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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢のささやかな抵抗

悪役令嬢のささやかな抵抗のバッドエンドのその後

作品の上記の「悪役令嬢のささやかな抵抗」シリーズのリンクから、本篇に当たる短編からお読みください。



 後悔というものは、起こってしまってから気付く事のだと、初めて知った。


 この国は、いやこの世界は目まぐるしい時代の変化の時を迎えている。

 国同士が争いを起こしたり、国が滅び、新しい国が生まれたりしている。


 私が生まれた頃には、この国にも争いの種があった。

 その争いの種を失くしたのは、生まれて間もない赤ん坊だった。


 初めて見た時は、その手は小さく、ただ、泣かずに私を見ると笑ってくれたあの顔を今でも忘れた事はない。


 生まれてすぐに国の犠牲になる事が決まった妹。

 そんな妹を見て、初めて貴族としての義務を自覚した。この幼い妹の守ろう。

 最初に見た時に誓った思いは、やがて守る対象を国に、その国に住まう者たちへと広げていったが、その中心にいたのは、やはり最初に誓った妹のフレシアだった。



「フレシア。私は君を守るという誓いを果たす事は出来なかったよ」


 きっと、この国に住まう者を守るという誓いを守れる自信も、今はなくなってしまっている。


 たった数日の間の出来事だった。

 同盟国が侵略を受けない為に、我が国が同盟国を支援し、兵を率いて隣国へと向かっている途中だった。


 妹は、その間に国母としての誇りを守る護身用の剣で、自身の胸を刺し、その誇りと国を守る為に命を散らそうとした。

 その知らせを国境を越えた時に、早馬で知らされた時は、頭が真っ白になり、気が付けば国元へ戻っていた。


 我が家に戻ってすぐに妹の命が助かった事を聞いて安堵した。

 そして、そうなった経緯を聞いている間は、後悔しかなかった。


 妹がそうなってしまった原因のこの国の王太子。

 妹が唯一の我侭を言った事に関わっている相手。あの我侭を言った時は、私も何も力のない子供であった。





(わたくし)ではあの方を支える事は出来ません! どうか私をシーセリス殿下の婚約者から外して頂けないでしょうか!!」


 国内で権力抗争が起こりそうな時期に、我が家と王家に、それぞれ1人の子供が生まれた。

 その2人の子供を婚約させる事で、権力が定まり、燻っていた争いの火種が沈静化して、国内の平和が保たれていた。


 その子供のうちの1人であった妹が、そう訴えたのは、国が落ち着き、今後は外に目を向けられるようになってすぐの事であった。


「どうしたの? フレシア。王妃教育が辛くなってしまったの? それともあの子に何かされたの?」


 妹は我が家と王家だけの私的なお茶会の場で、他に誰もいない場所を選んで発言した事を、当時の私たちは気付いていなかった。


「いえ、王妃様。(わたくし)では純粋に力不足であると感じたからです」


「うむ。フレシア。そんなに自信を失くす事はない。ワシはおまえ程、次の国母に相応しい者はいないと考えておる」


 妹の無礼な発言にも、気を悪くすることなく応えた陛下と王妃殿下。

 私や私の家族も、同じように考えていた。


 贔屓目に見なくても、この国に妹ほど知的で思慮のある子供はいないだろう。

 私も次期公爵という立場であった為、夜会などで同年代の子女と話をする事はあったが、妹ほど賢いと思える令嬢に会う事はなかった。


(わたくし)では、殿下のお心に寄り添う事は出来ません!」


 自分の事を話されているはずにシーセリス殿下は、まったく話の内容を理解できていない。この当時に誰かがそう気付いていれば、運命は変えられたのかもしれない。


 妹の必死な訴えは、大人たちの思惑によって有耶無耶にされ、しばらくの休息が妹に与えられる事となった。



「先日は、我侭を申し上げて大変に失礼致しました。今後は心を入れ替えて殿下に尽くしたいと思います」


 定期的に開催される私的なお茶会で、妹が何かを決意した大人の瞳でそう謝罪した事で、私も両親も、そして陛下と王妃殿下も安心してしまって、妹の重大な決意に気付く事は出来なかった。

