57話「ファッションとは果たして流行なのか、それとも個性なのか。どっちなんだい!」
「これでいい。」
「えぇ!?あ、アキラさん、それは・・・・」
俺が武器の問題の解決案を閃いた際に聴き逃したシェーバスの話をカミラに聞き直した翌日、俺とコウは服を新調するため、リオとナタリーに同行してもらい街へと赴いていた。
中央通りと思われる王城まで続く広い石畳の通り沿いのとても『お高そう』なお店に連れて来られた俺達は二手に別れて各々の服を選ぶ事になったのだ。
アリアスはモリアナへの入国手続きやらで奔走してくれているらしい。
正直、書庫の一件から廊下ですれ違うアリアスの顔を見ると少し緊張してしまっていた。ある意味ありがたい。
作業の方は構想が出来たのでルーイに任せてある。
説明した途端にルーイが踊りだしてビックリしたが、やる気に満ち溢れてくれてなによりだ。
どうも服を新調しなくてはならないのは公久と明日菜に会うためにモリアナの国王に謁見せねばならなく、それなりの服装を纏わなければならないらしい。
その為に《ワンド》御用達の服屋に連れてこられたのだ。
鎧などの戦闘服ならまだ良いらしいが俺達の着ている服はみすぼらしい類に入るらしい。
ファッション?そんなもの清潔感があればいいだろ?
店内には色とりどりの『お高そう』な服がところ狭しと並んでいる。
上は金糸でゴテゴテに装飾されたものから、下は《新緑の里》で見たようなシンプルな物もある。
並んでいるものに統一感がない。
ファッションには疎いが、これはセレクトショップの様な感じなのだろう。
俺は適当に店の商品の中から元の世界で着なれている白いシャツを手に取り店員に差し出した。
真っ白な生地が清潔感を印象付けるのに最適だ。
「お!お客様見る目ありますね〜!それはパールを食べさせた《ホワイトキャタピラン》の糸で織った一級品だよ!」
「ホワイトキャタピラン?」
「アキラさん!ホワイトキャタピランの糸は最高級ですよ!?それは流石に予算が降りません・・・・」
リオが慌てて止めに入ってきた。
「こんなにシンプルなのにか?」
いかにもその辺のファッションセンターで安売りしてそうなシャツなのにか?
確かに値札を見てなかったな。
そう思い値札をみると・・・・
268000ダイト
ふざけるな!!268万円だぞ!!馬鹿なのか?
当たり前だが服にそんな金出したことない!いや、出せるか!
《ワンド》から予算が出ると聞いていたから適当に選んでしまったが常識を逸脱した価格だったのか・・・・
ん?まてよ・・・・・と言うことは俺のシャツは馬鹿みたいに買い叩かれていたということじゃないか!!
こんなことならもっとサービスしてもらうんだった・・・・
「キャタピランは餌に混ぜたものによって糸の性質が変わる家畜です!ホワイトは特にその影響が強い希少な生物なので、とても高価なんです・・・・」
「ほほう。ではホワイトキャタピランを一匹貰おう。」
「んなもんねぇよ!」
何故に怒る店員よ。
「ならリオ、キャタピランを売っている所を教えてくれ。」
「えぇぇ?!!本気で生地から作るおつもりですか!?流石に時間がありませんよ!」
「いや、科学的好奇心だ。服は別のにする。」
「は、はぁ・・・・・」
いや、だって餌に炭素とか混ぜまくったら炭素繊維とか作れると思うではないか。
「因みにホワイトキャタピランに小麦粉を食べさせるとどうなる?」
「え?どうって・・・・・」
「糸は食えないのか?」
「食べれません!」
素麺を食べれるかと少し期待したが駄目か。
そりゃ服の生地になるくらいだから強度はあるのだろう。
「ホワイトキャタピランをどうにか手に入れれないか?」
リオは少し悩んだがシェーバスに頼めば一匹くらいならなんとかしてくれるかもしれないと答えてくれた。
よし。手に入ったらホワイトキャタピランで防御面の研究をしよう!
なんせ鎧は重そうで汗だくになりそうだからな。
さて、コウは何を選んでいるのだろうと姿を探してみると店の奥で何やら揉めていた。
「だーかーら!これと同じ服ないの?」
コウは道着を掲げて店員に詰め寄っていた。
いや、あるわけないだろ。
ナタリーはどこに行ったんだ?コウの暴挙を止めてくれ。
「コウ様がおっしゃられてるんだ!どうにかするんだ!」
おい!!一緒になって問題を起こすでない!!
