サイボーグとエイリアン
緑の液体と赤い液体がそこらじゅうに飛び散っている病院の廊下を歩く。 敵であるエイリアンの住処となってしまったイイジマ総合病院は1番の被害が出た場所である。エイリアンの餌として沢山の患者や看護師、医者がここで命を落とした。軍はエイリアンが来ていると知りながら何も対策を取らなかった。そのため、エイリアン達はこの立地条件が良く、弱いものしか揃っておらず、餌(人間)が豊富なイイジマ総合病院を住処とした。いや、強制的に住処にした、が正しいだろう。エイリアンは病院の屋上にある救急搬送ヘリコプター用のヘリポートに降り立つと、すぐに病院に入り込んだ。病院は1日ももたずにエイリアンの住処となった。軍は中の人を助けようともせず、病院の周りに簡易的な塀を作り、エイリアンが病院から出ないようにした。中の人は一人残らずエイリアンの餌になった。
「おい!聞いてんのか!?サイボーグ野郎!」
「なんだよ。大きな声出すな。エイリアンの餌になりたいのか?」
「んなわけねーだろ!死ぬならあんなエイリアンの腹じゃなくてナイスバディの女の膝の上がいいね!」
「どーでもいい、黙ってろよ。後、俺はサイボーグ野郎じゃない。ニックだ。覚えとけビート。」
「へいへい。サーセンしたニックさん。」
「ビートさん…怖いからあんまり大声出さないでくださいね…」
「怖がりすぎだぜ!メイト!」
「うぅ…ニックさんの足を引っ張らないようにだけ頑張ります…」
「ありがとう、メイト。」
隊長ニック、医者で病院の案内人メイト、メイトの護衛ビート、その他5人のニックの隊員の計8名がイイジマ総合病院にいる。
「敵の本拠地になっているのは?」
「一番奥の手術室だと思います。」
「覚えているか?」
「大丈夫…だと思います…務めていたのは1年前ですが…」
「君が志願してくれて本当に良かった。大半の医者はここの地図を頭に持っていても怖くて手を挙げない。君が勇気をだしてくれたことに感謝するよ。」
「いえいえ…ここの院長には感謝することが山ほどあるんです。少しでも…死んだ院長が安らかに眠れるように…院長の病院からエイリアンを追い出したいんです…」
「なるほど。」
「はい。」
すたすたと周りを警戒しながら進んでいると、院内地図を見つけた。
「どのルートが手術室に早く行ける?」
「このルートじゃね?」
ビートが指を這わして示す。すると横にいたメルトが声を出した。
「地図上ではこのルートですが…地図に載っていないルートならもっと早く行けるルートがあります。」
「はへぇ〜ディズ〇ーの職員専用通路みたいなもんか!」
「そうです…でも…」
「でも?何かあるのか。」
「この通路…少し狭いし、2個ほど部屋を経由するんです…」
「なるほど。なら大丈夫だろう。エイリアンがいてもこっちは対エイリアン装備だ。」
「おう!サイb…ニックの言う通りだぜ!メイトはこのビート様が守ってやるよ!」
ビートはガッツポーズを見せる。メルトがはい!と元気よく返事する。
「それでは、こちらです!」
メルトがさっきまで先頭にいたニックの前を行く。その顔には役に立ちたいと書いているようだった。
メルトについて行き、人ふたりがやっと通れるような狭い通路を歩いていると、白いドアがあった。
「この先はナースステーションです。触ると大きな音が鳴るものがいくつかあるので気おつけてください…」
「わかった。ありがとう」
「はい…開けます。」
ドアをできるだけ静かに開けるメルト。開けた先には様々な医療器具やパソコン、ナースコールなどが置いていた。エイリアンはいないようだ。エイリアンがいつ来てもいいように銃を構え、ものに当たらないよう静かにでも歩くスピードは変えずにナースステーションを通り過ぎる。少し歩いた先にドアがあり、入るとまた同じような細い通路に戻る事が出来た。
「この通路は安全って勝手に考えてるよ笑」
「そう考えてたら死ぬぞ。」
「へいへい」
「にしても…血とかエイリアンの体液らしきものは見ても死体は見ませんね…」
