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東方奔走録  作者: むーあ
紅魔郷
13/32

永遠に紅い幼き月



「おいお前!!大ちゃんを返せ!!!」


チルノは険しくも堂々とした態度で自らの何十倍もの妖気を身に纏うであろう吸血鬼の少女に指を差し、宣戦布告する。

言うことを聞かなければ、即座に決闘し打ち負かすという強い意思を纏った言葉である。


「妖精・・・か?」


うーん・・・でも妖精にしてはちょっと妖気が大きすぎやしないか?

それに冷気みたいなのも身に纏ってるし・・・


宣誓を受けた幼き吸血鬼は逡巡し、そしてひとつの感覚に陥る。



━━━━━面白い



今までこんなやつを見たことが在るだろうか。

故郷(ルーマニア)の森にもこんなやつはいなかった。

仲間を助ける為に自らの危険も省みず、この紅魔館に潜入し、住人(メンバー)の警備を突破して、吸血鬼に堂々と宣戦布告するようなものが。


赤い学者に聞き、かつ運命を覗いて見つけた巫女ではない。

しかし、興味を持たずにはいられない。

初めて抱いた関心と興味、そして感動にも似た感情に支配されながら、レミリアは考えた。



館に入ってやたらでかい声で館中に言いはなった魔法使いとやらもそうだが・・・幻想郷(ここ)には面白いやつが多いのだな



レミリアは口の端を吊り上げるように笑みを浮かべ、長い犬歯のような牙を覗かせながら言葉を紡ぐ。


「お前ではない。我が名はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼だ。

妖精。決闘を申し込むときはまず自分から名乗るのが筋ではないのか?」


妖精達(みんな)をつれてくような悪い奴に名乗る名なんかないよ!あたいはチルノ!最強の氷精だ!!」


「名乗るのか・・・まあいい。返してもいいぞ?

ただし、私に勝てたらな。」



この美しく凛々しい氷精とやらを我が手にしたい。

ククッ・・・そのためにはまず完封なきまでに完勝し、格の違いを見せつけなければな・・・



「チルノちゃん・・・」


そしてレミリアのそばに立つ大妖精はチルノがこの場に訪れてくれた嬉しさと、これから起こる壮絶な戦いへの心配が入り交じる様な複雑な面持ちで呟いた。しかしチルノは遠くからその不安を書き消すかのごとく、優しく語りかける。


「心配しないで大ちゃん。絶対つれて帰るよ」




「・・・・・・」


二匹の妖精の会話を聞いたレミリアは更に口を綻ばせ、いやらしくも妖艶な笑みを堪える様に口もとを小さく左手で覆った。


レミリアは玉座の清掃及び監視に咲夜の代理で今は大妖精を付けているのだが、その理由は単純に美しく、聡明だからである。

チルノと同じく、妖精とは思えぬほどの気配りと、社交性、そして力を感じさせ、なおかつ透き通る様に美しい羽を持つこの少女を気に入っていたのだ。

しかし、この妖精の存在が霞んでしまうほどにチルノの存在は希有(けう)であり、魅力的なものに感じていた。



━━━なんとしても欲しい・・・コイツが!



それは妖怪としての制圧の欲望であり、純粋な興味。そして本人は気づいていないが・・・それは初めて感じる、胸が焼け付く様な恋にも似た欲情であった。


「・・・そう、私との決闘で勝てたら大妖精を返してやる。ただし・・・負けたらお前も私が貰うぞ?」


「ええ!!??」


「絶対勝つよ。だからあげない。」


大妖精とチルノは狼狽と泰然。相対的な反応を見せた。




チルノは霊夢と魔理沙と共に紅魔館に入り、咲夜と出会ってからも、不安と恐怖で体がすくんで震えてしまっていたのだ。

しかし、魔理沙が自分のことを守り通したことで恥と申し訳なさ、そして勇気を感じていた。


霧の湖で「あたしも連れていって」と二人に頼み込むチルノに対して、魔理沙はチルノに向かって一言「来いよ」と言ったのだ。

その言葉に応えたい・・・そう感じるようになったときにはもう震えも強張りもなくなり、自分の足で立っていた。


霊夢も廊下で自分のことを信じ、先にレミリアのところまで行かせてくれた。・・・・・・もはやチルノは恐怖を微塵も感じてはいない。





「!!!」


レミリアはいきなりチルノに向かって尋常でないスピードで一直線に飛びかかった!


