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心血的シーサイド2

「仕事。そりゃ、人が二人じゃそう簡単には回せないけれど、二人なら何とか出来なくはないハードルだよね」

「特に、泊まり場なんて、誰がどんな時間に、何を所望なんて分かりもしないからね。いつでも起きてる人は居なくちゃいけないのよ」


「だから、カエラちゃんが今晩は寝ずの番を、寝ずの晩を過ごしたって?」


「そうっす!ばっちりシャッキリやり終えたっす!」

驚いた。

働き者、ワーキングジャンキーと思っていたけれど、日中の働きから、続けてこれとはまた目覚ましい。

前日の疲労感拭えない僕からすると、荷運びを共にしていたとは思えない。それから、一晩寝ずとは。


「何なら、メチャクチャ褒めてくれても良いんすよ。甘やかして伸びるタイプっすから。ピグマリオンっすから」


「いや、これ以上労働時間が伸びられても心配が先達から、褒めはしないけれどね」

口で言いつつ、心の内では称賛の嵐だが、本当に僕の言葉次第で労働時間が超過しかねないので、絶対に漏らさないけれど。


「あたしも褒めてくれても良いよ。何てったって、一緒に、共に、この一晩を乗り越えた同士なんだから、爆散する賞賛をしてくれも良いんだよ」


「お前は解散してくれ」とは言わないけれど。心の内では解散のあたしだが、本当に僕の言葉次第で投獄期間が長短しかねないので、絶対に漏らさないけれど。


「いやいや、お前はただあれだろ。夜更かししたってだけだろ?一緒になって、死地を乗り越えたみたいな言葉遣いだが、死地に転がり込んだだけだろう。自主的に、自暴自棄だろ。ボランティアだろ?」


「あ、それはいけない考え方だね。ボランティアは褒められちゃいけないなんて言う古びた意見。ボランティアしてから言ってみなよ、お金が全てじゃないんだから」


「お金が全てじゃない?ふん、奇遇だが、僕とは相反する意見だな。何なら、多数決でもとるか、小鳥?」


「良いよ、やってみようよ。こんなチンケな分かりきった勝負ないね。お金が全てなんてある訳ないじゃない。世界はラブアンドピースなんだから!口ではお金と言っても、結局は欲しいのは別の何かなんだから!」


「じゃあ、行くぜ。お金が全てだと思う奴手あげな」


こと自然。

一つ。

…………………二つ。


「はい、じゃあ。お金の勝ちということで…」


「な、なんで、カエラちゃん。何で、カエラちゃんそっちに寝返ってるのさ。まさか、京介くん。あたしに勝ちたいからって賄賂を、裏金を渡していたの?」


「裏金って、そんなので揺らぐならそもそも、お金が全て側の人間じゃないか」


「くふぅ…」

小鳥の首ががくりと落ちる。

睨み効かせる目がこちらに、飛んでくる。


「まぁまぁ、小鳥ちゃん。今回の負けは仕方ないっすよ。私が守銭奴なのは、周知の事実なんすから。キャラ付けを利用されただけっすよ。何も、本当にお金が全てだと思ってる訳じゃないっすよ、京介さんも」

ね?、と強調の同調を求められる。


「あ、あぁそうそう。本当のところは、真実が一つなのだとしたら、金じゃないよ。嘘じゃないぜ」


「ふぅん。じゃあ、何が一番なのさ?」


「…やっぱり人生の長さを考慮するなら、大事なことは、何より『歩み』じゃないか。どんな道を辿って来たかだろ?」

対する僕の答えに、小鳥の顔は、少しばかり眉を上げる。全ては測りかねると言った態度で、こちらに対す。試す。


「ふーん。中々、良い答えじゃん。京介君にしちゃ、真面目に答えるじゃん。ジャンバルジャン」

ジャンバルジャン?

とっさに洒落るな、真面目にやれ。

多分、金から貧しさと掛けてるであろう洒落だろうが、分かりにくいぜ。

ただのダジャレ感が半端に漏れてる。


「なら、許されるのか。僕は無罪放免か?」


「まぁ、良いよ。金ばかりの人に、愛の鉄拳制裁を喰らわすところだったけれど。分かってくれれば良いんだよ。うんうん」

満足そうで何より。

良かったぜ。

こんなことで、コンビが解散なんて寒いからな。方向性の違いで解散は、インディーバンドだけでお腹いっぱいだ。


「ところで、京介さん。これは聞かない方が良いのかも知れないっすけど。ホントの所、何で『歩み』何すか?」


「あぁ、それは『歩』は『金』に成るから…」

「鉄、拳、制、裁!!」

ソファのスプリングを利用して、女体が飛んだ。

一文字づつに愛を込めて、鳩尾に打ち込まれる拳が、容赦なく更に奥へ奥へと突き進んでいく。

腹筋が割れた。


グハッ。


時を同じく、尻目に働き者が動いた。

「いやいや、相変わらずお二人が仲良しで良かったっすよ。仲良しこよしで良かったっす」

「ベストフレンドの拳の友情を見た所で、ではでは、わたしはこの辺で失礼するっすよ」

「続きがわたしにはあるっすから」

そう言って、席を後にする。


鉄黒錠先生の部屋をノックしたのち、ドアノブをいらっていたのが、最後の光景だった。


一旦退場。


「おい、目を覚ませ、小鳥もとい愛の戦士、もう大丈夫だから離れろ」


「何が大丈夫なのさ。愛が、愛が全てなんだ!」

怖い。

愛、怖い。

別に愛がどうこうとか、本気で考えたことは無いけれど。真の愛がこれなら、別にいいや、愛も希望も要らないや。


ぐぐりと力が拮抗する。

止める方が、押す方よりエネルギーが必要だ。

動かさないのが、限界だ。


震える腕に、乳酸が溜まる。

抜けていく血液が、ぐわりと血管を強く押し込む。


「あ」

この声。途端、力が抜けた。

限界に達した僕ではなく。

気の抜けた、愛の戦士が。


何が起こったのか、力が、こちらの力は少しも抜けないが、パッタリとその動きが止まる。


「もう、良いや。疲れた。あれ、何で京介君そこに居るの?」

「あたし、カネゴンと戦ってたよね?」


カネゴン?

愛の戦士じゃなくて、3分間警備隊員に成りきってたのか。

右往左往に動く目が、本当に大学生が、深層心理に居たのがわかる。純粋な成りきり…


いやしかし、おかえり、3分だけで良かったよ。本当に良かった。


「一言だけ、言って良いか?」

僕はふと言った。


「なんだい?京介君改まって、どうぞ言ってご覧、あたし達の間に溝は無いんだから。何でも、どれだけでも言って」


「いや、本当に一言だけだ」

息を吸い込む。


「明日はちゃんと寝ろよ」

言ってやった。


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