04.警官と警棒と王子と剣と
ラスボス王子の実力が発揮差れます、追い詰めて圧倒して。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
「微妙な顔をしますね、ふむ、もしやアイシア嬢は魔法をご存知なのですか?」
「……存じ上げております」
「魔法の存在は世間に公表していない筈。王族以外で把握しているのはあなたのお父君と一部の暗部のみ。しかしあなたのお父君は口が固い筈、どこで知ったのか興味が湧きます」
サッと背筋が凍った感覚を覚えた。
王子は優しそうに紳士然とした態度を保ちながら私に圧をかけて来る。森の地面をザクザクと噛み締めるように彼は近付いて来るのだ。
するとそれに呼応するように狂四郎の私を抱きしめる腕に力がこもっていく。そしてその様子を確認して王子は更に圧をかけるべく彼を睨み付けてきた。
王子は器用だな、私には優しさを放っておきながら同時に狂四郎を威嚇するのだから。そんな風に王子を感じれるからこそ私はゴクリと唾を飲み込んで狂四郎に抱きついていく。すると更に王子は狂四郎を威圧して今にも殺さんとばかりに目の奥を光らせるのだ。
「……こんな形で婚約者を奪われて心中穏やかでいられる筈がない」
「るっせえよ。こちとら惚れた女を取り戻しただけだ」
「へえ、後ろの君は大人だよね? 見たところ二十代半ばってところかな?」
「それがどうしたよ?」
「ロリコンの自覚はなしかい? 彼女は俺と同い年、つまり10歳なのだよ?」
「へっ、好いた惚れたに歳の差なんて関係あるのかよ? テメエら王族だって政略結婚って奴でジジイが赤ん坊と結婚するんだろ?」
フランクの口調が軽くなる、先ほど中庭で私にかけた口調とは全く異なるそれで話しかけてくる。だが口調の軽さとは裏腹に彼からは怒りが感じ取れた。それは何に対してなのか、私は見当が付かずただ身を震わせて狂四郎にしがみ付くのみだった。
フランクは深いため息を吐いて更に怒りを深くする。そして何に対して怒っているかをフランクははっきりと口にしてきた。
「……最高の淑女を婚約者に迎えて僕はご機嫌だったんだ。それを横からしゃしゃり出てきて奪った挙句に王族への非難中傷かい? 言っておくが僕は王族と言う立場に心から誇りを抱いているんだ」
「……悪かった、それは謝る。だがコイツだけは譲れねえ」
「どうしてもかい?」
「こっちも命懸けなもんで悪いな」
嘘、王子が私を気に入ってくれていたの? だけどソレだけの理由でわざわざ王族の彼が私を追って来るのだろうか?
そして悔やまれるのはフランクの質問にバカ正直に答えてしまった私だ。先ほどのフランクは私が魔法を知っていると疑念を抱いていたに過ぎないのに、私は不覚にもそれを肯定してしまった。
疑念を疑念のままにしておけばここまで警戒されなかったかも知れないのに、私は肝心なところで狂四郎の足を引っ張ってしまった。私は悔しさで思わず泣きそうになってしまった。
だがそんな私を狂四郎は優しく頭を撫でてくれる。安心する、ホッとする。狂四郎の優しさに包まれて私は天国にでもいるかのような幸福感を覚えていた。だが、それと同時に相反する感情が芽生える。
王子だ。
彼はもはや隠しきれないと言った具合に怒りのままに感情を歪ませて睨み付けてくる。それも不貞を働いた私ではなく狂四郎をだ。王子だって10歳なのに、どうしてここまで人の感情に恐怖を植え付けることが出来るのだろう?
