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外科的クロルジアゼポキサイド12

百白引ももしらびき名々夜(ななや)

銀色作家。

何かしら深い理由があるのだろうけれど、ボディーガードを付けなければいけない事情というのが、何なのか知らないけれど。

あの作家なら、分かる気もする。

何かしらある様な気がするし、何かしら無くってもボディーガード位付けるといったスタンスは持ちそうでもある。


こんな旅館に来て、自家製(いや、自家製ではないか)のパンを焼くほどの人物なのだ。

ボディーガードの相場は知らないけれど、身なりの良い年寄りは誰でもお金持ちに見えるのは、若者らしさなのか、それが発動している。

お金持ちセンサー。


理由があっても無くっても。

総じて、違和感はない。


「側に付いていなくても良いんですか。ほら、依頼主にはベッタリと言った印象がボディーガードにはつきものですけれど。例えば、部屋の脇に二人組で控えていたり」


「確かにそれはよく言われますが、サブカルの影響ですかね。ボディーガードという名目ですけれど、自分の役職は、執事とか、バトラーとかとは別ですから。危機に備えると言うか、それだけが仕事ですから」

「自由時間はそれなりに多いです」

そう語る大男だったが、その言葉に真実があるのか、バトラー検定5級落第(多分無い)の僕としては分かりかねる。

まぁ、そもそもこんな旅館に危機なんてそうそう有りはしないのか。

錚々(そうそう)たる面々と言っても、選ばれたと言っても、選ばれているのだから、逆にメンバーはある程度割れていると思っても良い。

もちろん、僕みたいな例外はいるだろうことも付け加えるけれど。


そう言う意味では、彼に取って一番危険なのは僕なのかも知れない。

そう捉えれば、彼が今行なっている行為というのは、一番働き者の形と言えなくもない。

それほど、警戒されても困るけれど、何も持たない僕に対して、オーバーワークすぎる。


「あなたはどうしてこんな場所に来たんですか?自分の様に、仕事半分という風にも見えませんが」

と、聞かれたが、先に一度同じ様な質問にぶつかった経験から、二度目はすっと言葉が出る。


「仕事の疲れを取りにね。都会に揉まれるとやはり、何も無い場所に来たいというのは人間の人間らしい本能の様で」


「お仕事の合間の休み。休養は何事にも大事ですからね。どんな職種であろうと、どんな人であろうと」

「どんな職種とでましたから、聞きますけれど、あなたは何をされている方なのですか?」

無難なキャッチボール。


「研究者ですかね」

短く切る。


「研究者ですか。それはまた珍しい職種ですね」

「いや、この国は職業を聞かれて、サラリーマンと答える人が随分と多いですからね。隣国と違って、秘してなんぼのお国柄の様で」

「研究者と言うのは珍しい。自分もまたそれと同じでサラリーマンとは答えませんが」

「しかし、それ以上に、それだけ以上に自分とあなたは似た職種ですね」


「似た職種ですか?ボディーガードと研究者がですか」

矢継ぎ早に返す僕の無様はここにあえて、記さないけれど。

はて、どういうことか。


「似ていますよ。似ています。あなたも自分も何かを守るために仕事している」

「自分は依頼人の全てを守り、あなたは研究が及ぶ全てを守っているでしょう。人か動物か、自然か、何かはこれ以上聞きませんが」


何かを守る職種。

ふん、守るね…


「そういえば、失礼、失礼!僕としたことが、社交というものに不慣れなものでして、研究室で缶詰でして、名乗るのを忘れていました」

「僕は浮向京介です」


「いや、こちらこそ確かに、ボディーガードなんて名乗るものでは無いですからね。名無しみたいな、カカシみたいなものですから」

「自分の名前は永石ながいし詩流しながしです」

遅ばせながら、よろしく、よろしくと無難に男2人挨拶する。


「先にどうなのか分かりませんが、実はあなたの依頼人というか、あなたの付き人というか、あなたが付き人の人物には先ほど会ったんですよ」

会話の続きを考えたが、これ以外に思いつかない、僕と彼との共通項。

依頼人、銀色作家。

会ったというか、会いに行った形だけれど、どうぞと言われてから入りはしたはずだから良かろう。

