気持ち悪いよ。すごくキモい」

今なら、どれだけ罵倒されようとも、優しく出来る気がするよ。

十分間くらいは。


「何か良く分からないけれど、まぁ良いよ。ことの発端に戻ろうか。君の推理力の良いところを見せて貰ったところで。本題と相対そうか」

「鉄黒錠鉄鍵、その死因の究明をね」

切り返し、小鳥は僕にそう投げかける。

指差し示す先には、バラバラの姿がまた浮かび上がった。



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