01.運命の出会いと転生&転移
短編的にまとめるつもりで描きました。数話程度に収めるつもりですので、
どうぞお付き合い下さいますようよろしくお願いします。
『ああ、ロミオ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?』
私はこんな言葉に惑わされない。
私はこんな三文恋愛にうつつをぬかさない。
私はそんなに軽い女じゃないから、だって私は恋愛初心者だから。もっともっと衝撃的な恋がしたい。運命の出会いを果たして甘く心を締め付けられるような恋愛がしたい。
そんな風にずっと考えていた。
私は友達は多い方だと思う、トモちゃんにリンちゃん、それにココロちゃん。指を数えて親友の名前を口にする。ああ、皆んなで一緒に行った夏祭りの締めくくりに街の丘で見た夜景が綺麗だったな。
中学生活最後の夏、皆んなで親に隠れてバイトして貯めたお金で隣町の宿にお泊まりしたっけ。親に友達の家に泊まると嘘を吐いて必死になって口裏合わせしたのも良い思い出だ。
私は異性と上手く会話が出来ない。だから中学の時クラスメイトの女子が男子と会話してるのを見て羨ましいと何度も思った、密かに「良いなあ」と幾度と無く思った事か。
最初の一歩が踏み出せない。
私は小学生の時も中学生の時も男子と会話をしたことがない、生まれて十五年間で会話した異性はお父さんとおじいちゃんのみ。SNSでも顔を見ていなくても異性と絡んだ事がない。
飲食店や屋台だって異性がレジ打ちをすると無言のままお金を渡して逃げるように走り去るくらいだ。
それでも男子と会話してみたい。
だから、そう言った反動があったから私は心に決めたのだ。
最初に会話した異性に熱い恋をする、と。
いつの時代の少女漫画だろうか、私は高校生活初日に寝坊をした。寝ぼけながらスマホを確認して慌ててベッドから飛び起きた。そして朝食を取る時間などないから寝癖を適当に直して急いで家を出た。
母から「高校生にもなって一人で起きれんのかい」と嫌味を言われた。良いじゃん、誰にでも寝坊する時くらいあるじゃん!! 今日はたまたま、数年に一回あるかどうかの寝坊の日。
私にとって寝坊はイレギュラーだった。
通学路を走りながら私は想いに耽っていた。高校生になったら絶対に男子と会話してやる。家族しか異性と話したことがないと暴露して修学旅行の夜にクラスメイトからバカにされるようなことはもう経験したくない。懲り懲りなの。
あまり好きじゃないタイプの女子から『ひー、腹痛。じゃあウチのケンタと会話すれば? 柴犬だけど』と言われて思わず引っ叩きそうになった事を思い出す。今思い出しても恥ずかしい、あの時は本当に恥を掻いた。
私は赤面しながら記憶を消去するべく全速力で走る。すると周囲が見えなくなって危険も増える。母親からも「アンタは妄想し出すと周りが見えなくなるタイプだから気を付けな」と散々に言われてきた。
つまり今の私はニュートラル、至って、通常運行なのだ。
そうやっていつもの街をひたすら走って私がこれから三年間通うことになる高校へ向かった。私の家から高校は走って10分、とても近所にある上に有名進学校だから合格した時は両親もとても喜んでくれた。
中学の時の友達もかなり多く合格しており、その時と然して変わらない。私の高校三年間は中学の延長線上にあると言っても過言ではないのだ。
唯一の違いと言えば私の家から中学校は南側、高校は北側。
通学路が違うのみ、だから今の私は普段見ない朝の光景を見ながら走っている。別に普段から歩かないわけでもない、友達の家に行くとなれば歩く道のり。
だけど朝に歩かないと言うだけで情報が不足することもある。己の頭に整合が取れない情報は突如として現れるのだ。中学校に行くときは無かった交差点が目に入ってくる、私の家から高校までは三つの交差点があって、最初のそれは割と大きかった。
片側三車線のバイパス、信号が青になるにはそれなりに時間がかかる。だけど、だからこそ待っていられない。遅刻しそうな私はこのタイムロスさえ勿体無いと感じているのだ。だからこそ私は周囲をしっかりと確認して信号無視を決意した。
キョロキョロと何度も確認して車がいないことを確認した。このバイパスは車の数が増えるのはかなり遅く、学校の始業のチャイムが鳴ってから渋滞が始まるのだ。
油断していた。
だけどだからこそ交差点を横断する決意をして私は最初の一歩を踏み出した。だがやはりイレギュラーとは良くないもので、そんな私を見透かすように誰かが邪魔をしてくるのだ。信号無視を決意した私に向かって笛が鳴り響いた。
ピーーーーッピッピッピーーーー!!
