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東方奔走録  作者: むーあ
紅魔郷
9/32

暗闇の館




『この化け物』


違う


『ひいっ!殺されるわ!』


違う!


『ホントにいたのか!紅い館に住む悪魔が!!』


違う違う違う!!!!!


私は・・・


脳裏に焼き付いた、悲鳴にも似た嫌悪の声は、現れては消え、自分の心を抉りとるかの如く、迫ってくる。


分かっている。

これは幻想(ゆめ)だ。

だから・・・お願いだからもう消えてよ・・・・・・


銀の髪をした少女は、うずくまるような姿勢で震えながら、蒼白な・・・困惑と悲哀に満ちた表情をして、手を胸の前で交差させ、肩を抱く様にし、俯いている。


その少女が根本的に人と違うのは、小さい、しかし八重歯というにはあまりにも長い牙を持ち、背中には、自らの手を広げたとき程の大きさの、蝙蝠の様な黒い翼を生やしているところだ。



ルーマニアのとある広大な森のなかに、小さな湖畔に面した、レンガ造りの、見事な外観の洋館が存在する。


多くの歴史的建造物がある中、その建物は、外壁や屋根、細部に至るまで、総て血を染み込ませたかの様に紅く染まっており、森の中心部にあるこの館を、古くからこの地の住人は、畏敬と、純粋な恐怖の念を込めて、こう呼んでいたのだ・・・・・・・・・「紅魔館」と。


その館のホールに、一人、走馬灯のような人々の非難の声を浴びながら、しかし、一切の反論も反撃もせずに、レミリア・スカーレットは堪え忍んでいる。


不意に一人の赤い髪を三つ編みにした少女、いや、髪だけではない、赤い瞳、赤いリボンネクタイ、赤いトレンチコート・・・すべてを「(あか)」で纏った少女が、何の前触れもなく紅魔館の大扉を開き、話かけてきたのだ。



『紅い館なんてとても素敵ね!』


『お前はなんだ・・・人間か?・・・・・・私が・・・怖く・・・無いのか?』


『それに優しい吸血鬼だなんて、これ以上ないぐらい素敵じゃない!!でも・・・もっと貴女にふさわしい世界(ばしょ)があると思うわよ?』



そうだ・・・・・・せっかく、ここまで来たんだ


この、美しい幻想の地に・・・・・・


もう少しすれば皆を・・・妹を・・・救ってくれる


そう、・・・あの巫女が、「博麗の巫女」が


だから私が・・・みんなの、支えとなるべき私が・・・!



「こんな悪夢に負けてたまるかああぁぁあぁあぁぁぁ!!!」



レミリアは自らの寝室のベッドで飛び起きた。はあはあと肩で息をしながらも、悪夢に苛まれた後ながらも、その眼光は鋭く、一つの信念を貫き通す様な意思を持っている。


此処は幻想郷。

様々な妖々が魃扈する異界の楽園。


西側についた寝室の窓を見ながら、この地で自らの友が作り出した紅い霧を確認し、そして当初の目的を脳内に巡らせる。


そうだ・・・・・・もう始まっているのだ


不意に自らの手のひらを掛け布団の中から出し、目を凝らして見ると、震えはもう止まっていた。


「お嬢様ぁ!!いかがなさいましたか!!!」


バン!と、窓とは逆方向の、廊下に面した扉から、銀髪のメイドが勢いよく駆けつけてきた。相当に焦っているのか、目は見開かれて、飛び起きた時の自分のように肩で息をしている。


普段の瀟洒(しょうしゃ)な態度とは裏腹に、慌てふためいたようななかなか見ない少女の姿を目にしたレミリアは、耐えきれなくなり「ぶふっっ」と吹き出してしまう。


「くくっ・・・・咲夜、お前今 (どうぞく)殺しそうな顔してるぞ。」


「も、申し訳ありません。しかしお嬢様に万一の事などあれば」


「いや、正門以外はパチェが結界張ってんだから、いきなり寝室は来ない・・・とは言えないか、紫のこともあるし。」


レミリアたちが紅魔館ごと幻想郷に移住してきたのは一週間程前、つい最近の出来事であるが、その頃から万一の事態に備えて、美鈴が門番としてついている正門以外は、魔法による強力な結界を張り、侵入されるのを防いでいるのだ。最も、幻想郷の管理者には全く通じなかったのだが・・・


しかしレミリアは優しく目を細めながら、幼いその姿とはかけ離れたような優しい笑みを浮かべ、言葉を続ける。


「でも紫もそこまで悪そうなやつじゃ無かったな。やつとは仲良くなれそうだ・・・それに直接私の所に巫女が来たからといって、困るものでもあるまい。事の運びが早くなるだけだ。」


