To Be Continued②.忍び寄る影
後日談の第一弾の後編です。少しだけ長めなので二分割しています。
悪役令嬢の活躍はもう少しだけ続きますので、お付き合い頂ければ幸いです。
私は騎士に呼ばれて歩き出して国王の前で礼を取って挨拶を口にした。うう、ドキドキするんですけど。私は中身だってただの女子高生で見た目なんて10歳。まさに『見た目は子供、頭脳は残念な女子高生』状態なわけで、こんな仰々しいイベントなど無縁に生きてきたのだ。
「陛下におかれましてご機嫌麗しく」
しかも国王はフランクと同様に超絶なイケメンで、ダンディーなおじ様と言った風貌だから私は余計に緊張してしまった。何か粗相があれば公爵家にまで波及するからと、アニメのブリキのオモチャの如く珍妙な動きをしてしまった。
「お嬢様、ファイト!!」と部屋のドアの前からメイドが応援してくれる。謁見となれば流石にメイドは同伴出来ないと言われて、彼女はならばせめて部屋の前で応援をすると言ってくれたのだ。そしてどう言うわけかそれが許されてしまった。
ゲームの世界って緩いわー。
皆んな過保護だなー、と思い辟易するもそこまで心配されては逆に失敗出来ないと気を引き締めた。そして私は王族に失礼があってはならないと貴族令嬢として最低限のマナーを守りつつ国王と対話を始めた。
国王は想像以上にダンディーで渋い声の持ち主だった。
「良い、楽にせよ。其方の父は我が盟友、ならば其方も我が娘と同義だ」
「光栄の至りです」
「ふっ、普通に話せ。今回は其方に相談があって来て貰ったのだ、堅苦しくされては余が困る」
そう、私が今回呼ばれた理由は国王の言った通り、国王が私に相談したいと言うことだったのだ。と言うのも、国王は王妃を失ってから二ヶ月が経ち、この人は王妃をどう弔おうか悩んでいるのだ。
つまり今回の私への相談とはその件な訳だ。なんでもフランクが私のことを相当に持ち上げて国王に話したらしく、その私を気に入ったと国王は「ならばアイシア嬢に相談するとしよう」とか言い出したそうです。
あの『クソ王子』め、余計なことを言いやがって。
ゲームのシナリオ通りだと国王はこれから五年の年月をかけて庭園に花壇を作ることを思い付くそうだが、今更ながら思うことがある。
国王ってバカなのかな?
だって五年もかけないとその程度の案も出ないんでしょ? 私はゲームをプレイしながら「なんてロマンチックな人なの」とうっとりとしていたけど、良く良く考えれば一瞬で思い付きそうなものでしょうに。
これは絶対に運営の失態だ、頼むから運営もこんな素敵オーラを放つダンディーなおじ様にバカのレッテルを貼らないでくれません? と私は心の中で葛藤していたが、そんな私の様子に「どうした? 気分でも優れぬか?」と国王にまさかの心配をされてしまった。
私はやってしまったと思い、慌てて対応を返す。
「……失礼いたしました。アイシア・ブラトニー、身命を賭して陛下のご相談を承ります」
「楽にせよと言った、余に恥をかかす気か? 余は本当の其方を見たい」
「うーん、良いんでしょうか? 近衛騎士の皆さんに手打ちにされませんか?」
「クックック、愚息の話以上に面白そうな令嬢だ。グレゴリーもそうは思わんか?」
「まさにまさに」
私の素に国王は笑って対応していた。そしてその隣に佇むこれまたダンディーなおじ様に上機嫌な様子で相槌を求めていた。男の名前はグレゴリー・オリルール、この国の筆頭武官にして国王陛下付きの近衛騎士団団長を務めるゲームの攻略対象である。
長い銀髪に鍛え上げられた肉体が特徴の仕事男で国王のためならば平気で己の命を犠牲にできる男。
このゲームは攻略対象が王子二人と近衛騎士団長に私の10歳年下の弟、それと王宮周辺の森に住まう獣人の男の子で、非常にカオスなゲームなのだ。
グレゴリーはどう見積もっても50代、15歳のヒロインと恋に落ちるなど犯罪だろうにと私は今更ながらに頭を抱えてしまった。と言うか私の弟なんて今年生まれたばかりでヒロインと出会う時なんて5歳ですよ? これはこれで別の犯罪に該当しそうなものだ。
それと他に隠しキャラがいるのだが、まあ今は良いか。
私は国王とグレゴリーを交互に見てどう対処しようかと思案していた。すると国王はそんな私の様子の何がおかしかったのか、またしても笑いながら口を開く。そして単刀直入に本題を切り出してくるのだ。
「ハハハ、余は其方と会うのを楽しみにしておったのだ。手打ちになどさせんよ」
