木村より愛をこめて
書き忘れましたが当作品はイージーゾンビコメディアクションです。
ショッピングセンターに着いた。
繰り返し言う、ショッピングセンターに着いた。
決して『ショッピングモール』ではない。
可愛い服屋もないしスタバもない。産直はある。
この施設ができると聞いた時になんだよモールじゃねえのかよと露骨にがっかりしたけど、今はむしろこれでいい。
通常ショッピングモールはスーパーとかゲーセンとかアクセサリーショップとか入っている。が、武器になりそうなモノは置いていない。
田舎のショッピングセンターの良いところは、食料品生活用品などに隣接して工具や農業機械などが置いてあるところだ。農家が多いこの地帯では特に。
駐車場に入る。おお、チラホラだけど居るなぁ。見たところ動きは遅い。よって下手に出入口近くに停めて囲まれるより、走って撒いたほうが車に無事辿り着ける可能性が高いと考えた。
「お父さん、ちょっと入口から遠めに停めて」
「遠くていいの?」
「遠くていいんだよ」
出入口はふたつある。向かって右が食料品、左が園芸用品とか工具類、真ん中が衛生用品。
まずは武器のゲットが最優先。
「お父さん、先食料品のほう行ってて!米とかスポドリとか缶詰とか長持ちしそうな重いもの中心に!」
「お、おう!りりこも気をつけてな」
別行動は少し心配だけどお父さんはああ見えて筋トレが趣味なのでなんとかなるだろう。
というより問題は私。なぜなら引きこもって数年、体力が無に等しい。火曜市のご婦人よろしく両手にカゴを持ち店内を闊歩するなんて無理。
つまり最初にすべきことは移動・運搬手段の確保。
通常なら一番楽なのは店内備え付けの大型カートだろう。でも、これはひどくうるさい。
ガラガラガラガラ走り回ってたら見つけてくれそして齧ってくれと言っているようなものだ。
小回りが効いて静かでモノもある程度運べる……。
よし、自転車売り場だ。
前カゴ、大きい。後ろカゴ付き。6段変速付き。ママチャリ、最高です。
お借りしまーす!返す宛ないけど!りりこ、行っきまーす!!
まず刃物。夢はでっかくチェーンソー!……といきたいところだけどうるさい・重い・大きいの三重苦なので泣く泣く見送る。
現実的に考えて大きめの鉈を数点チョイス。すぐ錆びるしね。ストックはあったほうがいいよね。
あとは腕力のあるお父さん用に斧。何かと便利なスコップ。携帯ナイフ。工業用のぶっとい刃のカッターナイフ。
えーとあと……なんかリーチのあるもの。うし、長鎌。君に決めた。
盗る……ではなく獲るもん獲ったらさっそく店の中をチャリで爆走。楽しいなこれ。りりこ様のお通りだわよ。
おお、居る居る。でも陳列棚1列につき2体くらいか。さすが田舎の平日のショッピングモール、閑散としている。
私達と同じく備蓄を求めてやってきた人間の方が多いくらいだ。
次は食料品。チャリ停車。
私はチンするご飯よりチンする赤飯の方が好きなのでそれを数パック。カレーメシ。パスタ。うーん炭水化物祭り。レトルトカレーと箱の野菜ジュースも入れとこう。
ボンゴレソースを手に取ったその時―――
ドサッ。
何かが落ちる音。
つまり、『何かが動いて居る』音。
斜め後方3~5m?
息を止めて振り返る。
…………き、木村のおじさん……。お隣さん(といっても500mは離れている)であり米農家の、木村のおじさんじゃあないっすか……。 (まだ人間)
木村のおじさんは持参したらしきエコバッグにレトルト商品を詰め込んでいる真っ最中だった。(ドサッはパウチのカルボナーラソースが落ちる音だった。)
お互い一瞬固まる。
「あっ……どもっす」
「あっ、おん、おお。りりこちゃん久しぶり」
「……その……ここは緊急事態というか、お互い様ということで」
「……うん。非日常だもんね仕方ないよね」
「ではお気をつけて」
「りりこちゃんもね。万が一食料尽きたらうちの米、少しくらいなら分けたげるから」
ありがとう木村のおじさん。健闘を祈る。
さぁぼちぼちお父さんと合流だ。
無事でいてくれ、というかこのゾンビの数で噛まれるほうがよっぽど注意力散漫なノロマだと思う。
to be continued