ヤカラだ完全にヤカっている・・・・・
ここは他人の振りで早めに買い物を済ませて先に出てしまおうと思ったが、先程からリオが俺に『何とかしてください』という顔で見てくるので仕方なくコウとナタリーを止めてやることにした。
「おい!コウ!無理を言うな!そもそもここは『服屋』だ。道着は防具だろう。防具屋にでも行ってこい。」
「いや、だから兄ちゃん!道着じゃなきゃ・・・・あ、そうだねーそうだよね〜ごめんね☆」
ウザい!何が「ごめんね☆」だ!☆はいらんだろ!
だがこれで納得するとは我が弟ながら単純極まりないな。
道着が防具なのは俺達の世界、それも俺達の国での話だ。
実際に殺すための攻撃を受ける防御力なんて見込めるはずもない。
それよりも・・・・・
「ナタリー。コウの暴走を止めるのが案内役の務めだよな?職務怠慢の罰として、お前の化粧品の供給を止める。」
ナタリーの顔がみるみるうちに青く変わっていき膝から崩れ落ちた。
実はどうしてもと頼むのでベラデイルで試供品を使った日からナタリーにはこっそりと化粧水を原価で譲っていたのだ。
「お願い致します!アキラ様!私が付いていながらコウ様の『質の悪い』お願いに悪乗りをしていまいました事を深くお詫び致します所以、何卒私にもう一度チャンスをいただけないでしょうか!!」
「えぇー!!!ちょっと!?ナタリー様!!?」
ナタリーの変貌ぶりにリオも困惑の色が隠せないようだ。
俺も最初はビックリしたが、ナタリーは恐らくこれが素なのだろう。
「え!?ナタリーちゃん!?俺のこと『質の悪い』って言った?今そう言ったよね?」
「おい!魔学師!!お嬢様に何をさせている!!!」
あーややこしくなってきた。
振り返ると入り口にはいるはずのない奴が仁王立ちで俺を睨みつけていた。
「お嬢様に土下座をさせるとは非道極まりない!この陽炎のフィルがお嬢様の代わりにお前を断罪する!!」
こいつまさかナタリーの後を付け回していたとか?
もしかして結構ヤバイ奴なのかもしれんな・・・・
「ナタリー・・・・では供給を・・・・」
「お嬢様!こんな奴・・・・」
「だまれフィル!!」
「ふごっ!!」
フィルはナタリーに頭から押さえつけられ、土下寝状態になっていた。
「仕方ない。フィルの土下寝に免じて、もう一度だけチャンスをやろう。だが次に『頭の悪い』事を助長したら供給を止めるからな。」
「はい!ありがとうございます!この不肖ナタリーがコウ様の『頭の悪い』行動を必ずや止めて見せます!」
「え?今『頭の悪い』って言ったよね!?変わってる!うん、意味変わってるよ!」
ナタリーも化粧品をぶらつかせればチョロいな。
化粧品と剣の事になるとお姉様キャラが崩壊する。
あーそうか!だから副隊長補佐なのか。
まぁこれでようやく、まともに買い物ができる。
「さあ、リオ。買い物を続けようか」
「えっ!?は、はい・・・・」
「いや、ちょ!まっ!無視!?蔑ろ!?」
俺達は服を選び終わると高級そうな服屋を出て防具屋に向かうことにした。
因みにフィルは放置だ。
恐らくまた影からついていくるのだろう。
俺が購入したのは黒いズボンと革のベスト、ベージュのシャツ、それから黒のブーツを新調した。
シャツは今のより生地のしっかりしたものを選んだのだが、いかんせん色が気に食わない。
髪の毛と一緒に脱色してみるか。
コウは何も買っていないようだ。
やはり道着に拘るらしい。
コウとナタリーとはここで別れることになった。
面倒くさいことにならなければいいが・・・・
そうだ。ここに来る事を快諾したもう一つの目的を達成するとしよう。
「リオ、魔素総量が測れる場所を知っているか?」
「はい!ですが、かなりお値段がはりますよ?」
「いくらだ?」
「1人2500ダイトです。」
そうか。それくらいならなんとかなるかもしれんな。
「当てがある。ベラデイルの商人が集まるところはあるか?」
「ここから直ぐですよ!おまかせください!!」
服屋までの道程で聞いていたが、リオはこの街のスラムで育ったらしく街の事にかなり詳しいようだ。
そのことから今回の案内役に抜擢されたらしい。
大通り沿いに外壁に向かってしばらく歩くと、2階建ての大きな建物の前でリオが立ち止まった。
「ここがベラデイル行商ギルドです!」
綺麗にカットされた石造りで、かなり圧を感じる。入り口の扉が大きく重そうな材質だ。
「ではここで待っていてくれ、すぐ戻る」
「はい!了解です!」
俺は大きな門を潜ると正面のカウンターで要件を伝え、言われるがままにエリオットと交わした証書を提示した。
「貴方が魔学師様ですか!思っていたよりお若いんですね!ではこちらが売上です。ここにサインをしてお受け取りください!」
「・・・え?こんなにか?」
カウンターの奥から爽やかな好青年が袋と一緒に羊皮紙を机に置いたのだが、額面を見て正直ビビった。ざっと見ても最初のピンク巨人の素材で得た金額の5倍以上はある。
「はい!いや~流石領主様ですよね!この短期間でこの売上なんて僕には叩き出せませんよ。ははははは!」
さてはエリオットの奴、かなりぼったくったな・・・・まぁお陰で俺の懐もホッカホカだが。
この金で次の化粧水と新商品の材料を買って、残りは研究資金に当てよう!!
