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東方奔走録  作者: むーあ
夢時空
31/32

夢幻伝説 中編

間隔開きすぎて見てくれないかも知れませんね。



あと、先に言っておかなければいけないことがあります。


この話は、特定の方をひどく不快にさせるかもしれません。



そういうつもりは無いのですが、不快な気持ちを抱いたら、馬鹿なガキの戯言だと思い、読み飛ばしていただければ幸いです。



「来ないの?」




 岡崎夢美は、対峙している眼前の巫女に、放心したように問いかける。





――動け・・・動いてくれ!!・・・頼む!!!


 



 異様なほどに汗が溢れだす霊夢の身体は、震え上がるほどに冷たい。


 霊夢は今までの経験と「勘」から、この場より逃げ出したい衝動に抗うことなく、全力で応えようとした。


 今までに感じたことの無い・・・・・・死、そのものと対峙しているような、異常たる恐怖心が、逆説的に、醜い生存本能を全力で肯定していく。



 




「じゃあ・・・・・・こっちから行くわね」



 夢美は、手で自らのリボンネクタイに触れようとする。



 解る

 知っている

 違う

 あれじゃない

 いっしょだ

 違う

 いっしょだけどちがう(・・・・・・・・・・)

 (やば)

 ここからにげろ

 この(わざ)





――――Strawberry(ストロベリー) Crisis(クライシス)

















二日前 京都 某所 研究室



 

「天才っているものねー」



 霊夢との決闘を開始する2日前。京都にあるとある研究室で、デスクに向かって座る赤い髪の学者が、口を開いた。

 背を向けたまま、誰に向けるわけでもないその呟きは、そのへやにいる助教授の気を引いた。


 午後の休憩時間、靴を脱いでソファに寝ころんでいたその助教授――北白河ちゆりは、いつも通り突拍子もない事を言い出す自らの主人に、態勢を変えず、いつもの調子で返答する。


「どうしたんだぜ?ご主人」


「ねえ……《博学サヴァン症候群》って知ってるでしょ」

 

パソコンに向かったまま、振り向かずに会話を続けるその姿に若干ムッとしたが、自分の態勢も人に言えるようなものでは無かったため、ちゆりは怒りを払いのけて、問いに返す。


「知ってるぜ?脳に障害をもつ人物、特有の記憶能力でしょう?」


「あれ・・・・・・どう思う?」


「はあ?・・・・・・はあ・・・どう・・・ですか?」


ちゆりは、訳の分からない質問を切り出した教授に疑問を抱くと、瞬時にその疑問はある種の諦念に変わった。また始まったか・・・という風に、ちゆりは求められた答えを返そうと、思考を巡らせる。


「まあ、分野が違うんで何とも・・・・・・でも、あれ、完全記憶能力・・・・・・あれは便利におもいますよ。だって一度物を見たら忘れないんですよ?ぶっちゃけあったらほしいですけど、あれって先天性うまれもってのものらしいじゃないですか?じゃなきゃ事故にあってとか・・・・・・そこまでリスクは背負いたく有りませんし、縁のない物ですよ」


「そう言われてるわね」


「それに、その能力の原理メカニズムも良く分かってないから、研究しようがないぜ。まあ、脳科学は私たちの専門外ですし、元の世界むこうの脳科学者どもが解明するのを待つって感じですよ」


「そうね、で?」


「で!? いや、ご主人・・・結論だぜ。これが・・・・・・というか、何してんですか?」


 背を丸めてじっとしている夢美の前のパソコンには『非統一魔法世界論』に関する論文が、やりかけのまま放置してあった。

 その画面は、昨日の夜から一向に進んでおらず。今の今まで何やってんだあんた・・・・・・という愕然たる怒りが沸いた。が、そう思ったのもつかの間、手元で熱心に何かしている空気感が見て取れる。ちゆりは怪訝な顔を向け、近づき、覗き込んだ。


「え、読書? めずらしっ・・・・・・何読んでるんだぜ?」


「ちーがうーわよー。これも立派な研究よ研究」


 そう言うと夢美は、小説であろう文庫本の見ていたページを親指に挟んだまま、畳んで表紙を見せた。其処には、殆ど全裸の状態で、後ろを向いて開脚した女性の股を自ら見せつけるように煽情的な恰好した、まるで浮世絵を彷彿させる画風の、奇怪で耽美なイラストであった。


