ブラックボックス
ここはVRの中の世界、【IRW】月以外の惑星が夜空に浮かび、その月明かりは壮大に広がる黒緑色の野原を優しく照らしていた
その野原の一角には真っ黒く四角い物体が宙に浮いており、その物体を中心に簡易的な建物や機械やテントといった即席の研究施設が設置されている、そして数あるテントの一つから髪の色が金と黒の斑模様で顔にタトゥーの入っている男が現れた。
男は他の機械には目もくれず、宙に浮く四角い物体のある研究施設の中枢部へと歩き出す。その男に気づいた女研究員が男に駆け寄り、タブレットを手渡した
「マチバ主任、昨日の研究データです」
「―――昨日に比べると今日はやけに安定してるな…で どうだ…アレについて何か分かったのか?」
「いえ、それが何も」
「調査を始めて1ヶ月半…成果なしか、現実の連中はどうだ? こっちより設備は充実してるんだ、帰れる抜け穴でも見つけてないのか?」
「現実からは【IRW】の接触自体を遮断されていて手が出せないそうです……ですが先程【ブラックボックス】に謎のデータが流れ込んだと報告がありました」
「謎のデータ?」
「はい、データの出処は不明ですが、今の【ブラックボックス】の安定状態はデータが送られてから発生したものです」
「どっかの自警団か? まさかティム・クインシーじゃないだろうな!?」
「それについてはまだ分かっていません」
「……まぁいい、こっちはこっちで収穫があったぞ、【ブラックボックス】についてだ」
「調べてたんですか?」
「半日以上テントに籠もって何してると思ったんだ? 【IRW】関係で半年前の事件は覚えてるな?」
「エイデン壮一郎が作り上げた元祖【IRW】…の不具合でプレイヤー達が閉じ込められた事件ですよね、確か原因は…システムのバグ」
「【ブラックボックス】から【バグ】の反応が出た」
「え…じゃあコレってシステムのバグが生み出した物なんですか!?」
「それを今から調べる。 それによく考えてみろ、システムのバグで閉じ込められた元祖【IRW】の連中と【バグ】の反応が出た【ブラックボックス】が現れてから閉じ込められてるこの状況…半年前に似てないか?」
「言われてみれば…」
「これが続けばサービス開始は延期だな…」
瞬間、【ブラックボックス】からサイレンと悲鳴の混じったような不気味な音が響き渡り、内部から青白く発光しだした
「──っ! 何事だ!?」
「【ブラックボックス】の内エネルギーと共にパルス数も上昇、これは…【ブラックボックス】が起動したとしか…」
「起動…!?」