うん!素晴らしいものが出来そうだ!
リオの元に戻り、そのまま魔素総量の測定が出来るという場所に向かうことにした。
どうやら国が運営している機関らしい。
素質のあるものは測定後に正規軍からスカウトされるそうだ。
スカウトを受ければ測定料金はタダになるらしい。
毎日の様に地方からミストラルドリームを手に入れようと若者たちが魔素総量測定を受けに来るそうだ。
「実は僕も受けたことあるんです。でも基準値には届かなくって・・・・目の前が真っ白になったのを覚えてます。でも今はこうして《ワンド》に拾って頂いて本当に助かりました!人生何があるかわかりませんね!」
全くだ。
現に異世界にいる訳だし何が起きるか分からないものだな。
だが、たしかに魔素総量測定を受けた時点で夢が崩れるというのは儚すぎるな。
学力テストや入学テストなら事前に努力も出来ようが、努力で何とかなる物でもないだろうしな。
夢や希望を持って受けるとなると、かなり覚悟がいることだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、進行方向にかなりの人だかりが出来ていた。
何故か皆、拍手喝采だ。
「アキラさん、あそこですよ!魔素総量測定の場所です!うわ〜凄い人だかりですね・・・・何があったんでしょう?」
まさかな・・・・・・いや、大丈夫だ。
奴は防具屋の筈だ。
「その《魔眼》で分からないのか?」
「そんな万能ではありませんよ。遮蔽物があると、たちまち使えませんしね・・・・」
そういうものなのか・・・・
まぁ戦場で遮蔽物の向こう側まで見ることが出来たならかなりの戦力だろうしな。
伏兵が意味もなさない愚策に成り果てるだろう。
「あいつスゲーぞ!」
「エリート階級ましっしぐらだな!」
「うわー!あの人素敵だわー!今からアタックすればお嫁に行けるかしら?」
「こっち見たわ!キャー!ステキ!」
入り口の前までつくと、その“まさか”が眼前で両手を上げていた。
「あ!兄ちゃん!!」
俺は知らぬ存ぜぬで人混みを掻き分けて中へと進む。
だって拍手されている奴の兄とか恥ずかしすぎるだろ?
俺は今から弟より魔素総量が確実に少ないという痴態を晒すんだ!
構ってられない!いや、構いたくない!
「待って兄ちゃん!!え?無視?」
コウが俺の肩を掴んでしまったので諦めてコウへと振り返る。
ええい!ままよ!
