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5話「状況把握による常識崩壊は意外と後を引かない」

喉がカラカラだ。


あんだけ走ったらそうもなるか・・・・

ピンク巨人に一時間程割いた。その前から地面に刺していた枝の場所も今では分からない。離れすぎたようだ・・・・・

完全に動かなくなったピンク巨人を放置し、俺達は再び枝を刺しながら歩いていた。


「うわー!そうゆうことか!!兄ちゃんスゲーな!」


コウに全容を説明すると、本当に運が良かったと自分でも改めて思う。


最初に蛇狼を倒した訳だが、コウが蛇狼を枝で刺した部分が首だったことが勝因だ。

当初、蛇狼は毒持ちかどうか怪しかった。コウが刺した所が首、おそらく毒線だったのだろう。

その枝で突き刺した。それも直接、脳に。

あの様子なら神経に作用する毒かな?


まぁ運がよかった!


「あ!そういえば!兄ちゃんコレ!」


コウが道着の懐から黄色の果実を出して俺に差し出してきた。

普通なら可愛い弟で終わるんだが、いかんせん同じ顔。

何より先程のトラブルの発端がコイツだ!!


「お前なぁ!そもそも・・・」「いらないの?」


悔しい!!実に悔しい!俺の喉はサハラの様に乾ききっている!

弱みに付け込みよって!許しがたい!!!


「いただきます!」


受け取った果実を袖で拭いて口に頬張ると見た目と違って柔らかいのがわかった。葡萄のような果汁が溢れ出し、喉のサハラが緑化していくようだ・・・・

最後に苦味が残る。食感は柔らかい梨。まぁ手の入っていない果実なんてそんなもんだろう。


無心で貪り終わるとコウが味を聞いてきた。

黄色のは食べてないんだそうだ。

先に言え!毒かも知れんだろうが!!

赤色のは酸っぱいパイナップルにスイカの白い部分の様な食感らしい。


やっと喉も潤い、歩み進めていると少しずつ視界の空の比率が多くなり始めた。


「公久と明日菜は大丈夫かな?多分最初の爬虫類くらいなら何とかなると思うけど・・・」


開けてきた空を仰ぎながらコウが少し寂しげだ。


え?大丈夫なの!!??ヤれちゃうの?

親父!!何の修行をすればそうなるんだ!!!

そりゃあ剣道ではなく、剣術道場だからあらゆる状況に対応するための稽古は多かったが・・・・・

なんか自分の弱さの方がイレギュラーな気がする・・・・


でも今は敢えて深く考えないようにする。

薄情かもしれない。

このまま会えない可能性もある。

出来得るなら探したいが、それにしてはこの森は危険過ぎる。

ミイラ取りがミイラになってはいけない。

先ずは安全を確保し、改めて捜索することが最善だ。

そう自分を納得させるしかない。


コウもそれを分かっているのだろう。その後は何も言わなかった。


時刻は16時。もう時間がない。


「兄ちゃん!!!あれ!!人だよ!!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「森が騒がしい・・・・」


金色の風に靡く髪。長い金色の睫毛に空のような青い瞳。そして日焼けなど知らないかのような白い肌。顔の横からは長くとがった耳が突き出している。

彼女は本を閉じ、石造りの窓から外の森を眺めた。


「ここまでは来ないとは思うけど、見に行きましょうか・・・・・」


その細く、だが決して貧素ではない胸の膨らみに整った体。椅子から体を起こし、側に掛けてあった深緑の外套を着ると玄関を出た。


外には同じように金髪に白い肌、長い耳の者たちが各々、多様な作業をしている。

革をなめす者。植物を干す者。何かを石臼で挽いている者。


「森が騒がしい!嫌な臭いもします!《双壇の大樹》が荒らされてないか見てきますが、3人ほど付いてきてはいただけませんか!」


良く通る芯の通ったような美しい声に、皆の作業が止まり何処かから3人が声の元に歩み寄ってきた。


「ミラディエラ様、私たちがお供いたします。」


ミラディエラはそれを見て微笑むと3人を連れ森の方に歩いて行った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





目の前にいるのは明らかに日本人ではないスタイル。

ってか、人間だよね?所々違和感あるんだけど・・・

皆、金髪でやけに長い手足、耳が尖ってる・・・・・・・・

顔が見えないが、皆スラッとして立ち姿が綺麗だ!


これジャパニーズ通じない感じしない?

んー北欧系の感じかなぁ・・・・


とにかく英語は共通の可能性が高いよな!まずは英語でいってみよう!


「どうもーこんにちわ!みなさん外国の人?ここがどこだか教えてもらってもいいかな?」


おい!コウ!完全にジャパニーズじゃないか!!!そんなもんで通じるはずないだろ!!

いや、来日何年とかならありえるか・・・・・


「ミラディエラ様!!!双聖です!!!あの二人顔が一緒です!!」


「兄弟なだけでは?それより彼奴らから臭いがしますね。」


「見たことない服装だな。」


OH!ジャパニーズオンリー?

何か英語で話そうとした俺が恥ずかしくなってきた。

夕日の逆光で顔が見えないがみんなモデルか何かなのか?

何かスタイル良すぎて夕日が後光の様になっている。

真ん中の人だけマントかポンチョみたいなのでスタイルがわからないけど何かヒーロー物みたいだな。


「ここは《アラディスマの森》。あなたたちこそ外国の人では?」


すごい綺麗な声だな。何か鳥肌が立ったよ。真ん中の人が喋ってるのか。

ん?《アラディスマの森》?

何かの聞き間違いかな?


えーっと日本ですらない?


