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相棒は同い年


放課後、頬を膨らませた『相棒』が、環の教室にやって来た。


「環!また俺のメール無視したでしょ!」


「いつもそんなに重要な用事じゃないだろ」


『相棒』―――――蒔田 マコモは環の同学年にいる親戚筋である。彼の親の都合で、環の家で暮らしている、言わば同居人である。


整った顔立ちの彼の中身は、ただのオカンである。忙しい環の両親と、不器用な環に代わり、家事などをこなしているのだ。だが、口うるさいのに環は辟易していた。


何故、彼が『相棒』などと呼ばれているのかと言うと…………

「ちょっと、その説明は家に帰ってからにしてよ、語り手さん!」

あっ、すみません、失礼しました!………てか、今のメタ発言だぞマコモ。ほら、環とかクラスの人が怪訝な顔をしているぞ。


「今日は大事なハナシ!ほら、帰るよ!」


「あーはいはい」


見た目がよくて物腰の柔和なマコモは、当然だが女子にモテる。異常なレベルと言っても過言ではない。

が、少女漫画のように、普段一緒にいて、しかも同居している環に嫉妬の矛先が向かないのは、二人が親戚であるということと、兄妹のような関係にあることが要因のようだ。



「マコモ君、環の運び方、超絶に雑だよね………」


「蒔田(男子)、他の女子には優しいのに、蒔田(女子)だけには手厳しいよな………」


帰り支度や部活の準備をしていたクラスメイトは、強制連行ドナドナされていく環を苦笑しながら見送った。

キャリーケースのような要領でマコモに引っ張られていく環に、最早同情の目さえ向けられているのも、嫉妬されないことと関係があるのかもしれない。


*・。.


家につき、それぞれ自室で部屋着に着替えてから二人はキッチンに集合した。環が着替えないとマコモがうるさいのだ。

マコモはパリッとしたTシャツとジーンズ、環はヨレヨレのジャージ。マコモは環の服装に色々不満を述べたが、環にとってそんなことはどこ吹く風である。環は水の入ったヤカンを火にかけた。


「で、話って何?」


おおよそ気が強めの女子に告白され、その対応に困っているとかそんなところだろう、と環はヤマを張っていた。素直な子ならすぐに引いてくれるが、強烈な子だと理由を問い詰め、マコモが頷くまで開放してくれないことも多々あるのだ。

モテる割にマコモは彼女を作ったことがない。詳しくは環も知らないが、暫く交際をする気はないのだという。


「環、今朝、『マジカルペンダント』忘れていったでしょ」


名前を聞くのも恥ずかしくなってくるそのアイテムは、『魔法少女』環の変身用の器具である。名の通り首にかけられるもので、小さなペンダントトップは天使の羽をモチーフにしている。

普段は肌身離さず持ち歩いている環だが、たまに忘れることもあった。今日もそんな日である。


「ああ。そうだけど」


「環は魔力が弱いんだから、ちゃんと持ち歩かなきゃダメっていつも言ってるじゃん」


蒔田家の女性は代々、12~18歳まで『魔法少女』の任を背負っていた。

何故、そんな特殊な家業があるのかというと、彼女達の祖先である男性が、『魔界』と呼ばれる場所の女性と結婚したことにあった。祖先の男性――――16世紀のフランス人で、カミーユと言うのだが、魔法は使えぬのに魔力は多く、当時の世界に蔓延っていた『敵』に狙われていた。『敵』は魔力のある人間を喰らうのだ。

彼の妻となった魔界人・メルゲトゥーラはそんな夫を守るため、襲ってくる『敵』を魔法で撃退した。


カミーユの多大な魔力は彼らの息子に受け継がれた。メルゲトゥーラは子孫にも魔力が受け継がれ、一族が『敵』に追われ続けることを危惧した。そして、愛する人を守るための魔術を彼らの娘に教えた。本来ならば息子本人に教えれば良かったのだが、カミーユの遺伝か魔法は使えなかったのだ。


娘はさらにその娘に魔術を教えた。一族の者は魔力や技術を保持し続けるために、何代かに一度は『魔界』の者と交わった。


そうして生まれたのが『魔法少女』の概念だ。


最も魔力・精神力・体力のある10代の間だけ、一族の娘は魔法と特殊な武器を用いて『敵』と戦う。メルゲトゥーラの子孫の他にも、同じ境遇の魔界人の子孫が世界には多くいて、それぞれが地域や時代を分担して受け持っているので、世界から『魔法少女』が姿を消したことはない。


