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おしえて  作者: イチニヤデアケ
7/11

質問

大学を卒業してから、地方にいくつも工場を持つ、家電製品でも有名な会社に入社した


入社後は、何県かの工場に飛ばされ、そこで現場を知ることから始まった


地元で、高卒で入社した社員は、最後まで現場にいることが殆どだが、大卒で本社に入社した人間は、しばらく現場で修行のようなものをして、本社に戻されることがどれぐらいだろう


半数ぐらいだろうか


あとは、地方に散り散りになって、そこの長などになるケースもある


僕が希望したのは、技術屋でもなく、現場でもなく、本社勤務だったから、数年後その希望どおり本社に戻ったのだった


5年は地方勤務


それ以降は、ずっと本社勤務だった


案外、この会社でそれは珍しいらしい



僕は


多分、この日本中のサラリーマンの中で、かなりやる気のない人間だと思う


入社した時も、他の大学生は、どうしたらよく見られたいか、どうすれば内定を貰えるのか、必死になっているのを横目にしていた


そんなことをしてまで、有名企業に入りたいなどという願望はなかった


ただ


然程裕福でもない一般家庭の両親に、大学まで出してもらっておいて、ある程度有名なところに入社しなければ申し訳ない


仮に裕福であったとしても、生まれてからずっと僕の面倒を看てくれるだけに費やしてきてくれたことには変わらないのだから、もしそうだったとしても同じように考えたかもしれない


きっと、それで喜ぶだろう


そう思って、面接を希望してみた会社に内定をもらった


その条件は、


今後どこを受けて、どこを見てきても構わないから


是非、うちの会社に来て欲しい


うちは、君を内定ではなく、決定したいぐらいだけれど、そうはいかない


だから、水面下では万全にしておくから


どうか、うちに来てくれ



そう言われても、嬉しいだとかの感情はなかった


少し、ほっとしたぐらいの感覚だろう


それよりも、何故僕にそこまでのことをしてくれたかの方が不思議だった



結局、そのまま入社し、そろそろ10年になるが、特に不満もなく、かと言って遣り甲斐があるわけでもなく、それで良いとも悪いとも思わなかった


特に、誰かと揉めるようなこともなく、特別誰かと深く付き合うわけでもなく、自分は面白い人間でも面白くない人間でもないな


いつもどこかでそう思っていた



物心ついたときから、和を乱すわけでもなかったが、先に立って何かをしようという気があったわけでもない


ただ、何かを始めると、周りの誰かがそれを見つけ、僕もやる、私もやりたいと集まってくることはあって、だから、この人生で周りに人がいないことはなかった


でも、そうしていると、その「何か」がとてもつまらなくなって、なんとなくみんながやり出した後は静かにそこから去った


みんなはそれに夢中になっているから、もう僕を気にする人はいない



父親は地方公務員で、母親も独身時代から同じ会社で今も働いている


家事、育児もしながら、疲れている様子を見せてことがなかった


共働きの両親の元でずっと育ったわけだが、寂しいと思ったことがなかった



「公務員なんですね。すごいですね」


とか、


「安定した家庭ですね」


など、言われることがあるが、僕にはその意味がわからなかった


言葉としての意味は勿論理解できるが、何が凄いのか、何が安定なのか、そこが理解できなかった


父親は、本当は公務員でいたいわけではないことを知っていたし、世の中のシステムのようなこともまだ小さい子どもの僕に話してくれた


その話しをするときは、


「お父さんは、公務員になりたいわけでも、今も公務員でいることが自分にとっての最適だとは思っていないんだ。事実として、お前たちを養うにはお金は必要だ。そのためには何かをしなくてはならない。でも、それだからと言って、お前たちのせいにするつもりもない」


そのようなことを付け加えていた


僕自身も、公務員が良いとも悪いとも思ってはいない。生きていくのに、お金が必要なことも理解している。


ただ、それだと、生きること=お金のために働く


になってしまう


生まれてきたのは、生きる=お金 では、何かが違っているような気がしていた


父親も、そういうことを言っていたのではないだろうか


かと言って、無理矢理生き甲斐や遣り甲斐を探すということも、何か違うような気がしていた


『だから、自分は何かをやろうという気になれないのだ』、という言い訳にするつもりもない



そんな、33年を生きてきたあの日、彼女に出会った


最近思うことは、もし彼女に会えたなら、


「僕はどう見えますか?」


と、彼女に訊いてみたい


彼女はどんな言葉を僕について並べるのだろう


そんなことを、女性に対して思ったことなど、一度もなかった

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