「エイリアンが死体を集めているんだ。餌としての人間の死体とエイリアンの仲間の死体。」
「死んだ仲間を…食べるんですか…?」
「あいつらは今こそあんな風に協力しているが軍が調べたことによれば元々あいつらは自分の派閥以外のものとは争い合う。その名残で食べるんじゃないか?まぁ、アイツらのことなんか知りたくもないが。」
「なるほど…」
「隊長!」
「どうした。」
「ケルビンがいなくなりました!」
「なに!?エイリアンに食われたか。仕方ない・・・今は任務に集中しろ。エイリアンの親玉を潰せば他のエイリアンも一網打尽に出来る。」
「はい!」
「どうして一網打尽に出来るんですか…?」
「エイリアン達は親玉のエイリアンから栄養を供給されて生きている。エイリアンが普通に人間を食っても毒だからな。親玉だけが解毒出来るんだ。親玉が人間を食べて、その栄養だけをエイリアン達が貰っている。」
「なるほど…」
少し歩くと、青いドアが見えた。
「この先は児童病棟に繋がっています。床におもちゃが散乱しているので、踏まないよう気おつけてください…」
「わかった。」
メルトがドアを開く。開けた先には壁に蜂やちょうちょ、花などが描かれ、カラフルな小さな椅子や机が置いてあった。そして床にはたくさんのおもちゃがあちらこちらに散らばっている。 血と緑の体液がここを汚していなければ子供がその辺を駆け回り、床のおもちゃを手に取り遊んでいても違和感はない。
「子供まで…犠牲になったのかよ…」
ビートが顔に手を当て、見ていられないというようなジェスチャーをする。すると後ろから「グハッ」という声がした。急いで振り向くと、ケルビンのことを報告してくれたニータの姿が鮮血を残して無くなっていた。鮮血の血溜まりにはニータの付けていた髪留めがパキッと真ん中で割れた状態で落ちていた。
「クソッ…ニータ…早く行くぞ。」
「はい!」
少し駆け足で次の通路に入った。ドアを閉め、ニックは振り返り人数を数える。
「メイト、ビート、ファモ、カズキとマットはどこだ!」
そう叫んだ瞬間、ドアの向こうから悲鳴が聞こえた。その悲鳴はカズキとマットの声だった。
「やられたか…クソッ…行くぞ!アイツらのためにも!」
「おう!」
「そうですね…!」
「はい!」
決意を胸に4人はまた細い通路を歩く。少し進むと黒のドアが見えた。
「この先が手術室の目の前の廊下です…」
メルトが開ける。外は静まり返っており、この辺りの廊下の壁や床は血の一滴も落ちておらず、異様なほど綺麗だった。静かに歩き、ニックが手術室の扉を開ける。
中には大きな卵のようなものが部屋の真ん中にどんと置いていた。黄色の幕の中でなにかが蠢いている。周りには人間の死体がゴロゴロと転がっている。その中にはニータやケルビン、カズキとマットも転がっていた。静かに一番近くのカズキの首に手を当てる。脈はない。やはり生きていないようだ。
「ニック…これはなんだ…なんなんだ…」
「落ち着けビート…俺も初めて見る…」
「こ…これは…エイリアンの…タマゴ…ですかね…?」
「まぁ…多分そうだろう…」
「うわぁっ!!」
「どうした!ファモ!」
後ろを振り返ると、頭から血を流しぐったりとしたファモを掴んでいる普通のエイリアンよりひと回り大きい青いエイリアンがいた。
「フーンコイツファモッテイウノカ」
「エイリアンの親玉か!話せるのか!」
「うぅ…ニック…たい…ちょう…」
「ファモ!まだ生きているのか!」
「ンーウルサイナーコウシチャオウ」
そう言いながら青いエイリアンはファモの頭と体を持ち、ぐるりと回す。ファモの体と顔は逆を向いており、その顔は白目を向いていた。そして、エイリアンは「ヨイショ」とファモの頭を体から引き抜く。ファモのちぎられた首からは背骨がぶらりとさがっていた。
「ファモーー!!!!!」
「ファモさん…」
「ファモ…あ…あ…」
ニックは銃口をエイリアンに向け、ビートは目を見開いて尻もちをついている、メルトは口に手を当てていた。3人は目の前で起きたことの理解に苦しむ。
