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終身的ベッドサイド6

ここからは後半戦です。

そう言った、聞きごこちのいい声女将の声がうずまき管を揺らす。


「埋め立てられた宿場町」

「ここで、改めて、先ほどの湖の話に戻ります。湖の成り立ちの話に戻ります。旧湖から、現湖への変遷の話です」


「旧湖から、現湖。つまり、旧湖がなくなったと言う話なのでしょうけれど、火山活動はどこで起きたのでしょう。かつての湖の下、それとも上ですか?」

ここが昔からの高台というのなら、中腹部からの火山噴火かもしれない。それよりも高台が、ここよりさらに高台があるとは思えないが。


「浮向さん。上か下、どちらかと言われれば、下なのでしょうけれど、大きな湖を渡らない程度の周辺でここは最高地ですから。加えて、敢えてどこかと聞かれれば、ここでと言うことのできる場所ですよ」

下にあるけれど、ここであるところ。

字面だけを反復しようと、よく分からない。

どういうことか。


「京介くん。よく考えてみてよ。火山なんだよ、噴火を起こす訳だよ。その火砕流に飲み込まれるって話なんだよ」

そればっかりは分かっているんだが、いやそれしか知らないのだが。

火山の噴火地点。

下、地下。

まさか…


「まさか、湖の丁度真下で火山が噴火したということですか?」

この言葉に、女将は目尻をあげる。


「はい、正解です。かの湖の、かつての湖の消えた理由。それは、火山活動によってです。それも丁度その湖がそれこそ、溶岩の発射口になるように」


「もう京介くん、何故あたし達が午前中という二度寝に適した時間までを浪費して、フィールドワークに徹したのさ。君は一体何を見てるんだい?」

そういうけれど、フィールドワークなんて、小学校時代も深くやってないんだ。

要領というか、正直に言えば何を見ればいいかなんてさっぱりだったんだよ。

それでも、それっぽく、ちゃんと見てるっぽく扱ったのはすみません、僕が悪かったです。


「だからって、小鳥。君だって、何を見つけられたなんて話はしていなかったろう。それこそ、収穫物なしみたいな雰囲気だったじゃないか」


「やれやれ、君はちゃんと見ていたよ。見ていて、この話と繋げられなかったんじゃないか。関わりとは、関係とはそう言った、無理がありそうなところで繋がるところだろう」


「じゃあ、どこにあったって、その繋がりとやらは?」


「湖の青さだよ」

パシッ!

そう、小鳥は指を鳴らす。


「湖の青さ。これは京介くんだって知ってたでしょう。何故あんなに透き通っている湖がその底ではなく、青を映すのか」

「それがズバリなヒントな訳で、底面が見えないのは当たり前、ずっと、ずっと底は、そこの底にあるんだから」

「つまりの火山噴出口。現湖の位置で、ずっと底にあるってことだよ」


「待て待てよ。少し要約する。えと、旧湖は火山噴火の影響で無くなった。そして、見てきた、フィールドワークしてきた現湖の底の深さから、およそ噴火は湖の底から発生したとそう言いたい訳か?」


「そういうことです、浮向さん。そして、これと同じ現象が数千年前にも起こっていたということになります。それが、旧湖の発生に繋がりました」

「火山噴火の影響での盆の形成、噴出口。つまり、旧湖はカルデラ湖だったという訳です」

カルデラ。

ずっと昔に習ったことのある、随分と懐かしい言葉がここに出てきたけれど。

火口が安定した後に出来上がるものがカルデラ、そこに水が溜まればカルデラ湖と簡単に言えたはずである。


「そのカルデラ湖のあった位置、旧カルデラ湖が、その噴火の影響で新カルデラになったということですね」


「そういうことです」

「もちろん、安定したこの地にまた噴火がその場に起こったのは偶然でしょうが、噴火、湖、人斬り、この三つは繋がりました」

「そして、死んだ湖は蘇ります。そのかつての火山噴火をもって生まれたカルデラにまた、新たな水が蓄えられることになります。およそ、期間は800年ほどと考えられます」


「源平合戦、1180年から考えれば、約1900年、2000年に至るまで水を蓄えていた訳だね。であれば、河童の出現もそのあたり?」

小鳥が言葉を繋ぐ。


「そうです。知名度が上がってきたのは、かの文豪芥川龍之介の『河童』が出てという話もあります。作品が発表されたのは1927年、人はおよそその時より後に、ここを訪れたのです」


「でも分からん。土砂で、というより火山噴出物で埋め尽くされたこの一帯に、一体何がために訪れたと言うのか」

「湖があったと言っても、これもまた死んでいる湖なんだよね」


「湖は死んでいますね。魚の類は生存していません。カルデラの深さがそれほどまでにありましたから、水が溜まるまで時間がかかりましたし、地中から漏れ出ても、滝が出来るほど、川に、沢にでもなるほど水が溜まったのも近年なのです」

「川が無ければ、魚の遡上も起こらない、何もいない湖の完成という訳です」

では、何故そこへ人がやってきたのかという話を小鳥はしているということだろう。

湖に自然がある訳でもない。

麓の町がある訳でもなかったから、また温泉宿で成り上がったとか、旅籠になったということも無いのだろう。

地域全域が住むことに適さない土地なのだ。

それこそ、呪いのようにか。


「人が来た理由。それはその時代背景になりますけれど。ことの発端というかは1888年に初めてその国にそれが出来上がり、運用されたことに先立ちます」

「これは問題にするにはちょっとばかりマニアックなので、答えをさっと述べると、1888年はこの国初めての水力発電所が運用された日なのです」


「えっと、じゃあじゃあ、ここに来た人っていうのは、その水力発電所関係の人だったってこと?」


「そうです。水力発電の建築計画、土地の調査から、どうから、何まで色々と入ったことが予測されます。それも私の生まれた時代よりも前ですからハッキリとは言えないですけれどね」

「しかし、結果として少なくとも、近くに一台の水力発電所が立ちました」

「そして、これが人斬り復活へと繋がります」




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