開放的インサイド4
…
「居て消えて、また現れて消えた話?」
そう、僕は彼女の言葉を繰り返す。
「内実晒せば、河童伝説の一部始終の一部始。起承転結の起承転。正確を記すれば、起承転結起承転結の起承転結起承転かな?」
はぁ、何だって? また分からんが。分からん言い回しだが。
「まぁまぁ、気にしないでよ。いや、気にしてくれても良いよ。一部始しか聞けなかったんだから」
「いやー、あたしもね、チャレンジャーだからね。アクターだからね。泣き威しでも何でもするけど、忙しいって言われちゃーね。仕方ないよ、頼めないよ。終わりなくても、終わらせないと、話もそうだけども、特に仕事はね」
やれやれと言った態度をとりながら、仕事論に分かった風なことを言う大学生。
自分も高校時代に、部活動を仕事みたいに捉えていたかな。部活動を行なっていない人間に高説垂れる奴も少なく無かった、そんなことを考える。
「あたしの話。聞いてちょうだいよ。別々になってからの話。あたし達の続きの話」
そう言ってから、僕らが別れてから。つまり、食事を終えた後、僕が料理人・御手洗団子と話していた時のことからである。
「どうぞ、あれだよね。秋足カエラ、かの仕事人と君が話していた時の話だよね」
「カエラちゃんが必殺の人みたいになってるけれど、殺し屋みたいになってるけれど」
「まぁ、そうだね。大方、そうだね。仕事人、殺し回るのが仕事ってより、仕事を殺して回るって感じだけれど」
「京介君、カエラちゃんと交友あったっけ?」
「いや、少し話したんだよ。およそ、君が話し終えた後、僕らが話し始めたと言うことだね」
言いながら思ったが、あの仕事人、仕事人なんて名乗りながら(名乗っていない)話してばっかりじゃ無いか?
「何よ、あたしの知らない所で友好関係広げて、やる男じゃーん」
嬉しそうに言ってんなよ。おい、二の腕をツンツンすんな。
「交友と言えるほどのものじゃ無い。ただ、そうだな、彼女に家族を紹介してもらっただけだよ」
間違った説明では無いのだけれど、これだと婚前紹介みたいだな。ほら、すごく訝しんでらっしゃる。
「良いんだよ。君がどんな交友を行おうとね。ただ、これ全年齢対象だからね。それと、カエラちゃん、まだ19だからね」
気をつけなよ、と釘を指す。
意味ないけれどね、糠に釘だぜ、僕ほどそんな感情持ちえない人間は居ないだろうしね。
「そういう感情は無い。じゃあ、団子ちゃんには?」
「あるが?」
「あーそう、彼女は16だけれどね」
あら、何とも。やられたぜ。誘導尋問にやられたぜ。それにしても、16歳だって。
見えなすぎる。
今時の女性は大人びているけれど、中学生は高校生に、高校生は大学生に見えるなんてザラだけれど、それにしても子供らしからぬがすぎるぜ。
大学生どころか、大人顔負けである。
負けてる大人代表2名、僕、小鳥。
「今、失礼なことを考えたね、京介君」
「いや、考えてない。考えていたことと言えば、女将・不知雪さん。彼女の年齢のことかな」
これも、女性の年齢の話という、随一の失礼談を展開しようとしている訳だけれど、背に腹はだ。ごめんなさい、不知雪さん。
「まさかだけれど、彼女の、料理人の話を聞いて、僕は疑心暗鬼になっているけれど、不知雪さんも10代ってことは無いのだろう?」
彼女がもし10代って言うのなら、見る目のなさすぎる自分の目を僕は抉っちまうね。それくらい自信満々、自信が表面張力だぜ。
「この流れにして、19、16、と来て、13って言えるなら良いけれど、10代ってことは流石に無いねー」
「もちろん、老けてるなんて言い方をする訳にもいかないけれど、あれが老けるなら、あたしは老衰してるって言われるよ」
「手、肌、爪、皺、髪に唇、およそ問題という問題が見えもしないんだから」
これは女性目線からの重い意見だった。男でも、身だしなみは整えるけれど、指の先、肌艶などを判断するには自信がない。
現役大学生が言うほど、それほどまでなのだ、あの女性は。
「さっきは13なら決まりが良いって言ったけれど、そうじゃ無いけれど、彼女の年齢はその反対だねー」
「31歳」
およそ、見えない。大人びた従業員に、若々しい女将って。見聞きする分には羨ましい限りだが、実際会ってみると妖怪じみているな、全く。
「それも、さっきカエラちゃんから聞いたんだけどね」
「河童の話も、そこが情報源かい?」
「いや、違うよ。そこはまた別口、まさに別の口から語られたことだよ」
あー、なるほど。小鳥とやら、かの仕事人との話から入るから全く疑っていなかったけれど。もしかすると、取捨選択の出来ない奴とか言わないよな?