「そこの女の子、信号を無視するんじゃねえ!!」
笛の音に気付いて振り向くとそこには一人の男性が立っていた。初めて家族以外の異性から声をかけられてしまった。オワタ、はい、私は恋に落ちました。
イエス、フォーリンラブ。
男性は血相を変えて私に向かって走ってくる。変わらずピピッと笛を鳴らしながら私を指さして走り寄ってくるのだ。ああ、初めて出会った男性なのにどうしてこうも私に情熱的なアプローチをしてくれるの?
ああ、交差点越しの初恋も悪くない。寧ろ頗る良い!! ディモールト(とっても)良い!!
「テメエこら、もっと自分の命を大事にしやがれ!! 信号無視なんざしやがって、年頃の乙女が事故で怪我でもしたらドライバーにどう落とし前をつけさせるってんだよ!!」
この人は私の身を案じてここまで怒ってくれてるの? やっべえ、思った以上に心も外見もイケメンじゃん。ジュルリ、私は十五年間、ずっと異性を会話して来なかった反動から涎を垂らしてその人を凝視していた。
もう学校に遅刻するとか些細な事すぎてどうでも良い!!
私は初めての異性との会話にいても立っていられずまるでゾンビの如く手を前に出しながらその場から歩き出した。
「ふへへ、私を心配してくれたんですかー?」
「たりめえじゃねえか!! このガキが心配させやがってえ!! 少しは自分の体を大事にしやがれ!! 子供が産めねえ体になってから後悔しても遅いんだぞ!?」
きゃーーーーー!! イケメン、精神的なイケメンよおおおおおおお!!
しかもサラッと私と子供を作りたいだなんて遠回しな発言!!
お父さん、お母さん、私は多分この人と結婚します。子供は二人くらい産んで、都市郊外に一戸建てを購入。そして魔王討伐の旅に出て数々の苦難を乗り越えながら老後を迎えるの。
夢のような薔薇色の人生は私の目の前にある!!
それにしてもこの人、変わった服を着てる。私は恋する男性を知るべくマジマジと観察を始めた。ふむ、青い帽子に制服、そして衣服の至る所に桜田門のマーク。この人はもしかして……。
「井伊直弼の大ファンなのかな?」
「ああ!? テメエは何を言って……、って!! あぶねえ!!」
男性は少しばかり怖かった顔の血相を更に深めて私に話しかけてきてくれた。私は人生でここまで積極的にアプローチをされた事がないから思わず赤面してモジモジとしてしまった。そして全身をくねらせて男性にそのアプローチの真意を問いただした。
そして走り寄る彼に向かって私も走り出していた。
「どうしてそんなに私を心配してくれるの!? もしかしなくても恋なの!?」
ベタにパンを齧ってすらいないけど、この出会いは最高だ。私の淡い恋愛の1ページがゆっくりと開かれる感覚を覚えていった。だが私の愛しい人は更に血相を変えて叫んでいる。私はそれを想いが受け止められたと思って更に加速する。
そしてビビーッと何かの音が聞こえるけど、そんな音は無視して更に全速力で走った。
「テメエ、ガキ!! 車が来てんぞ!! 避けやがれ!!」
「何を心配してくれてるのか分からないけどグラッチェェェェ(ありがとう)!!」
「くっそ、クソガキがあ!! 少しは自分の身の危険に気付きやがれ!!」
そう言って彼はダイブするように私の胸に飛び込んで来てくれた。嗚呼、神様はこの時のために私を世界の男どもから遠ざけてくれたのね? こんな素敵な出会いを準備してくれていただなんて、私はこの瞬間を持って神の存在を信じることにしました。
そして気付いた時には遅かった。
なんと私の近くには盛大にブザーを鳴らして車が接近していたのだ。どうやら私は周囲が見えていなかったらしく、車が交差点に侵入してしてきたことに気付かずにいた様だ。そして私はそんな場所にいつの間にかいた。
つまり交通事故だ。
私は愛しい人と手を伸ばし合いながら交通事故に遭ってしまった。彼は危機に瀕した私を救うべく交差点に飛び込んで来てくれたのだ。必死な形相になって愛する私を救うため己の命など顧みず手を伸ばしてくれた。
私はそれが嬉しくて車に轢かれた痛みなど感じることなく吹っ飛ばされていた。
「ごっふう!! ボラーレビアアアアアアアア(吹っ飛びな)!!」
「ガキイイイイ!!」
交差点に侵入してきた車に盛大に吹っ飛ばされた私はスタンド使いの決め台詞と共に空中に飛んで、その勢い余って地面に叩きつけられた。
そして私は乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生を果たし、愛しいあの人はその世界に引き摺り込まれるように転移を果たす。
これは私の転生と彼の転移が織りなす恋の物語。
下の評価や感想などして頂けると執筆の糧になりますので、
宜しかったらどうぞお願いいたします。