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正しい生き方

作者: 通りすがりの没人

初めてかいた3000文字越えの短編小説です。本当につたないものであることは自覚しておりますので、気になる点等あればお気軽にコメントしてください。今後の執筆に活かします!!

1人の青年が道を歩いている。

時刻はもう少しで日が暮れようかとする頃であり、足音すらも呑まれてしまうような静寂の中、ほのかに光る街灯だけが辺りを薄暗く照らしていた。

青年の顔は暗闇に紛れはっきりとは見えないが、それでも彼の顔が整っていることを推察するのは容易い。

身には黒を基調とした質素な服を纏っているが、これもまた彼が着飾れば相応に麗しく見えることを想像するのは容易い。


そんな若者生活を充実して過ごせそうな人物が、なぜ暗闇の中を、まるでその闇に紛れようとするような服装で歩いているのだろうか。

その答は至って簡単、明確である。

すなわち、明るいところで表立ってやれないことをしようとしているのだ。

有体に言えば、強盗である。

はずれの町で、それなりの現金を持っており、齢60ほどの男性が1人で住む家。

それを調べ上げ、入念に準備を行い、そして今まさに彼は計画を実行に移さんとしているのだ。

社会道徳に反していることは彼も十分自覚している。

だが、私達が悪事を否定する論理をもっているように、彼にも彼の悪の論理があるのである。

いわく、生きるための悪は肯定される。生か死かの選択肢の中に正義や悪の入り込む余地はない。

仕方ないのだ。生きるためなら自分の感情は捨てるし、生きるためなら笑顔で人を殺す。

それが彼の今までの人生の中で学んだ哲学であり、また人生の大半をその哲学に則って彼は生きてきた。

今日もまた、その人生の延長として行動を起こそうとしているのだ。


しばらく歩き、目的の家に着く。

ここからが強盗の実行段階の始まりであるが、ひとえに強盗と言っても色々あり、正面玄関から何らかの業者を騙って中に入る方法や、窓や扉を破壊して侵入する方法などがある。

昔は相手と話すのが面倒で後者を取っていたが、最近はより首尾よく目的を達成できる前者をとることが多い。もちろん時と場合に応じて臨機応変に方法は変えるが、やはり油断している人間を相手にする方が簡単だ。


目に映る景色が全て闇に落ちた世界の中、少し目を凝らして位置を確認しながら呼び鈴を押す。

するとはりのある、はっきりした声で返事があり、それから数秒後に玄関の扉が開いた。

でてきたのは頭の大半を白髪が占める老人であり、年齢にしては快活な素振りである。

相手は知らないだろうが、こっちは下調べの段階で何回か顔を見ている。

だから、特別これといった感慨は浮かんでこなかった。

だが、やはり間近で見ると細かいことには気づき、意外と肌が綺麗だとか、髪は少し薄いとか、そんな益体のない思考が浮かんでくる。

一方で、口と顔では内心で人の肌や髪のことを考えていることはおくびもださずに、用意してきた前口上を冗談も交えつつ流暢に話し、相手が口車に乗ってきたら適当なお世辞を言うという作業を行う。

そのうち相手がこちらを気遣う素振りを見せるので、それを見計らって家に入る。


案内された部屋の壁は明るい色で、どうぞと示された机の上からは、紐で吊るされた2つの電球が部屋全体を隅から隅まで照らしていた。

これらの、暗さが全く感じられない内装は住人の性格をそのまま表しているようだったが、青年は何処か整理しかねる感情を持て余していた。

結局その感情の解は出ないまま老人との会話は進み、そして終わりを迎える。

老人がおもむろに席を立ち背をこちらに向けたのだ。

青年はその気を逃さず、懐に忍ばせていたスタンガンを取り出し、洗練された動きで、しかしぶっきらぼうに彼の背に押し付けた。

老人は短いうめき声を上げたが、すぐに四肢をだらしなくさせその場に倒れた。

青年はまるで動揺した様子もなく、いつものように冷めた目でそれを一瞥すると、足早にその部屋を去った。


短くはないが彼が行ったことを考えれば短いと言える時間がたち、青年は片手に荷物でいっぱいの袋を持って再び部屋に戻ってきた。

これでもう、残りの用事は逃走のみであった。

が、例の老人を不安要素に感じ、息の根を止めようと青年はゆっくり倒れている老人に近づいた。

懐を弄り、得物をまさに掴んだという時であろうか。

青年の耳は微弱な、そしてうめき声を交えながらも、ゆっくり、はっきりと紡がれる老人の声を聞いた。


「どうして…君は…このようなことを…」


その言葉がはっきり聞こえ、青年は聞き飽きたかのような顔をしたが、しかしこの清廉潔白を体現したような老人が死に際にどのような言葉を吐くのだろうという疑問がふと湧き、会話を続けてやろうと考えた。