『敵』は魔界人の一種で、普通の魔界の住民にはない喰人の習性がある。魔界とこちらの世界の行き来は限られた場所でしか出来ないが、蒔田家のある街、特に環とマコモが通う高校付近に魔界への入り口が現れることが多く、『敵』はそれらを目敏く見つけては襲来していた。


500年が経った今も、『敵』退治の任は蒔田家に引き継がれている。カミーユとメルゲトゥーラの子孫であった環の曾祖父が、日本人の女性と結婚し、そのまま住み着いたのだ。


環は彼らの子孫であり、魔法少女を継いだ存在である。だが、世代とともに魔界人の血は薄まり、比例して魔力も落ちていた。

それを補うため、先々代の環の祖母が製作したのが『マジカルペンダント』である。これは魔力を人から移したり、微量だが空気中から取り入れることができるアイテムだ。


「まあ、昼間には殆ど何も出ないし、いざとなったらマコモがバーンって撃退してくれるっしょ!?」


蒔田家の近い祖先の配偶者には魔界人がいる。マコモはその配偶者の妹(=魔界人)の直系の子孫である。つまり、マコモは純粋な魔界人なのである。本名もこちらの世界と魔界とで別にある。

マコモは『魔法少女』の補佐役としてこちらの世界に派遣された存在だ。


「『カミーユの呪い』のせいで、傍系の俺まで魔法が使いにくいんだから無理だよ」


魔界人は総じて魔法が使えるが、カミーユの一族と縁戚関係にある者は何故か使えなかったり、幾分か効力が劣っていたりした。カミーユと直接の血縁ではないマコモでさえも影響を受けている。

一族はこれを『カミーユの呪い』と呼んでいた。発生の原因は不明である。


しかしマコモは生来魔力が多く、環の魔力源としてはこれ以上ないほどの適任なのである。


「まずは環が気を付けてよね!」


環はティーポットと二人分のマグカップを戸棚から取りだし、曖昧に返事をした。


「今日だってそのことでメールしたのに見ないんだから!」


「忘れたのは私の落ち度だけど、そんなに煩く言う必要はないじゃんか」


環はティーポットに紅茶の粉末を入れ、沸いたお湯を注いだ。


「さっきもいったけど、昼間に何かが出てきたことはあまり無いだろ」


校地や街に『敵』が現れるのは主に夜間だ。太陽を世界に持たない魔界人は、よほど耐性がない限り、陽光照りつける昼間には出てこられない。マコモは日焼け止めやら何やらを大量に使い、夏でも長袖を着込み、出来るだけ日陰を歩くことで昼も活動している。そして室外での体育の授業は基本、「紫外線アレルギーなので!」とすぐにバレる嘘をついて見学している。



「……それが、今日、学校にいたんだよね」


マコモはいかにも恐怖を感じています、と自分の腕でで自分の体を抱き締めた。身長180センチオーバーの男がするにはキモい動作だな、と環は半目になった。


「いたって、魔界人が?」


ゆっくり頷くマコモ。マコモは魔界人的な独特の感覚で、同族が近くにいることを感じ取ったらしい(環曰く、『妖怪アンテナ』で)。


「それと、新しい人間の血と骨の臭いがしたから、多分、喰人した『敵』だ」


喰事しょくじ後の『敵』はやはり人間の体の臭いがするとマコモは語った。

環もペンダントがあれば『敵』の気配くらいは感じ取れるが、無ければ殆ど一般人である。分からなかったなぁ、と呟いた。


「じゃあ、今夜あたり探すかー」


環はポットを傾けて、カップに琥珀色の液体を注いだ。


「そんなに軽くていいの?学校にいたってことは、同級生とか、友達かもしれないんだよ?」


「別に」


紅茶を一口含み、熱い、と環は言った。そんな様子に、マコモは溜め息をつく。



「『魔法は愛する人を守るための力』なんだろ?」


先人メルゲトゥーラの言葉?」


「私はパパとかママとかマコモとかが大事だから。守るためには友達だって斬る覚悟くらいはある」


マコモは何も言わず、紅茶を飲んだ。


環はちょっと仮眠してくる、とすぐに部屋に戻った。


(カフェイン入りの紅茶飲んで、すぐに寝れるのかな)


首をかしげながら、マコモは読みかけの本を開いた。




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