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外科的クロルジアゼポキサイド6

「荷物運びっす。荷物を運び出してるんすよ」

ある部屋を従業員は指差す。


「あの部屋。中に色々荷物が溜まってるんすよ」

入り口側の一室。

確か、小鳥談ではこの旅館、ちょうど半円を描くようなこの旅館は廊下を挟んで入り口側に6部屋、池側に7部屋あるんだったか。

その入り口側の一部屋である。

聞いたところでは確か、荷物部屋になってるとか。


「荷物って言っても、何だか廃材っぽいのが多いんすけどね。本当にお荷物の中でもお荷物を置きっぱって感じっすよ」

「それらの運び出し。女将からの直々の頼み事で腕がなるっすよ」

あの女将が頼み事をすることもあるんだな。

意外だ。どこか完璧に捉えていた僕はそう思う。


「その女将、今どこに居るんだい。そういえば、小鳥が女将を探し回ってるんだよ」

探し回っているかは知らないけれど、探してはいるだろうからオーバーにそう伝える。


「女将は基本、ずっと働きぱなしっすからね。日中一日合わない日だって、わたしはありましたよ」

「でも、今は分かるっすよ」

「およそ、風呂の準備をしてるんじゃ無いかと思うっす。もう良い時間っす。掃除もして、お湯を入れている最中じゃないっすかね」

旅館の食事場との対、右側、例の檜風呂である。

確か、全くけしからんが泳げるくらい大きいんだったか。

準備に時間がかかるのは当たり前で、見つからないのも仕方ない。


「しかし、何でまたこんな新たに部屋を開けてるんだ?荷物部屋としては一応の価値を持ってたんじゃ無いのか?」


「そうだと、わたしも思ってたんすけどね。でも、それ以上の利用価値が生まれたんだとわたしは思うっすよ」


「と言うと?」

僕はこと自然にそう質問する。

新たな荷物部屋以上の利用価値。


「一応、先に聞きますけど、お客さんは部屋の住人配置って分からないっすよね。流石に仲良しが多くても知らないっすよね」

僕はその質問に対して、流石に仲良しが多くは無いが、頷く。


「ではでは説明させてもらいますけれど、部屋の配置として、わたし達従業員っていうのは食堂側、左側に寄ってるんすけど」

「池側、一番食堂側から団子ちゃん、わたし。入り口側、同じく食堂側から女将ってなってるんすけど、場所的にはその横になるっすね」

「ここから、わたしは予想したんす」


「何を予想したんだい?」


「いやね、つまり従業員が食堂寄りなのは分かってるんす。だからっすね、新たな従業員でも入るんじゃ無いかって予想してるんす」

なるほど、確かに従業員を新たに雇うとなれば、その人のために、一つ部屋を用意しなければならない。


「いや、しかしそれとは限らないんじゃないか、例えば、新たなのは従業員側ではなく、客なのじゃないか?」

「つまり、新たな入り口側の部屋を開けて、君か料理人の部屋を寄せるんじゃないか?」


「確かにそれはあるっす…いや、でもやっぱりそれは無いっすね」

悪く無い予想への返答だと思ったが意外にも、簡単に否定されてしまう。


「理由は何かあるのか?」


「新たな客って、ここに来る客をわたしが確認できてないはず無いっすよ。招待状、あれはわたしが出すんすから」

そうなのか。招待状の存在、それ自体を重大事項の様に扱っているから、秘匿事項として、女将とそのお上、鉄黒錠先生しか知らないのかと勝手に考えていたが。

しかし、考えればそうだ、お客の個人情報を知らなかったとしても、その情報を従業員に流さずして、経営は難しいか。いくら重大とは言え、手紙は手紙だ。出す人間が必要になる。


「いや、ちょっと待てよ。なら招待状を出したのなら、その数を把握した上で僕が何故一人だと思ったんだよ」


「それは、それは招待状を出したのは二つだからっすよ。招待状ですけど、外に誰々様へなんて書いてる訳でも無いですし、一つは小鳥ちゃん、もう一つはお客さんかと。勝手に」

外側からは分からない様になっているのか。そのような状態の手紙がどのようなルートで正しく届くかは謎だが。


「でもでも、お客さん、あんな可愛らしい女の子と二人きりで旅行って、心中でもするつもりっすか?」

ドキリ。

いやいや、そんなはずなかろう。

あるわけないだろう、僕みたいなのが死ぬなんてこの世に申し訳ないよ、地獄に申し訳ないよ。

そもそも、心中相手にあんな少女を選ぶとはどんな感覚だと、疑いたいところだ。

何故、そうだと思ったカエラちゃん。


「いや、そうっすね、えっと、あぁ直感すよ。直感」

随分と、焦りながら直感を繰り返す。


「カエラちゃん、怒らないから言いなさい」

「もう少し詳しく言いなさい、カエラちゃん」


「いや、本当に本当に直感なんすよ。直感。ここだけは信じて欲しいっす」

直感。

ギャンブラー秋足。

何を直感している。


「直感。わたしは分からないっす。分からないんす。あの子は何者なんですか?」


「何者とは、何故何者かに思う?」


「だから、直感なんすけど、心中をしそうな直感て事じゃないんすけど」

「もっと大枠で捉えてもらって」

従業員はふと真剣な顔に切り替わる。

それでもその顔は陰口を叩く様な余裕を孕みながらである。


「あの子から、至って純粋な死臭がするんす」


「つまり、どう直感してるんだ?」


「だから、あの子はおよそ近いうち誰かを殺そうとしている様な感じがするんす」

直感。

左右信仰。

失敗した父親の血を継ぐ、成功する娘。

二つに一つ。

直感。


「でも、誰かを殺すと言ってもあの小さな体じゃ、そんなことは出来ないから、自分を殺す、つまり自殺とか、つまりお客さんとの心中とか」


切落が人を殺す直感。

僕の自殺幇助。

当たらずとも遠からず。

はは。


…………………

「…そんなわけ無いだろう。あんな小さい子供と僕。心中したいって、そんなことあるわけ無いだろう。気のせいだよ」


「まぁ、そうっすね。そうであれば何よりなんすけどね」

良い笑顔をする、数巡前に死臭の話をしていたとは思えないほどの爽やかで。


「僕は、そうだな。もう行くことにするよ。その直感を全く信じてやらないほど、大人でも無いのでね。部屋に帰って、あの子をちゃんと見ていることにしているよ」

そう言って僕は震える手を掴み、足を動かし、部屋への湾曲を進む。


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