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ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 ポチさんに連れられた俺は、さっそくお散歩という名の強化トレーニングを開始した。

 Dを見てさすがにスコップでは攻撃力に不安があると考えた俺は、DDSDのドラゴンキラー(チェーンソー)を購入。レベル1の俺でも、これで大抵の敵は一刀両断できるはずだ。


 ポチさんにぐいぐいリードを引っ張られながら、やや開けた部屋に出ると、部屋の片隅でゴブリンが一服しているのにでくわした。


「ご主人! いました! 緑色のご主人です! ご主人、GO!」


「緑色のご主人じゃなくて、ゴブリンね。もしくはG! うぉぉぉ!」


 どうやら、ポチがゴブリンと俺を色で区別していたらしくて萎えた。

 ドラゴンキラーが、俺の手の中でヴィィィン、と甲高い音を立てて、無数の刃を高速回転させる。

 さすがドラゴンキラー、これならどんな敵だろうと、木っ端みじんだぜ!


 だが、敵のゴブリンも、なにもない部屋でのんびり休んでいた訳ではない。

 ドラゴンキラーの刃先がGに到達する前に、俺はかちっと、妙にへこむ地面の一部を踏んだ。

 それは罠だった。

 大部屋の片隅に仕掛けられたボウガンから、ハヤブサのごとく飛来してきた極太の矢が、俺の胴体に直撃した。


 グサッ


「ぬわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!???」


 凄まじい激痛に、俺はもだえ苦しんだ。

 俺のあまりの大声に、Gもあっけにとられている。

 ポチが、すかさず俺の元に駆け寄ってきた。


「ご主人ッ! おのれ、緑ご主人め! ご主人に近づくなッ!」


 Gと俺の間に入ったポチは、火の魔剣をふるった。

 備長炭のような熱を持った剣だ。

 もうもうと立ち昇る黒煙が目くらましになり、Gはぐぎゃっと驚きの奇声をあげて跳び下がる。


 華麗な剣さばきで、くるくる火の魔剣を振り回したポチは、かちりと、片足で何かのボタンを踏みつけた。


「はっ、何か踏んだ……あぶないっ!」


 ポチは、罠の存在を敏感に察知したらしい、横にぴょんっと飛びのいた。

 大部屋の片隅に仕掛けられたボウガンから、ハヤブサのごとく飛来してきた極太の矢が、俺の胴体に直撃した。


 グサッ


「ぬわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!???」


 俺は胸に激しい痛みをおぼえて、苦悶に絶叫し、顔をゆがめた。

 やばい、このままでは、やばい、全身が熱を持ったようにだるい。

 叫びすぎたせいか、もう一歩も動けないくらい頭がくらくらしている。

 その場に膝立ちになって、なくなりかけた意識をしっかり保とうと、にらみつけるように前を見据えていた。

 前方では、まだポチが戦っている。


「でええええい!」


 黒い霧が舞い散り、おひねりクリスタルがチャリンチャリーンと投げ込まれた。

 どうやらポチは、しっかりGを退治してくれたみたいだ。

 さすがポチ、30のスキルを持つチートワンコ。

 華麗なダンスを舞うようなしぐさで2刀を振り回し、鮮やかに納刀すると、地面にすちゃっと片足を折り曲げて座り込み、またしても、かちっと何かに片足を踏ん張った。


「はっ、また何か踏んだ……あぶないっ!」


 ポチは、罠の存在を敏感に察知したらしい、横にぴょんっと飛びのいた。


 大部屋の片隅に仕掛けられたボウガンから、ハヤブサのごとく飛来してきた極太の矢が、俺の胴体に直撃した。


 グサッ


「ぬわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!???」


 俺は胸に激しい痛みを覚えた。

 まあ、ぜんぶ防刃チョッキに刺さったから致命傷ではなかったのだが。

 それでも、鈍器で殴られたみたいな衝撃があって、ノーダメージという訳にはいかなかった。骨の1本や2本は折れたような気がする。


「大変! ご主人! 血が出ていますよ! 血を出して遊んでいる場合じゃありませんよ! しっかりして! ぺろぺろ! ぺろぺろ!」


「うう、ポチ、俺はもうダメみたいだ……ダメなのに、元気になってる……とりあえず何も聞かずに、俺のパソコンの外付けハードディスクを、深い海の底に捨ててきてくれ……」


「大丈夫、この辺りには、回復の泉がありますから! そこに行きましょう!」


 どうやら、この辺りの地理には俺よりも詳しくなってしまったポチさん。

 いつの間にか、ダンジョン探索の先輩である。

 俺の首輪にリードをつけて、ずりずりと引きずって、その回復の泉がある、という場所に連れてきた。


「ここです! この穴を通って、奥にある泉の水を飲めば、たちまち元気になるんですよ!」


「へー、この穴の向こうね」


 ポチが示したのは、握りこぶしひとつぶんくらいの穴がぽっかり空いた壁だった。

 なにこれ、いったいどうやって壁の向こうに行くの?

 ポチは、しゅるしゅる、とチワワの姿に戻ると、短い尻尾をぷるぷる振りながら、穴の向こうに入っていってしまった。

 かっ……かわわわわわ!

