□025■青海
「何故なんだ…何故私ばかりがこんなに……」
***
「由梨…あれからずっと考えた結果、この子の名前は青海に決めたよ。
青は空の色から、そして海斗の海からとって青海。文句は言わないでくれよ?」
由梨は微笑む。
「あなたがそれでいいなら、わたしもいいわよ」
それから何年かたった。
幸せな時というのはすぐに過ぎていくものだ。
青海も幼稚園に行くようになり、由梨は仕事を辞め、主婦として家事・炊事等に専念することにしたようだった。
私はいつもの様にIT関連の仕事をして、家族を養うために日々頑張っていた。
「長谷川君!長谷川君!頼んでおいた企画書は出来ているか?」
部長が大量の汗をかきながら迫ってくる。
「はっ…はい、この通りできていますけど?」
部長はほっとしたような顔つきになった。
「そうか…それはよかった」
「どうかしたんですか?」
「いやな、プレゼンが今日に早まって…って時間がないんだ、長谷川君!早くプレゼンの準備に取り掛かってくれ!」
ケータイを取り出し妻の由梨に電話をかける。
今日は遅くなることを伝えると、早速プレゼンの準備に取り掛かった。
プレゼンは数時間にもおよび行われた。
「――という事で、ここの数値が飛躍的に延びることは、我が社で実戦ずみなわけで、御社に多大な…」
プレゼンが終わり急いで家に帰ると、一つも電気がついていないことに気づいた。
「由梨達、もぉ寝たのか…?」
家の中に入り、リビングに行くと、暗い部屋の中にポツーンと由梨がうなだれていた。
「おいおい、電気もつけずに何やってんだ、青海は寝たのか?」
由梨は小言で何かを呟いている。
「……が………たの」
「なんだって?」
由梨の口元に、耳を近づけて聞いてみる。
「…青海が…ねられ……たの…」
「――!!青海が車にはねられた!?じゃあ何で病院に、青海の側に居てやらないんだ!!!」
由梨は耳をふさいだ。
話を聞こうとしない。
僕は病院の場所を聞くと、急いで青海のいる病院に向かった。
あの時、青海は奇跡的に一命をとりとめたのだが、すぐに心臓が止まり、数年しか刻まなかった時計は止まった。
後々聞くと、由梨が誤って青海をはねてしまったらしい。
そして先日、由梨が車にはねられた。
家族2人が車にはねられた。
そしてどちらも、飛行機に乗って遠くへ皆で、旅行しに行く前日に起こっていた。
***
飛行機の窓から外を覗く。
青い空、下には白い雲、そして雲の隙間から青く輝いている海が見える。
「青海…」
その時だった、突如携帯が鳴り響く。
携帯は荷物と一緒に預けたはずなのに、いつの間にかズボンのポケットに携帯が入れられていた。