第1話 『 旅のはじまり 』
時は戦国時代を終え、人々は平和にくらしていた時代。そんなある日、
この国は突然、悪の軍団に支配されてしまう。そして、支配されてから
七年後のある小さな村の一角、農村にはにつかわしくない武家屋敷での
こと。
「なにしとる。早く立たんか!」
一人の老人が怒鳴った。
「もう勘弁してよ、じいちゃん」
少年が座りこんだまま、疲れた声で言う。その少年の名は、吉備 桃太。
そして怒鳴っていた老人は桃太の祖父である。
「桃太、そんなことじゃ鬼退治はできんぞ」
「何言ってるんだよ。今の時代、鬼なんかいないよ」
「いるじゃろ。鬼みたいな鬼王軍が」
鬼王軍とは、七年前からこの国を支配している軍隊のことである。
「そもそも、なんでオレが行かなきゃいけないんだよ」
「何を言っとる。おぬしはあの伝説となっておる桃太郎様の子孫なの
じゃぞ。あたりまえじゃろう」
「じゃあ、じいちゃんが行けばいいだろ」
「わしも若けりゃ行っとるわい」
「じゃあ、父さんは?」
「あやつにも剣術を教えたんじゃが、まったく才能がなくて……って、
そんなことはもうええ。ところで、おぬしももうすぐ十五じゃろ。
そろそろ旅に出てもいいころじゃ。だから、それまで修行じゃ!」
すると祖父は、座りこんでいる桃太に向けて竹刀を振りおろした。
「うわぁ」
桃太はかろうじてかわし、振りおろした竹刀は床へ。
「ほれ、まだまだじゃ」
祖父の修行はなおも続いた。
数週間後。
「桃太、準備はできたか?」
祖父が、はりきった声で言った。
桃太を見ると、まさに話にきく桃太郎の服装をしていた。しかし、
桃太は不満そうな顔をしている。
「やだよ、こんなかっこう」
「ばかもん。鬼退治といえばこの服と決まっとるんじゃ。ほれ、あとは
このきびだんごを持てば完成じゃ」
祖父は桃太にきびだんごを渡し、家の外へと連れだす。
「では、行ってくるのじゃ」
祖父は桃太の背中を強く押しだす。
桃太はしぶしぶ歩みを進めた。
「気をつけるんじゃよ〜」
足を止め後ろをふり返ると祖父と他の家族たちは、のんきに手を振って
いる。
桃太は一つため息をつくと、また歩きはじめた。
村を出ると草原の中、一本道が続いている。桃太がその道を歩いている
と、後ろから誰かの強い視線を感じた。ふり返ってみると、そこには誰も
いない。気のせいかと思い、前を向いて歩こうとすると、また強い視線を
感じた。今度は急にふり返ってみる。すると、そこには一人の男が立って
いた。
「じ、じいちゃん! なんでここに」
驚く桃太。
「ちょっと気になったもんでな。すまん、すまん。今度こそお別れじゃ」
桃太はあきれながらも歩きはじめた。
村も小さく見えるほどのところまでくると、桃太はようやく旅に出る
という実感がわいてきた。すると、またもや視線を感じる。桃太は嫌な
予感がし、ふり返ってみるとそこには祖父と一匹の犬が。
「いや、家来にどうかと思ってな」
「い・い・か・げ・ん・に・しろ〜!」
怒りが爆発した桃太。
「わははは。たっしゃでのう」
そう言いながら祖父は犬とともに一目散に逃げていった。
「まったくもう」
桃太は気をとりなおして歩きはじめるのであった。