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03.逃亡とラスボスの登場

 バトル担当・狂四郎と戦略担当・アイシアのコンビが成立する回になります。


 そしてラスボスも登場して一気にストーリーが動き出していきます。

 私の愛しの人はギャグみたいな人だった。


 ここは『薔薇が彩る庭園にて』と言う乙女ゲームの世界で私は交通事故に遭って早々にその世界に転生する事となった。そしてその私を追うかのように転移してこの人は颯爽と目の前に現れた。


 勘解由小路狂四郎かでのこうじきょうしろう、まるで一昔前のヤクザの親分のような名前の彼は私を受け入れてくれた本当の王子様だ。



 私はと言えばアイシア・ブラトニーという悪役令嬢に姿を変えて狂四郎に抱き抱えらえて逃げ回っていた。アイシアの実家は公爵家、その保有する屋敷の面積や警備の質はこの世界でもトップクラス。


 つまり屋敷からの逃亡も簡単ではない。寧ろゲーム的に言うと超ハードモード、そんな状況の中で狂四郎はギャグのように警備の兵士や犬たちを蹴散らしていく。


「どるあああ!! どけどけどけ、狂四郎様のお通りだああああ!!」



 彼はぴょんと軽く飛んで屋敷の壁を飛び越えて見せた、そして追い縋る数匹の警備犬を蹴りで一蹴してまた走る。私は現実離れした目の前の出来事に唖然としながら沈黙を貫いていた。


 狂四郎は屋敷から脱出を果たすなり、道から外れて何の躊躇もなくその屋敷を覆い尽くす森の中に入った。


 そして突如として狂四郎はそんな私に声をかけてくる。


 当然と言えば当然だと思う、何しろ彼はこの世界について全くの無知なのだから、逃亡を図るとなれば情報を持っている私に確認するのは当たり前だ。彼は屋敷から脱出して次に何処を目指せば良いのかを私に確認したかった訳だ。


 私は先に言っておけば良かったと申し訳なく思ってそれに答えた。


「おい、ガキ!! どこか良い潜伏先はねえのか!?」

「潜伏先って……犯罪者みたい」

「犯罪者だろうがよ!! 俺はテメエを王族から誘拐しちまったんだぞ!?」

「そっか、それもそうね。えっと、すぐそこに誰も使ってない小屋がある筈」

「そんな近場じゃすぐに見つかっちまうよ!! 他に心当たりはねえのか!?」

「それもそうね。うーん…………、あ。この森を抜けた先に小さな集落があるの、地図にも載ってない集落だから多分見つからないと思う」

「その集落ってのはどれくらいの距離だ!!」

「…………馬で丸一日だったかな?」


 しまった、馬で丸一日かかると言うことは人の足でどれくらいの距離だろう。私は狂四郎の腕の中で考え込んでいた。如何に彼が常軌を逸した運動神経の持ち主だって、そんな距離を走破できる筈がない。


 私は己の口で集落の情報を伝えながらも後になって後悔してしまった。


 そんな距離を私を抱えて走破するなど無茶振りが過ぎたと感じて私は狂四郎に「ごめんなさい」と謝罪したのだ。だが当の彼は私に言葉に「は?」と呆れたように声を漏らして何を言ってるんだ? と言わんばかりにそのイケメンな顔で私を覗き込んでくる。


 きゃー。私ってイケメンにお姫様抱っこされてるー、こんな経験は女子高生と言うブランドを持っていた時にだって諦めていたのに。そんな体験を異世界に転生して、しかも悪役令嬢の身で実現するとは思いもせず、私は顔を赤らめていた。


 すると狂四郎はそんな少女の夢をぶち壊すように現実に引き戻しにかかるのだ。


 私の中身は15歳、そんな夢を胸に抱くには充分な年齢の私だが狂四郎のその真剣な表情を見ては申し訳なく思ってしまった。私も真剣になって彼の逃亡を手助けしようと心に決めて狂四郎の言葉に答えた。


 何と言うかあまりにも現実離れし過ぎた現状に私の思考がついて来ないのよね。


「おい、ガキ。森の中だとテメエのドレスが引っ掛かっちまう。悪いけど時間もねえし気を遣ってやる余裕はねえからな?」

「うん、分かった。それとね……」

「あ? 何だあ?」



 彼は私を『ガキ』と呼ぶ。


 私は純粋に名前で呼んで欲しかった、心を通わせたもの同士互いを名前で呼び合いたいのだ。にも関わらず彼はずっと私を下に見て『ガキ』と呼ぶ。確かに彼は社会人で大人、私は学生。その差は明白だ。



 だけどそれでも私はそこに拘りたかった。



 何と言えば良いか、男と女が気持ちを通じ合わせたら対等でありたいと思うのだ。この世界で私はおそらく足手纏い、そう考えるのは烏滸おこがましいかも知れないが、これだけは絶対に譲れない。


 私は目に力を込めて抱きかかえてくれる狂四郎を見上げながら話しかけた。


 だが、そう言った時に限ってイレギュラーは発生するものらしく彼はその異変に気付いて急ブレーキをかけて止まり、近くの大木に身を隠すように体を預けた。そして抱き抱える私を大切な宝物のようにギュッと力を込めて隠す。



 きゃー。なんか私、今ならチューとか出来そうな気がする。引っ込み思案だけどここまで距離が近かったら雰囲気に流されさえすればファーストキスを彼に捧げられそうなんですけど。


