□026■証拠の生贄
恐る恐る携帯の蓋を開くと、一件だけ新着メールが届いていた。
そのメールを開いてみると、ばかげた内容が書いてあった。
「証拠に1人、生贄をって…そんなバカな…こんなことあるわけ――!!」
どうせ誰かのいたずらメールだと思った。
しかし、その考えを打ち消すかのように、後ろの後部座席辺りから幾つかの悲鳴が聞こえてきた。
キャビンアテンダントは急いでその悲鳴の場所に向かいだす。
機内アナウンスでも、皆に何が起こっているか感づかれぬよう、座っていてくださいと言っていた。
「このメール…そしてさっきの悲鳴…もし本当なら、残り1時間しかないじゃないか!」
僕は席を立つと、まず後ろで何が起こったのか確かめにいった。
後ろでひときわ目立つものがあるのに気づくのに、数秒ともかからなかった。
一人だけ頭がないのだ。
頭は天井に突き刺さり、胴体はしっかりと座席に座っている。
周りの乗客は気を失ったり、携帯で写メを取ったり、トイレに駆け込む者など様々。
「これが、今の世の中の現状と言うことか…」
これで、メールのことは確信に変わった。
ひそひそ話が耳に入ってくる。
「あの男の人を見てたんだけど、最初は胸を押さえながら暴れてて、そしたら急に、ボンッよ!」
本当に今の世の中は…
それよりこのメールによると、この飛行機のどこかに何らかのスイッチを隠してあるらしい。
そのスイッチを押せば僕達乗客は助かるが、時間内に押せなかった場合、乗客全員死ぬらしい。
早速一緒に探してくれる人を探した。
数分経っても誰も話しを聞いてくれない。
そういえば、ふと目にしたのだが、他の人の携帯にも同じメールが来ているらしい。
しかし、皆怖いのだ。
自分も死ぬんじゃないのか。
どうせ助からないとか。
もしかしたら自分だけ助かるとか。
そんなことを考えているはずだ。
しかし、今はそんなことよりスイッチを探さなくてはならない。
一緒に探す人を探すのをあきらめようとした時、6人の勇気ある者たちが僕に声をかけてくれた。
「僕たちも一緒に…スイッチを…探します!」
そこには若い青年、二十歳ぐらいの男性3人と女性1人、そして中年の男性1人に、年老いた老人が一人。
こんなメンバーでもいないよりはましだ。
「ありがとう…それじゃあ、早速とりかかろう!
君たちは前の座席辺りを、あなた方はここ付近を、僕たちは後部座席から」
捜索区間を分けると、早速行動に出る。
若い女性と若い男性1人が前担当。
中年男性と、年老いた老人が、真ん中担当。
そして僕達と若い男性2人が後部座席担当に決まる。
若い男性2人はまず自己紹介をしてくれた。
「俺が里山 健二で、こっちが田梶間 邦夫です」
僕も自己紹介を済ませると、すぐに後部座席に向かった。
あと数歩で飛行機の最後尾という所で、飛行機が大きな揺れを起こした。
耳にはつんざくような音が鳴り響く。
窓から外を見てみると、辺りは黒雲に囲まれ、雷が雲の上を走っている。
そして、雷が不意をつき飛行機めがけ落ちてきた。
一切に乗客全員が目をつぶる。
しかし、何秒待っても雷が落ちてこない。
雷の音も一つも聞こえなくなっていた。
目を見開くと、雷が寸前の所で止まっているのが分かった。
いや、この飛行機内以外の時間が止まっていたのだ。
「一体…どうなってるんだ…?」