レミリアの内包する力の比率に比べれば明らかに少ない、しかしチルノと比べれば明らかに強い妖気を身に纏い、小手調べと言わんばかりに不適な笑みを浮かべながらのショルダータックルである。


「あァッッ!!・・・・・・」



同じく妖気と冷気を身に纏い、受けて立とうとしたが、あまりに強い力の差に、チルノは後ろ側の扉に吹き飛ばされてしまった。



「ぐぅ・・・4枚!!」


チルノは壊れた扉の前で、残骸にもたれかかりながらも、(スペル)名が書かれた四枚のカードを前に掲げ、高らかに宣言する。



八雲紫はスペルカードルールを紅魔館の住人に伝えてはいない。

咲夜と美鈴の姿を見て、朧気ながらチルノは気づいているのだ。ここにいる者たちがルールを知らないことを・・・しかし、あえてチルノは行動を起こす。



そして、その行動の意味を理解できないレミリアは面食らったような姿で飛びかかった追撃の手を止め、疑問を投げ掛ける



「なんだそれは?」


命名決闘法(スペルカードルール)!!」


「スペル・・・カード・・・?」


「勝負・・・開始!!」


チルノは戸惑っているレミリアに対して、すぐさまにスペルを発動させる。


「凍符!『パーフェクトフリーズ』!!」


チルノの手のひらから前方に拡散するように、カラフルな弾幕が発射される。


妖気の塊か!美しい・・・・・・だが甘い!!



「ハアッッ!!」



レミリアは高い声で気合を込めると背中についた羽が自らの体躯を覆いつくすほどの大きさになり、その羽をまるで手のひらを操るかの如く身に降りかかる弾幕を払いのけたのだ。



「っっ!!!・・・・・・でもまだ終わってないよ!!」



チルノが言うと、放ち続けていた弾幕が突如空間で静止し、質量はそのままに漂うような形で浮遊した。そしてそれぞれの弾幕が意思をもつかの如く、ゆっくりと動き始めたのだ。その弾幕は大量に散布されるかの様に配置されていて、動き出すと、一つ一つの隙間は人一人がようやく通れる隙間ほどしかない。しかも動きは完全にランダムであり、並みの人妖なら躱すのは容易ではないだろう。




素晴らしい!!!妖精という種族でこれほど自分を高めることがどれほどの時間と労力を要したというのか・・・・・・いや・・・・・・これはこいつが亜種だからか・・・?



レミリアは決して妖精を下等な種族と馬鹿にしているわけではない。

恐れを糧にしている他の大妖であるならばそのようなことは考えたのかもしれないが、レミリアは古い時代、吸血鬼の伝承が広まった本場の土地、ルーマニアで人々や妖怪の弾圧に耐え忍びながら、自分に仕えてきた者たちを、弱き者たちを支えるように生きてきたのだ。もともと優しい性格だったことも要因の一つではあるのだろうが、それでも自らが受けた迫害の痛みを、差別の苦しみを絶対に誰かに押し付けて笑えるような者にはならないという信念を、常に胸に掲げているのである。



弾幕の変化に感心し、かつ瞬時に行動する



バァンッッ



レミリアは襲い来る弾幕を今度は自らの持つ小さな爪で引き裂いて、次々と風船を割るかの如く破裂させていったのだ。


そう・・・・・・並みの人妖ならチルノのパーフェクトフリーズを躱すのは容易ではない。しかしレミリアは躱さない。否、躱す必要すらないのである。



「今度はこちらから行かせてもらうぞ・・・・・・」



チルノが宣言をしてから正々堂々と攻撃をしてくる姿勢にならい、レミリアは次の攻撃に移る。

レミリアは右の拳を握ると大きく横に振りかぶった態勢で、数秒の間止まっていた。するとギリギリと音を立てながら視覚出来るほどの紅い妖気が集まっていき、尋常ならざる力が集中していることがチルノの顔を強張らせた。


テレフォンパンチ・・・・・・どの位置から攻撃が来るのかは明らかに見て取れるが、その自らの力とは言い過ぎでもなんでもなく、次元の違う妖怪としての差にチルノは全力で逃げるように上に飛ぼうとした。しかし・・・・・・



