願い
探し物はここにあるのに、私の声はあなたに届かない。
まったく。あなたと出会ってもう何年もたったけれど、うっかりなところはちっとも変わらないね。
ようやく見つけて慌てて出かけていく背中を見送って、私はまた、あなたの帰りを待つ。
毎日頑張っているあなた。
今日は忘れ物を取りに帰ってこないか心配だわ。今日はいつもの時間に帰ってきてくれるかしら。
そんな風に思いながら私も毎日を過ごす。
頑張り屋さんなあなたは、時々失敗をして落ち込んでいたり、泣いていることもあったね。ベッドから起きられなくって、辛い日々もあったね。でも、それでもあきらめないで進み続けたね。
頑張って頑張って、疲れて帰ってくるあなたをどれだけ心配していたと思うの。
私はずっとあなたを見てきた。ずっとずっとそばにいた。
あなたが私を拾ってくれたその日から、私の居場所はあなたのそばだった。私の言葉は届かなくても、あなたのそばにいられることがとても幸せだったわ。
あなたが私を撫でてくれることが嬉しかった。一緒に遠い地に行って、いろんな景色を見れて幸せだった。病気になってしまった時、夜中にもかかわらず病院に連れて行ってくれて、涙ぐんだままずっと付き添っていてくれてとても安心した。
あなたとの日々は私の幸福で満ち溢れていた。この日々が、ずっとずっと続いてほしいと願っていた。
だけど。
本当はもっと一緒に居たかったけれど、ごめんね。私はそろそろ限界かな。
だって、もうすっかりおばあちゃんなんだもの。あとちょっとで、あなたとはお別れだね。
私が居なくなってしまったら、やっぱりあなたは泣いてしまうのでしょうね。だってあなた、とても泣き虫なんだもの。知っているわ、だから簡単に想像がついてしまう。
そんなあなたを慰めてくれる誰かができてほしい。私を幸せにしてくれたあなたに、幸せになってほしいの。
出来ることならば、あなたを幸せにしてくれる誰かと一緒に笑っているあなたを見届けたい。そんな誰かが現れるまで、私はここに居られるのかしら。
・・・きっと難しいのでしょうね。だからせめて、最後まであなたの幸福を祈り続けているわ。
ありがとう。大好きだよ。
それでも、叶わないとわかっているけれど、願わずにはいられないこと。
・・・来年の今日もあなたといたい。