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Final.悪役令嬢は二度結婚する

 この物語はこれにて終幕、悪役令嬢ものに二度目のチャレンジしてみて何とも難しいものだと実感しました。今回も最後までお付き合い頂ければ幸いです。

 パチリと目が開いた。


 私は気を失ってしまったらしく、気が付くとベッドの上にいた。周囲を見渡してそこがどこなのかを確認を始める。至って普通の行動だった、そして確認を終えると私はその答えを呟いた。


「私の……部屋?」

「その通り、気絶したあなたはここに運び込まれたのですよ」


 私の答えに言葉が返ってきた。私は想定外のそれに驚いてもの凄い勢いで上半身を起こす。そしてその時になって初めて自覚する事になった、私は狂四郎との逃避行でかなり無理をしたらしく、全身が悲鳴を上げていたのだ。


 ギシギシと音が鳴る感覚を覚えて私は苦痛で表情を歪めると、言葉を返した主が心配そうに私に手を差し伸べてきた。



 それはフランクだった。



 私はあまりの想定外にビクッと体を硬らせて彼との距離を取ろうとした。だけどフランクはとても悲しそうな表情を浮かべており、こう言った反応を見せた私に申し訳なさそうに真剣な眼差しのまま口を開いてきた。


「……今回は大変申し訳ないことをしでかしました」


 まさかここまで真っ直ぐに謝罪されるとは思いもしなかったから、私はただ「はあ」相槌を打つのみで大した反応も出来ずにいた。するとフランクは私の反応に困ったのか、眉を顰めて、そのまま更に頭を深々と下げてくる。



 部屋には私とフランクしかいない。



 だからこの会話は非公式、それでも王族が軽々と首を垂れて良いのかと私はアタフタと慌ててしまった。そしてベッドの上から必死になってフランクの肩に手を置いて頭を上げるように促す。


 まあ確かに今回の一件は彼の言動も含めると誉められたものではない、寧ろいまだに私はムカついている。女の子を道具扱いしやがってと、フランクを見ていると心がムカムカして仕方がないのだ。


 それでもこれはマズい。


 フランクは見た目が美少年で中身も世界最高の頭脳を誇る天才、そんな人に頭を下げさせるなど誰かに見られでもしたら私は殺されるんじゃね? この世界で社会的に抹殺されそうな気がするのだ。もしもこの部屋のドアが開いて、この光景を誰かに覗き込まれたらと私は気が気じゃ無かった。



 そしてそんな時に限ってドアは開くものだ。



 キーッとドアが外側から開いていく、それに気付いて私は思わず心臓が飛び出るのではと心配するほどに大声をあげてしまった。




「ぎゃあーーーーーーーーーーーー!!」

「あん? どした、ホラー漫画のキャラみてえな顔しやがって」




 ドアの向こうから顔を出したのは狂四郎だった。ひょっこりと部屋を覗き込んで私の心配をしてくれていた。だけど安心した、私は目を覚ましたら近くに彼がいなかったことに不安を感じていたのだから。


 もしかして何がまずいことでもあって幽閉されていたり、下手をしたら死んでしまったのではと思って心配していた。だけど彼は何事もなかったかのように私の顔を覗き込んでくる。


 そして私の叫び声に反応した屋敷のメイドたちに「何でもねえよ」と声をかけて追い払ってくれた。


 するとそんなやり取りを見ていたフランクはクスリと笑って顔を上げていた。そして私の心情を察したのか、ことの顛末を語ってくれたのだ。


 あの後、私と狂四郎、それにフランクは全員で気を失ってしまい、近くで私たちの捜索に当たっていた執事たちによってブラトニー邸へ担ぎ込まれたらしい。そして案の定、狂四郎は不審者として扱われて屋敷地下の牢獄へとぶち込まれたそうだ。


 そうして尋問が続いたのだが、何とフランクが重要な話を伏せつつ事情を説明してくれたそうで、彼は釈放された。



 そして何と今はフランクが狂四郎の身元を証明する証に近衛騎士として雇ってしまったらしいのだ。私はことの流れが早過ぎて思考が追いつかなず、フランクにゆっくりと頭の中で整理して言ってくれと気を遣われてしまった。


 私は混乱する中で一つずつ流れを整理してウンウンと一つずつ頷きながら状況を理解していった。そしてフランクに狂四郎の件を問いかけた。


「宜しいのですか? 彼はこの国の人間ではないのに、殿下のお側に置かれてしまって」

「構いませんよ。寧ろ今回の一件で彼の実力は証明されました、護衛には適任なのです。それに……」

「それに?」


 フランクが何かを言いづらそうに突如吃ってしまった。一体どうしたのだろう? 私はそう思いフランクの顔を覗き込んでみるも、彼は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いてしまった。私がその様子に「?」と首を傾げると、それを補填するかのように狂四郎が説明を始めた。


「なんかよ、ガキ王子が言うには俺がテメエと結婚するには『爵位』ってのが無いとダメらしいんだわ」

「ガキ王子って……狂四郎は本当に口が悪んだから」


 狂四郎の言葉にフランクが気を悪くしないか、本当にハラハラしてしまう。


「でな、実績を積み重ねれば爵位をくれるって言うんだわ。とりまコイツの誘いに乗ってみた」


 狂四郎の説明は何とも雑で、重要な登場人物までも『ガキ王子』と言って雑に扱ってきた。クイッと親指でこの場にいる王族を指さすものだから私もハラハラしてしまい、せっかく助かったのにこんなことで牢屋に繋がれたらどうするのよ、と不安を感じてしまった。


