亡き王女のための七重奏(セプテット)後編
ほんっっとに頭がおかしいぜ!なんて複雑な魔法を操るんだ・・・。
魔理沙は四人に分身したフランドールを結界の中から凝視していた。
そしてフランドールが今までに放った数々の魔法に思いを馳せる。
そうだよな・・・本当に狂いきってるんなら、さっきからこんな複雑な形態の魔法を操れる訳がないんだ。
弾幕攻撃は魔法による攻撃を仕掛けるだけじゃなく、周囲に反射の魔方陣をかけていたし、この分身魔法は自分自身を崩し、構成しなおした後、さらに魔法による増幅の強化を施してる・・・単なる分身なら、質量保存の法則に逆らえず、一体一体が弱体化してしまうはずなんだ
魔理沙はフランドールに感じていた強さを確信に変えて推察していた。
魔法には、単純に大きな魔力を解放して威力を上げるものもあれば、そのような力技ではなく、あらゆる状況を見極め、叡智により発動する技巧派の魔法も大いに存在している。
そしてフランドールの放つ魔法は、どれも単純な力技では説明のつかないものばかりだったのだ。
自分自身の経験や修練に分不相応な魔力や妖力を持ってしまったがために、心が壊れてしまったなどという事は、聞かぬ話ではない・・・魔理沙にはそのような知り合いも過去にはいたのだ。
しかし今の・・・霊夢の封印が施されていない、今のフランドールにも確かに宿る叡智と、暗闇の中の蠟燭の火ほどではあるが、暖かい心が存在していることも感じていた。
へへっ・・・にしてもなんだかんだちゃんと宣言してるんだよなーフランドールってやつ・・・・・・アイツに命名決闘法を教えられたのは・・・
「なあ、お前だろ」
「・・・・・・何がよ」
「何照れてんだよ霊夢ー(うりうり)」
「あっちょっ・・・馬鹿野郎っ!脇腹つつくなあ!!今必死に結界張ってんでしょうがあぁ!!」
あーわたしも勝負したいぜ!というか外の魔法使いはやっぱり色んなやつがいるんだなー・・・
先に勝負したパチュリーと比べても遜色なく、また、毛色の違う妖の魔法使いに目を輝かせると同時、少し・・・しかし確実に感じる共感と、嫉妬にも戸惑っていた。
お前も辛い思いをしてたんだろうな・・・分かり合えずに・・・・・・だから家族とこんな風に・・・すれ違ったのか?
でも、お前は良いよなあ。
きちんとぶつかってくれる・・・懸命にお前の心をこじ開けようと、お前のことを理解しようと、自らの心を開こうとしてくれるような姉がいるんだ・・・私には・・・・・・そんな家族居なかったぜ・・・
遠い・・・しかし昨日のように思い出される幼少の頃が、脳裏に過った。
己の境遇を疑問に思わない日はなかった。どうしてわたしはこんな家庭に生まれてしまったのか、どうしてわたしは普通の生を得られなかったのか・・・
しかし今は違う、無力なあの頃とは・・・何も出来なかったあの時とは・・・・・・
そこまで考えて魔理沙はハッと我に帰る
・・・うわっ!!ダメだな、くそ!なんかさっきから悪い考えがちらついてしょうがないぜ。咲夜にも怪訝な顔されたし、多分妙な顔しっぱなしだな私。・・・・・・迷いは絶ち切らなきゃ、な。
よし!これが終わったら絶対宴会で呑みまくってやる!・・・・・・てあれ!?アイツどうした!!
先ほどから二人の闘いを観戦していたが、四体の内の一体、憤怒の妖気を纏ったフランドールが、いきなりレミリアの懐に潜り込み何の《宣言》もせず横腹に杖を突き刺したのだ。
やばい・・・何がやばいってアイツ・・・怒りで我を忘れてんじゃないのか!?ていうか姉の方も姉の方でいきなり動きが鈍くなったぞ!?妹に嫌いって言われたからか!!?どんだけ心弱いんだ!!
