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02.転生先で差し伸べられる手

2話目、転生先で主人公の女の子の前に男が現れます。


必死の逃走を図る二人の未来は如何に。お楽しみ頂ければ幸いです。

 ふと目を覚ました。


 私が目を覚ますとどう言うわけか人々が心配そうにその私の顔を覗き込んでくる。何かあったのかと私は寝ながらに首を傾げて思案に耽る。


 そもそもここは何処だろう?


 そして私を覗き込んでくる人々、見覚えがある。ふむ、そのうちの一人、特に彼は絶対に見たことがある。とても美しい外見をした少年が不安そうに私を真っ直ぐな目でジッと見つめるのだ。


 私は更に記憶を呼び起こそうと「あれれ?」と呟きながら少年を逆に覗き込む。どうやら少年は私を知っているらしい。そうでなくては説明が付かないのだ。



 そうでなくてはこんなにも私を心配そうに見つめる筈がない。



 油断をしていると思わず惚れてしまいそうになる少年の美しさに逆らうように私はブンブンと首を左右に振って、更に記憶を掘り下げる。それでも記憶を呼び起こせない。


 そんな状況に流石の私も焦りを見せてアタフタとすると周囲の人間の一人が口を開いた。そしてその言葉で私は少年の正体を思い出したのだ


「殿下、お下がりください。ご令嬢は混乱しているご様子、私どもの方で症状を確認いたしますので」

「……そうですね。では専門家に任せましょう」


 ん? ご令嬢って誰のこと? 私が見る限りでは周囲にいるのは執事らしき服装の男性数名とメイドらしき衣装の女性が数名。そして豪華ながらも品を兼ね備えた衣服を身に纏った美少年が一人。



 どこにも『ご令嬢』と呼べるような人物はいないのだ。


 そして私は少しばかり引っ込み思案な女子高生。あれれ? この人は何を言ってるのだろうか?



 私は再び混乱し出して寝転びながら「うーん」と、まるで何処ぞの名探偵の如く考え込んでいった。するとそんな私を見て少年は眉を顰めて心配そうに私の目を射抜く。




 やべえ、美少年って凶器だわ。




 こんな恋愛初心者の私すらも容易に飲み込まれそうになるのだから。今までの私ならば異性と目すら合わせられずにそっぽを向いてしまう筈だ。その上、周囲には数人の男性がいる。いつもの私ならば口すらまともに開けずに港に上がったマグロの如く全身が硬直してしまうだろう。


 だが、その兆候が訪れない。おそらく私はこの少年の美しさに神秘性をでも覚えてそんな緊張すらも忘れていると思う。



 少年のその目に吸い込まれそうになる。



 だが私は思い出したのだ、あの人のことが忘れられない。私の身を心配して声をかけてくれた愛しいあの人のことを。必死になって身を挺してまで交差点に飛び込んできてくれたあの人を。


 名前も知らないけど初恋の相手が忘れられないのだ。



 私は「ふう」とため息を吐いて全身の状態を確認した。うん、なんともない。この状況になった経緯は謎だけど私の体はなんともないらしい。



 それを確認して私はスッと上半身を起こした。するとやはり少年は心配そうに私を見てくる。やっべえ、やっぱりこの少年は凶器だわ。少しでも気を抜くと涎が垂れて来そうだ。そんな態度を見せたら公爵家の令嬢として失格だとお母様に怒られてしまう。



 

 ……ん? 公爵家の令嬢?




 私は何を考えてるのだろう。私のウチは至って平凡なサラリーマンが家計を支える一般ピーポー。そして私はその娘でご令嬢などでは決してない。


 私はやはり混乱しているのだろう。何とか記憶を掘り起こそうと私は己の頭を調子の悪いテレビのリモコンでも扱うようにガンガンと叩いてみる。するとどうだ、周囲の人々はこれまでにないほどに慌て出す。



 え? 本当にどうしたのだろう。そして遂に私も混乱が極まって自分自身が誰なのか分からなくなっていった。



「ここはどこ? 私はだーれ?」



 そう呟くと一人のメイドらしき女性がスッと前に出て私を見下ろすように話しかけてきた。なんか少年が一際美少年だから感覚がおかしくなるけどメイドさんたちも全員美人だ。何と言うか一般ピーポーの女子高生の私には目に毒、いや違うな、



 平均顔の私には重力に従って地面に肩を落とすほどに落ち込んでしまった。



 そんな精神状態の私はメイドさんの言葉を無視して一人落ち込んだことをぼやいていた。


「あなたはアイシア様ではありませんか? しっかりして下さい、王子殿下の御前ですよ? ブラトニー公爵家の御令嬢として殿下へのこの態度は失礼に当たります」

「しょぼんちょ……、凹むわー。メイドの皆んなが美人すぎて私ってピエロか何かですか?」

「「「「えっ!?」」」」



 どう言うわけか周囲が騒然となる。何だろう? 全員がまるで動物園の猿でも見るような目で私を凝視する。その目つきいくら何でも失礼じゃないのか?


