亡き王女の為の七重奏(セプテット) 前編
なんで・・・こうなっちゃったのかな・・・・・・
自らを意志ある紅黒い瞳で睨む≪姉≫の姿を見ると、金髪の少女、フランドールは思いを馳せる
遠き昔に誓った姉妹としての契り・・・
自らの持つ狂気への禍根・・・
そしてすべてに折り合いをつけられないでいたことによる、今、まさにこの現状に対しての、後悔と、多大な姉への感謝・・・
そういえば、あの日から・・・始まったんだっけ・・・・・・お姉様
気づいたらうす暗いところにいたなあ
寝てて起きたらって感じだった・・・今でこそそこが檻だったってわかるけど・・・その頃はそこにいるのが当然なんだろうって思ってたっけ・・・・・・
やることもなくて・・・なにもない冷たい床は水たまりもできててうす暗かったけど、それでもその時は耐えられた・・・羽を弄られることもないし、暴力を振るわれることもないから・・・・・・心が壊れることもない・・・・・・・・・ずっと・・・ここにいたいやってそう・・・でも・・・・・・
『貴方は・・・・・・一体・・・・・・』
「わー・・・びっくりしたー」
『ここの国の言葉ではない・・・異国の方?』
膝を抱えうつむいていたフランドールは不意に声を掛けられた。
その声に反応し、けだるそうに顔を上げる。心が静かなのは、今までの虐待の経験による、半ば諦めの境地に達していたからだ。
顔を上げた先、格子の隙間から覗く美しい少女がそこにいた。
プラチナブロンドの髪を纏う同色の瞳をしたその少女はフランドールより5つは上の年に感じられた。
身に纏う華美な衣装は深紅に染め上げられた美しい刺繍が施され、いわゆるドレスなのだということは万人が分かる事だろう
でも奇麗な女が迷い込んできたのかなーぐらいにしか思わなかったっけ・・・
「なに?・・・あーこれ?」
少女の視界に、薄汚れた自らのワンピースともいえぬ、ぼろきれのような布が視界に映ったであろう事を思うと、少し嫌な気持ちを抱いたが、髪の毛の先程の不快感よりも、その少女の視線の先、自らの背を見遣る・・・
黒く、少し内側に湾曲したいびつな尺骨が背を突き破る様にして飛び出している。その尺骨からは色とりどりのカラフルな羽が垂れた木葉のようについているのだ。
そうかーそりゃそうだよね
「私はさ・・・混合獣っていうんだって・・・・・・多分 人間とは違うんじゃないかな?あなたはここの国の人?」
『えーと・・・』
それから度々アイツは現れるようになった・・・アイツはミリアっていう名前なんだって言ってた。
誰かに売られるまでの間だと思うとやるせなかったけど・・・・・・最初はお互いになに言ってるのかも全然分かんなかったけど、段々お互いに言葉の意味とか分かるようになってきて、私は妖怪だからなのか、アイツもなかなか頭は切れる方だから、案外意志疎通は早かった気がする。それが、私と、醜い私に臆することなく会話してくれるって言う、それだけの事実が楽しくて・・・不意にそう思うと、言葉じゃ言い表せないぐらい嬉しく感じたっけ・・・。
「もう・・・此処の衛兵の方ったら嫌になってしまうわ」
「バカだねーそいつ。絶対皆から嫌われてるよ」
「フラン流石に言い過ぎですわよ、あの方だっていいところはあるの」
その日も本当に他愛ない会話で・・・私は近況報告なんてしようがない現状だから話題提供できないけど、アイツはその日あったことをいつものように話し出す。
「あははっごめんごめん・・・・・・でもやるじゃんミリアさん・・・英語なかなか上達したね」
「ありがとう。でも、あなたもルーマニア語覚えたんだからすごいじゃない」
『それほどでも』
「ふふっ・・・ねえ、フランドールはどうしてこんなところにいるの?」
「・・・・・・」
「こんな薄暗い所にいないで・・・私と一緒に遊びましょう」
「それ・・・・・・本気で言ってないよね?前にも言ったと思うけど、私はアイルランドで作られた失敗作の混合獣なのよ・・・売られるまではここにいなきゃいけないの」
《何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない
奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する》
今でこそ国連でこんな風に謳ってるけど・・・この時代は奴隷なんてさほど珍しくもなかった。そして色んな妖怪を組み合わせて出来た、私という失敗作は、いや、例え失敗していようが成功していようが、ものとして扱われることは端から決まっていたんだ。少なくとも、今までの経験がそう思わせてたっけ。
「誰がそんな事を決めたのですか?」
「・・・・・・え?」
「人は誰しも自由意思を持っているものです・・・私も、あなたにも・・・」
「それはアンタの信じる宗教の言葉?・・・残念だけどあたしはそもそも人じゃないし、なんなら悪魔のほうが近いかもねー。そんな事言ってると異端審問掛けられちゃうよ?」
「う・・・・・・」
「ま、その気持ちだけは受け取っとく・・・アはハっッアタシにお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなー」
「・・・・・・必ず、助けます」
「ん?」
「何でもありません、そろそろ私もお暇します。」
「うん・・・じゃあね」
聞こえてなかったわけじゃない・・・だけど、聞こえないふりをしていた。だって、それを聞き返すのが怖かったから・・・