「ちっ!ナタリーはどうした?」
「なんかフィルと言い合いになってたから、ほっといて来たー!そしたら面白そうなことやってそうだったから参加したんだー!兄ちゃんも受けるの?てゆうか今舌打ちしたよね?」
いかんいかん、平常心平常心。
「で、この騒ぎか・・・・・金はどうしたんだ?」
「ギクッ!」
はぁ・・・・使ったのか・・・・
金輪際こいつに金はあまり持たさないでおこう。
さて、あの不肖ナタリーには暫く干乾びて貰おうか。
「それで、どうだった?」
「なんか『入隊を歓迎する!』とか偉そうに言ってくる人がウザかったー!まぁ断ったんだけどね〜」
そいつウザいなぁ。かなり上から目線じゃないか・・・・
「聞きたいのは結果だよ結果。」
「あー!近衛レベル超えとかなんとかだったよー」
「え!!!?近衛レベル超えですか!!?」
リオが顎が落ちそうなくらいに驚いてコウの肩をゆさゆさと揺らしている。
「そんなに凄いのか?」
「はい!才能無し・低レベル・一般人レベル・合格レベル・隊長レベルとあるのですが近衛レベルとは正にエリート街道に乗れる最大評価です!それ以上の評価なんて聞いたことありません!因みに僕は一般人でした!」
6段階しかないのか。
できれば数字で出してくれれば、この後の残弾数の検証が捗ったというのに・・・・
というか『才能無し』とかレベルすらついてないじゃないか・・・・
はは・・・・まさかな・・・・
コウをリオに任せて奥に入ると中では受付が設けられていて、その奥では大きな魔道具らしきものに繋がった聴診器のようなものをお腹に当てられていた。それが終わった者から奥の扉へと入って行き、出てきた者が再度聴診器を当てられた後、受付で結果を聞くようになっている。
俺の目の前で中高生ほどの若者たちが落胆したり憤慨したり歓喜したりと結果を突きつけられている。
中には聴診器を受けずに帰って行くものもいるようだ。どういうことだ?
あの聴診器で測定して・・・・奥の扉では何をするんだ?
受付を済ませると、すんなりと俺の番が回ってきた。
結果が悪いのは分かっているのに何故か淡い期待が胸を擽り、手に汗を握っていた。
「はい、次の人。」
あー緊張してるんだな俺。
係員が聴診器の様な魔道具を当てる。
機材を戻し淡々と書類を記入し始めた。
これで終わりなのか?
「じゃあこの紙を持って奥の部屋へ進んでください。」
紙を受け取って扉へと進む。
なんか健康診断を受けている気分になってきた。
そう思ったら少し緊張も解れてきたような気がするな。
扉の奥へと進むと窓の無いだだっ広い空間が広がっていた。天井は吹き抜けになっており、遮るもののない青い空が見下ろしている。
「受け取った紙を渡してください。」
近寄ってきた係員に紙を渡すと係員の表情がみるみる変わっていく。
「本当に受けられるんですか?」
うわーそういうことか。
なんかここで結果を突きつけられた感じがする・・・
まぁ俺は夢を持って受けに来たわけじゃない。
あくまで俺が使える魔法の装弾数が知りたいからここに来た。
だが夢や希望を持って受けにくる奴らは絶望を突きつけられる前にここで帰るのだろう。
「ああ、頼む。」
「わかりました。ではこちらへ」
広い空間の中央に立たされると係員が俺から少し距離をとった。
「ではフレイ(火炎)を一度放ってください」
そうか。聴診器で総量を測った後、指定した魔法を使用し残りの総量を再度測る。
単純だがこれなら俺の望む結果、即ち装弾数がわかりやすい。
「どうぞ。」
俺は係員の声を合図にフレイ(火炎)を放った。
「え?」
「ん?」
係員が何故か固まっている。
「もう一度やったほうがいいのか?」
「っは!い、いえ結構です!」
なんだ?何かあるのか?
無詠唱ならコウもやっただろう?
俺は係員から紙を受け取ると再度聴診器を受ける所まで向かったのだが様子がおかしい・・・・
係員がざわついている・・・・
「こ、こちらへどうぞ!」
係員に紙を渡すと、先程聴診器を当ててくれた係員が何故かビクビクしながら聴診器を当ててきた。
「・・・・・・・・」
聴診器を当てていた係員が急に立ち上がると、他の係員と相談を始めてしまった。
何があった?
まさか俺が重大な病気とかか!?
相談を受けた係員が怪訝な表情を俺に向けて言い放った。
「アキラと言ったな。魔道具を出せ。」
「は?そんなものは持ってない。」
「しらばっくれても無駄だ。魔素総量が『低レベル』にしては消費量が少なすぎる。それにあの『青い炎』。魔道具でないにしろ確実に不正を働いているのは明白である。同行願おうか。」
あー良かった。『低レベル』で。
『才能無し』とか悲しすぎるもんな。
いや、『低レベル』も充分悲しいのだが・・・・
「え?」
係員が俺の腕を両脇から掴む。
「えーーーーー!!!??」
どうやら不正を働いた疑惑をかけられてしまったらしい・・・・