 私は己の願望に忠実になって悶々とした妄想を脳内に走らせて彼の腕の中で顔を真っ赤に染め上げる私だったが、やはりここでも不謹慎だったらしく狂四郎の言葉で現実に引き戻された。


 だけどそれはそうよね、私たちって逃亡中なんだから仕方ないか。


 私はため息を吐いて諦めながら彼の言葉に耳を傾けた。と言うよりも世界の基本となる情報を思い出してしまったと思ってしまった、この情報こそ真っ先に狂四郎に伝えるべきだったと反省するしか無かったのだ。


「おい、もう追手が先回りしてやがんぞ。どう言うこった?」

「多分だけど魔法ね」

「なーにー?」

「やっちまったな!!」


 私は己の性分が恨めしい、こう見えて私はお笑いが大好きだったからそれに近い反応を目の前でされると条件反射で返してしまうのだ。私はふんどし一丁で餅つきしながらネタを披露する芸人を真似てそう返した。


 だがどうやら狂四郎もその気があるようで私の頭に握りしめた拳を落としてくる。


「ベジータか!!」


 いったいなあ!! 私だって女の子なんだからちょっとは加減しても良いだろうにと頬を膨らませて抗議の姿勢を見せる。すると狂四郎はケラケラと笑いながら話を続けてきた。


「テメエと気が合いそうで助かるわ、もしかしなくてもお笑いが好きだろ?」

「クリティカルヒット!!」


 私は野球の素振りをしながらそう答えた。すると狂四郎は更に笑って私の頭を撫でてくる。「悪かったな」と呟く彼の笑顔はとても眩しかった。私はつい彼の笑顔に見惚れるも、狂四郎が即座に真剣な顔付きになるものだから現実を思い出してこの世界の説明を再開した。


 彼のそれを待っていたようで私に頭を下げてきた。


「頼むは、テメエの情報だけが頼りなんだ。魔法ってどう言うことよ?」

「うん。魔法って言っても巨大な炎や氷で攻撃出来る訳じゃないから安心して」

「そりゃあ助かるな。流石の俺もそんなもんを撃ち込まれたら対処出来ねえよ」

「でもその代わり魔法陣を描いて人の身体能力を底上げしたり瞬間移動とか出来るの」


 狂四郎は私の言葉に「なるほどね」と頷きながら耳を傾けてくれた。


 そうなのだ、この世界の魔法は普通のファンタジー世界のように直接的に攻撃は出来ない。その代わり大掛かりな儀式を通じて奇跡を起こすものと解釈が出来る。


 今の私アイシア・ブラトニーは王家に嫁いで権力を手中に収めるべく子供の頃からずっと演技を続けてきた。それはまるで聖女の如く民を思いやり、優等生と演じて貴族の令嬢として恥ずかしくない態度を周囲に見せてきた。


 だけどその演技もヒロインの登場によって王子が違和感を感じるのだ。そこで王子は魔法陣を使って婚約者の私の本性を暴く。そこから私は悪役令嬢としてヒロインと王子のラスボスとして立ち塞がるストーリーへと続く。


 私はゲームをプレイしてその効果を幾度となく目の当たりにしてきたから分かる。


 私は狂四郎と一緒になって木の影からソッと覗く、するとその先、約100メートル付近に執事らしき男たちが数名で周囲を警戒しているのだ。良く見ると彼らの足元には魔法陣が描かれている。



 どうやらほぼ間違いなくここまで瞬間移動してきたようね。



 私は狂四郎の腕の中で考え込む様に、腕を組む。真剣になってウンウンと唸るものだから狂四郎も気を遣ってくれたようで「考えが纏まったら教えてくれや」と言ってきた。私は首を縦に振って分かったと伝えると、再び考えに耽る。


 確か私の記憶だと魔法陣での瞬間移動はピンポイントに場所を設定する筈だった。つまり具体的に言えば魔法陣の中で地図を開いて「ここに移動したい」と思い描くと魔法が成立する。


 だからこそ執事たちがこの場に移動してくること自体が違和感なのだ。


 つまり執事たちは私たちの行き先に見当を付けないとここにいる筈がないのだ。私と彼が進んでいる方角には件の集落を除けば何も存在しない。延々と進んでその先にあるのは海、つまり逃亡を図るものにとって最も非効率的な逃走経路なのだ。



 或いは王子や屋敷の両親がこの先に存在する集落を把握していれば、この現状も分かるのだがそれは絶対にあり得ない。



 この先の集落はゲームの中でも『とあるイベント』が発生してようやく存在が発覚する。ゲームをプレイした私からすれば絶対的な情報だ。


 となれば必然的に選択肢は減るわけで、私はため息交じりに狂四郎に伝えた。


「お? 纏まったか?」

「うん、最悪。多分だけど王子たちは私たちの動きを先読みしてるっぽい」

「流石はアイシア嬢ですね、聞きしに勝る聡明さに私は心を奪われてしまいそうです」



 私と狂四郎の会話に突如乱入してくる声があった。



 それはとても澄んだ美しい声でまるで神話の世界に出てくる神の様な凛々しさも併せ持っていた。私たちは完全に意表を突かれてその声のする方向に咄嗟に振り向いた。


 迂闊だった。その方向に立っていたのは王子だった、この国の第一王子でゲーム中最高の頭脳の持ち主であるフランク・ボナパルトだったのだ。


 狂四郎は咄嗟に私を強く抱きしめてきた。私は幸福と不幸に挟まれて言葉を失ってしまったのだ。

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