私だってミリアの話を聞いてると、こんなところにいたいわけでも無くなってくるし・・・ましてや売られるのを望んでいるわけでもない。でも、この状況を打破しようなんて前向きな考えは持てなかった。私とアンタは違う・・・生まれも育ちも、何もかも。恰好を見比べて、あんたが私なんかとは位の違う人間だということは分かる。でも自由なんてものは、自由な人間が主張するものなんだ。私は、少なくともそんなこと、考えもしなかったから。
でもアンタが次に現れた時はとんでもないこと言ってたっけ・・・
「フランドール・・・私とともにこんなところから出ましょう」
「はあ・・・あんたまた」
「奴隷など・・・作らせる事自体間違ってます・・・私たちは、この地にそれを糺しに来たのです。」
「な・・・・・・」
何を言ってるのかよく分かんなかったけど・・・少なくともそう言うあいつの瞳が、声が、軽はずみな冗談をいってるんじゃないんだってのは良く分かった。
『お待ちください』
不意に聞こえてきたルーマニア語に視線を移すと、この牢の衛兵と思しき奴が出てきた。
食事をちょこちょこ持ってきてくれる奴だ。とはいえ二回ぐらい、それは多分朝と夕の二回なんだろうけど、このうす暗い牢の中じゃ時間の感覚すらわからない。
静止の声を掛けながら降りてきた衛兵は言葉を紡いでいく・・・
『いくら聖ヴァンテミリア様の言葉とはいえ・・・・・・勝手にそのようなことをされては困ります。』
『ヴァンテ・・・ミリア・・・・・・?ミリア・・・アンタ一体・・・・・・。』
『わたくしはただのミリアです・・・それはお母様の事ですわ・・・・・・それはともかくとして、私にはまだそのような権力など無いということは良く分かってます。だから、もっと違う力を使おうと思っているのです。』
『何をおっしゃっているのですか?』
『財力ですよ・・・買いますわ。この子を・・・・・・』
『!!』
『ええ!?』
どういうこと・・・?あまりの急展開で脳みそが付いていかなかった・・・コイツはどう考えても普通じゃない。いや、確かに、よくよく考えたらこんなうす暗いとこに、美しい人がこんな場違いな牢獄にしれっといつも入ってくること自体おかしかったんだよね・・・。
『それはなりません・・・。この怪物はすでにあるお方に確約されているのです。いくら聖女様の言葉とはいえ・・・本当にお聞きすることはできないのです。』
『では・・・私がその方と直接交渉しますわ』
『恐れながら口を挟みますが・・・・・・そのお方の所在は話せぬかと・・・・・・それ程の、権威あるお方ですので』
『そう・・・なの・・・ですか』
そう口にするコイツの声は見るからに元気を失ってた。私を買って助け出すなんてそんなに単純な話じゃないのだと気づいたような、第三者やいろんな欲が絡んだだろうこの現状に苦虫を嚙みつぶしたような表情だった。
『では・・・ミリア様、そろそろ・・・・・・』
『!・・・まだ話は終わっておりません、フラン』
『ミリア様・・・すみません』
『え?・・・う゛』
あたしの方に向いていたことで、衛兵が謝罪の文言とともにアイツの脇腹に入れた掌底は、容赦なく意識を刈り、檻にもたれかかる形で倒れこむ。
「ミリア!!お前・・・」
『ゆるせ。これも王の為だ・・・』
『だれが・・・・・・・・・許すかあああ゛!!』
『!?があああ!!』
私は・・・これまでないほどの怒りが沸き起こったっけ・・・。
今まで祖国にいた時ですら、言いようのない苦痛を与えられた時ですら、こんな風に思うことは無かった。
その怒りが実体化したかのように、得体の知れない力が起こって、衛兵を吹き飛ばしたんだ。
でもそんなことどうでもよかった。コイツを・・・ミリアを・・・たぶん私の一番大切な人の・・・事しか考えてなかった・・・。
「ミリア!!良かった・・・・・・寝てるだけか」
十中八九生きていると思ったが、それでも息をしていることを確認すると安堵した。
でもそうじゃない・・・このままだと
「ミリアしっかりして・・・!」
ダメだ起きない!・・・よっぽど深く入ったのか、肩をゆすっても、大声を掛けてもピクリともしない・・・!このままじゃ衛兵が先に起きる可能性だってある。そうなったら私はともかくミリアはどうなる?あんなこともう一回できる自信なんてないし・・・最悪とんでもない目に合うんじゃ・・・・・・。
一か八か、私は虐待を受けた時に聞いたある言葉を思い出しながら、手首を自分の小さい爪で
掻いて血を流す・・・。
『怪物であるお前の血は重要な実験材料だ・・・不老不死の理に近づくための重要な・・・な。
とはいえそのままでも回復薬程度にはなるだろう・・・・・・あまり貴重な血を流すな・・・』
「ミリア・・・目を覚まして・・・」
手首をミリアの口に当て、流し込むように血を注ぐ。思い切り掻き切ったから、多くの血が流れだしたけど、そんなことに構ってられる余裕なんてなかった。そして暫くすると・・・
「ん・・・フランドール?」
「ミリア!!・・・・・・良かった!起きたのね!!」
重い瞼を開いたミリアは私の名を不思議そうに言いながら、私を見つめる・・・・・・心なしかその瞳は、赤みがかっているような・・・そんな気がした・・・・・・。
書いてみると長すぎる・・・なので端折りながら、分けて投稿するようにします。
こんなシリアスにするつもりではなかったんですが・・・・・・(´・ω・`)




