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Good Bye.悪役令嬢的グッドエンドへの道筋

 一度完結してまた悔しくて連載を復活させましたが、取り敢えず描きたいことを描き切りました。

アクション性を加えてみたく、そしてどう言った経緯でヒロインの相手が貴族へと駆け上がっていくのか、その道筋を描けて満足しています。


 と言うことで二度目のフィナーレとなりますが、どうぞ最後までお付き合い頂ければ幸いです。

 ポスんと私の頭にチョップを落とす感覚がする。少しだけ粗野だけととても優しい感触だ。


 私は「むー」とリスの如く頬を膨らませて抗議の意思を示す。決して痛くないのにわざとらしく頭部を押さえつけてチョップを落とした張本人を下から睨み付ける。


 その張本人と言えば一切として悪気を見せずに「あんだあ?」と呟くのみ。



 私ことアイシア・ブラトニーは最愛の人、勘解由小路狂四郎と並んで警察署の留置場を歩いていた。コツコツと歩く度に足音が響くこの場所で私は狂四郎に向かって文句を口にした。


「痛いんですけどー?」

「テメエが悪い」

「何でよー!? ちょっとは褒めてくれても良いのに」


 そんな風に婚約者とのたわいもない会話が足音と同じように不必要に響き渡る。



 ここは留置所だ。



 先ほどの私は銀行強盗に巻き込まれて警察署でその事情聴取を終えたばかり。そして粗方のことを話し終えて、ではそろそろ帰宅しようか、と普通の人間ながばそう思うだろう。


 だけど私は気になることがあって私は警察署の留置所へ足を運んでいた。


 ジメジメしていて外の光が差し込まない場所、ココは公爵家の令嬢が足を運ぶ場所ではない。私がここに行くと言いだすと誰もが反対した。



 それでも確認したいことがあると私が押し通すと狂四郎が『じゃあ俺も一緒に行ってやる』と言ってくれたのだ。


 そんな訳で私と狂四郎は隣り合って留置所の廊下を歩く。向かう先に辿り着くと狂四郎に「口を挟まないでね?」とだけ言って私は目的の人物に視線を落としてゆっくりと話しかけた。


「気分はどう?」

「絶好調、とでも言うと思ったか?」


 今回の銀行強盗の主犯格である男は牢屋からなんとも言えない視線を私に叩きつけながら恨めしそうに言葉を返してきた。


「聞きたいことがあるんだけど」

「……物好きなこった。公爵家のご令嬢ともあろうお人がこんな場所で銀行強盗に聞きたいことがあると来たもんだ」

「長居する気がないから単刀直入に聞くけど、アナタ……貴族に何をされたの?」

「聞いてどうする? そもそも俺が本当のことを話すと思ってるのか?」


 強盗は牢屋にいるからか、それとも今回の事件と直接関係することではないからか、余裕を醸し出しながら私に接してくる。彼は既に犯罪者、そして刑罰を受けることは確定している。



 だからある意味余裕があるのだろう、人生を諦めていると言ってもいい。



 私はそれを巧みに操って男に交渉を持ちかけた。


「話す内容によっては刑罰の軽減、或いは恩赦の根回しをしても良いんだけど?」

「……何が目的だ?」

「別に、だたこの国は貴族の犯罪を軽視している、私はそれを正したいだけ」


 私はたまに思うのだ。


 この世界は『薔薇が彩る庭園にて』と言うゲームの世界、だからだろうか、ゲームのイベント以外では犯罪への対応や事前防止と言った動きが鈍い。


 と言うよりも危機意識が希薄に感じるのだ。


 それは転移者である狂四郎も同様に感じていること。


 この国は周辺諸国と比べて比較的平和、そう言った設定があるのみで決して警察が優秀でもないし、普通に犯罪は起こる。貴族の起こす犯罪なんて暗黙の了解の如く特に気にする人間もいない。


 清廉潔白な父にそのことを話しても子供の戯言としか思ってくれなかった。


 立派な道徳は存在するけど、存在するだけでそれを逸脱した人間がいたとしても誰も見向きもしないのだ。だから私は真剣な顔付きで強盗に向かって心の内を打ち明けた。


「……俺はこの世界の人間じゃない、そう言って信じるか?」

「え?」

「信じないわなー、普通の人間なら信じないだろうよ。日本って国で生まれて育って、気が付いたらこの世界にいた。そう言ったって誰も俺の言うことなんて信じない、だから俺はここから先は何も言わない」


 私は驚いて狂四郎の方を向くと彼もやはり驚いていたようで、目を見開いて私にコクリと首を振ってきた。


 そして私は狂四郎に促されるように言葉を吐き出していった。


「私もこの世界の人間じゃないの、私も日本人だったわ」

「何?」


 そう呟いて強盗はゆっくりと視線を私に向けて上げてきた。


 あれ? この強盗の仕草、後とかで見たことがある気がする。


「後ろの彼も日本人よ、私は転生、彼は転移してこの世界に来たの」

「……日本人なのに俺を見てなんとも思わないのか?」

「へ?」

「俺はこれでも有名ベテラン俳優だったんだけどな。まさか知らない人間がいるとは……」


 あ!!


 この人、やっぱり見たことがある!!