「ファモ…イイナマエダナ!オレガモラッテヤル!」
偉そうにそう言うと、ファモの頭をぱくりと食べた。
「ウマイ」
「こんの…やろー!」
尻もちをついていたビートが銃をエイリアンに向かって発砲した。しかしエイリアンは打たれる弾を全てファモの体を盾にして傷一つ無かった。代わりにファモの体は蜂の巣になった。
「ウルサイナーコノファモトカイウヤツノカラダタベレナクナッチャッタジャン!カワリニオマエクッテヤル!」
「うわぁ!こっち来るな!」
「ビート!」
ニックはビートに飛びかかるエイリアンの頭を打つ。発砲音とエイリアンの叫び声が手術室の中に響く。
青いエイリアンは呆気なく死んだが、近くにいたビートはエイリアンの血を浴びた。
「うっ!あっつ!あつい!うぅあ!あつい!」
エイリアンの血は燃えだし、血を浴びたビートの皮膚は焼きすぎた焼肉のように焦げだし、辺りは焦げた肉の匂いが充満した。
「ビートさん!ち、ちょっと待って!」
「うぁぁあ”あ”あ”!!」
メルトが叫んでいるビートに近くにあった手洗い場の蛇口にホースを繋ぎ、ビートに水をかけた。ビートは煙をまといながら鎮火した。
「ビートさん?」
「ビート。大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…大丈夫だ。まさかエイリアンの血が自然発火するとはな…死にかけたぜ…ありがとよメルト…」
「いえいえ…無事で何よりです…」
「優秀な情報を残さないために自然発火するんだろう。ほら、見てみろ」
青いエイリアンの死体は真っ赤な火に包まれ、炎炎と燃えていた。
「うわぁ…」
「うわぁ…えっぐ…」
「よし、次はこれだな。」
3人は大きなタマゴの方に向き直る。
「あの…青いエイリアンが親玉じゃないんですか…?」
「多分違う。親玉は…」
ニックはタマゴに近づく。銃口でタマゴをつつきながら「ここだ。」と言った。
「じゃあ、どうやって殺るんだ?」
「このお手製の時限爆弾だ。」
「じ、時限爆弾!?」
「そんなものどこに!?」
「俺はサイボーグ化してるんだぞ?この腕や足にちゃんと血が流れてた時もよく無茶したな〜よし、じゃあ爆弾を仕掛ける。俺がしかけてる間にメルトはビートを連れて先に外に向かってくれ!」
「はい!」
「しゃーねぇ…ちゃんと帰ってこいよ!ニック!」
「あぁ!まかせろ!」
ニックが時限爆弾をつけている間にメルトはビートに肩組みをし、歩き出していた。
ニックは時限爆弾を持ってきていたガムテープでタマゴに巻き付ける。巻き付け終わると、ボタンを押す前に、死んだ仲間のドックタグを取った。ニックはボタンを押し、走り出した。
「はぁ…はぁ…時間は1分…はぁ…はぁ…」
息を切らしながら走る。途中で出てきたエイリアンをハンドガンで撃ち抜き、進んでいく。児童病棟を通り抜ける時に後ろで大きな音がしたが、出口までの最短距離を走り抜け、外に出る。間一髪外に出ることが出来た。
「あっぶない…」
「あっ!ニックさん!」
「ニック!生きてたのか!」
「俺は死なねーよ。メルトとビートも生きてたのか。」
「はい!逃げられました!」
「てか、派手にやったな〜」
「これでエイリアンは全員死んだ。」
「人類はエイリアンに勝ったんだな…」
「あぁ。よし、帰るぞ。」
「おう!帰ったら飲みに行こうぜ!」
「ダメですよ!その前にビートさんは病院へ行かないと!」
「えぇ〜また病院かよ〜!」
「病院から退院したら、飲みに行こうな。」
「おう!」
「はい!」
3人はイイジマ総合病院を取り囲む塀の外へ出た。
次の日、新聞の一面はイイジマ総合病院に住み着いていたエイリアンが全滅した喜びと、8人の英雄を称え、病院にいた人達や死んだ5人の尊い犠牲を知らせた。
ニック、ビート、メルトは軍から表彰された。
これで全ては終わった。そう思っていたニックの機械で出来た腕の中にスクスクと育とうとしている小さな黄色のタマゴがあることが発覚するのはまだ先の話。