ドガアアアアアアンンン



瞬間移動とも形容できるようなスピードで、羽をはためかせ、いきなり距離を詰められたチルノは移動をしきれず右の肩にまともに吸血鬼の大妖としての攻撃パンチを受けてしまったのだ。



「ああああああア゛ア゛ッッ・・・・・・イッ・・・アア・・・・・・ぐぅぅッ」


あまりの力にチルノの体は逆に吹き飛ぶことはなく、代わりに右肩から下・・・・・・右腕の部分がはじけ飛ぶように無くなってしまったのである。

そして血液の代わりのように、体液のような青く美しい液体が肩からあふれ出し、滴り落ちていた。崩れ落ちるように膝をついたチルノは、痛みを堪えるように喘ぎながら肩口を抑える。



「チルノちゃん!!!!!」



悲痛な叫びが空間に(こだま)する。

大妖精が重傷を負った親友チルノのもとに駆け寄ろうと、玉座から離れようとしたその時



「来るなあっ!!!!」


「な・・・・・・なん・・・で?」



言葉を発したのはレミリアではなかった・・・・・・一番大妖精の事を想い、助けに来たはずのチルノだったのだ。

レミリアは怪訝そうな顔で首を傾げながら、チルノに問いかける。



「別に私は二人がかりでも構わないぞ?それとも、負けを認めておとなしく私のものになるのか・・・・・・?

ああ、ちなみに紅魔館うちには優秀な魔法使いがいてな・・・・・・今負けを認めればそいつを呼んで治療してやるぞ」



「違う!!!」



そう叫んだチルノの肩口は抑えていた手から妖気があふれ出し、瞬時に冷気に変わって傷口が凍り付いたのだ。滴り、氷柱の様になっていた体液を邪魔にならないようにバキッとおりながら、今度は二人に優しく語り掛けるように言葉を発する。



「ごめん大ちゃん・・・怒鳴ったりして・・・・・・でも大丈夫だよ!

それと、吸血鬼もさ・・・・・・決闘はやっぱり1対1じゃなきゃダメなんだよ・・・あたいはそんなひきょうなことできない」



・・・さっきの「違う」は負けを認めたことじゃなく、二人がかりで掛かってくることに対しての否定だったのか・・・でも・・・・・・



「それこそわからないな・・・もう私との実力差は感じただろう。卑怯も何もないじゃないか?

こんな勝ち目のない決闘をすることなど無意味だろう・・・」


「・・・・・・ごめん・・・ひきょうとかじゃなくてさ・・・・・・なんて言えばいいのかな?

でもやっぱりあきらめたく無いよ・・・取り返さなきゃ・・・」




取り返す・・・・・・大妖精をか?




「負けを認めれば二人で雇ってやるぞ?」


「あたいはさ・・・・・・馬鹿なんだよ。」





この場にいるチルノ以外の二人は、チルノに引き込まれるように話を聞いていた。

そして先ほどまでの殺伐とした決闘の雰囲気がまるで嘘であったかのように氷精と吸血鬼、二人の攻撃は止まっている。



「なんでも・・・・・・自分でやりたいんだ。正直大ちゃんを取られちゃったのはさみしかったけど、でも吸血鬼も・・・・・・レミリアもいいやつそうだしさ・・・」


「誰かにすがることが・・・嫌なのか?」


「ううん・・・たいせつな友達ひとは自分で取り返さなきゃ」


「誰かの手に縋るのが・・・だめなのか?」


「っっ!?そうだよ・・・!」


「チルノちゃんだめッ!!」


不意にレミリアの内包する妖気が禍々しく強大なものになり、今までにない異質なものをチルノと大妖精は感じていた。しかし何故かレミリアの問いかけには心がこもっているのを感じ、嘘偽りない自分の答えをチルノは返す。

正直なところチルノは誰かに頼りたくなる気持ちもわかるのだ。現に魔理沙や霊夢に甘え、妖精たちの救出を頼み、逃げ出してしまいたいと感じていなかったというと嘘になってしまう。


