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74話「オーバーエイプの肉」

「キェエエ!!」


男と目があった途端、持っていたナイフを振りかざしながら男が飛び出てきた。


「っく・・・・」


突然の攻撃に対処出来ず、とっさに構えた腕から血が流れた。同時に回り込まれ首にナイフを当てられている。


「兄ちゃん!!」


「浅い、大丈夫だ。だがこいつ・・・・・」


「うん、あいつだ。」


コウがゆっくりと双剣を抜こうとすると俺の首に当てられたナイフが首元へと向けられた。


コウは双剣から手を放し無手で構えている。


そう、オーバーエイプの中にいたのは身長の低い頭の悪そうな歯の抜けたモヒカンの男。

ベントレイを手にかけたスティングの仲間の一人だった。

男の腕にはオーバーエイプの臓器らしき肉塊が抱えられていた。


「アキラさん!!」

「最上!!」

「アキラ君!大丈夫!?」

「アキラ殿!!」


皆の心配の声を手で制す。

静かになったタイミングで男へと話しかける。


「お前がいるということはスティングも近くにいるのか?」


「スティングなら・・・・うるさいうるさい!お前は人質!そのまま黙れ!お前ら近づいたら、こいつ殺すぞ!」


男は150位の身長に似合わない力で俺を片腕で抱きかかえると、オーバーエイプの亡骸の上から飛び降りた。

すぐ様再びナイフを首に当てられる。

頭は弱そうなのに動きは素早く力も強い。


「オラが見えなくなるまで動くなよ!殺す、殺すぞ!」


男は俺にナイフを当てたままコウ達からゆくっりと後退いていく。

このままでは不味い。

見えなくなったタイミングで俺の首からは鮮血が吹き出すだろう。


俺はコウヘと目配せする。


意図が分かったのかコウが男へと話しかけた。


「わかった。動かないよー。その代わり名前教えてよ。俺はコウって言うんだー。」


「オラはゴンドって・・・・うるさいうるさい!」


男は一瞬立ち止まったものの、直ぐにまた後退し始めた。

そのタイミングで再びコウヘと目配せする。

コウの表情が少し柔らかくなると、再びゴンドに話しかける。


「ゴンド、ヘンリーは元気?」


「ヘンリーは・・・・黙れ黙れ!こいつが殺されたく無かったら静かにし・・・・らぁっ!?」


その途端ゴンドの体が宙へと舞い上がった。

俺はナイフが首元から離れたタイミングで、コウ達のもとへと走りながら不条理の綴り書きアブサーディティスペリングを取り出し、オーバーエイプの亡骸の前で男へと向き直す。


「カテゴリー、Hg(水銀)形成(フォーメーション)固定(フィクスト)!」


下からゴンゾを突き上げていた水銀をゴンゾの着地点で展開し、足を絡め取りると動けなくした。


「流石、兄ちゃん!」


不条理の綴り書きアブサーディティスペリングを使えなかったから魔力を結構持ってかれたがな。ありがとなコウ。」


触媒である魔石の埋め込まれた不条理の綴り書きアブサーディティスペリングを使わず無詠唱で抽出と形成を行ったため結構魔力を持って行かれた。

そこに物質があると分かっていれば抽出や形成は可能だが魔石がないとやっぱり辛い。

それにかなりの集中力を使う。

やはりこいつを作って正解だった。


「アキラさん!心配しましたよ!大丈夫ですか!?」


「アキラ君!大丈夫!?うわ!血出てるじゃん!」


アリアスとアスナが走ってくると、傷を負った腕を取った。


「直ぐに腕の傷を治しますね!」


「ああ、助かる」


「っく!・・・・・」


そう言ってアリアスは直ぐに回復魔法を使ってくれた。

有り難いと思っていたのだが、目があったアスナに何故か目を逸らされた。


コウがオーバーエイプの上からニマニマしながら降りてきた。

あー、顔が五月蝿い。


「コウ様、アキラ殿、奴はあの時の・・・・」


すると、この中でゴンドと面識のあるナタリーが目線をゴンドから外さず剣を抜きながら聞いてきた。


「そだよーしっかりと覚えてる。」


「スティングがベントレイさんを手に掛けた時に一緒にいた奴だ。同時にヘンリーとの繋がりもあるだろう。」


「賢者の仲間・・・・」


アリアスは初見だろうと軽く説明すると、その言葉で困り顔から真剣な表情へと変わる。


「放せ放せ!早く持って帰らないとっ!!クソ!何だこれ!?」


「コウ、ゴンドのナイフを奪って腕を後ろにさせておいてくれ。」


「あいよー!」


足が固定されて動けないゴンドからナイフを奪うのは容易く、直ぐに準備が出来ていた。


「カテゴリー、(Fe)。出力、リアクション。抽出開始エクストレイションスタート形成(フォーメーション)固定(フィクスト)


