34話「拘りを追求したものは素晴らしいと思うが周りは迷惑かもしれない」
「なっ!何ですかこれ!!?」
急遽だったため、お忍びで見送りに来たエリオットが俺とルーイの傑作を見て口を開けたまま棒立ちになっていた。
「どうだ!!!スゲーだろ!!!俺と旦那の傑作だ!!」
ルーイがこれ以上無いほどのドヤ顔でエリオットの前に無い胸を張っていた。
そういえばルーイは成長するとどうなるんだ?
胸は大きくなるのだろうか・・・・
いや、そんなことは今はいいか。
「いや、何か分からないんですけど・・・・何に使われるのですか?」
「エリオット様、何やら乗り物らしいのです。」
「乗り物?荷台の類いですか?」
「・・・・・・さぁ?」
「まぁ見てなって!驚くぜ〜!」
ルーイが荷台に向かうとエリオットとカルマンさんは揃って顎に手を当てて難しい顔をしていた。
俺とコウは荷物を後に着けた荷台に乗せ終えると、同じく難しい顔で棒立ちのアリアスとナタリーに乗るように指示した。
「あ、アキラさん・・・・普通の荷台とは違うみたいで・・・・何処にどう乗るのがいいのですか?」
「ああ、そうだったな。アリアスとナタリーは荷台の前の部分の幌があるベルトの付いている椅子に座ってくれ。」
「は、はい!」「・・・・了解した。」
もしもの為に荷台の前面に幌を貼り、座席に座るには車の様な引きドアから入らないと入れない様にしてある。
速度が出るので飛び石を防いだり、放り出されないようにする工夫だ。
二人はコウの支持でドアを開けて乗り込み、椅子に座るとガチガチに固まっていた。
あ、そう言えばベルトの付け方教えないと!
「コウ!アリアスとナタリーにベルトの付け方教えてくれ。車のそれと同じだから。」
「あいさー!」
俺は荷台の幌のついていない部分の荷物が落ちないように網を掛けて固く縛っていた。
すると後ろからエリオットとカルマンさんが声を掛けて来た。
「あのー・・・魔学師殿、馬がいないようですが、よろしければ私の馬をご用意いたしましょうか?」
「言ってくれれば兵舎から馬を用意したぞ?」
「大丈夫です。馬は必要ありませんので。」
「え?まだ出られないのですか?・・・・・カルマン、私には仕事もあるのだぞ?」
「申し訳ありません!すぐ出られると伺っていたのですが・・・・」
「すぐ出ますよ。これは馬を必要としない乗り物。魔導式自動二輪車。その名も《ガンドーベル》といいます。」
廃材を繋ぎ合わせたソレは元の世界のソレとは言い難く、前後に小さなスパイクを施した馬車の車輪が付いている。
エンジンにあたる部分は魔法陣を施すために箱状になっていて中には魔法陣がびっしり描かれている。
申し訳程度の革の座席がついていて小さな馬車の様なサイドカーがくっついていた。
俺だってこんなデティールにしたかった訳ではない。もっと外装部分にもこだわり抜きたかったのだ。
あくまで試作品の域を出ない。
だが、随所に俺とルーイの拘りを盛り込んだ傑作であることに間違いない。
もちろんこの試作品をバイクと言いたいところだが、バイクという言葉自体が何のことか分からんだろうからバイクとは言わなかった。
それに《ガンドーベル》の方がカッコイイじゃないか!
サイドカーも付けたしいいよな?
いつか変形も視野に入れておこう。合体も必要だな!
「ほぉ!私にはややこしい馬車にしか見えませんが、そんなものを作られたのですか!!流石は《リンクル》を作製された魔学師殿です!!」
っちょ!っま!!・・・・そんな大声で言わないでくれ・・・・・
化粧水の名前を聞かれて、咄嗟にコウの冗談が頭を過り《リンクル》付けてしまった。
後悔・・・・大後悔だ。コウに聞かれたら弄り倒される・・・・
「兄ちゃん!準備オッケー!」
振り返ると、いつの間にか後ろで「え?え?こうですか?」と戸惑う声が止んでいた。
「では準備が出来たみたいなのでこれで。」
「魔学師殿!!商売は私の専門分野です!安心して任せてください!また手紙を使者に持たせるので追加などの際はよろしくお願いします!・・・・・お気をつけて。」
「よろしく頼みます。」
俺とエリオットが固い握手を交わす。
これからも続く関係となったエリオットは昨日と違い、少し寂しそうに見えた。
「そうだった!これを預かっていたのだ!」
カルマンさんはローブの中から手紙を差し出してきた。
・・・・・誰からだ?
「これを魔道具屋のオヤジから預かったのだが、ルーイに街を出てから渡してくれとのことだ。」
ルーイにか・・・・・
俺は手紙を受け取るとヒップバッグに入れてボタンを閉じた。
ルーイは既にアリアスとナタリーの間に座って準備万端だ。言われたとおり、後で渡すか。
「ではお気を付けて!」
「ああ、ありがとう!また来るよ!」
「その時は、また美味しい話をよろしくお願いしますね!」
「ああ!」
エリオットが微笑んでお金のジェスチャーをするのを見て俺も微笑み返した。
俺がサイドカーに乗り込んでいる間に皆もその場で挨拶を終わらせていた。
「兄ちゃん、ここに魔力を流せばいいんだよね?ってかブレーキは?」
コウが片手で握った折れた剣の柄で作ったハンドルに指をさしている。
「ああ、だが右にだぞ。それに最初は徐々に流すんだぞ。ブレーキは左に流せばかかるようになっている。」
「オッケー!!」
俺の魔力でも動くが、魔力を流した分だけ加速するように設定してある。
魔素量と魔力によって、出せる速度と走行距離が変わる。魔力が速度で魔素量がガソリンといった具合だ。
だからこそ、どちらも高いコウに使わせて真価を発揮する。
「じゃあ、いっくよー!」
膨大な魔素量と魔力を持つコウであれば・・・・・
その瞬間、小さなスパイクの入ったの金属の車輪がけたたましい音を上げて、その場で回転し荷台の幌に小石を巻き上げた。
あーあ。言わんこっちゃない。
地面を車輪が噛んだ途端、体全体が後ろに置いていかれるような感覚が襲った。
「きゃーーーーーー!!!!」「なっ!なんだ!!!」「旦那ーーー!!!」
荷台からの3人の悲鳴とエリオットとカルマンさんの驚愕の表情と共に俺たちはベラデイルを出発した。
次回1月7日