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開放的インサイド3

20

 入る時はドアをノックしなかったが、出る時にドアを自分で閉めないことがあるとは思いもしなかった。

 入場時思ったようとは違い、面接のようでは無かった。ありがとうございました、などと言って、奥歯を緊張で噛み締める現実は無かった。


 全ては闖入ちんにゅうの乱入者のせいである。

「はーい、お爺ちゃん。失礼したよー。ではではねー。またねー。薬ちゃんと飲むようにねー」

 自然すぎる会話。自然すぎるのが、不自然なのだという関係性であるはずなのに。数件先に住んでいる孫か何かなのかお前は。


 結局、いがみあった家族の中、亡くなってしまったお爺ちゃん。残された遺産は数十億、遺言状に書かれたのは、孫のたった一つの名前であった。てな感じの、感動モノ、報われエピソードの孫役か。


 ちゃんと、あの鉄黒錠てつこくじょう鉄鍵てっけんでさえも、コミュニティの手中に収めてしまうこの女、マジですごい。黒鬼だぜ、あの黒鬼、パネェ。

 やばい、凄すぎて、僕の表現力が影響を受けて、破壊されている。いかんいかん。


 ガチャっと、ドアを閉める大学生。

「いやーなかなか、ヒヤヒヤする展開だったね!」

そんな風は全く感じ取れなかったが、それこそ、冷やかしに来たのは明らかにそちらだったと認識していたけれど。

 あれでヒヤヒヤしたというなら、お前はまさかアレだな、ジェットコースターに乗って、手を挙げるタイプの乗員だな。


「まぁ、そうだけれど。手はあげるけれど、だからどうだって言うのさ。何かの心理実験か何か?」


「実験というか、実体験、尊見そんけんだ。君のその、類稀なる狂犬っぷりはね」


「それは褒めているのかい、貶しているのかい?褒めているのなら、そのつもりなら、もっと褒めて良いよ。褒めすぎてくれて良いよ」

言われたら、褒めたくなくなるのが人間のさがというモノだが、どうするか。

 こいつは褒めてのびるタイプか。これを見極めなければ、失敗しかねないぜ。


「たまごっちでもしてるのかい?この固有名詞、最近の子が知ってるとは思わない方が良いよー」

 あの名作ゲームを知らない世代がいるなんて、恐ろしい現実だけれど、それくらい、他にも色々あるという普通の話だ。

 たまごっちが名作だろうと、作られる前には台頭するものがあった訳で。


「ちなみに、あたしは褒められたらのびるタイプっていうよりかは、褒められたらのんびりタイプだよ〜。珍しいたまごっちが友達に褒められたら、それから世話をし忘れるのが増えるタイプ」

 褒めないが正解だった。僕の懸命な判断で、尊い命が何個救われたことか。


「なんて危ない奴だ。ジェノサイダーめ、そんな奴こそ、僕が全滅してやるぜ」


「愛が重すぎるよ。たかだか電気信号とプログラムの塊でしょう?」


「危険思想者め。分からないのか、卵から生まれるそれぞれの個性が。そんなことだから、最近の若者は想像力が乏しくなっているなんて言われるんだ」

 間違いなく危険思想者は僕なのだけれど、暴力性も、想像力の枯渇も僕なのだけれど。

 ジョークだよ、ジョーク。もちろん、これを読んでいる想像力豊かな人には分かるだろうけれど。決して、僕は同一の卵から生まれた全てのカマキリにそれぞれ名前を付けてなんていないぜ。


「あたしはもちろん、真実がどちらであっても信じてと言われる方を信じるけれど。変な人じゃないと、思い込むけれど」

「思い込むのは、良いんだよ。あたしも君も、自由だ。想像の世界、創造の世界なら何をしたってね。あたしがしたいのは、話したいのは現実の話なんだよ」

言って、ドアから離れると、玄関先に置かれた、真っ赤なソファに飛び込み座る。

 ポンポンと、その隣を叩く動作をする。


 僕はその動きに同調するように、空気の抵抗と、冷たさを肌で感じ取るほど鋭敏に感覚を研ぎ澄ませ、真っ直ぐ、座る彼女の正面にあるもう一つのソファに座り込む。


 真っ赤なソファに、真正面に、奇しくもついさっきに似て面接のようである。面接官がどちらとも取れないのが、先ほどとの唯一の違いか。


「何だ、そんなに顔をオカメの様にぷっくりと膨らませて、何かあったのか?」

何事か、目の前の大学生が頬を大きく肥大化させて、赤ら顔である。


「肥大化言うな!まるであたしが太ったみたいじゃん!」


「ふっくらしたと言えば良いか?」


「変わらんわ!」


「ハリセンボンみたいだぜ」

ん、針千本? 自分の言にハッとする。まさか、何か約束事、つまりの指切りでもしていたか?

 いや、してないと思うが。針千本なんて飲みたく無いぜ。死に方ぐらいは選びたい。


 先ほどの約束のくだりがこんな所で回収されるなんて、口も、心の口も慎まねば。お口チャック。


「ハリセンボンじゃない、あたしは頬を膨らませているの!」

「対して、あの魚は胃を膨らませてるんだよ!」へぇー、博識だな。知らなかった。拍手しておこう、とりあえず。


「もう、良いよ。いや、何でも無いんだよ。ただ何かあるんじゃ無いかなと思わせるためにやってるんだよ。思い立たせようと、何なら席を立たせようとしてたんだよ」

 未だ、何だか未知、未解決の答弁である。席を立たせて何になるのか、どうしたいのだ?

 まさかと思って、手でもってソファを撫でる。いや、濡れている、汚れているでは無いな。


「もう良いよ、鈍感君。もとい、京介君。君に無意味な要求をしたこちらに非があるよ」すまないねー、と不貞腐れる。


「そんなことよりだよ。京介君ったらいつも、いつも話の腰を折るんだから。何なの前世は海老なの、シャコなの、ブラックタイガーなの?」


 腰折るから海老。うん、まぁ、そうだなこれは拍手しなくて良いか。それくらいの言葉の掛けで喜ばれるのは、おせちだけだよ。

 

ちなみに、ちなみに僕の前世はベニクラゲである。つまり、折る腰すら持ち合わせていない。

いや、これもあんまりだな。


「何一人で得心してるのさ。あたしのあなたは今話をしようとしていたんじゃ無かったの?現実の話を。ねぇ、聞いてる。返事して」


 へいへい、返事しますよと。あぁ、いけない、いけない。お口チャックを開けてと。


「そうだった、現実の話だった。現実の話、前世の想像の話では無かったね」

そうだよ、そうだよと言って、やっと嬉しそうに、会話の舵を切れたことを得意満面に微笑む。


「そう、現実の話。何と手に入ったんだよねー」


「何が?」

この問答に、さぞ喜色滲ませる。膨らむ半身。爆発。


「河童の新情報だよ!!京介君も気になるでしょう?」

「居て消えて、また現れて、消えたお話を」

 くだんの人斬り河童のお話である。よく分からん口ぶりだ。だが、なるほど。確かに気になる話ではあると僕は思った。




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