 ちゆりは一瞬石化したように固まり・・・・・・


「え・・・・・・て気持ち悪!!本当に何読んでんだあんた!!官能小説!?」


 呆れたように叫んだ。


ボカッ


「いった~~」


こちらを振り向きもせぬまま、手元の本を読みながら、受けすぎてデジャブにもなりはしない拳骨がちゆりに飛んできた。


「失礼なこと言わない!!この世界(・・・・)での文壇における一流の研究者の作品よ!!」


「文壇における・・・・・・一流の研究者?」


 意図の飲み込めぬ怒号に、ますます怪訝な顔を浮かべたちゆりだったが、夢美の流眄ながしめを受け、ごくりと唾を飲み込む。

 こういう時、自らの主人には、まるで天啓でも授かったかのような異様な発想が口から零れ・・・・・・たりするのだ。ほんのたまにだが。

 

 そんなことを考えていると、椅子を引き、チェアを回転させてちゆりに向き直ると、声のトーンを落とし、語りだした。


 「博学サヴァン症候群・・・・・・この能力が初めて学会で発表されたのは、1887年と言われているわ。イギリス、コーンウォール州出身の精神科医師である、ジョン・ランドン・ダウンが、病院で、とある患者を診察()て、衝撃を受けた。その患者は、夥しい量の書籍を一読しただけで、全ての文章を丸暗記した。それだけでも異様なのに、その内容を全部逆再生するみたいに、逆からも読み上げてしまったのよ!!」


━━発表者がエミール・クレペリンじゃない。し、発見年数もちょっと前だぜ? でもご主人が間違えるとも思えない。この世界の歴史か・・・・・・?


 ちゆりは唐突に語りだした自らの主人に呆れながら、内容を把握していく。しかし、専門分野外であるにも拘らず、自分達が以前いた世界から、六世紀以上前の話を瞬時に照らし合わせる北白川ちゆりの教養と対応力こそ、流石といって過言ではないだろう・・・・・・夢美は話を進める。


「でも、この診察を受けた人物が何らかの障害を持っていたいう話は全然分かんないみたいだけどね。まあ、この人は21年前にダウン症※の論文を発表してるし、経験から脳に在る何らかの症状を見たのかもしれないわ」



※ダウン症候群。21番染色体が一本余分に存在することで、発症する先天性疾患軍。症状の中には軽度の知的障害も含まれる。



「ご主人。結局なんの話なんだ。・・・・・・ぶっちゃけらしくないぜ?」


「まあ、最後まで聞きなさいよ。物事には順序ってものがあるでしょ?」


 


 アンタが言うな!! という言葉を全力で飲み込み、唐突に奇怪な話を始めた主人をじとっーとにらみながら言葉を待つ。



「そして、具体的な研究が登場するのは、大分飛んで、1980年。ロジャー・ルーウィン著のあなたの脳はイズユアブレイン本当にリアリー必要ですかネセサリー?よ。ここには同じくイギリスにあるシェルフィード大学、小児科研究教授。ジョン・ローバーの考察が抜粋されているの。」

 

 よっと、と言いながら。夢美はパソコンに向き直り、慣れた手つきで日本語変換もせず、ABC語(アルファベット)でタイピングしていく。瞬く間に英語で記載されたPDFに画面が飛んだ。


「まあ、これは原文だけどね。読んでみて」


「えーと?何々・・・・・・ジョン・ローバー英吉利ア・ブリディッシュ精神科ニューロジス 

 

「遅い!!」


「いや、速すぎるぜ!まだサブタイトルも読んでないですから!!」


「要するに、彼のいた大学で優秀な成績の学生がいたのだけれど、その学生の脳を調べてみたら、脳室から大脳皮質。つまり脳室帯ね。本来、其れは其処にあるはずなのに・・・でもね?そこには脳室帯・・・・・・・どころかあるのは(・・・・・・・・)皮質だけで全然・・・・・・脳細胞すらも・・・・・・存在しなかったのよ・・・・・・・・・!!」


