第10話 『 修行 』
翌朝、桃太は山小屋の外で素振りをしている。
「なんじゃ。もう起きて平気なのか?」
「はい。おかげさまで」
桃太は止めていた素振りを再開した。
おじいさんは素振りをしている桃太をじっと見ている。
「おぬし、少しできるようだが、まだ迷いがみえる」
「迷い?」
「そうじゃ。おぬしは刀を持っているのに人を斬りたくないと思っとる
じゃろ」
「はい」
「それが迷いとなって、太刀すじに表れておるんじゃ」
「でも、人は斬りたくないです」
「それは誰もが通る道じゃ。しかし、それでは敵は倒せんぞ」
「でも……」
「では、なぜおぬしは刀を持っている。なぜ鬼王軍を倒そうとする」
「それは……」
「なんだ? 侍に生まれたからか? 誰かに言われたからか?」
「それもあるけど、やっぱり困ってる人を助けたい!」
「わかった。では、おぬしに活人の剣を教えてしんぜよう」
「活人の剣?」
「活人の剣とは、斬らず、殺さずの剣技のことじゃ」
「それじゃあ、峰打ちで攻撃するということですか?」
「そうじゃ。そのかわり、その分もっと力が必要じゃ。そこで、わしが稽古
をつけてやろう」
「おじいさんが?」
「わしは、こう見えても剣のうでには自信があるんじゃ」
桃太は信じられなかった。
「試しにかかってきてみよ」
おじいさんは、落ちている木の枝を拾う。そして、桃太は峰打ちで
跳びかかった。
おじいさんは、桃太の太刀を枝で受け流すと、その木の枝で打ちこんだ。
「いたっ」
「ほれ、どうした」
桃太は、また向かっていく。
そこに新之助がやってきた。
「お、稽古でござるか。それにしても、おじいさんやるでござるな」
「まずは迷いを捨てるんじゃ。でなければ活人剣は教えられんぞ」
「活人剣? まさかあの老人は、源流斎 正宗では」
「ふぅ。少し休憩じゃ」
「はぁはぁ」
桃太は息があがってる。
「おじいさんは、もしや源流斎 正宗殿ではござらんか?」
「源流斎? 新之助さんは、おじいさんのこと知ってるんですか?」
「うむ。」
「源流斎殿は剣の道では有名な活人剣の達人でござるよ」
「へぇ〜。そんなすごい人だったんですか」
「ばれてはしょうがないの〜。」
源流斎は、歳は七十代の小柄な老人である。
「休みは終わりじゃ」
そう言うとまた稽古を始め、その稽古は、一週間ほど続いた。
「桃太よ、教えることはすべて教えた。あとは教えたことを自分のものに
するだけじゃ。これなら一人でもできるから大丈夫じゃろ」
「ありがとうございます。師匠」
数日後。
「もう、行くのか」
「はい」
「では、これを持っていくが良い」
源流斎は一本の刀をさしだした。
「これは活人剣のために作られた刃がない刀じゃ」
「ありがとうございます」
「おぬしならきっと、鬼王軍を倒せるじゃろ。気をつけてな」
「はい。師匠もお元気で」