 だがそんな私の心配をよそにフランクは子供らしく笑いながら自らの話に補填を入れた狂四郎を捕捉するために口を開いた。自らが自らをフォローするのなら、狂四郎の説明は無駄だったなと心の中でツッコミつつ私はフランクの言葉にどっしりと構えて耳を傾けていた。


「つまりですね公爵家のご令嬢の伴侶となれば周囲を納得させねばなりません、そう言うものでしょう?」

「はあ、そうですね。だからこそ私は彼と逃げたわけですし」


 フランクは至極もっともなことを言っていると思う。今回は王家とブラトニー公爵家の縁談が破棄された形となった。そうなれば公爵家や私に要らぬ悪評が降り注ぐだろうとフランクは気を回してくれたのだ。


 そして狂四郎が公爵家に見合う人物になった暁には婚約を破棄されたフランク本人からの推薦という形で私たちの縁談をまとめてくれるそうだ。


 私はあまりにも己にとって都合が良すぎる話に戸惑いを見せるも、当のフランクは「私なりの償いです」と言って笑って済ませてしまった。そして狂四郎は「こんなんじゃ利息にもならねえよ」と言って愚痴る。


 狂四郎は警官だろうに何を悪徳金融業者のような台詞を吐いているのかとため息交じりに私は呆れてしまった。そして三人は何事もなかったかのようにブリトニー邸の一室でドッと笑った。



 窓からは優しい風が入り込んでくる。



 私はその風を心地良いと感じてそっと目を閉じた。するとそんな私の手を誰かが持ち上げて、薬指に何かをソッと差し込んできた。おそらく指輪だろう、目を見なくともその程度は容易に分かると言うものだ。


 そして誰がそんな事をしたのかと、それも見当がつく。だけど本当の問題はこの行動が何を意味するか。私と結婚するためにまずは地位を固めるようにと言われた筈の狂四郎がどう言う趣旨でこの行動に出たかが気になって私は静かに目を見開いて問いかけた。


「……この指輪の意味を教えてよ」

「実はよ、元いた世界でもうお前とは結婚しちまっててよ。これは事後報告だ」

「は?」



 え? もう私と狂四郎が結婚してる?



 私は不覚にもフランクの前で大口を開いて間抜けヅラを晒してしまった。そして狂四郎の言葉の意味を確認したところ、何と狂四郎はこの世界に転移する前に女子高生だった私と結婚してしまったと言うのだ。


 私が交通事故に遭った日は入学式の4月7日、彼が言うには私は即死では無かったらしいのだ。私は意識不明の重傷で病院に運び込まれたのだが、死んだのはその翌日の深夜だったと言う。この時、私は15歳。



 そして肝心なことは私の誕生日が4月8日だと言うこと。



 そう、日本の法律で言えば16歳になると親の承諾さえあれば結婚が可能となる。



 そして狂四郎は私の両親に土下座して結婚届けにハンコを貰ってしまったと言うのだ。それが彼の言う『事後報告』と言うわけだ。


 私は狂四郎の行動力を甘く見ていた。何と私たちはこの世界で出会う前に結ばれていたわけだ。そして狂四郎は己の指に嵌めた結婚指輪を眺めてポツリと呟いていた。


「この指輪を嵌めた途端に転移しちまったんだよな。因縁すら感じる指輪だぜ」


 指輪を眺めてはそうマジマジと呟く彼にフランクが「結婚指輪って何?」と質問していた。この世界では結婚指輪と言う文化が存在しないようで、フランクは不思議そうに首を傾げていた。


 そして当事者の私もニヤけながら指輪を眺めていた。その様子にフランクは更に疑問を深めて困ったように私と狂四郎を交互に見る。フランクには結婚の前にやる事があると言われているから、これは当分黙っておこうと口を紡いだ。



 そして狂四郎と顔を突き合わせて自然と笑みが溢れる。



 この世界での私たちの正式な結婚はまだまだ先の話で挙式はこれから八年後、私が18歳の時に執り行われることとなった。狂四郎は八年かけて貴族の身分まで駆け上がってくれたことで、こちらの世界の両親も充分に納得してくれての挙式だった。


 そして私はこの記憶を元に悪役令嬢の座を見事に回避して、フランクとも、これから登場するヒロインとも良い友達関係を築いていった。そして私たちの挙式はヒロインが設計した庭園内で執り行われたのだ。



 この物語は世界を跨って結ばれたカップルの物語。狂四郎は八年経とうとも口の悪さは治ることが無く、私は常に頭を抱え続けることとなる。だがそれでも私を追って異世界に転移までしてくれた彼を思うと心が和む。


 私と狂四郎は生涯を通じて笑顔の絶えない家庭を築くのだった。




  Final.

 初の連載物を描いて思ったことは『キツい』の一言でした。私は本当に遅筆で内容も自分なりに面白い、と自信を持って投稿したもののpv伸びずと悩みまくっておりました。それでもまずは完結せねばと突っ走りましたが、読者の方々にどのように感じて頂けたものかとハラハラの連続。



 文末でご挨拶させていた頂きます、読者の皆様方にご自愛がありますように。


 とは言ってもまだ後日談的な物語が続きますので、もう暫しお付き合い下さい(予定していた話数をオーバーしちゃいます)w

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