「仕方なかったんですよ。先に言っておきますが、同情とかそういったものはよしてくださいね」


「同情…。同情…か。そんなことは…しないよ。」


老人は、必死に吸った息をゆっくりと吐きながら、「同情」という単語を噛み締めるかのように言った。

それは青年にとって少し意外なものであったらしく、少し感情のもれた語気で意味を聞いた。


「それはどういう意味で言ってるんですか?」


「確かに…仕方がないというのは…君の言う通りなのだろう。察するよ。」


老人の紡いだ台詞はまたしても青年に意外さをもたらすものであり——率直に言えば、怒りをもたらすものであった。


「は。あなたに一体何がわかるんですか。命惜しさに適当なことを言うのはお勧めしませんよ」


「命惜しさ、そのようなものではないよ。」


老人は再び、整いつつある呼吸と共に、聞く人に安らぎを与えるような、だが青年にとっては怒りを増長させるものでしかない声で静かに話した。


「じゃあ一体あなたは何が言いたいんですか。」


「君が悪に走るような環境にいたのならそれは仕方ない。」


「なら…」


「しかし、それで許されるの君が幼かったときだけだ。今や君は右も左も分からない幼子ではなく、分別ある大人なのだ。」


気づいていながらも今まで目を逸らしていたものが沸々と蘇ってくるのを感じる。


「なんなんだよ、お前。何が言いたいんだよ。」


青年は漏れ出す感情に任せ、声を荒げた。


「君は変われた。でも、変わらなかった。それは君の——罪だ。」


落ち着いて、しかしはっきりと、老人は宣言した。

青年に罪があると。青年の哲学は間違っていると。

青年は激しく憎んだが、同時に恐ろしさも感じている自分に気づいた。


「ふざけんなよ。おまえに何がわかんだよ。俺と同じ体験をして、それでいてまだ俺が悪いって言えるのかよ。」


自分の中に芽生えた恐怖がどんどんと大きくなっていくのを何とか否定しようと、青年は叫んだ。


「言える。」


その叫びを老人はあっさりと打ち砕いた。


「君は知っているはずだ。自分も普通の生き方、普通の幸せを手に入れられるのではないかと。人から感謝される道を選べるのではないかと。」


知らない。みんなと同じ幸せを感じる生き方は知らない。普通の学校に通って、仲のいい友達ができて、一生大切にしたい人もできて、ときどき強がってしまうけど弱いところもさらけ出せて、そんな人達と心の底から幸せを噛み締めて笑い合う生き方なんて知らない。

そんなこと、考えたことがない。考えたくも——。


「考えたくもない。俺が普通の幸せを手に入れられるわけがねえ。ましてや他の人を幸せにできることなんて」


「できるさ、君は」


老人は、それだけを言った。


自分は違う道を選べる。

でもそれは自分の今までの道を否定するということ。


その恐怖は青年にとって並大抵のものではなかった。


「どうして…そう言えるんだよ」


今までの生き方を捨て新しきを選ぶ。

そんな勇気は青年にはなかった。

これを書いている筆者にさえないのだ。

でも、そんな臆病者にも何かを与えられるものがあるとしたら、それはきっと——


「私が信じているからだ」


こんな言葉なのだろう。


帰り路を青年は歩いている。

手には満杯の袋を持ち、目には涙を携えて。

その視線は揺るがない。




はい。正直筆者の情緒がだいぶ不安定な状態で書いたのでなかなかグチャグチャな内容になっていると思いますがそれでも読んでいただきありがたいです。感想等の書き込みを是非お願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 希望を感じさせるエンディングでほっとしました。 老人は主人公にそのまま必要なものを持っていかせてあげたのでしょうか。彼を叱咤激励する言葉といい、愛情深い方だと思いました。 主人公がこれから明…
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