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終身的ベッドサイド7

「人斬りの復活。伝説が掘り返されることになりましたが。そもそもの話、水力発電所が建設されるにあたり調査が行われた訳ですが、その調査団体だって、何も無作為に、無計画に掘ってどうしてという訳ではありません。油田だって、掘る前に石油の出るであろうと調査するでしょう、調査結果、素質ありとされ、掘るのでしょう」

石油王の話。

確かにそう言われると、例を出されると分かりやすい。

利益は大事。ムダ撃ちは厳禁だ。


「すなわち、この場所には、水力発電所建設地としての素質があったということですか」

「たまたま、偶然、掘り当てられた訳ではなくて、そこが掘られるべくして掘られたように」

ちょっとばかり劇的になってしまった僕の言葉に女将は笑う。


「そんな物語チックな、運命的な、素敵な復活劇があった訳ではありませんよ。ただ、土地柄がまさにピッタリだったということです」

「水力発電に用いられるものとして、何が必要ですかと言われれば、お分かりの通り、一つはもちろん水です。水でタービンを回す訳ですから。それがあることは少なくともの条件です」

少なくともの条件。

それは満たしている、溜まり溜まった水。

新カルデラ湖、そこに溜まった水。


「河童ヶ池、ぼっちの様についているその池の本体。話で言うところの新カルデラ湖というのを我々は『死骨湖しこつこ』と呼びます。人の死んで、骨が埋まる湖。残虐的ですけれど、歴史的にはその通りでしょう?」

死骨湖。

どうも、凄まじい名前だけれど、それほどの大噴火というより、自然災害の過去のそれの凶悪さを思わせる。


「死骨湖の水。これを活かそうと考えたのは、ここの成り立ちにまた影響されます」

「けれど、そこから、成り立ちから考えると難しいかもしれません。まずは、素養、希望、水力発電所の理想を考えましょう」

水力発電所の理想。先ほどの水あるというのが一つなのだろうが。

他には何か。


「そもそも、身近な水力発電所を考えるのが手っ取り早いです。水が溜められている人工の場所。山をコンクリートで包みあげる、ダムがその一番の有名どころではないでしょうか」

「ダム。何故、それは山にあるのか。何故、水を貯めるのかと聞かれれば。簡潔に、高さを稼ぐためです」

「位置エネルギーを貯めるということです。これを利用し落とすことで水のスピードを上げて、タービンをよく回す訳です」

地理のカルデラに、次は物理の話かな。

位置エネルギー、高さを稼ぐことが大事か。

確かに、これほどまでの高台にあれば、高さは十分に稼げる。

いや、だけれど…


「けれど、高さを稼ぐと言っても、水を落とすところが無いのでは。湖は山に囲まれてます。山を切り拓くって言うのでは、意味ないでしょう。素養としては、理想としては」

金銭感覚はわからない。

いっぱしの市民である我々には、企業などの、国家レベルの予算など及びもつかないが、湯水という訳でもあるまい。だから、さきに述べたように、先に調査するのだから。


「山は確かに切り拓けません。けれど、もしここの地層が、掘りやすければ、切り拓けやすければどうですか?地層は、ここの地層はどうなっていたでしょう?」

地層は知り得ないけれど。

フィールドワークを行いはしたが、地面が露出した、つまりの露頭をしっかり見たなんてことは無いし。


「京介くん、歴史だよ、歴史。地層は歴史なんだよ。地歴公民なんだよ」

地歴公民では無いだろうけれど。

なるほど、地層は歴史か。


「地層が歴史ならば、この場所の地形は、地層はつまり、噴火による歴史。火山堆積物、火砕流ということですか。それがそのまま残っていると言うことですか」


「当たりです。ここら一帯は、火山堆積物、火砕流で出来上がっています。湖から見ましたことでしょう向こう側の山々は元々ここらにあった山です。その山の隙間を埋めるように、また低い方へ、低い方へと流れたのです」

「360°。町の方へも、山の方へもです。そして、その流路は、火砕流の地層を形成しました」

「そして、削られました。火砕流の地層、これは非常に侵食を受けやすいのです。ですから、少々の流路が、魚が通らない程度の沢は流れたりしていました」

「それを人間が、さらに切り拓いた。安価に、自然を利用した」


「ふむふむ、なるほどね。でも、素養って言うんじゃ弱いよね。それだけじゃ無いんだよね。聞かせてよ。鮮明に」


「宿木さんは勉強熱心で良いですね。ではそうですね。自然の応用。水に高さを持たせることができた。そして、さらに素養として、この湖の性質見ての通りですが、非常に綺麗なのです」

「とてつもなく綺麗。魚はおらず。プランクトンも生息できない死んだ湖。これが最適だったのです。死んでいるから生かすことができる。タービンに負荷をかけにくいという利点があります」

「加えて、大きく、深いこの湖の性質は純度だけでなく、温度にもあります」

「大きく、深いゆえに、凍らないのです。年中凍りません。芯まで冷やせない、不凍湖なのです。だから、ずっと働くことができる、常に稼働できるのです」

この場所の素養を女将は述べる。

まるで、聞いている僕もこの地に、水力発電との妙な接点を感じさえする。

そのために、聞かされれば、このためにある様な湖である。もちろん、偶然なのだけれど。


「素養はあった。それが確かめられた。そこですね。そこの次ですね。決まって、着工、その開拓がキーになったのですね。河童復活の時に、繋がった訳ですね」


「開拓。彼らは調査の後、開拓を行なって、見つけてしまったのです。かつて、そこにあった集落の、町の証拠を発見してしまった。そして、また偶然か、必然か、それもまた残っていたのです」

「河童の姿の人斬りの絵が」

どこか、寂しげに、辛そうにそういい述べる。

その姿に、落馬する僕はふっと息をつき、前傾の体を、赤いソファに染み込ませる。

前傾交代、小鳥。


「なるほど、なるほど。それで復活という訳だ。人斬りの復活。残っていた絵と時代背景の接続。さぞ、大発見だったんだろうね」


「大発見ではあったでしょうが、ただ、それが良い発見かは分かりませんけれどね。ほら、まだ物語は終わっていないんですよ。河童の復活はあれど、その威厳のなんたるはありません。それが起きたのは、数日後のことであると、記録されています」

「宿舎の壊滅が起こりました」


「宿舎の壊滅。ふむふむ、また面白くなったね。いい記事に出来そう」

「それで、それで何故壊滅は起こったの?」


「だから、人斬りの癇に障ったのですよ。そう言った迷信はお嫌いですか?」


「嫌いじゃ無いけれど。迷信ではなく、真実があるなら聞きたいよ。マスコミ志望だし」


「いいでしょう。ここからは私の家系の絡む話になります」

「お話の最終盤といったところでしょうか」

女将は語気を強める。

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