「魔理沙!!これ以上はもう待てない!」
「咲夜さん・・・私も行きます」
横を見ると闘気と覚悟を身に宿す咲夜が術を発動させようとしていた。それと同時、美鈴も笑みを消し、武人としての強烈な闘気と妖気を身に纏う。
「ちょっちょい待ってくれ二人とも!」
「止めても無駄よ、行くわ」
そう静かに返す咲夜のその瞳は、同じく闘気と覚悟を宿し、何者にも動じぬ心が読み取れるようだった。
「そうじゃないって、よし、いいぜ行こう!私も混ぜてくれよ!!時間止めるんだろ?」
「無論よ・・・はあ!!・・・・・・・・・はあ・・・」
咲夜が術を発動すると同時、彼女以外のこの世界におけるすべての時間が停止した。この場で動ける者は咲夜のみである・・・かに思えたが
「美鈴・・・悪いな、お前まではさすがに魔力が持たなそうだぜ・・・もうカツカツだ」
咲夜はその状況に呆れると、否、隣にいるありえない状態の魔法使いの異質さに諦めると、さて、と静かに歩みを進める、すると霊夢が張っていた符の結界が大きく広がり、通れるほどの隙間が出来ると同時、パチュリーの水泡もそれに沿い、ところどころ球状の綻びができていたのだ。
「うわっすごいな!!空間操作か!?」
「そうよ・・・私は『プライベートスクエア』って呼んでるわ」
「privatesquare(自分だけの空間)・・・か。
どっちを?時間止めた方か・・・それとも空間の操作の方か?」
「どっちもよ、私にとっては時間も空間も、大した違いを感じないわ。」
・・・・・・こんな能力持ってるとそんな感性になるのか・・・いやそれは私も同じようなもんか
咲夜の異様な感性を垣間見た魔理沙はちょっと引きつつも、咲夜に付いて歩みを進め、ドームから出て、完全に動きの止まったレミリアとフランドールのところに向かう。
「そんなことより、一旦レミリア様をドームの中にお連れするわ。魔理沙も手伝って」
「フランドールはどうするんだ?」
「・・・一旦よ、後で考えましょう。」
「咲夜、この状況あとどれぐらい持つんだ。」
焦ってる・・・この時間停止も有限なんだろうな。
「十分も無いわ・・・」
「十分だ・・・私はレミリアとちょっと話がしたいぜ」
「何を・・・!?」
歩みながら目を閉じていた魔理沙を見ると、咲夜は自分の身体を内部から触られるような違和感を感じた。
『魔理沙ー良いことを教えてあげますよ!』
━━━地獄の奥深くにある館、その自室での何気ない会話
『なあに里香』
振り向けば、同じ主のもとに仕える一人の少女がいた。茶髪を両サイド三つ編みにした、白いシャツを着た平凡な恰好をした少女であり、身に纏う雰囲気もどこにでもいるかのような平凡な少女そのものである。しかし魔理沙は、いや、魔理沙だけでなくこの館にて『大いなる悪霊』に仕える者たちでこの者の特異を知らぬ者など居はしない・・・。
『理学でも工学でも何でも・・・多分魔法学でもそうだと思うけど、成長するのに重要なのはもともと学があるかどうかじゃない。才能があるかどうかでもない。大事なのはどれだけ自分で成長できるかどうか。そして成長できるイメージを、自分で持つことができるかどうかなのです!!』
『どうしたの、急にあらたまって。魅魔様に何か言われた?』
『そして貴女はその資質を持っている。恐らく私たちの誰よりも・・・だからこそ貴女は魅魔様に見初められたのでしょう・・・』
『里香・・・・・・ありがとう』
『なので私が貴女にいーーっぱい勉強の仕方教えてあげますからねー!!』
『えー!私科学は専門外だからいいわよ~~!!』
思いを馳せるのは、今は行方を眩ませ、もはや会うことも無くなった同胞との会話。でも、私はけして忘れることはないんだろうな・・・・・・貴女との・・・貴女達との日々を━━━。
「さあ!レミリアに転送するぜ
お前の見てる世界をな!」
「!!」
魔理沙が言い放つと、離れた距離にいるレミリアに違和感を感じた。彼女から確かに感じる息遣い、体温、そこから感じるありとあらゆる時間の経過が見て取れるのだ。
「うわーー!!これが咲夜の見てる世界かー!