「は・・・・・・はあ。いや、つまり・・・・・・?」


「そして、これだけじゃないわ。約二十年前、脳に障害を負った主人公の映画があるのだけれど、その題材となった実在の人物は瞬間記憶能力者でありながら、脳梁を欠損しているの。つまり、情報伝達をする機関・・・・・・・・・そのものが無いという・・・・・・・・・・事になるわ・・・・・!!!」


「なあ、ご主人・・・・・・その本は・・・・・・なんなんだ?」


「そして、この本は探偵小説でね。ちゆり。幻想郷で・・・・とある妖怪の少女に・・・・・・・・・貰ったものなのよ・・・・・・・・。」


「え・・・・・・幻想郷で・・・・・・? 京都こっちで買ったんじゃないのか?」



ちゆりの云い知れぬ戦慄とは裏腹に、夢美は静かにうなずいた後、会話をウルトラ頂点クライマックスへと繋いでいく。



「忙しいのと、今まで全然読書なんてしてなかったのもあったけど・・・・・・今までこの本を読んでいなかったのが悔やまれるわ。本題はね・・・・・・この小説の上巻に記載されている、素敵も無く素敵な論文なのよ」



「論文!?探偵小説に!??」



「そうよ。この小説にある論文が、今までに発表された学説の、統べての(こたえ)かもしれない。しかも、この著者が小説を書いたのは67年前の、1935年。つまり、今までの博学(サヴァン)症候群の具体的な症例より、悉く前の時代に、(こたえ)を出していたことになる。まったく、本当の天才ってのは(・・・・・・・・・)いつの(・・・)時代にもいる(・・・・・・)ものなのね(・・・・・)。まあ、論文の結論だけかいつまんで読んでいくわね・・・・・・」



「いや・・・・・・それよりそれ、下巻だぜ?」



 上巻を読むといった主人が、今手にしているのが下巻だという事には、ちゆりは表紙のタイトルを見ている為とうに気づいていた。しかし、今から読む事柄が、台詞なのか筆者の語りなのかは分からないが、諳んじるであろうその言葉に、耳を傾ける。


 主人が、読むと言えば、それは、本当に読むということなのだろう。


岡崎夢美はゆっくりと口を開く、そして・・・・・・






『見よ。聞け。驚け。呆れよ……。』






 それはさながら、狂人の様に。



 あるいは、稀代の役者の様に。 


 

 どこも見ず、何も考えぬ様な乱らがましい姿で。



 それとも、自分では無い、遥か遠くの世界でも看るかの如く。






――……脳髄は物を考えるところに非ず……  


 


 


紡がれた言葉は、少なくとも、比較物理学助教授、北白川ちゆりに、どんな学説よりも確かな、『論理』となって――鼓膜を震わせたのだ。







紅魔館 北館 テラス上空




――――Strawberry(ストロベリー) Crisis(クライシス)



夢美の手が、リボンネクタイに触れた刹那。赤い閃光が霊夢の目に迸る。

解る

食らうわけには行かない

どうしてこんな時に、動かないのだ

どうして

自責の念が谺する

しかし、得てしてそういうものではある。

しかし、だが、しかしだ。

一瞬にして終ってしまうなら・・・・・・いっそ!!


「動っっけえええ゛え゛えぇぇええ!!!!」


 霊夢は強引に手に持つ符から霊力を放ち自分自身に爆発させ、数メートル後方に後退さがった。

「!!!!」

 周囲には悲鳴が起こったが、自ら吹き飛ぶ博麗の巫女と、赤い学者は、射殺す様に見つめ会う。

 恐怖はもはや無い。

 何もせず負けるわけにはいかない。

 その瞬間、霊夢の居た位置に何処からともなく機械音が響き━━赤く煌く十字架が出現した。

 寸前の回避。

 いや、違う!


━━まだだ!!!


 霊夢は飛びながら腰を捩り、身を翻す。そして、またも機械音と共、瞬間的に十字架が出現する。

 身の丈ほどの十字架を蹴り、その場から離れる。


―――!!


