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終身的ベッドサイド4

29

ダン!机に手を打ちつける音。

「さぁ、さっさと吐いて楽になりな。女将さん」

「こっちには、お前さんが知ってるという証言は取れてるんだ。だから隠し立てでも無駄だぜ」


「……いえ、でも」


「でももへちまもねぇ」

「女将さん、あんたの今からの数秒、数秒流れる時間は、田舎故郷のおっかさんの一粒、一粒の流れる涙なんだ」

「心配をこれ以上かけることもねぇ」

「少しでも早く、楽になりな」


「……はい、分かりました」

女将さんは、その白い手の甲に、散乱する光の粒を落とし始めた。

宿木とまりぎ刑事はその姿に胸打たれ、そっと小さな肩に腕を回すのだった。


「おい」


「何だい、浮向君?」


「おい!」


「分かったよ。わかりました。すみません、もうしません、もう言いません、申しません。ごめんなさい」


分かったら良いんだよ。

分かったら良いのだけれど、入りが分かりにくいんだよ。

小節跨って、急に何事か始まったかと思えば、人情派警察の取り調べ。

伝わってるのか、ことの真意と状況。


「浮向君、何か考え事かい?」


「浮向さん、何かありましたか?」

何もありませんよ。

もう良いから、部下の気付きに最後の切り札見つける系警察の真似やめろ、小鳥。

女将さんも乗らなくて良いですから、せっかくのきれいどころが、相手方の三文芝居で台無しになってますから。


「ひどいなぁ。三文芝居ってそんなこと言い過ぎでしょ。…いや、ちょっと待てよ」


「いや、ちょっと待たない」


「いやいやいや、ちょっと待ってよ。ちょっと待ってみてよ。美少女のあたしがあたしらしくちょっと待ってよって頼んでるところじゃん」


「そんな言の間に自画自賛挟むな」


「良いじゃん。美少女も本当、美人も本当なんだから。そうでしょ?」

いや、まぁ、どちらかといえば、自分で言うほどじゃないとしか…。


「おい、京介くん。もし、酷いこと言ったらセクハラで訴えるよ。酷くないこと言ってもセクハラで訴えるよ」

酷い。

どっちでも訴えるのか。

セクハラという、準女の武器を横暴に振り回し過ぎだけれど、案外振られてみると、本当に止めれないものみたいだ。

自由自在。


「やっとちょっと待ってもらったところで、三文芝居に戻るけれど」

今更、そこをブリ返すのかい、小鳥さん。


「戻るけれど、戻るけれども、改めて三文芝居って言うけれど、あたしはあたしらしく思いつきました」

「『三文芝居』って、三文ぐらいの価値しかない拙い演技の、芝居のことだけれど。もう一つ、『早起きは三文の得』って言葉あるじゃん。もしこれが公式なら、三文がイコールで括れるなら、あたしの芝居一つは早起き一回分と同価値ってことなんじゃない?」

「ちょっと待って、ちょっと待って。あたし天才的発想じゃん。三文芝居ってすごい褒め言葉じゃん」

どうよ京介くん、と小鳥。


「どうもこうも、あぁ、なるほど確かに良い考えだな。考え方だな」

「二度寝がしやすくなるぜ!」


「違う!京介くん、違うよ。あたしの三文芝居のせいで、三文の得の価値を下げないで。何なら、あたしのおかげで、三文の得の価値を上げたかったのに。飛び跳ね上げたかったのに」