へへッ・・・《割り込み》成功だな!」
「・・・・・・もう何が起きても驚かないわ、あなたに常識なんて無いものね」
「いや、お前には言われたくないぜ・・・私も流石に時間は止めれないしなー」
他愛ない会話・・・だが二人の足は少し逸る様に急いていた。しかしその心を表に出しはしない。出せば互いに焦りが重なり、負の連鎖を生むかもしれない。ただ、ダラダラとあまり時間は掛けられない。
「咲夜!?・・・・・・それにお前は・・・魔法使い!?」
私たちの存在に気付いたレミリアは驚いたように振り返る。
その困惑と悲しみが入り混じったような瞳を見て確信した。そうだ、励ましに来たんだ。コイツを。
「霧雨魔理沙だ。アンタの従者と共に・・・・・・お節介焼きに来たぜ。」
えいっと魔理沙は動きの止まってレミリアに絡みついていた三体のフランドールをゆっくりと引きはがしていく。
「・・・・・・咲夜、それに、魔法使いよ。私はお前達に助けて貰う資格など無い。」
「おいアンタ「お嬢様、それは違います。」
咲夜は魔理沙の言葉を何もいないような態度で遮り、完全に動けるようになった愛しき主の左手に、自らの両手を重ね、反論する。そして、今までとはとは違う落ち着いた出で立ちに、魔理沙は驚いた表情を見せ、逆に今までどうりの本来の動じぬ様な咲夜の瀟酒な出で立ちに、レミリアは心の内を吐き出すように打ち明ける。
「お前に何が判るのだ!!私はフランを救うつもりだっただけの・・・・・・独りよがり!その独りよがりでアイツを死ぬほど追い詰めていたんだ!私が!こんな・・・こんな私に生きる資格なんてあるかあ!!」
「ありません」
「ええぇ!!?」
「ないのかよ!!!」
「嘘です。ブラックジョークですわ」
「お前!こんな時になに言ってんだ!!レミリアも気にしなくて良いからな!」
この場にそぐわなさ過ぎる最低な冗談に魔理沙は必死にレミリアを落ち着かせようとなだめにかかり、レミリアは思いがけぬ従者からの追い討ちに、腐り切ったはずの心が何故か傷付いたのを感じて涙目になっていた。
「レミリアお嬢様・・・それは然したる問題ではないのです。
貴方が自分に価値を見いだせずとも、私は・・・私達はあなたの事を愛しております。」
「「!!」」
「私を迎え入れてくれたことを、レミリアお嬢様の優しさを永劫忘れることは無いでしょう・・・私は確かにこの住人の中で一番の新参です・・・ですが、貴方様への忠誠はだれよりも強いと自負しておりますわ。」
「・・・しかし私は」
「煩い!!つべこべ言わずに生きなさい!!!」
「ええ!いや、えええ!?・・・うー!!その口調ふつうに駄目だろ!この賊臣めえ!!」
半ベソをかきながらも感情を露にしたレミリアに、そしてそのテンションを引き出した咲夜に魔理沙は感心していた。
そうか・・・わたしは咲夜を、いや、こいつらの絆を舐めてたのか・・・・・・。少なくとも私なんかが慰めるより、こいつの心こもった言葉の方がよっぽどレミリアの心を動かすだろうな。
「それに私だけじゃありません・・・美鈴も、パチュリー様も小悪魔も、皆あなたの事を想っているのです。貴方様は私たちに感謝していると仰ってくださいましたが、それは私たちも・・・私たちも同じです。どうかこれからも私たちのそばに居て下さい。」
「咲夜・・・・・・ごめん」
「ああ、それに、フランドールもな。」
「え・・・・・・」
「アイツはお前 《で》遊びたかったわけでも、ましてお前 《に》遊んでもらいたかったんでもないんだ。たぶん、お前と・・・・・・お前と一緒に遊びたかったんだと思うぞ?」
「それは・・・どういう」
「詭弁じゃないぜ?アイツは・・・確かにおかしくなっちまってるところはあると思う。でも、アイツは強力な攻撃をする際は必ず決闘法に従ってた。宣言もしていたし、・・・・・・炎剣はまあアレだけど、消滅するほどの劣悪な攻撃じゃなかったはずだ。」
「そんな・・・・・・まさか」
「策なんてないかも知れない・・・ひょっとしたら希望的観測、単なる私の妄想かもな。でもレミリア、お前言ってたよな。
『妹の遊び相手をするのは、姉の役目だ』って。あの時の言葉は、熱意は・・・蔑ろにしていいのか?