 私はその視線に気分を害してぷくーっと頬を膨らませて抗議の意思を態度で示す。すると今度はどう言うわけか、全員が慌て出すのだ。


 メイドから執事までその全員が慌て出して今更ながらに私を持ち上げるのだ。「お人形のように可愛い」とか「花のような可憐さが素晴らしい」などと私の人生で言われた記憶の無い聞いているこちらが恥ずかしくなるようなことを平然と言ってくるのだ。



 そして終いには美少年までもが私を褒める。


「あなたは可憐です。その様に頬を膨らませては美しさが台無しですよ?」


 はあ? コイツは何を言ってるんだ?


 今までの周囲からの私の評価など「中のなかの中、キングオブ中」とか「平均台に愛された平均顔」などとロクなものは無かった。そんな風にいじけて見せて少年の顔をジッと見つける。



 抗議を示すための行動のつもりだった。



 だが私はふと思い出したのだ、私が以前にハマっていた乙女ゲーム『薔薇が彩る庭園にて』に確かこんな風な美少年の王子様が登場人物にいた事に。そして「あれ? あれれ?」と間抜けな声を漏らしては再び何かに引っ掛かりを感じ取っていた。



 そう言えばあのゲーム、登場する悪役の令嬢が心底嫌な奴でプレイしながら散々に愚痴っていたっけ? そうだ、見た目こそ花の様に美しいがその実は王子と結婚して絶対権力を手中に収めたいと野望を抱く悪役令嬢がいた筈だ。



 ……え? 確かその悪役令嬢の名前は……『アイシア・ブラトニー』だったっけ?




 え!! 私じゃん!!




 ぎゃあああああああ!! もしかして私ってその悪役令嬢に転生しちゃったの!?


 嘘よ、嘘!! これは現実じゃない、絶対に交通事故で死んだ瞬間に見る走馬灯か何かだってば!!


 私は手にした情報の全てが己の記憶と繋がって周囲のことなど気にも止めずに騒ぎ出してしまった。この状況が己の妄想だと証明したくてやれる事を全てやるべくスッと立ち上がって走り出した。


 そして記憶がある、私がいる場所はアイシアの実家のブリトニー邸の中庭。私は婚約者として国の王子を充てがわれて良い気になってその王子の訪問を接待していたのだ。



 嘘だ、絶対に嘘だ。



 こんな現実があってなるものか、私は廊下を走って鏡を探し回った。そしてようやく屋敷のエントランスらしき場所で目的の鏡を見つけて己の顔をしっかりと確認した。



 そして絶望する。



 その鏡に写っているのは正真正銘の子供時代のアイシア・ブリトニーだったのだ。


「この走馬灯はいつになったら終わるの?」


 そう呟きながら私は突っ伏すが、その場には私の言葉を肯定してくれる人などいない。寧ろ遠くから私の名前を呼んで近寄ってくる人の気配がする。その声は先ほどの美少年、この国の第一王子である『フランク・ボナバルト』。


 ドイツ語で『笑顔』の意味を持ったフランクをファーストネームに持つこの国きっての天才的頭脳の持ち主で、いずれは私を殺しに来る最大の宿敵だ。


 私は己の未来を知っているからこそ王子に恐れをなして腰を抜かしてその場から動けなくなってしまった。「来ないで」、そう呟きながら絶望で顔を歪ませながら私は頭を抱えてしまった。




 そんな時だった。




 またしても聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ。今度はゲームの様なアニメ声では無く、とても渋い声。王子を始めとして先ほどのメイドも執事もアニメ声だった、だが今度は全身を震わせる私に粗野ながら優しさに満ちた声をかけてくれる人物がいる。


 その人は震える私の肩を掴んで大声で説教をしてくるのだ。説教と言う人の感情からすれば決して良い感情を抱かない声に私はどう言うわけか幸福を覚えていた。そしてその声に反応するようにソッと顔を上げていた。



「おい、クソガキ!! テメエは異世界転生してまで廊下を走るんじゃねえよ!!」

「……井伊直弼のファンの人」

「ああん? テメエは何を言ってんだよ。俺は警官だよ、れっきとした警官。みりゃあ分かんだろう」



 いや、絶対に分からない。



 だってこの人の口調ってもの凄くドスが効いてるのだ。私も恋に落ちてフィルターをかけてしまったらしく今更になって愛しの人が何処ぞのヤンキーのような口調である事に気付いた。


 そしてもう一つ気付いたことがある。この人もどうしてここにいるのだろう?