 霊夢に赤い閃光が見えると同時、空中で縦に宙返まわる。

 またも十字架が現れ、寸前で回避したことが分かる。 

  


 奇怪で奇異ふしぎな光景に、観客たる紅魔館の面子は愕然とするほか無かった。 

   

 いったい何が行われているのだ・・・・・・

 此れは決闘ではないのか・・・・・・


 荒れ狂うかのごとく異様なスピードで出現する十字架は、周囲の目には予兆など見えなかった。

  

 そこには、妖異な瞳で猥らに嗤う学者と、巫女が常に視線を離すまいと睦みあう。

 

 これでは、まるで・・・・・・



「ダンスみたい・・・・・・」



 フランドールがつぶやいた言葉に、全員が意図せず得心のため息を漏らす。


 此れは―――舞踏なのだと。


 軽快な音楽を奏でる者の超絶たる技巧が、同位の伎倆ぎりょうを持つ舞踏家ダンサーを常に休めることなく引きずり回す。 

 

 一流の芸術に等しい・・・・・・と、路易ルイ朝前期より典雅ロココ芸術に触れてきた、龍と吸血鬼、そして、その血と魂を受け継いだ魔女と従者メイドでさえ、そう感じずにはいられなかったのだ。




 しかし、童話のようなその場面シーンも急転し――――終わりを告げる。 



 

「がっっ!!!!」


 霊夢が縦に宙返り交わしたはずの位置に、異様な速さで十字架が出現した。

 

「終わりよ・・・・・・霊夢・・


「っ!!! 掠っただけグレイズよ」 


 しかし、その寸前でリボンネクタイからの光線レーザー標準ポインタを見切り、身を捻る霊夢の運動神経と経験は、周囲を感嘆させるに相応しいだろう。十字架は服を切り裂いただけに過ぎない。ただ・・・・・・


「いいえ、もう終わりよ・・・・・・今なら・・・貴女が何を考えている・・・・・・・・・・・手に取るよう・・・・・・に分かるわ霊夢・・・・・・・

 


「はあっ!!? っつう!!?があああ!!???」


 出現する十字架をことごとくかわす霊夢が、誰よりも違和感に気づいていた。


 先ほどから、かわしたはずの位置に、ことごとく十字架が現れるのだ。


 霊夢は常に考えてかわしているわけではない。


 時には虚偽フェイントを入れるが、それもリズムを悟られぬように、間隔を空けて使っている。


 歴戦の強者でも、あるいは並外れた妖力を持つ妖怪でも、それは読める物ではない。


 少なくとも霊夢はそれほどの実力と経験、そして他者が絶対に持ちえぬ博麗としての「勘」を宿しているのだ。


 しかし、その考えを少なくとも、強敵たる赤い学者は把握しつつある。


 そして、その信じがたい事実に気づいていたものは霊夢だけではなかった。





「夢美っっ!!!おまえ・・・・・・何で妖気が・・・・・!!!?」 


 紅魔館の館主である吸血鬼――レミリアは驚愕の声を上げた。そして・・・・・・


「夢美さん!! めてえ!!!!」


「フラン!?どうした!!危ない!!!」

 

 直後、その決闘に割って行くように飛ぼうとするフランドールを押さえつける。


「なんで!!あの人は私を助けてくれた仲間なんでしょ!!?」


「フラン様、決闘中でございます!!お嬢様のおっしゃるとおり危ないですので」


レミリアと咲夜は、フランの突拍子も無い行動に、障気を完全に散らすことができなかったのではないかと

いう狭霧のような不安を抱いた。


「なんで!!! このままじゃ!! だめだよ皆!! 夢美さん止めて・・・・・・・このまましたら戻・・・・・・・・れなくなる・・・・・!!!!!」


「・・・・・・・・フラン様」



「あああhはっははははははああああはははははは!!!!!!!!!」



 気が触れたかと思う狂人そのままの哄笑を破裂させ、赤い学者が更に攻撃の手を加速させて行く。





 

「夢美ぃぃっ!!!・・・・・あんたっっ・・・・・・!!!妖怪に魂を売ったかああああ!!!」

 





霊夢の咆哮は、里中に響き渡るほどの怒りとなって放たれた。







そして、予期せぬ事態に、紅魔館の門番が、重低たる口調で決意を語る。



「フラン様、皆さん・・・・・・この決闘を・・・・・・止めましょう」


 





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