妹が満足してないのに、姉であるお前が匙を投げても・・・いいのか?」
「!!」
ギリッとレミリアは歯を軋ませる。
「私は・・・・・・後悔ばかりだ」
「そんなもん誰だってするさ。大事なのは後悔しないことじゃない。いかに早く次を考えられるかだ。総てにおいてな・・・。そしてあんたはそれができる。あんたがその強さを持ってるのは私ごときにだってわかるさ」
「私も支えます!」
「!!」
「おっ」
「レミリアお嬢様が挫けてしまわれても、私たちがいます。だから・・・だからご安心ください」
「だってさレミリア・・・おお・・・・・・」
レミリアの瞳を覗き見る。・・・・・・紅い。一点の曇りもなく。
その優しい瞳は妖としての禍々しい色には感じなかった。そして優しい微笑みを湛えた貌は、まるで聖女の様に晴れやかであり、見る者の心を落ち着かせる。温厚である美鈴とも似ているが、根本から異なる性質を魔理沙は感じていた。
会ってから・・・最初から思ってたことだけど・・・こんな表情の妖怪ホントにいるのかよ・・・妖気感じなかったら、羽生えてなかったら絶対妖怪なんて思わない・・・それほどに優しい・・・・・・なんなんだこの妖怪は・・・・あーくそー!
「パチュリーの話遮らずに聞いとけばよかったかなー!!くそう・・・霊夢め!!」
「パチュリー様と霊夢がどうしたの!?」
「いや!ごめん!!何でもない独り言だから!!忘れてくれ・・・。」
紅魔館の者たちの出自を語ろうとしたパチュリーを気遣った時の後悔を振り払い、いきなり大声を発してしまったことを必死で弁解する。
「咲夜・・・それに魔理沙」
「ん?・・・へへっ・・・・・・なんだよ」
・・・・・・ありがとう
「もったいないお言葉でございます。レミリアお嬢様・・・・・・」
「あははっ・・・まだ早いっての。お礼なら宴会の時に聞いてやるぜ!
と・・・そろそろこの時間停止も解けるか?」
「そうね」
「二人とも、頼む。術が解けても・・・もう少しだけ待っててくれるか?ふがいない私を・・・」
「何か策があるのか?」
「いや?・・・なにも?」
「・・・左様で御座いますか」
「ぷっ・・・クク・・・そっかそっか」
そう告げるレミリアには本当に策など無いのだろう・・・少なくとも二人は分かっていた。
しかし、気負いは感じない。危うさも見受けられない。
「もう少し妹と、遊ばせてくれ。」
その顔は妹の事を想う、姉そのものだ。
『術』が、解けた。
「ああああああぁああああぁぁぁあ・・・・・・・あ?」
吶喊と共に炎の剣を頭上めがけて振り下ろしたフランドールは突如起きた事象に唖然とした。レミリアを拘束していた三体のフランドールが不自然な態勢でよろけている。それと同時、レミリアの身体が一瞬にして三体の少し後ろに下がっていたのだ。
「お・・・姉・・・・・・さま・・・何を」
「私は何もしてない・・・お節介な奴らが・・・コンティニューさせてくれたんだ」
「はあ!?アンタ何言ってんのォ?」
「なあフラン・・・私はお前に許してほしいと思ってたのかもしれないんだ。」
「!?」
レミリアは語り掛ける。憤怒の顔を崩さぬ一体に・・・。
「今更私を許してくれなんて・・・虫が良すぎるよなあ・・・。」
レミリアは語り掛ける。愉しむような笑みを浮かべる一体に・・・。
「優しいお前に付け込んで・・・姉と名乗る事すらおこがましい」
「ちが・・・「煩いなあア!!」
誰かの言葉を遮るように、哄笑を崩さぬ一体が、顔を引きつらせて叫ぶ。
「なあ・・・それでもさ・・・・・・一緒にいたいんだ」
そしてレミリアは歩み寄る・・・三体の横を通り過ぎ、一体の『フランドール』に向かって・・・。
「「「が・・・ああ゛」」」
霊夢・・・ナイスだ