 そして、この国を支えるべき2人の子供が、たった1人きりであった事も………。





 そして、国外の情勢が慌しくなっていく中、10年ほどの月日が流れて、事件が起こってしまった。


 その現場に、偶然、いや、妹の働きがあったからこそ、妹の卒業記念を祝う為に集まってくれた有力者がいたからこそ、自身の抱えた病気を押してまで参加していた者がいた。

 その会場にその者のお抱えの医師がいる事が出来た。

 会場となっていた学園にも医師がいたが、他の場所にいるその医師を呼びにいっていては、間に合わないほどの出血だったと聞いた時は、その現場に居合わせてくれた医師と会場へ連れてきてくれた者へ感謝した。


 だが、妹のフレシアは目を覚まさなかった。公爵家、王家からのお抱えの医師が診察もしたが、命を取り留めた事、それ自体が奇跡であり、いつ目を覚ますか分からないと言う。


「あの時、おまえの一番近くにいて、お前の瞳を見ていた私が気づくべきだった」


 そうすれば、いくらでもやり方はあったのだろう。

 お前を守ると誓ったおかげで、私は次期公爵として相応しいと評価されるほどの実力を身につける事が出来た。ただ、兄としての資格はなかったようだ。


「私は、おまえを愛する事を許される兄としての資格と引き換えに出来るのであれば、公爵の地位など要らないのにな………」


 ただ眠っているだけの妹のフレシアの髪をそっと撫でる。

 この綺麗な髪も、眠り続ける事でいずれはその輝きもいつか失ってしまうのかと思うと、心に空いた穴が広がるような気がした。


「クロウ様。出立の準備が整ったと。今使いの者が知らせに参りました」


 扉をノックして入ってきたのは、私の婚約者だ。同盟国から嫁ぐ為にやってきた。

 政略結婚である事は明らかであるが、お互いにそれを理解しあった上で、愛を育んで来た。


 妹は、一方的な、尽すだけの愛しかなかった。その事を思うと、後悔に押しつぶされそうになる。


「シオン。大丈夫だ。すぐに行く」


 だが、私に後悔をしている暇はない。妹が命を賭けてまで、この国を守ろうとした思いに応えなくてはならない。

 揺らいでいた誓いを、妹と婚約者に向けて心の中で再度誓う。


「クロウ様。フレシア様の事は私が精一杯お守り致します。義妹になるとはいえ、この方のおかげで祖国への増援を出して頂ける事になったのですから、このご恩は一生かけてお返し致します」


 妹の命を懸けた行いは、国をひとつとする結果となった。

 その場に居合わせた者たちは貴族の誇りを自覚した。数々の見舞いの品と共に、この国の殆どの貴族から手紙が届いた。


「心配しなくても大丈夫だ。フレシアがこの国を動かしたのは事実だが、そのおかげで侵略してくる帝国と正面からぶつかっても追い返せるだけの兵が集まった。シオンは、何も心配せずに、フレシアが目を覚ました時に安心するように言って欲しい」


 妹への負い目を背負うべきは、我が国の者たちだけで良い。そう考えて、婚約者に気持ちを伝える。


 私の婚約者も知っている事だが、妹に冤罪を着せようとした者たちの親たちはまともであった。

 学園に通わせ続けていたのも、最後の学生時代くらいは平穏に過ごさせてあげたかった親心のようだった。


 ただ、その子たちは親心を知らずに裏切り、貴族である親たちは、その事を許しはしなかった。


 その親たちは、自身の私財を投げ打って兵を集め、同盟国を侵略しようとする帝国との戦場へ当主自らが参戦する事となった。

 その事はすぐに、謝罪の手紙と共に我が家に知らせが届いていた。


 そのおかげで兵の総数が膨大になったので、日和見をしていた貴族たちも参戦を決めた。

 この戦に負ける要素はない。


 帝国も自ら仕掛けようとした戦だ。何もせずに引く事は出来ない。

 その為に帝国が何を狙ってくるのかは分かっている。その狙いに対しての備えもある。我が国と同盟国の勝利は揺るがないだろう。




 

