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ポチ、スキる

 ダンジョンで俺の目の前にあらわれた美少女はいったい何者なのか。

 俺のポチなのか。ポチだとしたら、いったいどうしてこうなった。

 アプリでポチもどきのステータスを確認してみると、ちゃんと名前にポチと出てきた。

 氷で頭を冷やしながら、ステータスをじっくり見てみる。


 名前:ポチ

 職業:ペット

 スキル:『非犬イヌナラザルモノ』、その他30種

 攻撃力:大抵の男子高校生はイチコロにしてしまう

 防御力:ご主人ひとすじ、あとのオスは大嫌い

 俊敏性:常にご主人の一歩先を進んでいなければ気が済まない

 女神のひと言:「あいつのペットにしておくにはもったいない良物件」


 相変わらず気安い女神のひと言に眉をしかめつつ、すっかり美少女と化して、自分の腰に結わえたリボンをいじくっているポチと向き直った。


「あー、ポチ、お前、本当にポチなのか?」


 いまいち信じられない。

 ポチは、自分の腰に結わえたリボンが気になるのか、追いかけようとしてその場でくるくる回りはじめた。

 こういうところを見ると、なるほどポチだな、とは思うんだけど。


 どうやら、ポチを美少女化させているのはステータスにあるスキル、『非犬イヌナラザルモノ』のようだ。

 ネットで調べてみると、犬が1000匹に1匹、手に入れるか否かという超レアなスキルらしい。

 要するに、人間化するスキルである。

 異世界の犬、最高じゃん。


「しかし、よく偶然にもこんなスキルが手に入ったな……というか、その他30種って、めちゃくちゃ多くないか?」


「ご主人とおさんぽに行くと、毎日スキルが手に入るんですよ? ポチはおさんぽ大好きです!」


「ほほう? そいつはまた不思議な話だな」


 俺と散歩するだけで、毎日スキルが手に入る、なんてことがあるんだろうか?

 じっくり調べてみると、どうやらこれも俺の謎の能力、スキルが働いたおかげみたいだった。

 俺のスキル『異片世界商ワールドエンド・マーチャンタイズ』は、召喚士のごく一般的なスキルで、「異世界から召喚した生物や道具にランダムでスキルや効能を与える」ものらしい。


 つまり、アパートの部屋からポチをダンジョンに連れて入ったことが、ポチを異世界から召喚したことにカウントされていたようだ。

 ここ1カ月、毎日ポチを散歩に連れて行っているので、その度にどんどんポチが強化されていって、手に入ったスキルもちょうど30種類を超えた、というわけだ。

 反則級のチートだな。せめて俺にもスキルがついて欲しかったけど。


「というか、なんだよこのスキル。自分のスキルが増えないんじゃあ、けっきょく俺は弱いままじゃん?」


「大丈夫! 今日からはご主人も、これをつけましょう!」


 ポチは、じゃーん、と、自分の身に着けている首輪をはずして、俺の首に巻き付けた。

 じゃーん、と俺はリード付きの首輪を装備した。


 そういえば、物にも効能がつくんだったっけ。

 どれどれ、と首輪のステータス鑑定をしてみる。


 名称:首輪

 分類:装備品

 効能:歩くたびに経験値10獲得


 おお、これはいいスキルが手に入ったな。

 お散歩しているだけでレベル上がり放題じゃないか。


 首輪以外にも、俺の持ってきたアイテムには、様々な効果が付与されていた。

 ポチのおやつに持ってきていたビーフジャーキーも、効能はまちまちだったが、なぜか『30分間獲得経験値2倍』なる超レア効果をもったものが沢山あった。

 ポチはそれを食べるのが大好きで、それらを組み合わせて毎日散歩したおかげで、めきめき強くなっていったみたいだ。


「ご主人も、首輪を身に着けて、ジャーキーを食べておさんぽすれば、あっという間に強くなれますとも!」


「えー、俺が首輪をつける流れなのこれ……」


「さあ! おさんぽ! おさんぽしましょう!」


 うきうきしているポチを見ると、嫌とは言えない俺だった。

 言われるままに首輪を身に着け、ビーフジャーキーをもぐもぐ齧りながら、お散歩を開始した。

 俺のリードを引っ張るポチは、凄まじい腕力を発揮して、俺をぐいぐい引っ張っていく。


「あ、ちょっ、まって、ちょっ、ちょっ、ちょおおおおおおお!」


「いっきますよぉぉぉぉぉぉ!」


「いや、ちょっと、まって、やば、これ、ぐえっ、おぐふぉ」


 ポチにずるずると地面を引きずられて、あやうく俺がビーフジャーキーになる所だった。

 せめてハーネスにすればよかったと、今ごろになって悔やまれる。

 だが、歩くたびに経験値10獲得はレアスキルみたいで、他に同じスキルがついたアイテムはどこにもなかった。

 今からハーネスを用意しても、同じスキルがつくまでまた何ヵ月かかるか分からない。

 実際に、俺のシャツなんかも効能がついていたのだが、どれも制汗効果なんかのささやかなハズレスキルしかついていなかった。

 というか、ポチに俺のリードを引っ張らせる意味はあるのだろうか?

 今気づいたけど、首輪からリード外してもよくないか?

 俺をお散歩させられずに、しょぼん、と眉をさげるポチ。


「ご主人、おさんぽ嫌いですか?」


「いや、そういう訳じゃないけど、俺もお散歩だいすきだよ。ポチも大好きだ。だけどこれは本来、人間の装備じゃないじゃん……?」


 歩くたびに経験値獲得、ということは、歩数の多いチワワの方が、人間よりも早く効果が出るだろう。

 というのも、俺が1歩あるく間にポチはちゃかちゃかと4本足で2.5歩くらいあるいている。

 ポチの倍の期間ぐらいは肌身離さず身に着けておかないと、今のポチのレベルには追いつかないかもしれない。

 しかもポチは1日中身につけていたから、俺も仕事中に首に着けておく必要がある。職場の人たちになんて言い訳しよう。

 幸いにも、ビーフジャーキーは人間でも食べられるものだ。それだったら、首輪をつけなくとも、実際に戦って経験を積むこともできそうだった。


「(ダンジョンで)首輪をつけて、弱っちいモンスターと戦って経験を積めば、もっと確実に強くなれると思うんだ。……けど、Dよりも弱いモンスターを見たことないな。このダンジョンにいるんだろうか?」


「たっくさんいますよ! でもご安心ください、ご主人がネットでいつものおっぱい見ている間に、お散歩コースに現れるモンスターは、こっそりばっちりポチが倒しておきました!」


 えへん、と胸を張ってえばるポチ。

 いまさらながら、この子には色んな素の姿を晒していることに気が付いて、俺は赤面してしまった。

 ……そうか、それで毎回ダンジョン探索をするたびに、クリスタルしか落ちていない、という状況がうまれたんだな。


「あと、お散歩コースにポチがマーキングをしておきましたから、弱っちいモンスターは近づいてもこないはずです!」


「マーキング? そうか、レベル高いと縄張りにモンスターがよってこないのか……!」


「どうやらこの部屋はマーキングが消えてたみたいだから、さっきつけ直しておきました!」


「おお、危ないところだった! えらいぞポチ! けどさっきマーキングつけ直したって、犬の格好に戻ってしたんだよな? 今の格好でしたんじゃないよな?」


 きょとん、と目を丸くするポチ。

 ……どうやら、これは俺がしっかり躾けてやらないといけないやつみたいだ。

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