魔理沙は結界の外から突如動きの止まったフランドールに、この術が巫女のものであると確信して振り返り結界の中を見遣る。霊夢は赤い符を前に掲げ、微弱な霊力を放出していた。
鬼縛陣・・・その名の通り、邪悪な気質を持つものだけを拘束する術であり、さらに微弱に放つその力は、正常なものは気づくことすらもない。
そしてその事象にレミリアは気づかない。愛する妹に思いを伝えるのに、周りの音すらも聞こえていない。
「あの日・・・あの時・・・私はお前の手を取った・・・ごめん、何度あの日を後悔したのか分からない・・・こんな事になるなら、こんな境遇に落してしまうなら、そのまま別れた方がよかったのかなあって・・・私は最低だよ」
「そんな・・・今更・・・」
「ああ・・・今更こんなこと考えてたんだ・・・こんな私殺されても文句言えない」
「違う!!!」
「フラン・・・・・・?」
「一人だった私に・・・アンタが・・・・・・アンタだけが面と向かって『声』を掛けてくれたんだ・・・混合獣の私に・・・この境遇なんか関係ない。アンタのもとに居たいって。私が思ったんだ!!」
そう叫ぶと三体の体が、狂気が、徐々に薄れていく。その事象を見てレミリア以外の全員が確信していた。
分かり合えたのだと・・・・・・。
届いたのはレミリアの拙い負の言葉などではない。
その真に妹を思う気持ちが、愛が、フランドールにただ、通じたのだと。
「フラン・・・私と一緒に・・・いてくれるか・・・?」
「馬鹿じゃないのアンタ・・・誰も離れるなんて言ってないでしょう」
「なにこれ・・・結局こいつらすれ違ってただけじゃないの・・・?」
「無粋ね霊夢、和解なんていつもしょうもないものよ」
「ちょぉ・・・!パチュリー様も霊夢さんも空気読んで下さい!!」
和解の雰囲気を台無しにするような二人の会話に美鈴が突っ込むが、しょうもないやり取りだと感じなかったと言うと嘘になるが・・・・・・。
「良かった・・・ホントによかったねレミリアぁああ」
「チルノ!?あんた泣いてんの!!?」
氷精は安堵と感動で崩れるように泣きわめいたのだった。
二人の姉妹は睦み合っている。
こんな・・・こんな簡単なことだったんだな・・・・・・。
「・・・でも腹立ってないわけじゃないよ?閉じ込められるのはもうごめんだからね。ねえ・・・私が勝ったら、もう自由にしていいよね?」
そういうとフランドールは左の掌をゆっくりとレミリアに向かい翳す。煌々と輝く赤い炎が剣の様に縦に広がった。
「ああ、分かってる。決闘だろ?」
同じように左手を翳すレミリアの掌には、何の妖気も力も出はしなかった。しかし迎え撃つ覚悟ある眼差しは、そのポーズが単なるまやかしではないことを感じさせるほどのある種の強さを放っていた。
「うん・・・命名決闘法だよ。手札は一枚ずつ・・・」
互いに何を繰り出すのか・・・二人は既に理解しているのだ。
『ミリア・・・もう行くの?』
思い出したのは遥か昔日、広大な緑・・・一面の草むらが広がる悠久の小さな世界、イタリアのヴァンティミーリア地方の台地。フランスと隣接し、リグリア海に面した此処が私たちの居た場所。『人間』の私が・・・生まれた場所。
『ええ・・・ワラキアに強大な独裁者がいると聞くわ・・・出来ることは少ないかも知れないけど・・・私は・・・母と共に同じ信徒を救ってあげなければいけない・・・』
私の母はこの地で『聖女』と呼ばれていた・・・本名は違えど、この地と同じヴァンテミリアの名を与えられるほどの・・・奉仕による功績を上げていたのだ。そして私にはこの地を捩りミリアと名付けられていた。15歳になった私はこの地を後にする覚悟を固めていた。母と共に救世の旅に出る覚悟を・・・。最もその覚悟は散々な結果に打ち砕かれるのだけれど・・・。
『ふーん・・・ねえ救うのは信徒だけ?』
共に草むらに座り込む私の友が不意にそんなことを口にする。
