06.『薔薇が彩る庭園にて』と言う乙女ゲームについて
うーん、10歳の少年がこんな発言するかな? とやはり考えてしまう。
それでも最後までお付き合い頂ければ幸いですw
『薔薇が彩る庭園にて』、それはヒロインである庶民の女の子が国王が全国民に対して公募した『とある役職』に合格したことからストーリーは始まる。国王は病気で早死にした最愛の王妃を弔うべく王宮の庭園に花壇を作ろうとしたのだ。
そして国王が公募した役職はその花壇の設計者、王妃は花が何よりも好きな人だった。だから国王は王妃の愛した花で彼女を弔いたかったのだ。だが悲しいかな、この国はそうった文化が欠如しており王宮内にも詳しいものはいない。
庭師は存在するが、それらはただ庭を手入れするもので花に造詣は深くない。
それ故に国王は全国民を対象として最も素晴らしい図面を引いたものを王宮で召し上げると触れを出したのだ。そしてヒロインは見事に国王の目に止まり、花壇制作の任のために王宮の入って、その中で攻略対象と接して行く事になる。
その中で最もヒロインと接する機会が多いのがこの第一王子のフランク・ボナパルトだ。
フランクは若くして死んだ王妃から充分な愛情を受ける事が出来ずに育った。だが、だからと言って王妃はフランクを愛していなかった訳ではない。寧ろ心の底から彼を愛していた。だが不幸なのはフランクには二歳年下の弟がいて、その弟が病弱だったのだ。
その弟、つまり第二王子の世話に王妃は付きっきりとなってフランクとの面識が少なくなっていった。だが次第に第二王子は体が丈夫になって元気に走れるまでに成長した。そうすればようやく己の番だとフランクは当然ながら思った。
これまで我慢していた分だけ母の愛を感じたいと心待ちにしていたのは言うまでもない。だがここで更なる不幸がフランクを襲う、つまり今後は王妃が不治の病に臥してしまったのだ。
王妃は療養の日々を送る、当然ながらフランクとの時間は取れなくなり気が付けば王妃の命の灯火が完全に消えてしまったのだ。
フランクは愛情に飢えている、それもこの世界のどの人間よりも飢えている。
その愛情を彼はヒロインを通じて埋めていくのだ。私にはそれが出来ない、だからその役割は私には荷が重いと言った訳だ。そして彼の不幸は更に続く、彼はこの世界で最高の頭脳の持ち主だ。その才能が災いして母が他界した後になってから、その母を蝕んだ病の治療方法を独学で発見する事になる。
彼は全ての人間を心の中でゴミと称して見下す様に育つのだ。そして王妃の死は今から一ヶ月前にとっくに過ぎている、つまり今のフランクの本性は私の唇を強引に奪ったそれなのだ。そしてその事実を知っているのはこの世界で私だけ。
ゲームをプレイしてフランクを攻略した私のみと言う事だ、これは国王陛下さえ知らないフランクの心に住み着いた闇なのだ。
今一度言おう、彼は全ての人間を心の中でゴミと称している。それは自国だけに留まらず他国に対しても同様だ。彼は飢えた愛を埋めるため、ゴミと称する全ての人間に復讐せんと強国を築きたいという野心を抱いている。
幸いにも彼には王妃との時間が存在しなかった故に幼少期に剣を振るう時間が増えた。
材料は全て揃っている、唯一足らないとすれば他国への侵攻を始める大義名分くらいだが、それも私は今になって気付いた。おそらく聖女の噂が立つほどの私を隠れ蓑にして王位を継承したと同時に戦争を開始するのだろう。
だから彼は自らの足で私を追ってきたのだ。
私の噂など本当のアイシアが上辺だけ取り繕ったものだと言うのに、それを盾にして彼は戦争を起こす準備を今から始めているのだろう。
そしてフランクは本性を晒して私に接してくる。私の髪を強引に掴んで血を舐めろと強要してくるのだ。私はあまりの腕力に掴まれて悲鳴を上げながらフランクの靴と地面に顔を擦り付けられていた。
「んんんっ、ああああ……、ううん!!」
「ゴミムシは俺に黙って従えば良いんだ。お前程度の女なんていくらでも代えは効くと気付けよ」
「ううんっ、……ぱあああ!!」
「夜は適当にベッドの上で股を開いて男を喜ばせて、昼間は適当に愛想笑いでもしてろよ。聖女様はさあ!!」
「……あなたはこの国の継承権第一の王子殿下なのですよ?」
「そうだよ、俺は偉くて頭が良い。だからゴミは黙って俺の言うとこだけ聞いてれば良いんだよ!! さっきからそう言ってるよなあ!?」
酷い、これはあまりにも酷過ぎる。
如何に王族でもフランクは性格が歪み過ぎている。それだけじゃない、フランクは王族の前に10歳の男の子だ、そんな年頃で女の子に向かって「股を開け」だなんて、どう言う教育を施されればこんな風に育つ言うの?
