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終身的ベッドサイド8

お話の最終盤。

不知雪家の登壇である。


「何故、この旅館、白雪がここに出来たかというのが、ことの人斬りの真の復活に触ります」

「何故、我々の家計がこのような客足の少ない場所に居を構えるに至ったかを語れば、先の開拓にあります」

「開拓者と宿屋、これらはずっと良い共生関係にあります。片や、遠出をするために何度も行き来するには体も金も持たない、片や確実な客足が欲しい」

「そんな開拓者の要望のもと、それを良しと、出稼ぎの場だと見込んだのは、私の祖母の祖母です」

「そして、旧旅館・白雪が完成しました。初めはただの開拓者の応急的な宿屋だったのです」

およそ、今ほどよっぽど開拓にかかる労力も、時間も多かったはずである。

山道には、大きな道具も入れにくかろうから、人力で多くのことをやったことが予測される。

そのための休憩所。


「旧白雪。もちろん、繁盛というか、多くのお金を先にいただき交渉の末、建てられた立派な建物であったとされています」


「応急処置的な建物なのに、そんなに豪華だったの?なんで、勿体なくない。ただの働き手なのに、ピラミッド作るんじゃないんだから」


「理由があるのです。お偉い様の視察にも用いられるはずだったのが一つ。さらに、ここの結論。最終的には、発電所の近くにある、ここら一帯は避暑地との利用も考えられていましたから、その反動で、その第一歩で目立つ建物になりました」

「そんなこんなで上手くやれていた訳ですけれど。そんな時に、見つかったのが、かの文化的、歴史的な発掘だったのです」

「もちろん、発見の喜びというのは日々の疲れを和らげるものになりましたし、開拓者たちも噂を掻き立てた」

「そして、呪いに触れた」

「呪い…歴々がそうあったように、また噴火が起こったのです。先の噴火にはおよそ比較にならないほどに小さなものではありましたが。一軒の旅館を飲み込むには十分過ぎました。湖の淵から、割れる大地の熱気を感じたままに」

「これが旧白雪の終わり。そして、河童ヶ池の始まりです」

「河童ヶ池。噴火の静まった後。湖の淵はまたも、小さなカルデラ湖が出来ました。湖と接続する形で」

「人は人斬り河童の伝説を開拓の後、知っていましたから、これを祟りだと、そう当たり前のように思った。その影響でこの部分だけを一つの湖としてではなく『河童ヶ池』とそう呼ぶようになったのです」


「であれば、この建物、つまりの現白雪というのはどういうことなのです」


「開拓は頓挫しませんでした。それはそのはず、呪いなんて、非科学を誰が信じますか。そもそも、科学を生かした発電技術がその実行役が、非科学に屈するわけも無かったのです」

「現白雪は、かつての後釜、埋められず、呪われても残って仕事をすると言う者だけの場所です。かつての栄華も残らない質素な建物となり、祖母の祖母、従業員は飲み込まれました」

「されど、ことは淡々と進み。竣工までつつがなく、終わりを迎えました」


パン!っと女将は手を叩く。

距離5メートルの場所でも、瞬きをせずにはいられないほどの意識的間隙をついて引き戻される。


「このようなところでどうでしょうか。もし、質問などありましたら、受け付けますけれど」


「えと、その後は何も無かったのですか。計画とか、その避暑地としての開拓とか」


「見たままですよ。近くには何もありません。あるのは悲劇の発電所のみ。他所との交流は一週間に一度の廃棄用車と、郵便のみ」

「陸の孤島とでも言えば、それっぽいでしょうか」

自虐に女将は笑う。

ありがとうございます、とは言いづらかった。

何か言葉を探したが、見当たらない。

次の質問とは探り探り。

けれど、ありがとうございますと返した。


「さぁ、辛気臭い話はもうこれで終わりにしましょう。人は人の辛い話に移入してはいけませんよ、ただ自分のことだけを必死に考えるべきなのです。辛い過去の無い人など居ないのですから。ね、宿木さん、浮向さん」

そう女将は締めくくると、さっき居住まいを正すと、立ち上がる。


「私は先に部屋に戻らせていただきます。では、お二人ともお元気で。また、明日お会いましょう」

最後の挨拶を交わし、今日の出番を女将は完全に終える。


さて、ではどうするか。

僕ももう帰るか。

「じゃあな、小鳥。僕はもう帰るから」


「え!随分と淡白じゃん。思春期なの?」


「お前との絡みが濃厚すぎるだけだ。いいから、お願いだから腕を離しておくれよ。思春期には重いんだよ」


「重いって言った?」


「言ってない。お芋って言ったんだ」


「あぁ、お芋ね。ん、お芋?ってフォローになっていないと思わなくも無いけれど。何なら、バカにされているように思わなくも無いけれど」


「ジャガイモにあるじゃないか。メークインって品種。『5月の女王』という名前の品種。それが比喩の原点」


「あたしを女王って言いたかった訳?確かに、学生時代『川魚の女王』と呼ばれていたあたしにはピッタリナイス!」

ピッタリナイスというか。

川魚の女王は間違いなくヤマメだろうけれど。

『スーパーサイクルショップの自転車』に続き、次は『川魚の女王』。

クラスの人気者にはいくつもあだ名があるってやつなのか、それにしても妙にセンスがある、エッジが効いてる。


「ちなみに、『川魚の女王』は後に『川魚の女』になって、最期は『女』に落ち着いたんだよね。懐かし〜!」

随分と、その変遷に悪意を感じるけれど、懐かしの思い出を汚すのも無粋なので、聞かなかったことにしよう。

女のために。


「まぁ、いいでしょう、いいでしょう。今日のところは見逃してあげるよ。あたしが免じてあげましょう。あたしは女王様ということで許してあげるよ」

「さ、じゃあ、今日はお開き解散ということで〜!」

バイバーイと女王は手をふる。

それに後ろ手。


一端の解散。

今日のところは終わり。

こいつとのバディも、調べもついて何もかも。


ふっと一息。

僕も、自分の目的に行く。

また一段と暗くなる廊下を抜け、僕は部屋へ向かう。


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