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68話「独剣の危機」

テオの近くまでいくと、テオが突き出した両手の先には、既に拳大の火球が出来上がっていた。

その火球から放たれる熱気がテオへと近づくにつれて強く感じられてきた。


これは不味い。

俺は袖で口元を塞ぎ、声が確実に聞こえる距離へと近づく。


「テオ!今すぐ止めるんだ!」


「・・・・・何じゃ小僧。どうしたんじゃ?」


「いいから今すぐに魔法を止めてくれ!」


俺に振り向いたテオの顔色が優れない。

恐らく、俺の不安通り《ブラド荒野》の影響だろう。

テオは納得のいかない表情で魔力操作を止めて突き出した腕をゆっくりと降ろした。

同時に火球も雲散し、感じていた熱気も収まってきた。


「ありがとう、テオ。体調は悪くないか?」


「分かったかの・・・・大詠唱魔法を放つつもりじゃったが、なんとも体調が優れんでの。魔力操作に集中出来んのじゃ・・・・」


「大詠唱?魔法は効きにくいんじゃ・・・・いや、今はいいか。それよりも体調が優れない原因は分かってる。あと炎や雷魔法は止めてくれ。まずは・・・・・・」


「ゴァァァァァァ!!!!」


鼓膜を貫く様な声量でコウと対峙していたエイプが咆哮を上げた。


「なんだ!?」


俺は直ぐに咆哮が聞こえたコウの方に目を向けた。


エイプはコウの前から離れ、ナタリーの方へと向かっている。


コウの顔からも余裕が消えた。


「ナタリー!危ない!!」


アリアスの叫び声が聞こえたので、直ぐにナタリーへと視線を動かす。


コウと対峙していたエイプの咆哮に気を取られたナタリーに向かってナタリーと対峙するエイプの拳が横薙に向かっていた。


アリアスの魔法も同時に放たれていたが、エイプの体勢を崩す事が出来ていない。


俺もテオも同時にナタリーの前にいるエイプへと無詠唱で速度の速い風魔法を放っていた。

こちらの方が不条理の綴り書きアブサーディティスペリングを使うよりも出が早い。


それによりどうにか体勢を崩せたものの、放たれたエイプの拳がナタリーの肩を掠めた。

衝撃はさほど無かったようだが、転がされてしまい頭から血を流している。

それを見たアリアスがナタリーのもとに駆け出していた。

恐らく回復魔法を使うつもりだろう。


するとコウの方から爆音の様な、けたたましい音があがったかと思うとコウのいた地面が土煙を上げていた。

コウは目にも止まらぬ様な速さでエイプとの距離を縮めていく。

俺とコウの位置が離れているからこそ目視出来るものの、近距離であれをやられたら姿を見失ってしまう程の速度だ。


コウは直ぐにエイプを追い抜くと土煙を上げて切り返し、エイプの正面から顔面に向かって蹴りを放っていた。


エイプも避けようとした様だが、コウの蹴りはエイプの肩へと低い衝撃音をあげながら命中した。


「ゴアッ!!?」


蹴りを受けたエイプはきりもみしながらも着地し、再びナタリーの方へと向おうとしている。

コウは殺さないように立ち回っている様で、釘付け状態となっていた。


すると、3人から魔法を食らっていたエイプが体勢を立て直し、ナタリー達へ再び攻撃を放とうとしていた。


「クソッ!」


俺は直ぐにアリアスとナタリーのもとへ駆け出していた。


俺は走りながら抱えていた不条理の綴り書きアブサーディティスペリングを開く。


後からテオがエイプに向かって魔法を放つも、体勢は崩れない。


胃の奥から何かが出てきそうな気持ち悪さがこみ上げてくる。

頼む!間に合ってくれ!!!


