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Return①.戦う悪役令嬢

 先だって完結させたけど妙に悔しくなったので、連載を再開することを決意しました。


 超々スローペースになりますが、それでもお読み頂ければ幸いです。

 私の名前はアイシア、アイシア・ブラトニー。悪役令嬢だ。


 ひょんなことから『薔薇が彩る庭園にて』と言う乙女ゲームの世界に転生を果たした私だったが、今はそのゲームの登場人物として青春を満喫している。


 と言っても実家が公爵家と言うこともあって完全な自由を得ている訳ではない。それでも私の隣には常に愛しい人がいるから残念な女子高生だった前世に比べたら段違いに幸せだ。




 それこそ薔薇に彩られた人生、と言う奴である。




 そんな幸せな毎日を送っていた私だったが、現在後悔している真っ最中。怒声と悲鳴、そう言った負を連鎖させる人の叫び声が鳴り響くのだ。「ひい!!」とか「きゃあ!!」なんて生ぬるい。


 ノンノン、そんなものじゃ今の私はビビらない。


 じゃあどんな声が鳴り響いているかって? それはこんな感じです。



「さっさとこのカバンにあるだけの金を詰め込みやがれ!! じゃねえとテメエらの大切な聖女様の顔に傷がついちゃうぞ!?」

「ヒッ、ヒイイイイ!! き、君。早急に金庫からありったけの現金を出してきて!!」



 はい、私はたった今銀行強盗に巻き込まれてます。と言うか人質に取られてるんです。眉間にゴリゴリと銃口が突きつけられて、私はプルプルと震えて怯えるしかやることがありません。


 私はまるで梅干しでも食べた後の如く口を突き出して怯えています。如何に私が悪役令嬢だって出来ることと出来ないことくらいある。だから今は銀行員の方々のご対応に縋るしかなく、強盗にはされるがまま。


 王都一のサービスを誇るこの銀行は強盗さんに笑顔で接客をしてくれています。


 どうしてこんなことになったかって? 私がまたしても実家に財布を忘れたからです!! 今日は久しぶりの王都への外出の日、そして前回は見事に財布を忘れてしまった訳で。そんな私を案じて付き添いのメイドが万が一のために銀行の通帳を携帯してくれていたらしい。


 それは嬉しい。純粋に私のためを思っての行動だから。だけど、この状況に陥ると今更になって思うことがある。


 だったら最初から財布を持ってきてくれても良くない!?


 私は己の失敗とメイドのズレた対応に涙しながら少しずつ周囲の状況に気付き始めた。そして、それを憂いて口を開く。


「子供も人質にされてるの?」

「へっへ、聖女様は自分のことよりも庶民のガキが大切ですってかあ!?」

「……いくらなんでもやり過ぎじゃないの?」

「へええ? 本当に噂通りじゃねえか、じゃあテメエを人質にすりゃあ王都の銀行全てが金を惜しまねえって話も本当なのかなああああ!?」


 ムカつく、この銀行強盗は本当にムカつく。


 まるで私を子供扱いするかの如く、実際子供ではあるが小バカにした態度で銃口を突きつけてくる。と言うか一番ムカつくのは今現在銀行員の手によってカバンに仕舞われている紙幣だ。



 どうしてこの国の紙幣の全てに私の顔が印刷されてるのよ!?



 国王が私をいたく気に入って新紙幣を発行したことが経緯らしいが、そんなことをサラッとするから銀王強盗の人質になんて使われちゃうんでしょうが!! 今回のことの発端は全てあのおっさんにあると思い始めてきた。


 この国の通貨はルーブル、お札は一千ルーブルに五千ルーブルと一万ルーブルの三種類。一千ルーブルには私のドレス姿が、五千ルーブルにはパジャマ姿、そしてどう言うわけか一万ルーブルには水着姿が印刷されているのだ。


 どう言う経緯があるとグラビアアイドルみたいなポーズを取った私が紙幣に印刷されるんじゃい!!