それは無理だろうと即座に思いはしたが、言わずにいよう。

多分、ここが目端の利き時、危機時。


「飛び跳ねると言えば、京介くん。随分と話が飛んでしまっているけれど、今どの辺?ドラクエ4で言うところの、トルネコが仲間になるくらい?」


「いや、船を入手するくらいは飛んでると思うけれど。話が随分と長かったからな」


「それは絶対にないでしょ。船入手ってまあまあ後の方だよ。言っても、姉妹を仲間にするくらいだよ」

「だって内実を説明すればさっきの部屋から、玄関の赤いソファまで来ただけじゃん。ルーラしただけな訳じゃん」

ルーラしただけな訳じゃないけれど、いざなわれた訳でもないけれど。

まぁ、合ってる。

ただ、移動した。

取調室ではもちろんなく、壊された神殿でもなく、赤いソファの上に。


座り方は、女将さん一人に対して、遊び人二人。

正直言って、座り方は間違えたと思っている。

少なくとも、僕は。


「ちょいちょい、京介くん。そうやって、自分だけしらっと素面に戻るのやめなさい。あたしだけ悪いみたいじゃん」

「この地球にもし一つでもあたしが悪いことがあるとすれば、それは多分、あたしが悪いんじゃなく、地球が悪いの!地球性悪説なの!」


「地球の悪口言うなよ。お前が悪い奴みたいだぜ」


「自分の善性を示そうと思えば、人の悪性をひけらかすことになる。うん、友達関係って難しいね」

少なからず、簡便に分かることは、それを難しくしているのはまさにお前の悪性なんだろうけれど。

えっと、何だっけ、友達関係?

「お前、地球とも友達なのかよ」


「うん?そうだけど。ワールドワイドのフレンドシップ。地球と水星は大の仲良し、よく一緒につるんでるし。火星と金星はマブとは言えないね。土星と木星はちょっと近寄りがたいって言うか、遠いし、でかいね。天王星、海王星は遠くで手を振り合うくらいの関係。太陽は…」


「もう良い、もう良いよ。聞き流そうと思ったが、ちょっと聞いていたけれど、実際仲良いの地球と水星だけじゃん。そんな絶妙な人間関係みたいな、たまに遊びに誘うかと思うけど、結局誘わないくらいの仲の奴出さなくて良いから」

しかも、嘘じゃん。

絶対嘘じゃん。

ワールドワイドのフレンドシップどころか、コズミックスケールじゃん。

自転してから出直してきな。


「ちっちっち、そこまでにしときな。中学の頃、スーパーサイクルショップの自転車と呼ばれたあたしをバカにするのは」

スーパーサイクルショップ!?

って、多分スーパーの横に併設する自転車屋のことなんだろうけれど、それなら君はただの自転車だけれど。

そうすると、中学の頃、そう呼ばれていたって、もしかしてもしかすると可哀想な奴なのか。


「違う違う。そう呼ばれていたのは。毎年恒例の体育祭の時、組体操やりたいっていつも言うから、積み上げられる姿を模してそう呼ばれてただけ。決して虐められてた訳じゃ無いよ」

絶妙なラインだが、中学生のせめぎ合いの難しいところだが、本人がいいんなら、いいや。

小鳥ちゃん、もとい自転車ちゃん。


「自転車で悪口になると思ってるんだ。ふん、子供っぽいね、京介くん」


「子供っぽくない僕は、ちゃんとその煽りに対して、冷静沈着に聞き返すけれど。ならないのかい?」


「ならないよ。だって自転車って凄いんだよ!かの『自転』を名前に冠してるってそれどうなのよってこと」

どうなのって特に何も思わないけれど。


「サイズ感が、スケールが他の自動車とか、三輪車とかに、ある訳?身近に自転に関わるものなんて、自転車と天体くらいのものでしょ?じゃあじゃあ、自転車と天体は同じくらいの体言的スケールを持っていると言っても過言ではない訳じゃない」

「つまり自転車を、あたしを愚弄するということは天体を嘲るのと同じこと、君が真の天体的シニシストというのなら、そこまでいうのなら許すけれど、そうでないなら、銀河から追放するよ!クエーサーよ」

スケール、シニシスト、クエーサー?ん、何だって、途中から何を言っているのかよく分からなかったけれど。およそ、最後に酷いこと言われたのは分かったぜ。

ちゃんと、小鳥、お前の悪性は伝わったぜ。

「分かったよ、小鳥さん。君が悪い人間なことは重々分かったから、行こうよ。話を進めようよ」

「銀河の話ならぬ、大河ドラマの続きを、大河ならぬ、湖の話をしようよ」


「あたしが悪い人間であることは認めないけれど、そうだね。まとめて、地球の自転が悪いってことにするけれど」

「仕切り直そうか、はてさて、湖の話に」

すっと、話は女将に振られる。

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