 私はもはや己のことで精一杯だったにも関わらず、ここに来て更なる謎がトッピングされて訳が分からなくなっていた。当然ながらそれを一人で抱え込める筈もなく、私は愛しの人にそれを問いただした。


「どうして私たちはこんなところにいるの?」

「んなこたあ俺が聞きてえよ。……テメエ、あの時のガキだな?」

「……分かるの?」

「何でだろうなあ、テメエの事だけははっきりと分かりやがる」


 名も知らぬ愛しの人は私の前でしゃがみ込んでガシガシと頭を掻いていた。そして「めんどくせえ」とでも言わんばかりに大きくため息を吐いていた。私は彼のこの態度が何を意味するのか良く分からなくて再び問いかけていた。


 私自身も現状に不安を深めていたから今後はオドオドと自信なさげに口を開いていた。


「……どうするの?」

「ああ、どうすっかな。お前は記憶が戻ったのはいつだ?」

「ついさっき」

「俺はさっきこの世界に来たところだ。もしかして転移転生って奴か? 漫画やアニメであるような」

「……多分、私は転生したんだと思う。ここは乙女ゲームの世界にそっくりなの、私はゲームをプレイしたことがあるから調べればはっきりすると思う」

「で俺は転移か。もしかしてあの交通事故がトリガーになったのかもな。ああ、めんどくせえ!!」


 愛しの人は再びガシガシと頭を掻いて溜まった鬱憤を晴らすように大声で叫び始めた。そして何かを決意したらしく何の前触れもなく私の目を覗き込みながら静かに口を開いた。


 この人、なんて言えば良いか分からないけど見た目に反してとても穏やかない空気を守っている様に感じる。これは直感だ、そしてその直感は彼の言葉によって即座に肯定される事となった。


「テメエ、嫌なことがあったんだろ? 逃げんぞ」


 そう言って彼は立ち上がってそっぽを向きながら涙を流す私に手を差し伸べてきた。私は何をどうすれば良い分からず混乱していたからか、何の躊躇いもなく彼の手を握り返していた。


 そして再び問いかけた。


「どうして助けてくれるの?」

「ああん? 俺は警官だぞ? 困った人を助けるのに理由なんていらねえよ」


 彼はそっぽを向きながら照れるようにそう答えてきた。だけど、そんな義務のような理由で彼が照れるのはどうしてだろうと思い、私はジッと彼の目を覗き込んだ。すると彼は降参だとでも言いたげにめんどくさそうに両手を上げながら答えを付け足してきた。


 うん、この人はやっぱり良い人だ。


「あれだ、俺はこんななりだからよ女から好きだなんて言われたことがねえんだよ」

「……覚えててくれたんだ?」

「ったりめえだ!! ……女に恥をかかすなんざ男のすることじゃねえ」

「答えを聞いても良いの?」

「……俺は女とまともに会話したことなんざねえ。寧ろ話しかけるとビビって何処かに逃げやがる」

「うん」

「だから!! 初めて声をかけてくれて悔しいけど嬉しかったんだよ!! 悪いか!?」


 なんだ、この人も私と同じだったんだ。


 彼はその見た目から想像も付かないほどに純粋だった。そして私が最初に感じた印象は間違っていなかったのだ。この人は精神的にイケメンだった。



 私は己の気持ちが届いたことが嬉しくて真っ赤に顔を染め上げてトロンとした表情になっていた。そして胸の前で手を握りしめて彼に懇願するように本音を告げた。


 王子に捕まることが恐ろしかったのも本音だ、だけどそれ以上にこの人と一緒にいたいと言う願望が心の内から溢れ出してくる。私はその願望が抑えきれずに彼に抱きついて、この世界に来て初めての笑顔を浮かばせていた。


「一緒に逃げて」

「行くぞ、惚れた女は俺が守ってやんよ」



 きゃーーーーーーー!! やっぱりイケメン、精神的にも外見的にもイケメンじゃん!! ちょっと見た目が怖いけどそれを差し引いてもお釣りが来るほどにイケメンじゃないの!!



 私は目をハートにさせながらここから離れる前に最後の質問をした。当然ながらそれはとても重要な事で私自身もそれを教えたかったから。


 ……と言って転生した反動からか『元のそれ』を思い出せないから『今のそれ』ではあるが。彼は私を抱き上げてその場から走り出した。そして走りながらに私の話に耳を傾けてくれて、答えもしっかりと口にしてくれたのだ。


「私はアイシア・ブラトニー、あなたの名前は?」

「俺は亀梨公園前交番勤務の勘解由小路狂四郎かでのこうじきょうしろう警部補だ」


 私の愛しい人はとても覚えづらい名前だったけど割と将来有望そうな人でした。この人って見た目から推測すると二十代半ばだと思う。そんな人が警部補だなんて絶対に将来は安泰じゃない。


 警部補って警察の階級だとそこそこだった気がする。


 しかし私の思考など置き去りにして狂四郎は屋敷の外を目指して全速力で走り抜けていた。後方から王子やメイドたちが私の名前を呼んでいるのが聞こえてくる。そして「お嬢様が誘拐されたぞーーーーー!!」と執事たちが騒ぎ始めた。


 私はその騒動を子守唄代わりに狂四郎の腕の中で静かに眠りにつくのだった。

下で評価や感想など頂ければ執筆の糧にさせて頂きますので

宜しかったらどうぞお願いいたします。

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