□024■空のフライト
「――シートベルトをはずして…」
綺麗な女性の声が聞こえる。
「――様、お客様!」
重たいまぶたを開くと、そこには美しい女性が立っている。
「僕にナンパかい?」
少し笑ったように答えると彼女は困ったような、いや、何て言うんだろうな…
「お客様、シートベルトをはずしてもらって結構ですので…」
よく見るとキャビンアテンダントのようだ。
まだ寝ぼけているのかな…
***
「さぁ、早く行こう!僕の子供が待っているんだ!」
彼女は支度もままならぬまま、時を過ごしている。
「もぉーそんなに急がなくたって、お兄ちゃんの子供は逃げないよ!」
僕の名前は長谷川 幸人。
そして彼女は僕の妹、萌。
「萌…僕にとって、僕の子供と過ごすのは1分1秒が大事なんだ。
だから……とにかく急いでくれよ、僕だけでも行っていいかい?」
萌の支度は10分オーバーでやっと準備できたもよう。
準備ができた所で、待たせておいたタクシーに乗り、急いで妻の待つ病院に向かった。
病院に着くとナースセンターに僕の妻と赤ちゃんの居場所を聞き出し、すぐさまにその場所に向かう。
途中病院の看護士に廊下を走らないでくださいとか言われたけど、軽く聞き流した。
病室に入ると彼女は赤ちゃんを抱いて、幸せを絵に描いたような光景になっていた。
「あぁ、やっと来たのね」
彼女は由梨。
「萌の支度に時間がかかってね。あいつはまだ、子供なんだから…」
「そんなこといっちゃだめよ。萌ちゃんだって17歳。それなら立派な大人の女性よ?」
萌は遅れて病室の中に入ってくる。
「こんにちは!!うわぁ〜かわいい〜!」
萌は赤ちゃんを由梨から奪うと、赤ちゃんをあやし始める。
「名前はヤッパリ、”海斗”にするかい?それとも”空”にするのか決めたかい?」
「うぅ〜ん、ここは大黒柱のあなたが決めて欲しいな」
そう言われると困るんだよな…
どっちがいいんだろう…
「…まぁ、今日決めなくていいさ」
たわいもない会話が続いた。
そんな幸せな日々が続くと思っていた。
***
飛行機はあまり揺れることもなく、快適なフライトが楽しめた。
でも、何故だか昔のことを思い出させてくれる。
あの後のことを思い出すと…
目頭が熱くなって…
瞳から涙が滴り落ちていく。
ぬぐっても、ぬぐっても、涙が止まることはなかった。
「何故なんだ…何故私ばかりがこんなに……」