 再び美少女に戻ったポチは、穴の向こうから興奮気味の顔をのぞかせ、こちらに呼びかけてくる。


「さあ、ご主人! はやくこっちへ!」


 ……小型犬専用出入口かよ。

 すまんがポチ、どうやらこのダンジョン、人間には厳しいみたいだぞ。

 さっきの罠も、人間の体重で作動する仕組みだったのだろう。

 ポチには楽チンなダンジョンだったようだが、俺がレベル上げをするには、相応の難易度があった。


「ポチ……俺はもうレベル上げを諦めるよ。なんかもう、ダンジョン探索は、お前ひとりでやってくれっていう」


「なにを言っているんです、ご主人! ご主人と一緒にお散歩に行くのがいいんじゃないですか! ご主人がリードを持っていないと、ポチはどこに行ったらいいか、分からないじゃないですか!」


「無理なんだよ、人間には……! 毎日首輪をつけて生活するとか! 女の子にリードを引っ張られてダンジョンをお散歩するとか! けっきょく俺は犬になりきれない、中途半端な犬好きなんだ……!」


「んんー! んんんー!」


 見ると、ポチはほっぺたをめいいっぱい膨らませる面白い顔をして、穴から顔をのぞかせていた。

 その顔で、なにやら自分の口をしきりに指さしている。

 いや、まさか、口移しする、というのですか。


「ちょっと待ってください、ポチさん。一体どこで、どうやってそんな高等技術を学んだんですか。犬が思いつくのは無理だと思うんですが?」


 いや、ガチな話をすると、オオカミの母親は赤ん坊を育てる時、硬い肉を一度胃で消化したあと吐き出して与える習性があるそうな。

 なので、ポチが口移しの発想を得たのは、そんなに突飛というわけでもない。


「んんー! んぐむむー!」


「ああもう、何言ってるかわかんないって! うぐふっ!」


 リードをぐいっと引っ張られて、頭をごちっと地面に打ち付ける勢いで、穴の前に引き寄せられた。

 ポチさんの美少女フェイスが目の前に迫ってきて、ぶちゅーと唇がぶつかった。

 唇から水がこぼれてきて、俺はのどを潤した。


「ポチは、ご主人のお散歩がいいんです! ご主人のお散歩じゃなきゃ嫌なんです! さあ、一緒にお散歩して、一緒に世界の果てまで歩いて、一緒にGやSやDを倒しましょう!」


 おうふ。ポチさん、一瞬惚れてしまいそうになりましたよ。

 というか、この回復薬、ひと口飲むだけですごい効果だな。

 リポDみたいな味がする。

 痛みはすぐになくなったし、全身がぽかぽか温かい。


 名称:回復の泉の水

 種類:回復薬

 効能:回復能力を無理やり向上させて、大抵の傷は治してしまう。『人間が飲むとエッチな気分になるので注意。』

 女神のひと言:「ちょっと作るの失敗したやつ。もったいないから安全な場所に隠しておいたわ」


 えー、失敗とか言ってるけど明らかに内心気に入ってて捨てられなかったからこっそり公開しているやつじゃんこれー。

 スマホごしに女神にツッコミを入れざるを得なかった。


 なんてことだ、薄暗いダンジョンで、エッチな気分になって、相手はポチさんとは言え、2人きり。

 こんな事でポチさんと恋愛にまで発展してしまうなんて。

 ポチさんの方も、唇を手で押さえて、うろたえていた。


「はっ……ご主人のお顔をペロペロしたら、なんだか変な気分になってきました……不思議……!」


 犬と人間じゃあ、唇の感度が違うんだよ。

 俺が回復すると、ようやくチワワにもどって、もそもそ、と穴から這い出してきたポチ。

 これから一体どうしよう、と頭を思い悩ませていた俺だったが、穴から出てきて再び人間化したポチは、けろっとしていた。


「あら? なんか平気になりました」


 どうやら犬の体になったときに、一旦解毒されたらしい。

 解毒されない状態の俺だけが取り残された。


 やましい感情を抱えたまま、ポチにリードを引っ張られて犬のように帰宅することになった。


 ポチさんは魅力的な女の子だったが、さすがにモンスターが出るかもしれないダンジョンで、女の子とイチャイチャするほど肝が据わっていない。

 もし、途中でGに襲われたりしたら、レベル1の俺では太刀打ちできないだろう。


 道頓堀のネオンサインのように大量に集められし光るクリスタルに出迎えられながら、俺は押し入れをくぐって異世界から部屋にもどってきた。

 俺は、意を決してポチに言った。


「……ぽ、ポチ、こういう事を言うのは、はなはだ不謹慎かもしれないけれど……お前、はじめて見たときから、めちゃくちゃ可愛いと思っててさ……」


「くきゅーん」


「くきゅーん?」


 見ると、ポチはちっこいチワワの姿に戻っていた。

 くりくりしたアニメキャラみたいな目で、俺を見上げている。


 どうやら、スキル『非犬イヌナラザルモノ』は、異世界でしか使えないらしい。

 こっちの世界では、クリスタルだって光らなくなったもんな。

 そして泉の水の不思議な効能も、異世界限定のものらしかった。

 回復した体はそのままだったが、エッチな気分は跡形もなく、すっきり消えさっていた。


 俺は思いっきり脱力して、ポチの頭をわしわしと撫でてやった。


「よし、汗かいたし、お風呂入ろうか」


「わん! わん!」


 俺とポチは、もとの犬とその飼い主に戻ったのだった。

 やっぱり犬がいるって最高だな。

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