「今後の事だが、シーセリスは王太子を剥奪せずに、戦場に送る」


 私が眠ったままの妹と面会をした直後に、王城での会議へと参加した。悲しんでいる時間さえ、私には与えられないのは理解している。


 その会議で、妹をあのような目に合わせたシーセリス殿下の父親が、完全に国王の顔で語る。


「あやつは王家には不要の者だ。スウォンディ公爵家の者たちの為に、フレシア嬢に冤罪を着せようとした者たちごと処刑する事も考えたが、奴を帝国の囮として使う事にした」


 自分の息子を戦場で使う囮とする。陛下が口にした言葉には、そこには親子の愛さえ感じられない。

 

 妹を陥れようとした者たちは、全員囚われている。

 殿下以外は牢屋にいる。貴族の令息・令嬢であっても、その親たちがそれを望んだ程だ。


 殿下は、初めてと言われるほどお怒りになられた王妃様によって監禁されている。

 そんな王妃様は、厳しい監視と公務以外は全ての時間を、王城内にある教会で妹が目覚める為に祈りを捧げてくれて下さっている。


 だからこそ、父であるスウォンディ公爵も私も、王家とも貴族家とも対立を望んでいない。


 事件が起こってすぐに、私が戻ってくる前に、王家との話し合いは終わっている。むろん、妹を陥れようとした者たちが所属する家とも。即日に話し合いが終わるほど、全面的に我が家の言い分を全て受け入れる程だったと父に聞いた。


 当然、卒業パーティーで殿下たちが語った事は、事実ではない事がすぐに確認された。

 妹がそのような事をすると疑っていた者すらいない有様だったと父も呆れていた。


 その話し合いの結果は、殆どの家は、戦争へ参加し、どのような手柄を立てても、戦争が終結後に爵位を返上するつもりでいると父から聞いた。

 我が家へ届いた謝罪の手紙にも、そのように明記してある程に、彼らの決意は固かった。


 そして、さらなる会議で、シーセリス殿下と共に、自分たちの子供を戦争の囮に使う事に賛同した。

 この話し合いは、それを宣言するもので、既に決定事項を伝えただけのような会議であった。



 戦争を知らない貴族の子供たちが着飾った目立つ鎧を着て、戦場に向かう。

 そして、その中心は国の王太子で、周りには同じように戦場で場違いに着飾った令嬢もいる。さぞかし色々と美味しい獲物と帝国の者たちの目に映るだろう。

 彼らの末路にはお似合いだ。会議の結果を聞いた私はそんな事を思ったが、それが悪い感情であるとすら思わなかった。





「この戦はシーセリス=ファン=ヘイジングが来たからには、必ず勝利する!!」


 何も知らされていない殿下は、兵たちの前で演説をする。

 ………演説を考えた者から教えられた台詞すら言えないほど、愚かだったのか。


 そんな相手を補佐し続けた妹の苦労は如何ほどであっただろう。その事実を知った事で、さらに自身の心が冷たくなっていくのが分かる。


 殿下が何も知らないように、帝国も殿下が起こした婚約破棄騒動を知らない。

 ただ、我が軍の士気を下げる事が出来る、美味しい獲物が来た事だけしか知らないのだ。


 妹を陥れようとした者たちは、戦場に立つことで罪を許されると約束されて戦場にいるが、甘やかされて育った分、殆どの者たちは戦場の空気に怯えている。

 そんな状態で生き残れる者などいないであろう。


 演説が終わって布陣が終われば、戦争が始まる。

 さあ、殿下たち。無様に逃げ回って、十分に敵をひきつけて下さいね。周りの方々共々、帝国が美味しそうに群がるように。


 ただ、この事を妹は喜ばないだろう。これは不甲斐なかった我々の自己満足だ。

 妹が安心して眠れるようにあの国を守る事。それが我々に出来る贖罪なのだから………………。



 だからこそ、殿下。妹が最後まで殿下の婚約者でいた事を誇れるように、名誉だけは残して差し上げますから、頑張って下さいね。



-後書き-


この作品はストレスから生まれた作品になります。


この作品を書いた事で、少しストレス発散になったと思いますが、運動不足だった事もあるので、少し運動もしてストレス発散をしたいと思います。


「おまえ、昨日は近寄り難かったよ」と言われて結構凹みました。

このような事がないように、皆様もストレスには注意下さい。

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