しかし、二人の姿に感化され、自らの手で切り開くものたちの姿を見たチルノは、その考えがだめだという結論に達していた。


永久に適わないかもしれない・・・・・・しかし諦めることはできない。


それは単純に『最強の氷精』を名乗る、チルノなりの矜持プライドだったのだ。


・・・・・・チルノとレミリアは違う。生まれも育ちも、ここに至るまでの境遇すらも・・・

しかし、これから博麗の巫女に頼ろうとしているレミリアはまるで自らを否定されたような気持ちになり、

やるせない・・・それでいて怒りにも似た黒い感情が胸を覆っていた。


「違う・・・・・・ああああ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアッッッッ!!!!」


レミリアは異常なまでの叫び声にも似た咆哮をあげ、右手を突き上げるように掲げると、突如として掌に紅黒く実体化した妖気が体から一所に集まっていく。それは槍の様に形状が固まっていき、大気を震わすかの如く異質な『力』を放っていた。


チルノは今までに感じたことのないほどの強烈な恐怖を感じ、震えていた。しかし逃げ出しはしない。硬直もしない。その眼光は決意を伴う、強く輝くような青い光に満ちていた。



「フランを救う為に・・・・・・幻想郷ここに来たことがっ!・・・・・・博麗の巫女に頼るのが・・・ダメだと・・・・・・お前はそういうのか!!」


「ダメだよ・・・たいせつなんでしょ!!!友達でもないのに・・・」


「妹を救うのに恥も外聞もない!!!」


「あたいが一緒に行ってやる!!!!!」



!!!??



命名決闘法スペルカードルールはいっかい攻撃をあてられたら負けなんだ・・・・・・今回は負けちゃったけど・・・次は勝つからね!」


え・・・・・・


「もう決闘もしたんだから・・・・・・友達だよレミリア!!!!」


何を・・・・・・・・・


「何を言っているんだお前は!!!!!」


レミリアは疑問を怒号のような叫びに変え、チルノに投げかけた。しかしあまりの衝撃に先ほど集中していた紅い妖気も、実体化していた紅い槍も消え失せてしまっている。


チルノが『違う』と否定したのは確かに二人がかりでレミリアに挑むかと問われたことに対しての否定だった。そしてそれだけだったのだ。

何故ならチルノはすでにレミリアのパンチが当たったことを決闘での負けだと認めていたのである。

大妖精に叫んだのは、負けた自分に助けに来たはずの大妖精を心配させて、寄りかかられる様な情けない姿を、対峙している好敵手(レミリア)に見せたくなかったから・・・


チルノは決闘の最中に会話に引き込む様な器用な真似はできない。

チルノが話を始めたのはもう勝負が着いたと思っていたからなのだ。



「お前じゃなくてチルノだ!!

だれかに頼るのは・・・正直ダメだと思う。

でもあたいが勝手に友達を助けるんだから!いいよねレミリア!!」


「・・・・・・・・・・・・・そんな・・・ことが」



レミリアは暫く呆然とした後、更なる衝撃を受けたかのような、それでいて納得したかのようなあっけにとられた表情になっていた。



━━━━━運命が・・・変わっている



レミリアは『運命を操る程度の能力』を持ち、その能力は朧気に運命を見通すことの出来る能力である。

ひとくくりに運命を見通すといっても、明確に知りたい事柄が分かるわけでも、その事柄を確実に操れる訳でもない。

知り得る情報は完全にランダムであり、明日の天気がわかるといったしょうもないことから、仲間の危機を見通すことの出来るときもある。


しかしこういった運命を、レミリアはこれまで自らの力で切り開いてきたのだ・・・・・・チルノのような、外部の力が干渉したことにより、見据えた運命が劇的に変わることなど無かったのである。


しかし、レミリアが見た『変えられた』運命は、けして悪いものでは無かったのだ。




そうか・・・そういうことか。

妹の為に他人(ひと)を頼ろうとする私と、親友の為に自ら道を切り開くチルノの・・・・・・どっちが強いかなんて、分かり切ってたことだったんだな・・・



「妹が困ってるんでしょ!一緒に行こう!!」


「そうだな・・・・・・そんな得体の知れぬ巫女に頼るよりは、

お前と共に運命を変えるほうが楽しそうだな」


「もう!!お前っていうな!

まだ名前呼ばれてないぞ!!」



「・・・ククッ」




━━━━━行こうかチルノ。運命を手に入れに・・・・・・









今回はチルノとレミリア回でした。


ここのチルノみたいなメンタルを私も欲しいです( ;∀;)

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