「すいません、僕ら道に迷いまして・・・ここはどこの県ですか?」


「不思議な事を言いいますね。ここは《ミストラル王国ベラデイル領アラディスマの森》。今度は私たちの質問に答えていただきます。」


あー、何か混乱してきた。

王国?俺たちの大学は?全てを考えても思考の行き着く先が「夢」なのだ。

コウは腕を頭の後ろに組みながら飛んでいく鳥の群れを眺めている。

思考を停止するな!話を聞け!


「ありがとうございます。ええ、どうぞ。わかる範囲でお答えします。」


「どこから来たのですか?《アラディスマの森》は深い。近隣は我がエルフの村《新緑の里》ぐらいなものです。その軽装なら北東の《エステルマ領》ですか?」


ふむふむ。エルフね・・・・・・・

おっと!なんだか混乱して頭の中がファンタジーになったようだ。


「すいません、聞き取れなかったのでもう一度お聞きしてよろしいですか?」


「ここは《アラディスマの森》。私達エルフは近くの村《新緑の里》から来ました。私達はこの森を縄張りにし、またこの森を守っています。あなた達はどこからこの森に入られたのですか?」


ファンタジーな模様です。聞き間違いではないようだ。


あー。ここは折角、知的生命体に会ったのだ。純粋に状況を伝えるべきか。


「あー、あのですね・・・信じないと思うんですけど、僕らが来たのは大学からです。」


「大学?東の果て《クロード》の大学か?それとも北の《ベイアル》か?」


男性の方は声だけでも何か疑ってる感満載だな。


「待ってください!えーっと、僕たちの大学は明徳大学と言う場所で、そこはこの森の、どの生物もいない場所です。多分、貴方がたも知らない場所だと思います。そこで・・・・」


そこから、大学からピンク巨人討伐までの一連の話を簡単に伝えた。

その頃には夕日の色が濃くなり辺りが森の闇に引っ張られ始めていた。


「信じれんな。双聖に移転。はたまたトロールを下したか。」


「ミラディエラ様。一旦拘束し、明日にでも《双壇の大樹》を見てきます。トロールの件の真意はそこでわかるでしょう。」


はい、きました。またしても頭の中がファンタジー。

ピンク巨人の話の時「そんな!」とか「トロールを!?ありえん!」とか言っていたが、あのピンク巨人が「トロール」らしい。

ちなみに蛇狼は「リザーヴォルフ」。

リザーヴォルフにも驚かれたが、トロールの話に関しては皆、声色が変わった。


いや、それは置いといて・・・拘束?何も悪いことしていないのに?

まさか信仰の対象だったとか?ピンク巨人を?それはそれでどうかと思う。


「ちょっと待ってください!拘束っていうのは何故ですか?僕ら何かしましたか?」


「いや、悪いかどうか判断し兼ねますので拘束させていただきます。もう日も落ち待ちます。野宿されるにしろ、素性の分からない者を自由なままで村の側には置けません。なら敢えて村の中で管理をさせていただき虚偽や真意が分かれば内容によっては拘束を解きます。」


確かに一理あるな。まあ、このまま野宿より、ある意味牢獄の方が安全だ。

一先ず安心。それに悪い人たちではなさそうだ。楽観主義ではダメだから脱出も考えて今は従おう。


「心配しなくてもご飯はご用意しますよ。」


俺の顔が安堵の表情の後、曇ったのだろう。優しいなこの人。


「やったーーー!!ご飯だ!!!!」


あー、まだ足りなかったのね。

よく動いたし、俺もお腹はペコペコだ。


俺達は持っていた枝を捨てて、4人の元へ歩いて行った。もう日が落ちそうだ。

近づくにつれ、4人の顔が徐々に見えてきた。

皆、まさにファンタジーな服装だ。麻の生地の服に腰にはナイフ。

既製品じゃなさそうで、各々デザインが違う。

3人は弓を持っている。文明のレベルはかなり劣っているのか。


だが本当に綺麗な人たちだ・・・・

3人は男か・・・・イケメンだ・・・・いや、俺にその気はない。

身長も皆、俺達を超えている。

いや、俺達も低くはないよ。177cm!どうだ!可もなく不可もなく!若干良い方だろ?


外套の人は何か、別格!息を呑むほどだ。

ストレートの金髪の髪に長い睫毛・・・

切れ長の目にはキツさを含んだ優しい眼差し。鼻筋がスッと通り適度に高い。

口角は少し上がっていて・・・・・・

赤い夕日の光に自分の頬を紛れさせた。


4人に近づくと森はそこで終わっていた。

この森は山とまではいかないが、丘のように少し高い位置にあったようだ。

右手には小さく城が見える。坂の下3kmぐらい先には村が見える。30軒ほどの家屋に中央に井戸。

村の周りには柵と櫓があるな。


ふと夕日の眩しさが気になった。

光の先には人生で肉眼で一度も見たことのない地平線が赤く染まっていた。

何の人工物にも阻まれていない夕日が世界を赤く染めている・・・

こんなに綺麗な景色があるなんて・・・・


俺達は4人の後を付いて森を背にした。


本当にここは日本じゃないんだなぁ。そして時代も違う。生物も違う。

夢だとしても「我思う、故に我あり」だとしておくか。

一先ず受け入れよう。細かいことは後で聞いてみるか。


視界いっぱいに広がる赤い地平線は自分の心を少し広くしてくれたのかもしれない。多分いつもなら夢だからと決めつけて終わっていただろうな・・・


「いやー俺、天丼食い忘れてたんだよね〜!!」


「・・・・・・・・」


心の広さはすぐには大きくならないらしい・・・・・・・

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