「陛下は軽すぎです」
「気を付けよう、アイシア嬢に相談したいのは崩御した王妃についてだ」
「お悔やみ申し上げます」
「其方はかったいのー、これだけ楽にしろと言ってるのにまだやるか?」
「いえ、これは人として当たり前ですよ?」
「やっベー。グレゴリー、10歳の女の子に説教されちゃったよ」
「陛下がいくらフリーの身でアイリス嬢が見目麗しくとも10歳に惚れたら負けですよ?」
いや、それをグレゴリーが言ったらダメじゃないの? アンタだって五年後に15歳の少女に惚れちゃうんだから、と心の中でツッコむも今は蛇足だと思い、私は心に押し留めた。
それにしても軽い、軽すぎる。
一国の国王とその側近が終始この口調で私に話しかけるものだから、私も油断すると本当に素が出そうでハラハラしてしまう。そうなれば本当に不敬と捉えられかねないので、私は本題を進めて貰うべく国王に向かって続きを促した。
王族に催促なんて命懸けなんですけどー、と内心で冷や汗を掻きながら私は慎重に言葉を選んで話しかけた。
「それで本題の王妃殿下ですが……」
「おお。忘れておった、危うく其方に惚れそうになるところだったわ」
だから惚れんなや、そしてグレゴリーも「まさにまさに」とか言って相槌を打つんじゃねえ。アンタもさっきまで国王を制止してた立場だろうが。
「……弔いでしょうか?」
「聡明だな、感が鋭いと言うべきか。余は迷っておるのだ、亡き王妃をどう弔うか。どうしてやれば彼奴が喜んでくれるか、とな」
私はゲームをプレイしている、つまり未来が見えているだけだ。それ故に聡明とか鋭いとかそう言った類の評価は過大評価だと思い勢いよく首を横に振って「そんなんじゃありません」と否定した。
だが国王は「謙遜するでない」とニヤリと笑いながら賛辞をくれる。
やっベー、やらかした。
基本的に私の中身は残念な女子高生であって、あまり評価されると後々に影響してしまう。私はなんとか弁明を続けるもその悉くを国王とグレゴリーに否定され続ける。
オワタ、私の人生、ある意味で完全に終了しました。
己の評価を覆すべく必死に努力するも、その度に返って「控えめなところもそそる」とか危険な会話になっていく。私はこれ以上のボロを出さないためには、もはや一刻も早く謁見を終わらさねばならないと感じて一気に相談のケリをつけた。
そしてこの後にソレが最もマズい選択だったと気付くことになるのだ。
だがそんな未来など私には想像だに出来ず、また知る余地も無かったのだ。それはそうだ、その原因となるのが隠しキャラの攻略対象であり、私はその隠しキャラが誰かを完全に忘れていたのだから。
何度でも言おう、私は残念な女子高生だ。だから記憶力が残念なんです。
「王妃殿下は花がお好きだったと聞き及んでおります」
「其方も花の様に可憐だのー」
「まさにまさに」
「セクハラで訴えますよ? と言うか人の話を真剣に聞いて下さい」
「「はーい」」
「ですので王宮の庭園に花壇など作っては如何でしょうか?」
うん、どうせ五年後には国王自らが同じ案をバカなりに頑張って練り出すのだから良いだろう。どうせ乙女ゲームのヒロインなんてチート能力持ちなんだからイベントが早まったって勝手に登場するだろう、と私は安易に考えていた。
そして見事に私はあの手この手を使って国王を誘導していく。私の話にウンウンと頷きながら国王が好印象を抱いだくれたようで、すんなりと相談が終了した。まあ、私が話している最中にまで「可憐だのー」とおっさんどもが鼻を伸ばすものだから私は不覚にも後頭部に血管を浮かばせてしまった。
そんな態度でいても二人は終始和やかに接してくれて私は無事に謁見を終わらせることが出来た。そして私は無事に部屋を出てホッと胸を撫で下ろすことが出来、安堵感に包まれながらその足で実家への帰路に着いた。
本当の地獄がここから始まることなど知りもせずに私は完全に浮かれていたのだ。心配していた国王との謁見が終わったことで油断していた訳だ。
隠しキャラ、この人物の影が私の後ろに迫っている。この後、私は今日の謁見のやり取りに盛大に後悔するのだが、それはそう遠く無い未来に待っているのだった。
To Be Continued.
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お気に召せばどうそよろしくお願いいたします。
次回がラスト!