馬鹿じゃあるまいし。
「予想だけれど、およそだけれど、京介君。あたしがカエラちゃんと駄弁っていたんじゃ無いかと疑ってない?」
何故バレた。
時々、この女、人の気持ちを読む時がある。心にまでチャックかけないと。
「じゃあ、敢えて聞くけれど、期待して聞くけれど、君は何をかの仕事人と話していたんだい?」
「それを聞くかい。聞いちゃうのかい?」
「ならば、教えてあげるけれど、教えてしんぜようとも」
「あたし達が話していたのは、女らしい話」
「はい、もう良いよ。もう良い、本題に行こう。誰から話を聞いたんだ?」
「ちょっと待って、ちょっと待って。良いじゃん女の話。妖怪の妖って字だって女編じゃん!つまり、4分の1女の話みたいなもんじゃん!」
「それに絶対聞きたいから、聞きたくなるから」
必死の懇願。
近くによるな。プライベートスペース機能型の人間なんだよ。
「分かった、はい。言ってくれ、言っていいとも、だから離れてくれ」
「はい…どうぞ」
「女らしい話。女の子っぽい話。もちろんそれは甘いものの話」
僕は何も言わなかった。さっきの手前、またここで止めるのも決まりが悪い。カッコ悪い。
「いやー、気になったんだよね。気になってたんだよね。何で、誕生日ケーキの蝋燭を食べれない素材で作るのかなって。だって食べることができるならさ、あのまだ使用用途ありありの蝋燭を捨てなくて良い訳じゃん。蝋じゃなくてさ、そう、チョコで作れば良いんじゃ無いかって思ったんだよ」
「蝋の話じゃ無いか。甘いものの話じゃ無い」
多分、そこでは無かった。しかし、僕はそう言った。
「誕生日ケーキの蝋燭だよ。セットじゃん、甘いものセット。じゃあ、蝋燭を誕生日ケーキ以外で使うんですか?」
くぅ、確かに、現代、電気通る現代では、蝋燭なんてその用途以外知らないけれど。
「まぁ、良いよ。このお話はダメだったってことで諦めてあげるよ」
「でも次の談義は凄いんだよ」
「何?」と、ぶっきらぼうに、意識的に、これがぶっきらぼうだと確信いくほどのぶっきらぼうだった。短く、短く。
「次の談義はね。『人のえぇオッチャン』、髭白くすると、途端に『人の良いオッチャン』になるねって話」
「これの第一証人が、かのサンタクロースだよ!あれ、髭が黒かったら絶対『人のえぇオッチャン』だって、カエラちゃんはいや、違うって言って。ねぇ、聞いてる」
「聞いてるよ」
「あぁ、これもダメか」
「じゃあ、そうだな。次の談義はね…」
計画的犯行。だったら、なかなか恐ろしい展開なんだが。
睡眠薬を使わずに、被害者を眠らせた方法が『会話』なんて傑作というか、創作すぎるが。
眠りこそしなかった。けれど、僕はおよそこの赤いソファで時間を、多くの時間を使った。
多くの時間を消費させられた。本題に入らず。