ゴンゾが暴れ始めたので辺りの鉄で簡単な手錠と足枷をはめた。

水銀は元々常温で液体の性質を持つため、固定するのにも魔力を使う。

暴れ始めたので殊更捕縛方法を変えようと思ったのだ。

鍵なんてない無骨なものだが、腕の太さに合わせたオーダーメイド手錠だ。関節を外そうとも簡単にはいかないだろう。


「モガミ、どういう関係だ?敵か?」


「ああ、殺人犯の仲間だ。犯人ではないから原因は間接的だが俺は敵認定している。他にも魔人騒動の関係者の可能性が濃い。」


「殺人に魔人か・・・・許せんな!ならこのまま連れて帰って監獄で尋問だな!」


それは願ったり叶ったりだ。頭が弱そうなゴンドから情報を引き出せればヘンリーの、いや勇者の居場所が分かるかもしれない。

このままミストラルに連れて行くのも大変なのでモリアナで預かってくれれば手間が減って助かる。


俺の答えを待つようにキミヒサがサムズアップで歯を光らせている。

暑苦しいと言う言葉を喉に押し込めた。


「ああ、そうしてくれると助かる。俺が連れて帰っても監獄に入れるのは面倒くさい手続きが多そうだからな。キミヒサ、頼めるか?」


「おし!そうと決まったら直ぐに連れて行こう!」


「まぁ待て。2、3直接聞きたいことがある。」


「え?モガミが?・・・・なら俺がやるから任せろ!モガミはストレート過ぎるからな!ここで待ってろ!それで聞きたいことは何だ?」


キミヒサに内容を伝えるとギョッとされたが、聞き終えて頷くと未だ足掻いているゴンドへと近づいた。

コウがゴンゾの上に乗り抑えているので心配ない。


「初めましてゴンゾ、俺はキミヒサだ!宜しくな!ゴンゾに聞きたいことがあるんだ。答えてくれたら悪いようにはしない。」


「誰が答えるかよ!バーカバーカ!」


「まぁまぁそう言うな、好きな食べ物はなんだ?」


「え?」


うるさかったゴンドがキミヒサの質問の意図が分からず押し黙る。

自分にはない切り出し方だ。

だがどうやって話を持っていくのだろうか。


そう思っていたら、いつの間にかアスナが横に来ていた。


「キミヒサに任せたらなら何とかなるわね。」


「良くわからんが、そう言うのが得意だったか?」


「こっちに来て唯一アイツと一緒で良かった部分よ。こっちの人たちとの交渉は全部アイツに任せてたしね。まぁアキラ君には良くも悪くも交渉の必要何てなかったんじゃない?友達だしね!」


確かにそうかもしれないな。

友達だからこそ利害なんて考えない会話ができる。

だが、こちらの世界のルールを知らないだけでは無く、人との繋がりの薄い異世界人なんて利用されて捨てられる可能性だってある。


「正直有難かったわ。せっかく魔物を狩って手に入れた素材を嘘を付かれて買い叩かれたりした時や、私が貴族のクソ野郎に妾にされそうになったのも助けてくれたしね。その後もアイツのお陰で悪いようにはならなかったし、無事にアキラ君達にも会えたしね!」


「大変だったな・・・・ならキミヒサが聞き出してくれるだろう。そうだアスナ、可能ならちょっと頼みがある。」


「え?なに?アキラ君の頼みなら聞くわよ!」


俺はアスナにある事を出来るかどうかを聞くと、二つ返事で出来ると答えてくれたので一つ頼み事をしておいた。そして再びキミヒサ達の会話に耳を傾ける。


「好きな食べ物だよ。投獄はさせて貰うが、その時に食べたいものはないか?」


「み・・・・ミートパイ・・・・」


「そうか、ミートパイだな!俺も大好きだ!モリアナのタミロフの店は行ったか?すげー美味いぞ!ゴンゾもミートパイが好きなんだな!」


「食べた食べた!有名!キミヒサもミートパイ好きなのか!」


先程まで喚いていたゴンドの表情が徐々に変わっていくのが分かる。

キミヒサはコウに目配せをしてゴンドを立たせると砂を払ってやっていた。

空気を読んだのか、コウはそのまま二人から離れた。


キミヒサは終始笑顔での対応だ。

砂を払ったりと気まで使えている。

あれは真似出来んな・・・・。


「おう!大好きだ!あの芳醇な肉汁がサクサクのパイの中から口の中へと広がる瞬間がたまらないよな!それにあの店は専用の農場を持っていて家畜から拘っているから肉質も良いんだよな〜!こんな所でミートパイ好きの仲間と出会えるとは思わなかった!よし!ゴンゾ持ち物で大切なものとかあるか?尋問が終わったら返して欲しいだろ?ミートパイ仲間だから俺が何とかしてやるよ!」


「うわー!キミヒサの言葉でまた食べたくなってきた!このナイフとこの肉を返してくれたら後はどうでもいいぞ!」


「ナイフは返せると思うが肉は生物だから難しいと思うな、それよりも俺も食べたくなってきたよ!早く帰って一緒に食おうぜ!」


「おう!食おう食お・・・・え?頼む頼む!最悪、肉だけでもいいから!」


「んーどうにかしてやりたいんだが、何でか聞かないと無理だな〜俺が怒られちゃうよ。」


「そうなのか!?キミヒサは悪くない悪くない!怒られるのは嫌だ!オラがこの肉を持って帰らないとスティングがヘンリーに怒られるんだ!」


「肉屋で買ったのじゃ駄目なのか?なんなら美味いやつを俺が買ってくるぞ!」


「魔素がいっぱい入った奴じゃないと駄目なんだ!」


「料理に使うんだろ?他のでもいいんじゃないのか?」


「違う違う!ヘンリーの研究に使うんだ!」


「へー!じゃあゴンドは重要な任務を任されてたんだな!凄いな!それでの研究なんだ?」


「おう!俺は信頼されてんだ!実はな、これは魔・・・・・」


流石だ。相手が頭が弱いとはいえ、よくあの会話からそこまで持っていけるな。

キミヒサに頼んでよかった。


「キミヒサ!!!」


急に、コウがキミヒサを突き飛ばした。

だがその理由は直ぐに分かる。


「にぎゅ・・・・がっはっ!・・・」


コウとキミヒサにゴンドの赤い鮮血が降り注ぐ。


まるでデジャブの様にゴンドの胸へ剣が突き立っていた。

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