『え・・・?』
『あたしさー嬉しかったのよねー・・・こんな《死を招くだけの存在》にまで優しくしてくれた奴なんて・・・あんたくらいだったから。』
淡い朱のワンピースを纏い、同色のリボンのついた真っ白な皮のガーデンハットを付けた同じ年程の少女。
隣国から来たこの友は、本人曰く、死神なのだという・・・。確かに邪な力は感じるし、人でないのは分かっていた。でもだからと言って邪険にすることはない。するわけが無い。
『・・・・・・』
『あんたはいずれすごい奴になるってアタシ思ってるのよ。それこそ、ワラキアだっけ?其処の王様なんか目じゃないくらいにさー・・・・・・ねえ、アタシはあんたの友達?』
『もちろんです!!どうしてそんなこと聞くんですか!?』
『じゃあ、私も救ってくれる?』
『当たり前でしょう・・・怒りますよ』
『じゃあさじゃあさ!いっぱい友達作ってよ!!そんで、困ってるその友達をいっっっっぱい救うの!!!ハイ約束!!』
『な・・・うふふっ・・・・・・分かりましたよ、変なこと言いますわね。』
今なら分かる・・・私が彼女を死神だと信じられなかった理由。彼女が、私に信徒など関係なく多くのものと関われと、救えと告げたその訳も・・・
私が信じていた宗教には死神の概念は無いのだ。命を奪い、死を知らしめるものは『天使』であるという教えがあり。その考えが根付いていた。
本当の親友であった彼女を、根本から信じられていなかった理由。
絶対的に信じていたものが、相対的に私自身の見識と、考えを狭めていた事実に・・・聡い彼女は気づいていたのだろう・・・。
そして・・・・・・彼女はそんな考えを、自分を否定されてしまうような考えを、彼女は私に捨ててほしかったのだ。そして皮肉にも、その願いは叶う・・・母の死と引き換えに・・・・・・。
『約束ッ・・・したからね!!!』
『ふふっ・・・ええ!約束するわ!!帰ってきたら一緒にあなたの故郷にも・・・ブルターニュにも行きましょう!!』
漸く、一番救いたい人を・・・妹を救えたよ・・・・・・エリー!!
「さあ準備はいいか?」
過去の別れから引き戻しフランに向き合うと、頭の中に不意に曲が流れだす・・・・・・この曲はタイトルもなかなかそれっぽいしなあ。
「ふふ・・・・・・ちょっと怖くなってきちゃった・・・アンタを怖いなんて思ったの閉じ込められた時以来だよ・・・」
誰かが言っていたな・・・フランスのピアノ曲・・・亡き王女の為の舞踏は・・・
「ご・・・ごめん・・・本当に・・・・・・」
王女の為の《亡き》パヴァーヌではない・・・・・・亡き王女の《為の》パヴァーヌなのだと・・・
「あーもう!冗談だよ!!ねえ・・・月が奇麗だね・・・・・・」
「!!!・・・フラン・・・・・・」
頭から離れないこの曲を・・・貴方達に送ろうとも思ったけど・・・・・・そうじゃないよな・・・エリー・・・・・・母さん。
「馬鹿にしてるんじゃないよ?私も・・・家族とか・・・友達とか・・・みんなで見る月が見えた気がしたから・・・」
それにピアノ曲でもないなあ、みんな合わせたらこれ・・・楽団じゃないか。
「私達のこれ・・・・・・漫画みたいだな・・・」
フラン・・・・・・お前のために捧ぐよ。愛する・・・文字通り《血》を分けてくれた・・・たった一人の妹に・・・。
「馬鹿だなあ・・・・・・お姉さまは。さあ行くよ!!」
「来いフラン!!私が勝ったら・・・・・・宴会に問答無用で引きずっていってやる!!」
「禁忌『レーヴァテイン』!!!」
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!」
私たちみんなで奏でた・・・お前の為のこの七重奏を・・・・・・。
エリー「殺すな」
大妖精&小悪魔「ちょっ・・・アタシたちは!?」