「アクション!!カテゴリー、(Fe)!出力、フルリアクション!抽出開始エクストレイションスタート!!」


緑色の光が再び不条理の綴り書きアブサーディティスペリングから放たれる。

俺の声に応えて不条理の綴り書きアブサーディティスペリングがパラパラと捲れる。

そして先程差し込んだページで止まると表紙に埋め込んである石の一つが輝きだした。


辺り一面に光で形成された魔法陣がいくつも展開される。

そこから牡丹雪の様な光がフワフワと溢れ出した。


収束(コンバージェンス)っ!!!」


奥歯を強く噛み締めながら放った言葉で地面から溢れ出した光がレーザーの如くアリアス達の元へと集まって行き・・・・・


エイプの拳がアリアスとナタリーに迫る。


形成(フォーメーション)!」


ボゴァァァァァァン・・・・・・


銅鑼の様な音が《ブラド荒野》に響き渡った。


「キャーー!!・・・・・え?・・・たす・・・かった?」


アリアス達に当たると思われていたエイプの拳は銀色の壁にめり込んでいる。

良かった・・・・間に合った・・・・


壁の後では、アリアスがナタリーを庇うように抱きしめていた。


「ウゴァァァァ!!」


エイプの拳は砕け、あらぬ方へと指を曲げていた。

エイプは手を抑えながら膝をついて喚いている。


「なんだあれは!?助かったのか!?」


遠くから横目で見ていたキミヒサ達も、状況が理解出来ないようで、思わず声をあげていた。


「アリアス!ナタリー!大丈夫か?」


俺はようやくアリアス達のもとに到達し声をかけた。


「なんだ・・・これは・・・・鉄?」


ナタリーは額の血を拭いながら鉄の壁を叩いていた。


アリアスは凹んだ鉄の壁をじっと見ていたが、俺の声に我に返り、こちらを振り向いた。


「こ・・・・・これは・・・アキラさんが?」


「ああ、そうだ。間に合って良かった・・・・」


「あ・・・・ありがとうございました!」


「アキラ殿、助かった。礼を言う・・・・」


顔をエイプへと向ける。まだ油断はできない。


「アリアス。まずはここを離れてくれ。ナタリーとテオを連れて後ろに下がるんだ。《ブラド荒野》からできるだけ遠くまでな。」


「え!?じゃあこのエイプは・・・・!?」


「ああ、俺が戦う。どうやらここは“辰砂”の荒野・・・すなわち毒の荒野のようだからな。頼めるか?」


「そ、そうなんですか!!?え、あ、はい!でもアキラさんは大丈夫なんですか?」


「俺は問題ない。それよりも今はテオだ。恐らく毒をかなり吸い込んでいるはずだ。頼むな。」


そう言うと、俺は下がるアリアスたちの背中を見送って、再びエイプへと向き直った。


既にコウとの距離も近い。

コウが打撃を繰り出しながら、今だこちらに向おうとしているエイプを止めていた。

俺の目の前にいるエイプは手を抑えながらも立ち上がり、牙を向いて唸っている。


「流石兄ちゃん!やっぱり近くにいると安心できるね!でも同時に倒さないとダメだかんね!あの森にまだいっぱいいるからねー!」


やはりそうか・・・・

だが何とかなるかもしれん。

そう、ここ《ブラド荒野》は何故か分らないが辰砂の荒野。

この赤色の大地には鉄や銅も含まれていたが硫化水銀も多く含まれていた。

赤色になるものをインデックスで調べた際に判明したものだ。

水銀は熱することで蒸発し、それを吸うことで口内炎や 下痢、肺炎、重篤な腎障害を生じる。

戦闘中では即効性に欠けるが、ここには鉄や銅などの水銀以外の金属も多い。


全員を待避させて・・・・・いや、ここに3体を釘付けにするのは俺一人では無理だな・・・・なら・・・・・


「ウゴァァァァァァァァァァァァアアア!」


「兄ちゃん!!」


コウの攻撃をすり抜けて、俺のもとへエイプが向かって来ていた。

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