私は更に怯えて狂四郎に力一杯抱きついた。
「ふむ、アイシア嬢は本当にその男を好いてるのですね。これは骨が折れそうだ」
「な、何をでしょうか?」
「力尽くで無理やり女性を奪ったとなれば王族として恥なのですよ。この上ない屈辱だ」
「え? え?」
「……良し、決めた。これで行こう」
フランクはその美しい金色の前髪をわざとらしく掻き上げてから腰に差した剣を抜刀してきた。そして子供ながらに構えを取ってきた。私たちは一国家の王子から完全に敵対心を持たれてしまったのだ。
そしてフランクは何事もなかったかの様の言葉をかけた狂四郎に対して冷酷な言葉を吐き捨ててきた。
「何の話だよ?」
「……魔法で彼女の記憶を消去すれば良いのさ。その後でたっぷりと俺の愛を注げば良い」
「テメエ、……いくら王族だからってそれはやり過ぎなんじゃねえのか?」
「たっぷりと可愛がって差し上げましょう、その男を始末した後にね!!」
フランクの言葉を皮切りに狂四郎とフランクの戦闘が始まってしまった。狂四郎は私を庇うように警棒を手にしてフランクの剣を止めていた。私はただの女子高生だったのよ? そんな私が真剣に命をかけた戦闘を目の前にしてまともでいられる筈がない。
私は完全に体を硬直させてしまった。こんな状況になっては私に出来ることは心臓が止まらないように心を強く持ってカカシの如くただジッと待つのみ。
狂四郎の勝利を祈るしかなかった。
だけどこの勝負に勝っても私たちに平穏は訪れるのだろうか? このまま行けばどの道私も狂四郎も国家反逆罪とか不敬罪で指名手配されるんじゃないの?
そんな不幸な未来を想像してガクガクと足が震える私に気付いたのか、フランクは相変わらず私に優しく声をかけてきた。狂四郎と鍔迫り合いをしながらも余裕を見せつけるように話しかけてきた。
私にはそのフランクの態度が不気味にしか映らないのに、フランクは平然と未来を語るのだ。
「大丈夫ですよ、アイシア嬢は記憶を失ってそこまでです。全ての罪はこの男に被ってもらいましょう!!」
「こちとら警官だぞ!? ただのガキには負けねえ!!」
「ただのガキ? おやおや、君は彼女から魔法の存在を聞いたんだろう?」
あ!! そうだった、一つだけとても重要な違和感があった。それはどうして王族のフランクが前線に立って戦っているのかという違和感だ。王子である彼がわざわざ自らの足で私を追いかけるのもおかしいが、それ以上に戦闘行為をするなど絶対におかしい。
狂四郎を捕らえたのなら先ずはこの先にいる執事たちを呼べば良いのに、どう言うわけかフランクはそれを素振りすら見せない。
つまりフランクには絶対の自信があって、わざわざ助けを呼ばなくとも良いと言う判断を下したのだ。そしてその根拠は私が今しがた狂四郎に教えたのだった。
魔法だ、フランクは魔法で身体能力を強化しているんだ!!
狂四郎は本気を出している、腕に力を込めて警棒を振るっているのがその表情で良く分かる。客観的に見れば子供相手に大人気ないと感じるものの、フランクの正体不明の不気味さに彼は感づいているのだろう。
だからこそ狂四郎はまるで凶悪犯でも引っ捕らえるように全力を出して戦っているのだ。
そんな狂四郎に対してフランクはスイスイと攻撃を躱しては余裕を見せつけてくる。そして怒りを滲ませながら凄んでくるのだ。
フランクの剣が狂四郎に入る。と言っても刃ではなく腹の部分で叩いてくるのみ。それでも私には想像出来ないほどの威力があるのだろう、狂四郎は叩かれた部分を手で押さえて苦痛で表情を歪めていた。
強い、フランクは強い。
でもフランクがここまで強いだなんてゲームの中では描かれていなかった筈。私は手元にない情報に踊らされるように全身を震わせていった。このままでは本当に足手纏いになる。好きな人を少しでも助けてあげたくて私は必死になって考えた。
だがそんな私の考えがまたしても筒抜けだったようでフランクは狂四郎を剣で叩き続けながら私に話しかけてきた。
「戦闘になればご令嬢のあなたに出番はありませんよ。お願いですからそこで静かに見守っていて下さい」
「テメエは余計なことをするんじゃねえぞ、怪我だけしないように離れていやがれ!!」
「へえ、君は本当に彼女を愛してるのですね」
「ったりめえだ!! 命懸けだって言っただろうがよ!!」
私の心配など二人の戦いには意味をなす訳もなく、ただ金属のぶつかる音が響き渡っていった。私にはこの音が後ろの執事たちに届かないようにと祈りを捧げることしか出来ず、たた呆然と立ち尽くしていた。
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