招き、招かれたという関係ということで。


「お手製のパンまでいただいて、後で近くに寄る際には、詩流さんからもお礼をお願いします」


「なるほど。いえ、自分も居れたら良かったのですが、人は自由になると弱いですね。自制が効かない。その場に立ち会えない」

「任せて下さい。お礼はきっちりと自分からも伝えておきます」

頼もしい限りの肉体と、声の厚み。

いいな、このボディーガード。

付けるのありだな。

ボディーガード。


「しかし、この場所は本当に良い。開けた空間に、閉ざされた旅館。背水の形はまさにリスキーであるのに、いやにのんびりできる」

「仕事ですけれど、本当に良いですよ。彼女が、作家ということも相まって」

「作家。あなたはここの主人には、いえ、正しくはここのパトロンには会いました?」

パトロンというと、彼だよな。

黒鬼、鉄黒錠鉄鍵。

…はい、会いました。

合いませんでした。

結構、ボコボコにされました、言われました。


思い出すだけで、苦虫を噛んだ様な顔になってしまう苦渋の経験。


「その顔振りから察するに、なかなか強烈なことを言われた様ですね」

きちんと僕の顔色を見極めるボディーガードは適切に僕に返事する。


「いえ、自分も言われましたよ。訪れたのは、先ほどばかり、ほんの数分前ですけれどね。ボコボコでしたね。ボコボコ」

「どうやら、自分の役職が気に障ったらしくて」


「ボディーガードがですか?」


「ボディーガードというより、呼ばれたのは、彼女ですから、そのお供という役職に気に障った様で。どうも、あの人はこの場所を神格化している気があって、出来る限りの不純物を入れたく無い様なのです」

「もちろん、あなたが同じくそうであるという言葉の真意ではありませんけれどね」

「あなたは招待状を正しく持った。一人称で語る人なのでしょう。呼ばれるべくして、呼ばれた1人なのでしょう?」


「いえ、僕もよく分かりません。成り行きでこうなってしまったところがあって。呼ばれたというのが、僕には分からない」

招待状。

対する心境を僕は詳らかに述べた。

分からないことは分からないと言う。


「招待状。自分も一つを持って入りました。黒い封筒、黒い便箋に書かれた一枚組のセット。入るために、必要な物」

「自分もそうでありましたが、もしかして主人と言わずとも、別人にそれを提出してもらったりとかしたんじゃ無いですか?」


「そうらしいです。僕と共に来た、人がまとめて出しちゃったみたいで」

嘘はついてない。

確信もついていない答弁だけれど。

弱座切落と共に旅行とか、気がおかしい奴がすることだ。変に誤解されるのも嫌だし。


「二人組ですか。良いですね、友達との旅行」


「いえ、家族旅行ですよ。娘と僕と」

こう言ったけれど、言ってしまったけれど、かの銀色作家から話を正体を聞いているなら、赤面ものだけれど。

大丈夫か。


「そうなのですか。それは驚きだ。こんな辺境に家族旅行。娘さんも随分と喜ばれているでしょう」


「はは、そうだと良いですが…」

そうなら良いがな。

今の所、パンくらいだろうな嬉しそうなの。

それも僕の成果では無いし。

何を競ってるのか、少し悔しい。


「しっかりしている娘さんの様だし。招待状を受け取る様な娘さんの様だし、大丈夫ですよ。心配なさらずに」

しっかりした娘。

招待状を先に提出した娘、そこからしっかりした娘と予想した彼だろうけれど。

違うんだよな、年齢不詳のロリなんだよな。

後で鉢合わせたら大変だが。

まぁ、何とかなるか。


「ふう、なかなか話に入って、熱くなりました。もう8時ですか。キリの良い時間です。自分はもう上がろうと思いますが、浮向さんはもう少し入っていますか?」


「僕も上がりますよ」

正直言うと、長風呂好きの中の長風呂の僕としては、1時間も入っていたが、もう30分は入りたいところだったがそう言うわけにもいかない。

弱座と鉢会うもしかしたらのタイミングに僕本人が居ないのも気まずい、一応、念のための行動。


このような無駄な思考を働かせたところで、湯を少々道連れに湯船から立ち上がり、脱衣所へ共に向かった。


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