 現状の危険度とは裏腹に私の感情は怒りに満ち溢れており、紙幣を目にするたびに眉間に皺が寄っていく。そしてそんな私を挑発するかの如く強盗はまたしても私を小バカにするようなことを口にするのだ。


「ヒュー、聖女様は結構良いスタイルしてんじゃねえか」

「……それはどうも」


 強盗は私の目の前で紙幣をチラつかせてくる。そして強盗は仲間に対してもヒラヒラと紙幣をなびかせながら「ひん剥いたら結構楽しめんじゃねえか?」と下卑た話題をしだす。



 銀行内に緊張が走る。



 銀行員の人たちが私を真剣に心配してくれるのが伝わってくる。強盗を刺激しないようにと必死になってカバンにお金を詰め込んでくれる。私はそれが悔しくて表情を歪めていた。


 更に言えば人質にされている子供が怯えている。こちらも強盗が不必要に拳銃で脅すから今にも泣きそうなのだが、それを一緒にいる親が必死になってあやす。子供も「聖女様に何かあったら大変だから我慢する」と言ってくれる。




 悔しい。




 私はあの日、フランクと戦った日に狂四郎に誓ったのに。私は足手まといになる気はないと。なりたくないと望んだのにこれが現実。如何に私が魔法を使えても、それは直接攻撃なんて出来ないし、何よりも魔法は国家の重要機密。


 こんな人気のある場所で堂々と使えば実家のブラトニー公爵家が責任を問われてしまう。


 悔しさで頭がおかしくなりそうだった。私は令嬢らしからぬ歯軋りの音を鳴らせて悔しさを隠せずにいた。すると私を人質に取っている強盗が更に挑発を続けてくる。


 舌を出してレロレロと言った具合に挑発してくるのだ。その舌にはピアスがあって本当に荒くれ者、と言った様子が窺えてくる。


「聖女様は自分の命とあんなガキの命とどっちが大切なんだあ? バッカじゃねえの?」

「……アンタは人の命とお金とどっちが大切なの?」

「説教か? なーんかムカツいちまった」

「……ムカついた理由すら分からないんだ?」

「聖女様よー、俺たちに少しだけサービスしてくれよ?」

「なんの話?」



 強盗は下卑た笑みを浮かべて拳銃を相変わらずチラつかせてくる。そして笑みに影を落とすと同時に銃口を動かしてドレスの裾を捲し上げてきた。


 あー、こう言うことね。サービスってコイツらの欲望を満たせと、そう言うことか。




 やはり悔しい。




 こんな奴らの言いなりだなんて絶対に嫌、私には狂四郎がいる。だからこんな奴らの慰みものになんて絶対になりたくない。


 だけど私が下手な行動を起こせば子供に危害が及ぶ可能性もある訳で。私が一体何をしたと言うの? あの子供だって何もしていない、その親だって同様だ。銀行員たちだって普通の仕事をしていただけじゃない。


 なのにこの強盗たちは己たちの欲望を満たすことしか考えていない。




 許せるものか。




 そう思った時だった。私の頭の中に言葉が響き渡る。その声はまるでプログラミングされたようなそれで淡々と私に語りかけてくるのだ。私はこんな逼迫した状況にも関わらず目を閉じてその声に耳を傾けていった。


(アイシア・ブラトニー、クラスは悪役令嬢。戦闘行為は不可能です。戦闘可能なクラスにチェンジを申請しますか?)

(あなたは誰?)

(今一度問います。チェンジを申請しますか? 状況に応じたクラスへのチェンジとなりますので、あなたにクラスの選択権はありません)


 聞いたことのある声だ、どこだったか冷静になって考える。すると一つの答えに行き着くのだ。そうだ、これは『薔薇が彩る庭園にて』のチュートリアルで流れる声。それを思い出すと全てのことに辻褄があってくる。


 『クラスチェンジ』、一見して聞き覚えのない単語だが、それもゲームをプレイした私には分かる、理解出来る。


 ゲームをクリアするとその特典として『とあるミニゲーム』が開放されるのだ。私は静かに納得して首を縦に振った。するとその私の反応をどう受け取ったのか強盗たちが騒ぎ出す。


 どうやら私の聞いていないところで妙な内容の会話が進んでいたらしく強盗たちの真に下卑た会話が聞こえてきた。だが私はそんな強盗たちの反応には一切の興味を示さずに成立することのない言葉を口にしていた。



「ヒョー!! 聖女様がストリップショーをしてくれるってよおおお!! テメエら、楽しもうぜえええええ!!」

「クラスチェンジを申請する、この場の全員を救える力を私に頂戴!!」

(申請を受理しました。アイシア・ブラトニーは悪役令嬢から『悪役令嬢モンク』にクラスチェンジします)


 私の全身から眩い光を発していく。私はただの悪役令嬢から戦う力を持った『悪役令嬢モンク』へと変化していくのだった。

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