「・・・・・・それは」


「まあお前にも・・・いや、お前だけじゃない。パチェだけじゃなく美鈴や小悪魔、私なんかについてきてくれたみんなに感謝しているんだ。これからも宜しく頼むぞ、咲夜。」


「っっ!!勿体ない・・・お言葉・・・」


普段紅魔館にいる住人(メンバー)にからかわれ、うーうー唸っている姿とは一線を画すほど、このような真面目な時の我が主人は、美しく、支配者然としているのだ。



・・・人だろうが妖怪だろうが関係ない。このお方の為ならば、このお方の障害は、総て取り除く。たとえ殺してでも・・・。



こういう時のレミリアは、咲夜に盲目的なほどの忠誠心を植え付けるほどの魅力(カリスマ)を放っているのだが、本人は知る由も無い。



『ドガアアアアアァァァァアンンン』


「「!!!!!」」


不意に響き渡る階下からの轟音に、レミリアと咲夜はとうとう来たかと警戒心を引き上げる。しかしレミリアは轟音を聞き暫くして、不思議そうな顔で呟いた。


「巫女ではなく魔法使いか?私の能力では見えなかったけど・・・まあ巫女もいるようだな。よし!」


「如何いたしましょう」


(あるじ)の意に添える様に、(あるじ)の声に全霊を掛け、言葉を待つ。


「嘘つけ咲夜、ホントはわかってるだろ。

せっかくこんな《異変》を起こしたんだ。遊んでやれ」


「は!!」



紅魔館 一階 玄関ホール


「おい吸血鬼!あたしは霧雨魔理沙!!

赤い霧を止めに来た魔法使いだ!そしてここに監禁している妖精たちを返してもらうぜ!!」


玄関を突破した魔理沙の言葉を無視するように、ホールあたりはしーんとした空気に包まれていた。


「・・・・・・誰もいないわね」


「ぶふー魔理沙恥ずかしっ 誰に言ってんのさ」


「いや・・・確かに聞こえたはずだぜ。吸血鬼ならな」


吸血鬼は普通の妖怪とは違い、音や振動に敏感なのだ。今までに吸血鬼と戦ったこともある魔理沙は半ば確信をもって口にする。


「それより急ぐわよ!チルノの話がホントなら、ここに湖の妖精もいるんでしょうしね」


「嘘じゃないよ!・・・あのとき私はあいつに、めーりんとかいうやつに勝てなかった。だから大ちゃんもみんなも連れてかれたんだ・・・・・・」


チルノの話によると、移住してきた紅魔館の働き手を募る為、半ば強引に周辺にいる湖の妖精たちをさらったとのことなのだ。


弾幕勝負をして、勝てば妖精たちは連れていかないでやろうという相手の言葉にのり、チルノは結果敗北してしまった。

そのため妖精たちは紅魔館で住み込みで働かされているのだという。


実はその勝負を仕掛けた(ホン)美鈴(メイリン)は門の前ですれ違っているのだが、魔理沙の暴走気味な運転で、チルノは全く気づいていなかった


「ああ、とっとと行こうぜ!こんな薄暗い紅い館でなにさせられてるかわかったもんじゃないしな」



「心外ね」


「「「!?」」」


突如として響いて来た第三者の声を聞き、否、聞くと同時にホールへと二階に続いているであろう大階段を下りてくる、一人の少女が現れた。


気のせい・・・・・?

なんか・・・いきなり階段の途中から現れた気がしたわよ


博麗の巫女は代々継承している特別な《直感》のようなものを持っている。

その半ば勘のようなものを使い、紫が隙間を使って神社にくるときにはいつも、大体何処に来るか不意に気づくことができるのだ。


今回もその直感が働き、現れるであろう位置は大体つかめていたが、気配も姿も直前まで判別できなかったのである。


突如現れたメイド服を着ている得体の知れぬ銀髪の美少女に、三人は警戒を最大限に引き上げる


「私は十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)と言うのよ。

ここのメイド長をしているわ。」


「へえ、人間が吸血鬼のメイドなんて面白い趣味してんのね。あんたの主人も」


「知った風な口を聞くな!」


「!!」


「「・・・・・・」」


霊夢の言葉に、怒りと研ぎ澄ました様な殺気を込めて凄んだ言葉がチルノを思わず半歩下げたが、霊夢と魔理沙はさっきの咲夜の反応で、目の前の人間の主に対する忠誠心が本物だと確信する


「ごめん、そんなつもりじゃ無かったわ。まあアンタにも事情があんのよね」


「ホントやめろよ霊夢、さっきの発言は私にも効くぞ」


「・・・こっちこそ大分取り乱したわ、ごめん。

でもちょっと出てってくれるかしら。掃除が終わらないのよ」


「霧を止めてくれたらね」


「止めるわけないでしょ、お嬢様は日光に弱いの」


「じゃあ決裂か」


「決裂?いや・・・」



決闘でしょう



突如、大階段の途中にいたはずの咲夜が対面に現れた。

数メートル程の距離に詰められた三人は戦慄し、相対する様に銀色のナイフを逆手に構えた咲夜は言葉を続ける


「人間と妖精、この紅魔館に攻めてくるには後二十人ぐらい足りなかったかもね・・・」








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