 私は再び驚いて狂四郎の方を向いた。すると今度は狂四郎も酷く動揺しながら何度もコクコクと首を縦に振っていた。


 この人、日本人初のアカデミー賞受賞俳優の大鬼熊瓦丸健おおおにくまがわらのまるけんだ!!


 私と狂四郎があまりの衝撃に口をパクパクとさせていると、寧ろこう言った反応が証拠となったのか強盗は憑き物でも取れたかのような表情となってため息混じりに口を開いていった。


 彼自身が言うには突如なんの前触れもなく転移してこの世界に来たそうだ。そして彼の場合は周囲に頼る人間がおらず、転移して間もなく衣食住が困窮したと言うのだ。


 その場凌ぎに日雇いの仕事で一日を凌いで、寝泊まりは馬小屋か野宿。


 そんな生活を強いられたと言う。そしてそんな彼にある事件が起こった。



 それは浮浪者狩り、彼は野宿しているところを運悪く貴族が気まぐれで決行した取り締まりで捕まってしまった。そして気が付けば彼は奴隷同然の扱いを受けて、屈辱的な日々を送る。


 今、彼がこの場にいるのは周囲の目を盗んで逃げ出したからだと言う。


 そして今もまともな職に就くことなどできず、ましてや一度奴隷として扱われて、その刻印を体に刻み込まれるらしい。奴隷の刻印は一生消えない、だから彼らは一度底辺に落ちると一生涯這い上がれない。



 底辺の人生を一生背負って生きねばならないのだ。



 私と狂四郎はあまりの衝撃的な事実に唖然としていると大鬼熊瓦丸は呆れた様に口を開いていった。


「奴隷なんて聞いたこともないって顔をしているな」

「この国でそんな非道な行いがされてたなんて知らなかったわ」

「この国じゃない、俺は他国で奴隷になってこの国に逃げてきたんだ。とは言え一度でも落ちれば奴隷は一生奴隷。国境を越えても扱いは変わらんさ」


 大鬼熊瓦丸は今後はひどく疲れたような顔付きになって深いため息を吐いた。事実彼は本当に疲れているのだろう、心身ともに疲労困憊と言った様子が見て取れた。


 だけどコレは私と狂四郎にとっては事件だ。


 何しろこの世界には私たち以外に日本人がいると分かったのだから。それが判明した後の私たちの決断は早かった。互いに顔を突き合わせコクリと首を振ると狂四郎は無言のまま留置所を後にした。


 そして私はそんな私たちの反応にキョトンとする大鬼熊瓦丸に向かって振り向いて再び口を開く。


「まずはアナタにここから出てもらうわ」

「……何を企んでやがる?」

「この国の、……いいえ、世界の治安を向上させたいの」

「何のために? テメエは公爵家のご令嬢だろうに、そんなもんを目指さなくたって安全は確保できてるだろう?」


 違うのだ。


 確かに私は高位貴族、だけどだからと言って私自身の安全が確保されている訳でない。寧ろ悪役令嬢だからその危機に最も晒されている立場だとも言える。


 だから自らの安全を確固たるものにしたいだけだ。


 攻略対象の王子二人に国王陛下、それと近衛騎士団長、実の弟に獣人の男の子。彼らとのイベントはそう言った治安意識が高まれば必然的に回避できるものばかり。



 単純に自らの保身が目的ということ。



 私はその想いを打ち明けながら鉄格子越しの大鬼熊瓦丸に出来るはずもない握手を求めていた。


「私はこの世界で好きな人と一緒に静かに暮らしたい、そう望むだけの女の子だから」


 すると大鬼熊瓦丸はガシガシと頭を掻きながら「しょうがねえなあ」と呆れながら呟いていた。


「想いがシンプルな分だけ分かりやすい。……良いだろう、力を貸してやるよ」


 こうして私は大鬼熊瓦丸と交わることのない固い握手をした。



 この後、釈放された大鬼熊瓦丸は狂四郎と力を合わせてゲームの世界に警視庁を設立することとなった。狂四郎は元々警官だったことから、そのシウテムや法律に造詣があり、それなりに苦労がありながらも僅か数年間でそれを達成した。


 そして狂四郎はその功を持って最初の爵位を得ることになる。


 爵位と言っても士爵と言う准爵位で一般庶民が大きな功績を残した際に国から与えられる謂わば騎士階級のそれだ。


 狂四郎はそれを踏み台にして一気に功績を積み上げて数年のうちに念願の爵位を得て、伯爵にまで上り詰めるのだ。


 私は廊下を走る狂四郎の背中を遠くから見つめて、そんな未来が近いうちに来ると根拠のない確信を胸に抱いていた。



「やっと道筋が出来上がったわね」



 私と狂四郎の未来地図は留置所の廊下から始まることとなったのだ。物理的な距離は遠のいていく。だけど心は常に隣にある。


 だから私と狂四郎はずっと同じ想いを抱いて、同じ目標に向かって同じ視線で歩んでいくことは決して覆ることはない。



 転生した時に彼から差し伸べられた手は暖かく、そしてずっと隣にいるためにはその手を絶対に離してはいけない。私は顔を赤らめながらギュッと手を握りしめてそう誓うのだった。

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