或いは自ら歪んでしまったのか。私は彼の変貌にひどく眉を顰めてしまう。
私は仮にもゲームの世界でフランクに心をときめかせていたから、今の流石のギャップに驚きを隠せずにいた。もはや私の心にはフランクに対する怯えは消え失せて、今は同情しか感じられない。
私の髪を雑に掴んで持ち上げてフランクはまたしても私の唇を奪ってきた。今度は私にも抵抗するだけの力も残っておらず、されるがままに従うしかなかった。そして私の後ろで怒りを抑えきれずに震える狂四郎がフランクに睨みを効かせていた。
そんな狂四郎の様子に気付いたフランクは私の唇を雑に吐き捨てて、狂四郎に勝ち誇った様子で見下しながら彼の最も癇に障りそうな言葉を丁寧に選んできた。私は涙を流しながらフランクの歪んだ表情を覗くしか出来ず、結局は足手まといになるのかと狂四郎に謝罪の言葉をしていた。
「ロリコンの異国人、お前はこんな女のどこが良いんだ? 異国人と言うのは随分と趣味が悪いんだな」
「テメエ!! 俺を好きだと言ってくれた、そんな良い女はどこにもいやしねえんだよ!!」
この状態で望ましいことはフランクの無力化、100メートル先の執事たちに助けを求めようとも考えた。だけど良く良く考えると彼らに見つかれば狂四郎の身が危険なのだ。彼は私を誘拐したと言う事になっている。
仮に助けを求めたとしてもフランクに誤魔化されたら終わりなのだ。
結局は狂四郎が刑罰を受けて私はフランクの婚約者に逆戻り、このフランクの本性を知ってはそんな未来は私には考えられない。
だから私はあくまでフランクと戦うことを前提に記憶を掘り起こし始めた。何か良い方法があると、なんでも良いから思い出してと藁にもすがる想いで私は自問自答を繰り返す。その時間を狂四郎に稼いで貰うしかないけど、その彼も限界。
身体的にでは無く、精神的に限界なのだ。
狂四郎は私を散々にコケにされて怒っている。彼は歯軋りのし過ぎで口から血が滴り落ちているのだ。私はそんな狂四郎を見ていられなくて視線を外すが、その私の様子が癇に障ったのかフランクはオモチャの如く私の髪を弄んでみせた。
そして冷酷さを際立たせて狂四郎を見下して話しかけていた。
「もう聖女なんてどうでも良くなってたな。コイツは俺に歯向かう命令を聞きもしない、殺すか?」
「……え?」
「テメエだけは絶対に俺がぶん殴ってやる!! アイシアにこれ以上手を出してみろ、絶対に許さねえ!!」
いよいよ私は殺される。私が逃げたいと言ったから、そう願ったから狂四郎を巻き込んでしまった。そう考えると私は自責の念に押しつぶされそうになる。どうにかして彼だけでも助かる方法を探さねばと思うも、焦りで一向に打開策が見出せない。
唯一、救われたのは彼が私を『ガキ』ではなく、名前の『アイシア』で呼んでくれたこと。もはや私に思い残すことは無くなってしまった。
そして遂に私の精神は死を覚悟してある種の悟りにも似た状況に陥った。
そんな時だった。
私の心の奥で石が投じられた。すると私の心の中でポシャンと水面の波紋が生まれる音が鳴り響く。忘れていた、私は悪役令嬢のアイシア・ブラトニーだった。
私はなんて間抜けだったのだろう。そうだ、単純な話だった。この世界は『花園が彩る庭園にて』だったのだ。一つのことを思い出すと記憶は洪水となって私の心に押し寄せてくる。
私は悪役令嬢、その本質はヒロインを妨害する存在。ならばそれだけの力を持っている筈だ。この世界には魔法が存在するのだった!!
私はフランクに掴まれながらも何とか足を伸ばして地面に魔法陣を描いていった。これはフランクが既に施している魔法と全く同じ種類の魔法を発動する陣。私は身体能力を底上げする魔法を行使出来る才能を備えていたのだ。
どうにかして魔法陣を描き終わって私は最後の力を振り絞って魔法の行使を行なった。無論、その対象は『勘解由小路狂四郎』。私は狂四郎にそれを叫んでいた。
「狂四郎!! あなたの身体能力を底上げするわ!!」
「ああ!? それって一体どう言う……」
「この女!! まさか魔法を使えたのか!?」
思いも寄らぬ出来事にその場の全員が慌て出す。私と狂四郎はようやく活路を見出しことが出来たのだ。
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